暗い顔の男。
ガキの身体は筋肉痛が無くて良いな。
そう思って目を覚ましたのは、朝日が昇る少し前の星が藍と青の空に浮かぶ頃。
メイド達がそろそろ目を覚まし、料理人達が竈に火を入れ始めている。
私は仕掛けを終えて、早めの就寝した。
ぐっすりと眠り、身体に痛みも熱も無い事を確かめる。
(それじゃ、獲物を刈り取りに行きますか)
「すこしお花摘みに」
「・・うん」
テリーが『キミはボクが守る!』とかで毎晩私のベットの横で見張っていた、そこを『乙女の秘密』とか『花摘み』とか『着替えるから』とか言うだけで監視を解く事を私は知っていた。
(この馬鹿の利用はもう少し後だ、それまでは精々自己満足の騎士気取りでもして気持ち良くなってろよ)
箪笥の奥に隠した麻袋、そこから土の着いた靴を取りだし窓の前で履き替える。
テリーはこの世界のトイレ事情をあまり知らないらしく、なにも聞いて来なかった。
(ひょっとしたら、女は小便もクソもしないとか思ってるとか?
なんで私が外に出るのか、本当に解らないのか?
まぁ利用出来るならなんでもいいが)
『犬猫じゃないのに、なんでワザワザ窓から外てトイレに行くんだい?』
とか言いやがったら、『恥ずかしいから聞かないで!』とか言ってやれは黙るだろ。
静かに窓を開け、まだ暗い中を音も無く走る。庭の畑には予想どおり引き抜かれた草、そして静かに沈黙する明かりの少ない庭師の小屋。
コンコン、コンコン。
「・・・誰じゃ・・・今日の野菜ならまだ早い、日が昇るまで待ってくれ」
小さい声が扉の向こうから聞こえ、ゴソゴソと物が動く音がした。
「・・いつも美味しいお野菜を戴きありがとうございますわ、セバス。
ですが私、昨日植えた花が気になって見に来たのですが、何者かに引き抜かれていたので、、、恐くなってしまって。
恐い獣が入り込んで、庭を荒らしてしまったのではないでしょうか」
「・・その御声は、ルージュお嬢様ですか。
こんな朝早くにこの様な場所にお越し戴きまして。。。
部屋が散らかってまして、まことに申しわけありませんが」
コンコン・コンコン・・・・
「私が植えた花達を引き抜いた犯人はセバス、アナタではないの?どうして?
理由を聞かせては下さりませんか?でなければ・・・」大声を上げて欲しいですか?
「・・・いま扉を開けます、少しお待ち下さい」
厚い木戸を開けた庭師の小屋は埃と肥料の匂い、いま火を入れ、燃え始めた囲炉裏の明かり。
「・・お嬢様、申しわけありません。あれらの草をお持ちになったのがお嬢様だと、存知上げませんでしたので・・・」
小さい声と猫背で屈む男は、闇に顔を隠すように答えた。
「・・嘘ですわ。だって私、昨日私は貴方が私を見ていたのを憶えてますもの。。。貴方は私が花を植えた所を見ていた、その上で直ぐに植えた花を抜いた、それは何故?」
「・・・・そっ・・それは・・・」
セバスは暗い顔をより深くさげ、曇らせた表情を見せないように押し黙った。
「『毒草が混じっていた』そうでしょう?」
[ネズミ殺し]そう呼ばれる毒草はその根に毒を持つ、苦く人間が喰える物では無く口にしても吐き気・嘔吐と発熱をもたらす青い花。
「そっ、そうです!毒草が植えて有りましたので・・」
「そうですよねセバス・・セアルティ」
「セア?・・お嬢様、それは・・?」
「セアルティ=フォーア=ドルスタン・・この国の遥か西方、14年前、王家に謀反を起こし滅ぼされた辺境の領主子爵、それが貴方の本当の名前ですわよね?」
「・・・」
「貴方の御息女、リリオ様の事そして奥さまの事、まことに御愁傷様でした」
!「!貴様!どこでそんな事を!何故その名を知っている!誰から聞いた貴様!答えろ!」
背中を丸めた男は獣のような素早さで襲い掛かり、ルージュの首を掴み、右手が囲炉裏に焼かれた鉄箸を握っている。
「慌てるな!」
私は隠し持ったペーパーナイフをセバスの首に押し当て、睨み返す。
「お前の狙いは家族の復讐、公爵である我が家に潜り込み、王族を殺す事。違うか?」
私の家、公爵という立場は貴族の中でも頂点に近い。
王国には他に公爵家が2つ存在し、権力を分散しているが、それでも私の家は子爵や男爵よりも王族に近い地位にある。
その家に庭師として長年勤めていれば、王族が一人で庭を見に来る事も有るだろう。
男はただ一人、王族を殺し復讐する為に、名前を捨て人生の全てを賭けて存在を隠し、息を潜めていた。
だが自分の管理する庭に、毒草が植えられていたらどうなるか?
[ネズミ殺し]くらいはどこの庭にだって生えている、だが、復讐を誓った心に闇のある男からすれば、小さな噂・失敗すら許せない。
[毒]その小さな花が王族に疑念を抱かせ、身を守らせ護衛を着けるかも知れない。
ルージュという[お嬢様]が植えた物であっても、神経質・過敏とも思える反応で復讐の障害になる物を排除させたのだ。
「・・そんな玩具でオレを殺せると思ってるのか、お嬢様」
「・・・」
「それとも、オレの事を公爵につき出すのか?勇敢なお嬢様」
「・・・いや?それよりいい加減手を放せ。
どうせお前は私を殺せはしない、そうだろ?」
真っ直ぐに睨み返すルージュの瞳にセバスの顔が写る。
一瞬、首を掴む指に力がこもり、そしてゆっくりとその手が離れていった。
「・・・お嬢様は声も上げないんだな、それとも大声を上げるのは上品でないと教わったのか」
「声を上げて欲しければやってやるよ、けどそれじゃあ話もできくなるだろ?
私はセバス、お前と話しをしに来たんだ」