毒を飲む私。
繰り返された私の地獄、それを書き残すには一晩では終わらない。
その次ぎの日も・またその次の日も書き続けるのは私が生きる為だ。
眠くなれば窓から抜け出し、庭のミントとローズマリーを噛んだ。
苦い汁が口に広がると、あの辛い地獄を思い出せる。
今はただ眠いだけ、空腹も痛みも無い。
男共の玩具にされている訳でも、殴られて首を絞められているわけでも無い。
だから立てる、歯を食いしばっても立てる、今は書く事だけに集中する。
記憶は薄れる。
[忘れてた]ただそれだけで、世界は私を奈落に突き落とす。
たった一言、誰かかに言い忘れただけ、たった一つの選択を間違えただけで、世界は私の背中に刃を突き刺し、崖から突き落とす。
私が世界に殺され無い為に、この記憶をシーツに書き残す。
(死んでたまるか!殺されてたまるか!私は世界なんかに負けるものか!)
三日目にぶっ倒れた、鼻血を吹いて床に倒れているのをメイドに発見された。
(忘れてたまるか、お前らクソ共に受けた屈辱、絶対忘れないからな)
私が目を覚ましたのは鼻血を噴いて倒れた2日後だった。
飛び起きて大声で喚き騒ぎ、メイド達に取り押さえられ、ようやく脳が現実を理解した。
「大丈夫ですか、お嬢様!」
「ああ、、ええ大丈夫です、少し恐い夢を・・もう忘れてしまいましたわ」
私の体をいくつもの手が掴む中、私の目は命の次ぎ、、、状況によれば命より大事な記憶を。
(確か・・ベットの下、気絶する瞬間に滑り込ませられた・・はず)
真新しい白いシーツは前の物とは別の物。
メモを書き終えた後でちゃんと隠せた証拠だ。
薄れていた記憶が思い出す。
クッ!何が『少し粗相してしまって、、お母様達には知られたく無いの』だ、恥ずかしい。
ヒヤッとした手が私の額を押えて体温を測る。
「奥さま、お嬢様の体温はまだ少し高いようですが」
「メイ、明後日には回復すると思いますか?
それとも、もう数日ほど長引く感じですか」
我が母は明後日の魔力量検定をお気になさっている様だ。
「私には解りかねます。正確な判断は、お医者様を呼んで戴き見て貰かないと」
手を放したメイは深々と頭を下げ、他のメイド達も私から手を放した。
(医者、、、かアレだな)支える力が無くなった私は、へたり込むようにベットに尻を置いた。
「ルージュ、大丈夫ですか?体に痛い所は?体に熱さなどはありませんか?」
「・・よく・解りません、もう少し休んでいてよろしいでしょうか?お母様」
私はそのまま後に倒れ込み、天井を仰ぐ。
(ああクソ、また魔力量検定か・・ああ!アレか、2回目はあれだったな)
思い出した!思い出すだけで!クソッ!手段が無いからってあんな事を!
鮮明になる記憶、人生最初の試練、ああ嫌だ、イヤダァァーーー
母が部屋を出て次ぎにメイド達が部屋を離れた。
「隣に控えておりますので」最後に私付きのメイが扉を閉めた。
(まだ駄目だ、呼吸を・・深呼吸を3つ・4つ・5つ・・よし、行くか)
扉に耳を押し当て音を聞く。
そして扉の向こうが静かになっている事を確かめた私は、窓を静かにゆっくりと開け、音を立てないように外に飛び降りた。
昼間でないと間違える、事実一度間違えて失敗したソレを取りに行く。
細い葉で今の季節はペタンと地面に張り付く草、赤い花を秋に咲かせるネズミ殺しの植物の根・球根、それを測定前夜に一口食べる事で起こる酷い吐き気と腹痛と目眩と痙攣。
(食中毒を起こす為に喰う物じゃない、けれど他に手が無い・・・)
今は手段が無い、ガキの私の体が本当に恨めしい。
もう少し経てば、あと半年も経てば自由に動けるのが解っているのにもどかしい。
今度は医者を連れてくるから仮病は使えない、だから本当に食中毒をだす為に毒草を。
死なない為に毒を薄め、死なない程度に毒を飲む。