始まりの朝。そして繰り返された、いつもの朝。
っ!・・「痛ッてぇぇぇぇぇ」頭がガンガンする。
(ここはどこだ?!)
開いている筈の目はナマッ白い天井、頭を支えていたのは顔がめり込むようなクソ柔らかいクッション。
・・・ああ、そうか。ここは。
何度目か・何十度目かの世界で目を覚ましたのは、もう見慣れたような、それでいて遠くて懐かしいような世界。この腐った世界を繰り返す最初の朝だ。
自分の状況を確かめるように手を天井に向け、情けないほど小さく弱々しい手を見上げるとため息しかでなかった。
「また、、、死んだな」が結構いい所までは行った筈だった。
ただ想像以上にヤツが強かった、それだけだ。
(こうしちゃ居られんな、取りあえずは、、憶えているだけでも・・・チッ)
枕元には常に置いていた筈の日記に手を伸ばし、[今は]ソレが無い事に私は舌打ちする。
繰り返す度に[最初の朝]が曖昧になる。
(そうか、日記が無い事が始まりだったな)
そう、ようやく私の頭が理解する。
(確か・・便箋は駄目だった)
何周目かの世界では使用人に中身を見られ、両親に狂人として監禁された。
その後はお貴族様らしく隠蔽、つまりは毒の紅茶の味は甘くて苦かった。
あいつらの引きつった顔と、娘の最後に出された高級なクッキーの甘ったるさは忘れ無い。
毒の味を誤魔化す為に、随分高い砂糖をタップリと使ったもんだと後で関心したくらいだ。
(確か最初の1日目はシーツだったな)
最初の夜は記憶を書き写す、それだけ。
白いシーツに黒いインク、憶えている事をひたすら書き付け・書き尽くす。
私の記憶している事の全てを。
いま私の頭に残っている前回・前々回・それ以上ある死と敗北と屈辱とそこにいたるまでの選択とルート全てを書き殴る。書き残さねばならない。
この記憶と記録だけが私の命綱だ。
魂が痛みを覚え、心が恐怖と屈辱を憶えている間に私の全てを、呪いと憎しみ全てを忘れ無いように。
私はルージュと呼ばれるこの公爵家の長女だ、使えるコネも金も権力も国中でば頂点に近い。
王家と両親、母親の実家である隣国の太守一族を除けば、私に頭を下げない人間はいないくらいだ。
そんな私はいずれこの家から追放される、或いはこの国から罪人として追い出される。。。
そう、12年後そうなるように決められている。
後は・・・・燃やされるか吊さられるか、毒を飲まされるか水に沈められるか首を切り落とされるか、頭を砕かれるってのも有ったな。
(チィィイィ、あの時の感覚を思い出すだけで、無い筈の傷が痛みやがる)
死ぬのが嫌なら、大人しく追放されていれば良い、そう考えた事もあった。
貴族が、貴族の娘が追放されるってどう言う事か。
それが何を意味するか。
トガビトとして、罪人として追放された先で、ただの女が・元貴族の女がどんな末路を送るか。
追われた先の国でもその名は知られ、貴族・金持ち・商人、まともなヤツらは近づかない。
大体世間のヤツ等が元貴族の罪人女をどう見るか。
毒虫にも劣る目で見下ろし、怒声と罵声、唾を吐きかけ、床を拭いたような雑巾入りのバケツを打ちまけられた事もある。
ガキに石と泥を投げられ、野良犬のように下女に棒で追い回される。
『貴族だからって、偉そうにして贅沢していた報いだ!』だと。
知らねぇよ!こちとら生まれた時から貴族のお嬢様だ、お前らが平民に生まれたって事と同じだ!
親と生まれは選べねぇんだよ!
商人にそっぽ向かれ、貴族どもは穢れた物を見る様に遠くから覗いてやがった。
ならどうなるとおもう?
学校で習った程度の多少の知恵が役に立つか?本当にそう思うか?
普通に無理だろ。
貴族の知識は役に立たず、多少勉強が出来ても使う場所が無い。
雇う人間がいないんだ、結局は手に汗流すか身体を売るか、そんなもんだ。
体力に自信のある男なら、武芸に秀でた男なら仕事はあるだろう、でも私は女だ。
仕方ないだろ、身体を売っても。
元とは言え貴族の女の身体はそれなりに売れた。
歳を取るまでは酒には困らない生活が出来た。
が、それも30までだ、あとは転がり落ちるだけだった。
飯と酒の代わりに股を開き、裏路地の顔役ってヤツが上前をはねに来やがる。
そんで後は薄暗い部屋で3流貴族の物を咥え、首を絞められケツまで掘られる始末だ。
気が付けば薬と酒と・・なんだ?まあ見世物として犬とかゴブリンとかの相手とかな。
腹ボコにされてガキを捻り出す所を見世物にされた事も有ったな、そんでそのうち衰弱死か出血死。
あとはなんかよく解らない病気で何度も死んだ、血とか胃液とかを上から下から垂れ流してな。
一番マシなのは・・農家のガキに口説かれた時か?
狭い畑と小さい家でもそれなりに喰って行けた。
ガキも汚ぇのを3人ほど産んだが・・アレも駄目だったな。
寒い夏ともっと寒い冬が二年ほど続いて・・旦那もガキも痩せて死んでいく。。。 最後のガキを何とか喰わせようと教会に土下座しに行ったが、結局は元貴族ってのが付いて回った。
周りの飢えたヤツ等から弾かれ、教会の坊主も『今世の業』とか言いやがって、最後はなんか草の根喰って腹を壊して凍死だか飢え死にだか。
まるで[世界が私を殺しに掛かっている]そう思った。
そして何度目かの[最初の朝]に目覚めて朝からゲロを吐いた。
追放され殺され追放され死ぬ、追放され殺され追放され死に、追放され殺され追放され殺された。
なら上手く立ち回ったらどうか、結局どこからか現れたヤツに罪を被されるんだ。
一回り以上年上のデブ貴族の愛人になれと言われ、断っただけで罪人にされた。
口説いてきた貴族のガキを無視しただけで魔女にされて火やぶりだ。
・・あとアイツだ、私の天敵。
いずれ出会う女、輝くような金の髪と白い肌、美術品のような鼻と可愛らしい唇の女、シルビア。
アイツが私の前に現れたら最後、婚約者も友人も家同士で知り合った知人も全部持って行かれる事になっている。
何回も自分の人生を犠牲にして、ようやく解った事は『シルビアという女は光りの魔力を持っている、世界の中心となる女性だ』って事だ。
ヤツが王子と王子の弟と、宰相の息子と将軍の長男と宮廷魔術士の男とくっつき、幸せな人生を送る為に必要なスパイス。
自分が幸せである事を確認する為に、[真逆の姿]不幸のどん底となるべく用意された道化・ピエロのクラウン様。
それが私だって事だ。
私が不幸になればなるほど、惨めに生きて、汚くおっチぬほどヤツの幸福は輝く。
その為に用意された仇役、歪んだ鏡だ。
ヤツを殺そうとした時も有った、が、その人生はその場で終わった。
私の友人だったヤツ等に邪魔され、私の婚約者だったヤツに防がれ、私の幼なじみにまで妨害された。
そして私は気狂いとしてこの家に軟禁、ヤツが正式に王子と婚約・結婚した時点で毒入り紅茶だ。
嫌がった時なんか『辺境に追放する』とか言われて馬車に乗ったら最後、中で絞殺された。
逃げ出したら後からブスリッと毒付きナイフで刺殺だ。
どれだけ恨まれてるってんだよ私は、
両親が私を完全に殺しに来やがった時は、流石に泣いたよ。
私の言葉なんか、とどきゃしない。
気狂い扱いで口を塞がれ、幽閉されて殺された。
だから考えた、考えた私はヤツと友達を演じた事もあった。
でも最後は追放された、王子の元婚約者は目障りなんだとさ。
王子の方から『国を出てくれ』って言われ『それなりの屋敷も用意する』といわれてな。
・・・・・結果はまぁお察しだ。
王族の元婚約者の私にガキが出来たら困るだろ?色々と誰かが。
『誰の子だ?』『王子はシルビアと結婚してもまだ付き合いがあったのか?』
とか変な噂も好きだろ?市民ってヤツは。
王子の婚約者に新しい恋人が出来たら屈辱を感じるヤツも居らしい、まったく王族の面子ってのは厄介だ。
ヤツとシルビアの間に子供が産まれた時、私が怨むだと?
『なんのこっちゃ』って話だが、そう思ったり負い目を感じるヤツが世界にはいるんだよ。
特に王族。
んで国家反逆罪だ、こっちは殆ど幽閉されてる状態にも変わらず
[家を巻込まれたく無ければ]って事でナイフを渡された。
こっちは(ああ、コレも失敗か)って感じで喉をブスリッ、これで家への疑いは晴れた、とかなんとか。
そこからはもう穴埋め作業。
死んでは記憶を積重ね、日記と言う名の記録を残し、失敗した選択を回避して・・・前回は結構良い所まで行ったんだけどなぁ・・
あとちょっとでヤツの頸動脈を切れた、斬ってたんだ。
あとちょっとでヤツを殺せたんだ。それが、一手及ばずってな・・・それも2度目か。
コンコン!「お嬢様、お目覚めですか?」
ああ、そうだったな。今日は大事な日だった。
私の人生、最初の試練。
魔力量検定、これで私の人生に最初のケチが付くんだった。
書きたい物を書く、それが卯一。
完全不定期につき、アイデアと思考が走ればアップします。
あとR15とか18に引っ掛かるかも知れませんので、その時は設定し直してupするつもりですのでご容赦を。