目撃
病室代わりになった宿泊部屋では一通りの治療ができた。
セリアは言う。
「これで良し、落ち着くまで様子見でいいわ」
僕は聞く。
「助かるの?」
「まあ、大丈夫でしょ。軽い傷とは言えないけど、発見が早かったしね。命に別状はないと思うわ」
「良かった…」
ホッとした。
ついさっきまで平和な旅の朝食の最中だったから、展開の落差に僕は少し動揺していた。
でも命に関わる事では無いと聞いて、安心できた。
だけど、周りの人、要するに村の人はそうではないみたいだ。
セリアは「私はもう少しだけ様子を見てるから」と言うので僕らは食堂へ戻る。
すると、村の人たちが全員集まって居た。
そこからはやや緊張感が漂う展開へとなっていく。
村人たちは口々に言う。
「何があった」「こんな事が起こるなんて」「あいつは何者だ」
疑心暗鬼と恐怖が広まる。
そんな中、一人の男が言う。
「オオカミだ」
男はあのイタズラ好きの男だった。
「オオカミが出たんだ!」
その言葉に村人は怒る。
「またか! いいかげんにしろ!」
「俺は見たんだ! 今度はホントだ! オオカミに襲われたんだ!」
「こいつ…」
揉み合いになりそうな展開に他の村人が言う。ここからは村人同士の会話だ。
「でも、考えてみると、一理あるかも」
「どういう事だ」
「そいつの言う事を信じるわけじゃないが、人を襲うような事を起こす人間が居るほど、この村の人数は多くない。数件の牧場主が集まるだけだ。悪事はすぐに広まるし、怪しい奴は居ない。とすると、魔族か、はぐれた野生動物か」
「オオカミもありうるって事か」
だけど、予想外、ではなく、なかば予想していたことだけど、心配していた事態になる。
「あとは…よそ者の仕業じゃないか」「例えば今泊まってる…」
全員が僕らの方を見る。
そうだよね。
そういう風になるよね。
僕はすぐに弁明の言葉を考える。
今の僕に的確な言葉が出せるだろうか?
疑念を持った村人を冷静にさせる説明ができるだろうか?
でもそんな心配を破ったのは女将さんだった。
「ちょっとあんたら! 滅多な事を言うもんじゃないよ! この人たちがそんな事をするように見えるかい? 私には分かるよ! この人たちは無関係さね」
でも村人は問い返す。
「そうは言うけど…根拠でもあるのか?」
「それは…昨日一日付き合って分かるんだ。話をして、村を案内して。接客業の
経験だよ」
「あんたの事は誰より信頼してるけど、それでもなぁ」
「まだ言うのかい? あんたたち少し…」
そこまで言った所でケインが割って入る。
「あ~すまん、俺たちからも弁明いいか?」
「…」
村人はケインに目を向ける。
でもケインは臆さず説明を始める。紋章を掲げながら。
「俺たちは怪しいもんじゃない、こういうもんだ」
「なんだ、その紋章?」
「アルテアの調停官だ。こいつらは仲間だ。隣の王国の公職に就いてる。だから犯罪なんかしない」
「調停官か…でも何しに来てるんだ」
「ちょっとサン・テーレ王国に用事があってな。仲間の身分も保証する」
「…」
「もし俺たちが犯罪を犯してたら変だろ? あの男を襲って、そんで食堂に呑気に朝飯だ。そんな犯罪者居ないだろ」
「まあ、言われてみれば」
「良ければこの件を調べさせてくれ、ちゃちゃっと解決するぜ」
「みんな、どうする?」
顔を見合わせる村人たち。
少しだけガヤガヤとしだす。
そこで女将さんが言う。
「ちょうどいいじゃないか、隣国とは言え偉い人なんだろ? 任せてしまおうじゃないかい」
ケインは答える。
「まあ、そこまで偉いわけじゃないが、揉め事には慣れてる」
村人たちは疑いの目を向けるが、やがて静かになる。
そして一人が言う。
「そこまで言うなら」
「よし、じゃあさっそく行動開始だ。聞き込みと状況確認するから協力頼むぜ」
こうして僕らはいつもの作業に入りだす。




