アポロン
メイトさんいわく。
「立て看板を立てました」
「今まで無かったんだよね」
「太陽の丘は神聖な場所です。道案内して観光地みたいになっても困りますので。初心者冒険者が集まってしまうと魔物も強いですしね。事故を防ぐ為に今まで案内板は立てない方針だったんです」
「これからは大丈夫だね」
「看板も積極的に案内はしません。最低限、町へ戻る順路を指し示します。あとあの十字路へは沢へ降りる道へは杭とロープを付けました。さすがに危険ですので」
「ペッテンさんやダンさんはコンパスは持ってなかったのかな」
「ダンさんは持参していたそうです。でもあの十字路の辺りで何かの気配を感じて。魔物だと思い、神聖な場所で安全な丘へと急いだので、咄嗟にコンパスを見ずにヒマワリの向きの知識に頼ってしまったそうです」
「そうだったんだ」
「今回の事はギルドで掲示して貰って、情報を共有して注意喚起します」
「その方がいいよね」
メイトさんは続けるように諭す。
「自然との付き合い方も、付かず離れず、調和を大事にしないといけません」
「うん」
「あ、あと、もう一度、丘へ行きませんか?」
「現地の作業状況の確認作業かな」
「そうではなくて、神殿ですよ」
「神殿?」
「資格がある者が会えます。アポロン様と」
僕は聞く。
「僕が?」
「頑張りましたからね」
「そうかな」
「次の犠牲者を出すのを防ぎました」
「みんなの努力のおかげだと思うけど」
「そのみんなの為に、一員として努力してました。アポロン様は、そういう者にこそ、資格があると仰ると思いますよ」
「…」
僕は少し考える。そして言う。
「じゃあ」
「行きましょう」
こうして事件を解決した僕は、少しだけ整備されつつある太陽の丘へ道を進みつつ、アポロン様という神様に会いに行く事にするのだった。
少しだけ見慣れた森を進む。
そして、綺麗なヒマワリの咲き誇る太陽の丘へ。
問題が解決した丘は最初の頃より綺麗に見えたのは気のせいだろうか?
メイトさんの仲間は作業に立ち会い、メイトさんだけが僕らに連れ添う。
やがて神殿へ進む。
奥の部屋で待つのは、果たして、男性の神様だった。
彼は言う。
「どうも。メイト、知り合いかな」
「アポロン様、今回、少し事件がありまして、力を貸してくれた一行です」
僕らは礼をして自己紹介。
隊長だけは違う。どうやら神様と知り合いのようで挨拶する。
「アポロン様、お久しぶりです」
「君は、ヴァネッサか。何年振りか」
「お変わりないようで、安心しました」
「おかげさまでね。君が来ている、って事は、彼らが勇者見習いかな」
僕らを見て、そしてローナを見ながら続ける。
「それに、小さなお姫さまも居るようだね」
「危険はありません」
「魔界の貴族も同行とは、時代の流れか」
「常に変化します。それに対応するのが私の仕事です」
「そうだった。君はいつもそうであったのを忘れそうだった。彼らを導くのもその仕事のうちの一つだな」
そう言いながらアポロン様は僕とローナを見る。
そして言う。
「さて、今回の働きに感謝するよ。人の子らの問題は神々の問題でもあるからね。小さな冒険者君、君に褒美を与えようと思う」
僕は聞く。
「褒美、ですか?」
「太陽の神の加護、太陽の力だ。まあそのままだけどね」
「…」
「どうしたのかな?」
「僕なんかでいいんでしょうか?」
「いいとも。嬉しくないのかい」
「強くなれるのは嬉しいです。でも今回、一人死んじゃった人が居て」
「ふむ」
「強くなって、成長だけに目を向けるのが、その」
「偶然が引き起こした事故だっただろう?」
「偶然でも、死んでいい人なんて」
「君は少しの偶然も許せないのか?」
僕を見下ろすアポロン様。
なんだか上手く言葉が出なくなってしまう僕。
けれど、アポロン様は笑顔になる。
「ふふふ、少し意地悪を言ってしまったね」
諭すように続ける。
「確かに、偶然だから仕方ない、とは言ってはいけないな。でも君がヴァネッサやそこの小さな魔族の子と出会ったのも偶然だとは言えないかい?」
そう言われると、そうだと思う。
「色々な偶然が連なり、物事を動かす。偶然まで支配する事は出来ない。我々神でさえ」膝を崩し、目線を合わせ、言ってくる。
「不確かさを受け入れ、それに備える。そしてその為に努力する。君は大丈夫だ。君はそ
れができる。だから成長を望み、喜んでいいんだ」
ケインが告げる。
「神様のお墨付きだ。胸を張れよ」
「そうだね、じゃあ」
「さあ、手を出して」
「はい」
アポロン様は僕の手に自分の手をかざす。
温かい光が僕を包む。
「なんだか力が湧いてくる」
「太陽のイメージをするんだ。そうすれば光の力が宿り、君を強くするだろう」
少しすると光は収束する。
アポロン様は説明してくれる。
「使いこなすまでは訓練が必要だから、頑張るんだ」
「はい!」
元気よく返事する。
すると隣のローナが言う。
「あの、私も貰えるのかしら」
だけどアポロン様は少し残念そうに言う。
「魔族は太陽とは相性が悪いんだ」
「え、それじゃ」
「君はまだ小さいからね。成長すればあるいは、制御できるかもしれないけれど、今は授けられる力は無い。申し訳ない」
「い、いいのよ」
「落ち込む事はない。君も素質はあるみたいだ。それに、力を授けられる神も居ると思う」「そうなの?」
「まずは他の勇者やそれに並ぶ力ある者を探すといい。そして彼らに加護を与えた神を訪ねるんだ。その中に、君に力を与える神もきっと居るだろう」
「分かった。頑張って探すわ」
僕はローナを元気づける。
「僕も手伝うよ。一緒に探そうね」
「ありがとラルス。頼りにしてるわ」
「じゃあ冒険を続けるといい。新しい出会いが君たちを待っているだろう」
「みんなの期待に応えられるように頑張ります」
「その意気だ。さて、ヴァネッサ、少し話がある。他の者たちは」
メイトさんが言う。
「外で待ってます」
こうして僕らは退室する。
隊長とアポロン様は話をするようだ。
ヴァネッサとアポロンは話をする。
ヴァネッサは尋ねる。
「話と言うのは?」
「なに、少し気になってね」
「…」
「君がパーティーを作るのは久しぶりだろう」
「昔を思い出します」
「ああ、大変な時期だった」
「乗り越えられたから、今があります」
二人とも少しだけ懐かしむように話す。
遠く古い記憶を辿るように、目線はお互いに合わさないままだ。
「君はそして今、新たな仲間と共に居る」
「成り行きでもあります」
「あの子もかい?」
アポロンが確認するように聞いてくる。なのでヴァネッサは答える。
「必要だと思ったから、仲間にしました」
「期待の新人君なのは分かる。私が言いたいのは女の子の方だ」
「分かっています」
「口出しはしない。君の眼に適ったのだろうから」
アポロンは少しだけ真剣な表情になる。ヴァネッサは返答する。
「全ては神と人のためです」
「天界の上層部は知っているのか?」
「必要な報告はしています」
「必要な、か」
「…」
無言のヴァネッサにアポロンは尋ねてみる。
「あるいは、上の指示だったりするのか」
「私は任務を遂行するだけです」
「そうか。そうだった。君はいつも役目を全うする」
「そうです。任せていただければ幸いです。貴方も、ご自愛ください」
「平気だ。まだまだ私も役目を全うできるよ」
「目標へは近づいてる筈です」
「君がそう言うなら任せるよ。ただ、頭の固い連中も居る」
「慣れています」
「ふふふ、ははは」
アポロンは少し笑いだす。そして言う。
「変わらないな、いや、もう言う事も無いか。気を付けてくれ」
「ではまた、いずれ」
「報告を楽しみにしてる」
こうして旧知の中とも言えるのか、二人の会談は終わったのだった。
あれから少しだけ経った。
僕らはメイトさんたちと少しだけ一緒に居た。
力の使い方や訓練、それに、勇者について。
僕は憧れの勇者について、色々聞いた。
でもメイトさんは言う。
「結果的に勇者とみんなが言うだけであって、単に冒険者として積み重ねが評価された結果なだけですよ。残した功績から、周囲が認める。それが勇者です。自ら宣言する物でもないです」
その言葉に、僕は自分なりの方向性を考えた。
みんなの為に、頑張る、みんなの為に努力する。
その行動がいつか勇者と言われる、そう考える事にした。
そしてついに、別れの時が来る。
メイトさんは言う。
「頑張って下さい」
「はい、僕も立派な勇者に成れるように頑張ります」
「応援してますよ」
レミアさん、ボドリーさんもセリアに言う。
「賢者セリア、お会いできて光栄でした」
「この年でも学べる事があるとはのう、生きてみるもんじゃな」
セリアは笑顔で答える。
「勇者の仲間との時間は貴重でした。また何かあれば」
「ええ、魔法について語り合いましょう」
ローナも言う。
「特訓、ありがとうございました」
レミアとボドリーは答える。
「頑張ってね」
「成長が楽しみじゃ。セリアの言う事を良く聞いてな」
ケインとザレスも握手をしてる。
「じゃあな、ザレス」
「お互い、主人が強くていいよな」
「少し頑固だが」
「実はうちの勇者もなんだ」
「ははは、でもこのポジションも意外と気に入ってるんだ」
「楽しそうだな、また寄ってくれよ」
「近くに来たらな」
「待ってるぜ」
それぞれの挨拶をする。
隊長は僕らに告げる。
「行こう」
こうして僕らは新たな土地を目指す。
別れの名残を惜しみながら。
その歩みは強さに続くだろうか?
未来は、笑顔を広げるだろうか?
期待と、少しの不安を胸に、僕らは歩き出した。




