やさしいクマと優しい姉。
「でも知らなかったよ、ライル・・キミの弟は」
主人公の選択肢しだいで人形使いになったり土魔法使いになるキャラが、こんな感じで魔法の分岐をしているとは知らなかった。
イジメられている主人公をなぐさめる人形使い。
少し軽薄で明るい友人・男友達としてのライル。
主人公を守り、力を貸す土魔法の使い手、パートナーとしてのライル。
(この世界でのライルは主人公の男友達になるのか・・ならパートナーはルージュの
婚約者、王子かな?でもそうなると・・・)
「ん?難しいお顔、どうしたのクマちゃん、なにか忘れ物?」
「いや、そうじゃないんだルージュ」
(今はまだ何も言えない、ボクが彼女に未来の歴史を伝える事でこの世界の未来が変わるかも知れないから。。でも大丈夫さ、ボクがキミを守るから)
(・・・とか考えてるんだろうな、馬鹿が。
お前なんぞがこのとち狂った世界を何とか出来るとか、本物のアホか?)
今すぐバラバラに引き千切って打ち刻みたくなるが、まあいい。
この馬鹿の処刑は後だ、それより。
「あのねクマちゃん、お願いがあるんだけど」
?「?何をすればいいの?ボクはきみのお願いは何だってかなえてあげる。
ボクのこの体で出来ることは少ないだろうけど」
「ふふっ、ありがとう。
すごく嬉しいわ、あのね。
ライルのズボンとパンツを見つけて、お屋敷の洗濯場に・洗濯場の洗濯かごの所に持っていって欲しいの。それとシーツもお願い」
明日の昼までベットの下に隠すだけでも誤魔化せるはずだけど、ね。
事実このクマがいない時はそうした。
けれどクマが居るなら運ばせたほうが面倒が無いだろう。
「?・・うん!わかった、ズボンとパンツだね?」
「あとシーツも、多分少し汚れてると思うから」
(誰のせいでライルが失禁する事になったのか解ってるか?・・解ってなさそうな顔しやがって)
無い表情のクマに本当に大丈夫か?と思わないでもないが。
それよりこの馬鹿を連れて部屋に戻るのはリスクがあるし。
(ライルの前で勝手に動かれたりして、大声をあげられても困るんだ、解るだろ?)
・・・たぶん解らないだろうな、そう思いながら私は扉をノックする。
「ライル、まだ?」
「あっ、うん、あと少し」ゴソゴソと部屋の中で音がした。
多分濡れた服を隠してる所だろう、全く子供ってのはどこでも同じだな。
「ズボンを履き替えたら早く出て来なさい、レディを待たせるのは紳士としてはいけない事よ?」
「ごっごめんなさい・・ルージュお姉ちゃん」
「フフフッ、謝らないでいいわ。
寛大なルージュお姉様は可愛い弟を許すものですからね」
パンツを奪われそうになったライルは、涙を浮かべてようやく私の事を『お姉ちゃん』と呼ぶようになった。
(私の努力が実を結んだ事は喜ばしい事だ、姉に逆らうとかそんな無駄な事を)
弟が出来る訳が無いだろ、姉には弟は逆らえないのだよ。
・・・ツッ!・・思考が体に引っ張られた。
(違う、私は楽しんじゃいない、そうだろ?)
子犬とのじゃれ合い、幼い弟との戯れに少し浮ついただけだ、しっかりしろ私。
目をつぶり私は気を引き締める、笑顔は何度も練習したはずだ。
あくまで子供っぽく、そして優しく明るい私を演じなければ。
私はライルを味方に付けるために優しい私を演じているだけなんだ。
「・・あの、ルージュお姉ちゃん?」
「ん?」扉の隙間から顔を出し見あげる幼いライル、大丈夫、私はちゃんと演じられてるはず。
「では行きましょうか。
夜は長のだけど、皆に見付かっては叱られてしまいますからね」
扉の隙間に腕を突っ込み弟の手を掴んだ私は、今の顔を見られないように前を歩く。
(今だけは・・・な)
もう直ぐ魔力量の測定がある、そうなれば私とお前との立場は逆転する。
公爵家を背負う弟と、王子の婚約者でしかない姉、こんなに無邪気に仲良く出来るのは今だけなんだからさ。
怯える弟の手を引っ張り、廊下から見える月を見あげた。
半分以下に欠けた三日月が星空に浮かんでいる、ライルも同じように月を見あげてる。
私はこの月をきっと忘れ無いだろう。
ただの仲の良い姉弟でいられた頃、暗い屋敷を二人で冒険した記憶を。
・・・・・・・・・・・・・・・
仲の良い兄弟を見送るクマのヌイグルミ、その隣に浮かぶ薄暗い顔の幽霊。
「さて、二人も行ったようだしボクもお願いされた事をしようかな」
姉弟が仲良ければルージュの破滅フラグも回避される、その為にやるべき事は多いのだからね。
ライルの部屋に入ったクマはテコテコと歩く・・・
「見付からないんだけど」
ランプも消され、蝋燭の明かりも無い部屋は暗かった。
真っ暗な部屋は、自分達がデザインしたルージュの子供部屋とは違って、どこに何があるのか全然解らなかった。
「・・・どうしよう、このままじゃルージュのお願いをかなえてあげられないよ」
「;;;;;;」
ずりっずりっずりっ、、、暗闇の中で布が擦れる音がした。
ボンヤリと白く浮かびあがるシーツ、その中に薄く見えるズボンが一つ。
「・・・これ・・・」
「見つけてくれたんだ、ありがとう!それにキミ、話せたんだ」
「・・お屋敷の人間はみんな嫌い、でもあの子供は違うから」
メイドさんの声、初めて聞いたよ。
「そうなんだ、でも助かったよ。さあシーツを貸して、ボクが運ぶからさ」
「・・・」
シーツが拒否するように左右にゆれた。
「じゃあ2人で・・3人で運ぼうか」
ベットの下から這い出す黒い影、彼?はライルのパンツを広げるように持ち暗闇に浮かぶ。
そうしてまたその夜、公爵屋敷に小さな悲鳴がこだまする。
暗闇に浮かぶ白い下半身だけの幽霊、パンツだけで歩き廻る黒い影のような怪物、それらを引き連れて歩く不気味な小さい影の魔物。
彼らのお陰で一人・また一人と屋敷の使用人が辞めていくのであった。




