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可愛い味方。

 毒草を口にしたその昼、私は嘔吐を繰り返し本当に熱を出した。


 ヨダレを垂らし、全身から汗が吹きだし痙攣を繰り返す私を診た医者は、解熱剤と鎮痛剤をメイドに渡し、私の熱が仮病で無い事を病状証明を出してくれた。


 そして4ヶ月後、もう一度教会のヤツ等が巡回してくる事も私は知っている。

 だから私はやるべき事をやら無ければならない、世界に抵抗し私が生きる為に。


・・・・・・・

(くそっ、視界が滲みやがる・・でも、、、)


 今日で無ければ次ぎは機会は半年以上先、それでは手遅れだ。

 数十繰り返した悪夢の世界、その世界に突然現われた異物。

 ソイツを確実に捕まえられるようになったのは数巡前の私だ。


 目を閉じ耳を澄ませ動きを探る、ソイツは私のベットに這い上がりゆっくりと私の顔を・・・


「つかまえた」

「え?」


「・・・いい?テリーベア、私はいま、死ぬほど熱くて頭がくらくらするの。

 だから逃げないで聞いてちょうだい、、、私を助けて・・」

 私は私の顔を覗く私の人形を捕まえ、そう言って力尽きた。


 コレが熱にうなされた幻覚で無ければ、私はようやく一つ、手駒を手に入れた事になる。


 そしてそれは私が見た悪夢。

 繰り返される追放と裏切りと、血ヘドと汚辱に塗れた敗北の記憶が私だけの悪夢・妄想じゃなくて、事実だと証明された事になる。


・・・・・(いる)

 目覚めた私の目にソイツはいた。

 あの父が5歳の誕生日にくれたクマのようなヌイグルミ、首に青のリボンを付けた短い足で目の綺麗なヌイグルミ。


「おはようテリーベア、私はルージュ、アナタと話をしたいの」

「・・・おはようルージュ、ぼくは・・ボクはキミの幸せを願う1人の失敗したお・・お人形。

キミの味方さ」


 口も開かないクマが×印の口元を上下させて喋る。私はコイツから信用を得て力を借りないと死ぬ。


(コイツが居なくても間違い無く死ぬ事は確かだ、それでもコイツがいれば色々と動きやすくなるからな)


「やっぱり夢じゃなかったんだ。

 私を心配してくれる優しいクマさん。

 失敗したなんて言わないで、私は元気になれたもの」


(コイツは、私があの糞野郎どもから追放される事を知っていた。

 そして私がその事を知ってると知れば姿を消しやがった、だから私は)


「・・・何も知らないんだね、ルージュ。

 でも、もう心配しなくても良いんだ。ボクがキミをきっと幸せにして見せるから」

 何も知らない顔をする少女に、優しいクマのヌイグルミは立ち上がり短い手でポンッと胸を叩く。


 自らの正体を隠すクマのぬいぐるみは、自分で胸を叩いた反動でペタンと尻餅を着いた。

「ハハハ・・大丈夫、ボクは力は無いけど物知りなんだ。ルージュ、キミが今欲しいのは日記だろ?」

「・・どうしてそれを知ってるの?」コレも数度繰り返した会話だ。


 大丈夫、顔は驚いた表情が出来ている筈、それにこれから私は世界を欺すんだ。

 何度も繰り返したこのクソッタレな世界を、全部騙してひっくり返すんだ、そうしないと私は破滅する。


「テリーはなんでも知ってるのね、でも私も女の子なんだから知られたく無い事だってあるってしってる?」

 コイツに日記の内容を見られたら終りだ、だからもう一つ必要な物がある。


「それも知ってるよ、鍵の付いた机だよね。大丈夫ボクが用意してあげる。

 少し待っててね」

 クマのテリーは座ったまま動かなくなり、そして私が指で押しただけで『こてん』と横に倒れた。


(・・・ふふっ、3度目?は簡単だな。

 余裕過ぎて笑えるぜ・・と、誰がどこから見てるか解んねぇんだった)

 緩みそうになる顔を両手で押え、顔を枕に突っ込んで笑う。



 クッ・・ククククッ・・くはははははっっっ!!!!

 私は知ってるんだ、お前が最後に言った言葉!

 私は憶えてるんだよ!お前が消える前に私に言った言葉をな!



『ぼくがこの世界を作ったんだ、でもそれはボクの思った形とは違う形で完成してしまった。

 キミが断罪され追放されるのは、ボクがそう作ったから、だからボクはキミを助けたくて・・でも無理だった、ごめんよ』


「何がごめんだ!」

 お前のせいで私は地獄を繰り返す亡者にされたんだよな!


 殺され犯され踏みにじられいたぶられ、毒を飲まされ首を締められ火で燃やされ、石を投げられ棒で叩かれ、ゲロに塗れ泥にまみれ、飢えを寒さと乾きと絶望の中で何度も殺され続けるだってな。


 お前も復讐対象なんだよバカが!ズタボロになるまでこき使ってやるよクソ熊が!


 殺す事も燃やす事も失敗だった事は憶えている、アイツが直ぐに別の人形に入って話掛けて来やがった事も。


 何巡目のいつの時だったか、私はムカついて『憶えている』と口を着いて出てしまった事があった。 

 あの時の私は愚かだった、性急で軽率で直情過ぎた。だから失敗した。


『え?・・そんな、まさか』とか狼狽えたあと姿を眩ましやがった。

 貴重な情報元・手駒を失った、そして私は失敗した。


・・・確かあの時は・・・『魔女』として火炙りにされたんだっけ?


『悪魔の名を告げよ!』とか、司祭とか神父とかに寄って集って糾弾され、追求されつり上げられた[物理的]な。


(あの時は自分が処女だった事を神?ってヤツに感謝したくらいだったな)

 他の時は処女検査のあと、魔女裁判の開廷、魔女だと認めるまで何度も拷問された。


 処女じゃ無かった私は、爪を剥がれ指を焼かれ。

 捻られ水を飲まされ足の骨を砕かれ、ノコギリで足の指を切られ目玉を焼かれ歯を砕かれて抜かれ、耳を蒸し焼きにされ・・・・


 知らねぇモノは知らねぇんだ、答えられる訳が無いだろ。

 なもんで、『殺して下さい、私は悪魔に惑わされ契約してしまいました』

 そう懺悔?したら審問官のヤツ、私の動かない手を掴んで筆を握らせサインさせやがった。


 あとは白服を着せての火炙りだ、アレは熱いっていうより苦しい、だな。

 煙と熱で喉が焼かれ、窒息するか気絶する。

 

 それでまた私は叫んで目を覚ます、何度も何度も繰り返させられた『死』だ。

 まぁ処女だった時は幽閉され、『悪魔に欺された愚かな娘』って事で自宅監禁、毒殺確定って感じだ。

 なんせ悪魔に取り憑かれた娘が逃げ出しては、娘に汚された公爵家の名誉が地に落ちる!

とかで・・っ・・・ぅっ!!!!!


(ダメだ、吐くな、笑え、狂うんだ私)


 痛みを苦痛を恐怖を笑え!おぞましいバケモノのように痛みに笑え!


 背筋に張り付く冷たい恐怖、『お前はまた失敗する』そう耳元で囁く死んで行った私達。

 深い泥のような奈落の闇、そこから中道連れにしようと手を伸ばす私達。


「大丈夫、私は皆の事を憶えているから」忘れる訳が無い。

 世界でただ一人の私と死んで行った私達、苦痛と恐怖と後悔と挫折と憎しみの中で死んで行った私達、私の魂だけが、私の積み重ねられた死体だけが私の味方。


 笑え私、痛みを忘れず苦しみを忘れず、屈辱も後悔も怒りも捨てず、復讐に笑え。

 破滅に笑え!死を笑え私!


 私の身体を掴む亡者達の手を私は握り、復讐と狂気の炎を宿した目を歪ませる。


(・・・ああ、そうだ、私とお前達は同じだ)

 亡者達が笑ってる、私と同じ顔で笑ってる。


 蟲のように這い回る死の怖気を彼女達が持って行く、夜霧のように身体を濡らす寒気を彼女達が拭ってくれる。


 もう私には恐怖も寒気も無い。

 さあみんな、世界に殺された私達、この私と一緒に世界を滅ぼそう。

 このクソッタレの世界を滅ぼし、私は世界に復讐する。

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