喜劇、子供達の空騒ぎ。
「お嬢様がそう仰られるなら・・・ですが」
ガルルルルル!!!
「私は噛まれているのですが」
「気にするな、ただの子供の愛情表現だろ。少し噛まれたくらいで大げさにしてやるなよな?」
自分を捕まえている手をしきりに噛み付き、暴れて前足で引っ掻き藻掻く子犬。
セバスは指を噛み千切られないように拳を握るが、腕と手首に足蹴りをくらっていました。
「・・・ああ忘れてた」
ルージュは猪の肋を断ち割り、一本引き千切ると子犬の口に放り込んだ。
「ガキにはおしゃぶりが必要だったな、指の噛ましておけ」
猪のアバラ部分、スペアリブの良い場所に小さい歯が囓り着き、ガリガリと骨が音を立てている。
(確かコイツの名前は・・・ジョンだっけか?それともペス?・・)
名付けた犬は死ぬ、だから私は前の名を忘れる事にしていた、だから・・
「そうだな・・テリージュニア、お前は今日からテリーJrだ。
お前が死んだら親の墓の隣に埋めてやる、それまではテリーとして私に従え。いいな?」
テリーはアバラ肉を噛みながらルージュの顔を見る、まだ自分の名を理解してない顔の子犬は私の声に反応しただけかも。
「チッ」これから私はコイツを利用する、利用して使い潰す。
それが解っていて、それが避けられない事だと知っていても苛立ちが渦巻いてくる。
(私がコイツに同情なんかするかよ、、、弱いから利用される、無知だから私になんかに利用されるんだ。弱肉強食、それが形を変えただけだ)
無邪気に骨を囓っていたテリーの口からアバラ骨が溢れ落ちた。
「チッ・・骨一本にそんな必死になるなよ、まだあるんだから」
もう一本アバラを切り取り、落とした骨を拾おうとしているテリーの口に放り込む。
ガジガジガジ・・・
テリーの丸い目がスペアリブを写し、素早く口を開けて肉を噛みついた。
「気分が悪い」
無邪気な子犬の目が、美味そうに肉を囓り、嬉しそうに尻尾を振る姿が私には耐えられ無かった。
「セバス、後は頼んだ。餌付けは済んだはずだから、適当に肉でも喰わして置いてくれ」
忌々しい、吐き気がする。
(これが私に残った良心か?馬鹿馬鹿しい)
これから私が踏みにじるのは犬畜生だけじゃないんだ!
ガキも女も男も年寄りも!全部踏み潰し、死体を積み上げ王族共を打っ潰す。
(同情だと?この私が?アホらしい。そんな余裕、私にあるわけねぇだろ・・・)
感傷を精神の奥底に沈め、やたら重くなった足を引きずって私は庭師の小屋に、そして着替えて私の部屋に。
今日は疲れた。そう、私は猪を狩って疲れただけだ。
・・・・・・・・
勢い良く窓から飛び出したルージュ、その後ろ姿をボクは見ていた。
ヌイグルミのクマの体を起こし、ベットの上から見える彼女の遊ぶ背中が見えた。
赤茶色くて丸い子犬を追い掛け、抱き上げて頭を撫でるルージュ、そんな子供らしい笑顔と仕草は本当に楽しそうだ。
彼女はテリーと名付けた子犬を降ろすと、今度は自分が逃げて子犬が嬉しそうに追い掛けていた。
・・・彼女が犬を飼っているように設定したのは、スタッフの誰かだっただろうか。
『子犬とか出したら、バエません?』
確かポスターとか設定資料に、可愛い犬を出したかった誰かの意見が通った形だった。
公爵令嬢が直接主人公に攻撃するのはボクもおかしいと思っていた。
だから犬を飼っていた事にして、吠え掛ってお昼ご飯を無茶苦茶にしたり、追い掛けて池に落とすイベントで登場する脇役に採用したんだ。
結局子犬の姿は設定資料だけに残り、啼き声だけのキャラになってしまったけれど。
そして主人公のストーリーが進むとフェードアウト・退場するだけの存在。
そんな子犬がキャンキャンとルージュを追い掛け、嬉しそうに尻尾を振って遊んでいる。
(ボクの作ったゲームでは、見られなかった絵だ)
吠えるだけ、牙だけの登場が許され、そしてルージュが破滅していく時には子犬は傍にいない。
(あの時ボクは、何を考えていたんだっけ・・・)
『屋敷から抜け出して行方不明とか、馬車に轢かれたとかで良いじゃ無いの』
開発スケジュールに追われていたボクは、そんな風に言ったかも知れない。
(あの子犬、テリーがいなくなったらきっと・・)
ルージュはスゴク悲しむだろう、でも。
[それはボクが設定した物語に組み込まれた事実]だ、多分変える事なんかできやしない。
家族を亡くし、婚約者を奪われ、自分を庇う者はだれもいない。
そんなルージュが必死になって主人公を学園から追い出さそうとする気持ち、婚約者を必死になって自分に繋ぎ止めようとする気持ちが、彼女を苛烈で攻撃的な行動に移させたのだろう。
(だれか一人でも、彼女を理解する存在を作ってあげていたら)
彼女が主人公におこなう嫌がらせや攻撃を止め、学園を去った彼女を追って着いていく存在がいれば・・・
でもそれは、主人公・・ユーザーを裏切る行為だろうし、主人公に嫌がらせしない悪役は必要とされないだろうから。。。
(結局、ボクはどうしたいんだろうか?)そして、どうすれば良かったんだろう。
ルージュを救いたい、でもそうしたら主人公は王子達から守られる事が無くなるわけで・・・・
いつの間にかボクをテリーと呼ばなくなったルージュ、多分ボクが入った事でこのクマのヌイグルミはテリーじゃ無くなったんだ。
窓から見えるルージュと子犬の楽しそうな姿、ヌイグルミが動き出さなければ今もこのクマをテリーと呼んで遊んでいたのだろうか。
クマのヌイグルミになったボクには、何も出来ないかも知れない。
でも何かしたいと思う気持ちはある、でもいまは・・・
・・・・・
繰り返され記憶をなぞる今日と明日、私は必要な物を集め的確な場所に配置する。
私は神のシナリオを覆す為に罠を張るが、それすらヤツの手の平の上ではないのではないかと気が焦る。
それを誤魔化すようにテリーを追い掛け、飛び付いてくるテリーに顔を舐められた。
眩しいほどの朝日、レースのカーテンがまだ涼しい風を部屋に招き込み、私は目を覚ました。
「おはようございますお嬢様、本日は公爵家に大事なお客様がいらっしゃいますので、お嬢様にはご準備をお願いいたします」
「大事なお客様?それって王子様がいらしゃいますの?」
そうか、ヤツだな。
私の婚約者であの女の夫になる男、私を切り捨て、断罪して国外追放にしてくれたクソッタレの犬嫌い王子だ。
「お嬢様、よくご存じで。
なのでお顔を洗った後は身だしなみを整えます。
衣装合わせとお化粧、髪のブラッシングした後は御髪を整えさせて戴きます」
白磁の洗面器には人肌の温度に冷ましたお湯、私がベットを降りて顔を洗えばメイが素早くタオルを手渡して来た。
(・・・気合入ってんなぁ・・オヤジに言われてるんだろうけどさ。
アイツ・あの王子ににそんな小細工が通用すると思ってるのかよ)
この国の第2王子だぞ?兄貴が死ねば次ぎの王、そんなヤツが着飾っただけのガキを記憶に残すかよ。
それにこの出会いはクソッタレの神が作った、台本に書かれた喜劇の舞台だ。
どう足掻いたってヤツは私の婚約者になる事になってるんだ。
いっそ寝起きのボサボサ頭で顔出ししても、婚約成立するんじゃねえの?多分。
『子役二人が顔会わせ、親とメイドが空騒ぎ』なんやかんやで婚約おめでとうってな。
三流以下の脚本戯曲、結局は神のみぞ知るってな。アホらしい。
(それでも・・・第2王子の婚約者って地位は、私の計画には必須条件だ。
精々三流役者らしく歌って踊ってやるよ、Myファザァー)
この話からしばらく演劇が始まります、終幕が予想できたらニヤリと笑っていただけたら幸いです。




