頼られる姉となるために。
「ルージュさ・・姉さんは幽霊が恐く無いの?」
「幽霊?そんなの恐くないわよ、そんな可愛い弟を恐がらせる悪い幽霊なんか私のパンチでポイよ」
教会の神官に少し寄付するだけで排除できる物なんか、私が恐怖する訳が無い。
(本当に恐いのは・・・)
人間、そう出そうな言葉を飲み込んで、私は手をライルに見せる。
「・・あの、姉さん」
「ん?なに?どうしたの?」
「姉さんの手・・近くでみたらすごく」
堅くて小さい傷のある手、指も男の人のように力強くて少し堅くて太かった。
「私の魔法力は、まだライルのように目覚めていないの。
だから今はできる事を、出来る限りする事にして自分を鍛えてるの。
おかしいかしら、それともライルは私の手が恐い?」
生きる為に剣の腕を磨き、拳の技を鍛え、体術も磨く。
武術だけで足りなければ戦術も舞踏も、料理も話術も礼儀作法も学んでいる。
(幸いにも?私には何度も失敗した記憶がある。
追放と敗北と死ぬまで屈辱と絶望の記憶、それががわずかに残ってるからさ、勉強とかは何となく憶えてるんだ。
あとは、魂と記憶と身体を一致させる。。思い出すように反復練習するだけさ)
「でも、姉さんならいつかは凄い魔法を使えるようになるから」
「?・・ライルは貴族の私が魔法以外の事を勉強するのは、無駄だと思う?」
「・・解らない・・けど」
魔法が使えなければ努力しても無駄。
魔法の使えない平民と魔法を使える貴族と王族、支配する者と支配される者。
『神様がそのように作られたのです』
魔法を使える者は神に愛された者は、魔法を使えない者を支配する権利を持つ。
そう嘯く教会と教会の神官達。
魔法量の多さは神様が与えた恩寵・恩恵の量、魔力の量こそが神の愛の量である。
それがこの国の常識、だから貴族が努力するなんておかしく思っても仕方ないだろう。
「あのねライル、私は神様の愛は平等だと思ってるの。
家を作ったり直したりする大工さん、綺麗な布から服を作る洋裁師の方、美味しいお料理を作る料理長、みんな魔法は使えなくても素晴らし人達ばかりよ?
そんな人達を神様が愛さないなんて、おかしいと思わない?」
「で・・でも」
「それにね、今の魔法の使えない私が大事な物を守るには、身体を鍛えるしか無い。
そう思ったのよ。
家族や家、大事な人を守る為に必要な力は何も魔法だけじゃなくても、ほかに出来る事があれば・・・てね」
(教会の連中はクソばかりなんだよ。
クソ野郎の臭い口から蠅も寄りつかないような、糞のような嘘を付く。
大声で嘘をバラ撒いて金を集める詐欺師ども、そんな腐ったヤツ等が集まった肥え溜め見たいな場所なんだよ教会なんかさ)
何が魔法だ、魔法量で人間の上下が決まって堪るかよボケ!
「いまは解らなくても、いつかライルにも解る時がくるわよ。
でも大丈夫、私が魔法の力以外でも助けてあげるから」
もうすぐわかるよ、私の言っていることが。
(・・・静かになったと思ったら、もう寝てる。よっぽど怖かったんだな)
さて起こさないように腹筋でもするか。
・・・・・・・・
朝日が昇り夜空の雲が色を変える頃、私は壁を少し叩く。
本来はベットの脇に置かれたベルを鳴らす行為も、他の人間には聞かれたく無いから。
「お呼びでしょうか、ルージュお嬢様」
すこし時間が空いた後、扉の向こうから声がした。
「ウイエさん、今日もお願いします」
扉を開けて入って来る彼女にお願いし、私のベッドで寝ている弟を運んでもらう。
最初は驚いていた彼女も、四日目になると少し頭を下げるだけでライルを抱き抱え運んでくれるようになっていた。
「お嬢様、あまりこのような事は・・」
「ライルはまだ幼いのよ?一人で寝るのが恐くても仕方ないでしょう。ね、お願い」
眠ている時につぶやく母親の名前、涙を浮かべて小さく震える弟を暗い部屋で1人で寝させるなんて、ね?
「だから皆にバレないように、お願い」
「・・・解っていますルージュお嬢様。
ですが、旦那様や奥さまの耳に入るような事になれば、お嬢様をお庇いする事は出来ませんから」
「私を心配してくれるのね、ありがとうウイエ。貴女だけよ?こんなお願い出来るのは」




