小さな部屋から飛び出せ。
「ふっ・ふっ・ふっ・ふっ」
私が呼吸する度、ギシギシとベットが軋み、ベットの足が一定のリズムで声を上げ少女の熱い呼吸が何度も続く。
部屋は体が温まった子供が流す汗の匂いが充満し、石鹸と花の香りで甘く染まっていた。
「ふっ・・くっ・・2・・9、ここまで・・か」
腕立て伏せで腕が限界を向かえ、次ぎは腹筋。
腕立て腹筋背筋、スクワットを30回、それを3セット。
ルージュのシャツが汗に濡れて身体に張り付く、それでも私はトレーニングは止めない。
(濡れたシャツはいつもどおり『恐い夢を見たの』で誤魔化すとしても・・・)
「腹が減った、くそっ」
空腹は誤魔化せない。
成長期の身体とトレーニング、でも貴族の子女が食事を貪り喰う事は出来ない、なにより今は両親に疑われる事は避けるべきだ。
「そろそろ森に行く時期か」
テリーを仲間にして1月、毎日トレーニングを繰り返し、ようやく自分の身体が出来てきた気がする。
(よし・・次ぎの段階に進むか)
実際私は、何年何月何日の何時に何が起るのか、そこまで詳しく憶えていない。
最長で40歳くらいで死ぬ短い人生の私でも、憶えている事といえば人生を変える重大な事くらいだった。
だから来月何をすれば良いのか、くらいは解っても、よっぽどの事で無い限り、今日明日、何が起るかまでは完全に把握していないんだ。
「・・・テリー、私少し外の世界を見たいの」
「う~~ん、ボクとしてはあんまり危険な場所に行かないで欲しいんだけど」
トレーニングを見守っていたクマのテリーは、ペタンと座ったまま腕を組みうんうんと頭を上下させる。
「ステータスを上げる為の自主訓練はいいと思う、でもまだキミは6歳だよ?冒険にはまだ早いと思うんだ」
・・・・
「でもテリー、部屋の中で出来る事って限られてるでしょ?外に出て色々見て見たいの」
(このクマ!まだゲーム?とか言うのと私を混同してやがる。
何がステータスだ、私の人生なんだ好きにさせろ!って言うか早く動かねぇと私が詰んじまうんだよ!)
「ねぇ、お願い、危ない場所には近づかないから、ね?」
「・・う~ん、そうだよね。確かにステータスだけじゃ攻略できないイベントもあったし。
イベントが起ったときにちゃんと対応出来なきゃ・・」
[BAT END]その言葉が口から出そうになるのを何とか押え込み、テリーは顔を上げた。
「約束だよ?絶対危険な場所には近づかない事、危ない事はしちゃダメだからね」
「うん、約束する・・・テリー、少し着替えるから」
私は汚れてもいい服と靴に着替える。
服や靴に付いた泥が今、家のヤツ等に見付かれ行動が制限されて動けなくなる。つまり死だ。
いまは必要な駒と物の入手をする、その中でも最初の駒の方は私の人生を左右する重要な男だ。
(っと、また顔に出たか。ダメだな)私は顔を叩き笑顔を作った。
(鏡に写った私の顔、、、よし、笑ってるな)
真剣な表情は子供の私には不似合いだ、子供らしく無邪気な笑顔を作らないと。
まだ感情のコントールが上手くいってない、それが子供の身体からか、それとも[繰り返し]に、今の私の感情がまだ追い付いてないからだろうか。
感情のコントロール、身体の動き、呼吸・視線・声と言葉、全部完璧に演じて周囲を欺す。
たとえこの世界を作った神であろうと、私は騙してみせる。
私が牙を剥き、刃を握るその時まで、私は綺麗で傲慢で馬鹿で見栄っ張りで、強情で愚かな女を演じ無ければならない。
決して本当の私を、誰にも見せてはダメなんだ。
「じゃあ言って来ます」
ペコリと可愛く頭を下げるルージュ、向かう先は公爵家の広い庭の奥、森林と岩が残り整備が遅れた・・・林。
貴族の庭には色々な物が埋められている。
例えば家に入り込んだ他家の密偵、盗人の引入れ役、当主に手を出され産まされた赤ん坊の処理場。
屋敷の地下に隠した財産の他にもある隠し財産、抜け穴もある。
貴族の汚れた部分が隠され埋っていた。
(今の私じゃ掘り起こす時間も力も無ぇけど、目的はそれじゃねぇし)
林に生えた赤い花、そして棘のある草、幾つかの草花を丁寧に採取していく。
(たしかこの辺に・・)あった。
草苺と山桃 まだ堅いキュウイ。
手を汚さないように気を付け、口に放り込む。
食べられるドングリも拾ってポケットに詰め、今日は帰る事にする。
拾った草花を庭の端に移植して、水を撒く。
野性の植物は生命力が強く、庭に移植したら爆発的に増殖する場合もある。
その反面で林の環境に適応し、庭という地質・日光・湿度の変化で枯れる場合もある。
ルージュが採取してきたのは前者、場所を変えても畑の土に根を張り増殖する植物だ。
(ヤバイ[ブツ]の栽培はもうちょっとあとでやる、今回はこれでいい)
向こうで庭木を整えている庭師を確認し、私は水瓶の水で手を洗った。