三つの分担 その1
僕たちは全員合流してそれぞれの情報を交換する。
ケインが隊長に言う。
「あのイタズラ好きの男の証言、どうですかね? うさん臭い以外は辻褄が合ってる事がムカつきます」
「村人の証言の毛深い男と荷馬車の事を考えると毛深い男が荷馬車を奪ったとも考えられる。あとそれとオオカミの件は確認する必要がある」
「どうします?」
「女将が言ってた昔オオカミが居たらしい場所を探すぞ」
「分かりました。全員一緒に行きますか?」
「いや、私とセリアで行く」
「二人だけですか?」
「オオカミがホントに居るなら群れで住んでいる筈だ。ラルスとローナはまだ危険だ」
「二人で全力で戦うと」
「向こうに話を聞く気が無いならな」
「俺はどうします?」
「荷馬車のあとを追え」
「って言っても…」
「国境方面から来たならそっちへは戻らないだろう。サン・テーレへ向かう筈だ」
「分かりました。一足先にサン・テーレへ行きます」
「女将は少し前に付近に野盗が出ていたと言っていた」
「目撃された毛深い男がその野党で荷馬車を奪った可能性があると」
「あるいは、怪我をしたあの男も野党の一味か。ラルス、ローナ、あの男を見張れ。気を付けろ。怪我人だから襲われはしないだろうが目を離すな」
僕は答える。
「うん、分かったよ」
僕たちは三つに分かれて調査を続ける事になった。
ヴァネッサとセリアはオオカミの住処を目指す。
女将が曰く、「北の森に昔そういう所があったとかね」。
その言葉を頼りに北へ。
しばらくは街道から北へ延びる道を辿るだけ。
しかし、やがて道を狭くなり、歩きにくくなる。
獣道とまでは行かないまでも、人の行き来は無さそうな小道へと分け入る。
セリアは言う。
「こっちでいいのかしら」
「森も深くなってきたな」
「行商人どころか冒険者も来なさそうだけど」
「そういう所の方が隠れ家に適してる」
草木をかき分ける必要は無いが、伸びてくる枝に引っかからないように、やや曲がりくねった道を降りていく。
セリアは尋ねる。
「隠れ家? オオカミは隠れて住んでるの?」
「普通の野生のオオカミなら隠れる必要はないだろうが、私の予想だと純粋なオオカミとは少し違う」
少しだけ下り勾配だろうか、そんな道を下って行く。
セリアは相槌を返す。
「待ってるのは単なるオオカミじゃない訳ね。鬼か蛇でも待ってるのかしら」
そして視線の先。
木々の枝の隙間から見えてきた物。
それは、村のような建物。
セリアはいつもの拍子のまま言う。
「廃村、って訳でもなさそうね」
「魔力を高めておけ」
「このまま行っていいの? 様子見と偵察は?」
「このまま進む」
戦闘モードへ移行しながらそのまま侵入する。
「ま、貴方となら、ね」
衝突しても実力行使は難しくない、そう考えるセリア。
村に入った所で、歩みを止める。
建物の陰から人影が出てくる。
一人、ではなかった。
ぞろぞろと。
男や、中には少ないながらも女性も。
村人らしき人たちはヴァネッサとセリアを見ながら、出てくる。
セリアは言う。
「あんまり歓迎ムードには見えないわね」
のんびりした口調と表情だが、状況が良くない事を示している。
まるで壁を作るように集まった村人の中心に、やや老いた男性がおり、白髪のその男性が声を掛ける。
「何者だ」
ヴァネッサは答える。
「調査員、とでも言えばいいか?」
「調査員、だと?」
「近くの牧場から来た。事件があった」
「事件だと? そんな場所での事件なんぞ知らん。帰れ」
断ろうとする代表の老人だが、ヴァネッサも引き下がらない。
「話を聞きたいだけだ」
「…」
「オオカミが出たと噂になってる」
「人里にオオカミ、じゃと?」
「そうだ」
「知らん、関係ない。こことは縁のない話じゃ。立ち去れ、早くな」
なんだかかなり警戒されているようだ。
話をするどころか遠ざけようとしている、そんな雰囲気を感じる。
村人たちも距離を詰めようとせんばかりの姿勢だ。
なぜだか飛びかかろうとする気配を感じる。
だがヴァネッサはまるで怯まない。
「随分攻撃的な出迎えだな、何かあるのか?」
「何もない」
「隠し事の匂いがする」
「挑発するな、喧嘩っ早いのも居る、どうなっても知らんぞ」
「腕には自信がある」
「忠告はしたぞ…」
すわ、開戦か? そんな気配になった時だった。
「待ってください!」
村人の壁の中から一人の女性が声を掛けた。
「話を聞かせてください」
老人は女性を諭す。
「おい、余計な事をするな!」
「でも、お爺ちゃん、人里にオオカミってもしかしたら」
なんだかガヤガヤとやりとりをしだしたので、ヴァネッサも出方を変える。
紋章を取り出し、言う。
「なんだか疑ってるようだがここの討伐などが目的ではない」
「…」
紋章を見た村人たちは口々に言う。
「なんだそれは?」「怪しい奴め!」
だが代表の老人はやや驚きの声を漏らす。
「む! それは!」
老人の孫なのか、女性が言う。
「お爺ちゃん?」
みんなの動きが止まる。
ヴァネッサは続ける。
「少しぐらいは聞く気になったか?」
お互いに視線をぶつける。
しかし黙ったままの老人が口を開いた。
「いいだろう、付いてこい」
ヴァネッサとセリアは老人に誘われるまま、一軒の家へ。
村人たちは厳しい目を向けたままだ。
だが老人は言う。
「私と孫だけでよい。みなの者は下がっておれ」
「しかし…」
「心配は要らん」
「…」
いまだ警戒されてはいるが、村長らしき老人の言葉を聞くよりなく、村人は引き下がる。
ヴァネッサとセリアは老人と孫と共に家の居間へ通された。
さっそく切り出す。
「聞きたいのはオオカミについてだ」
「人間たちの牧場での事件とか言っていたな」
「怪我人が出た。そしてオオカミの目撃情報が出た」
「その事について我々が何か知ってるとでも」
「単刀直入に聞く。お前たちは人間ではないな」
ピリついた空気になる。女性の方は困ったような顔だ。
だが村長らしき老人は答える。
「いかにも。我々は誇り高き人狼の一族だ」
「…」
「私は村長。こっちの娘は孫のシロだ」
シロと呼ばれた女は軽く会釈をしながら様子を伺っている。
村長は続ける。
「天界の使いだな、先ほどの紋章」
「信じてくれて助かる。だが天界の意向でも種族への干渉でもない。純粋に揉め事の調査だ」
「ふむ。して、何が聞きたい」
「話した通りだ。牧場でオオカミが出た」
「我々は関与せん」
即答する村長を問い詰める。
「本当か?」
「昔は対立もあった。だが人里を襲えば討伐隊が送り込まれる。勇者に軍隊。戦えば血が流れる。私は一族を守る使命がある。不要な衝突は避ける方針だ」
ヴァネッサは黙って聞いてるがセリアが聞く。
「う~ん、本当かしら?」
「疑うのか?」
「人間との接触はないのよね?」
「無論だ」
その言葉にヴェネッサは言う。
「だがそちらの娘は何か言いたそうだ」
ヴァネッサはシロと呼ばれた女性を見る。
シロは「お爺ちゃん…」と意見を伺った。村長は答える。
「何も言うな」
「でも…」
やりとりを見ているヴァネッサは言う。
「言って貰えば力になる」
セリアも続ける。
「特に、そちらの、シロさんですか? 貴方の為にも何か出来るかも。見た感じ、色々大変なんでしょう?」
シロは驚いたように言う。
「なんで…分かるんですか」
セリアは笑顔のままで答える。
「なんとなくね。病気か何かかな」
「はい、少し体が弱くて」
ヴァネッサは言う。
「うちの賢者は腕利きだ。診てもらうと何かと都合がいいぞ」
村長は考え事をしたような素振りのあと、「ふう」とため息を吐きながら答えた。
「分かった。一人、村の者が人間たちと関わってる」
ヴァネッサとセリアは続きを促すように黙って聞く。するとシロが続けて言う。
「兄さんが働いてます」
ヴァネッサは尋ねる。
「人間としてか」
「私は体が弱いので。薬代を稼ぐのに」
セリアは「人間の間で流通してる薬を買ってるのね」と問う。
「はい」
ヴァネッサは続けて質問する。
「どんな仕事だ」
「よくは分かりませんが、荷物を運ぶ仕事のような物をやっていると」
村長も続ける。
「人狼である事は隠している。人間との揉め事は起こさないようにしている筈だ」
シロは心配で聞いてくる。
「兄は揉め事に巻き込まれたんですか」
「分からん。だが牧場で怪我人が出た」
「そんな…もしかしたら兄は」
セリアが宥める。
「大丈夫よ。怪我した人が貴方のお兄さんかは分からないけど、命に別状はないわ」
「そうですか…」
「貴方のお兄さんの特徴を教えてくれるかしら」
村長は会話を遮るように聞く。
「もしこの件に人狼が関わっていたら、討伐されるか?」
ヴァネッサは答える。
「なるべく穏便に解決する」
シロは言う。
「兄の名前はキークです。特徴は色々ありますが…」
容姿の特徴を伝えたあと、シロは付け加える。
「あと、兄は満月を見ると興奮してオオカミの姿になってしまう事があるんです」
それを聞いたヴァネッサトとセリアは次なる行動を起こすのだった。




