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ちっちゃい妖精さんになりました! 暇なので近くにいた少年についていきます  作者: SHIRA
第3章 回る妖精とよわよわ鍛冶師

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98.姉弟とお出掛け

美味しかったカレーうどん食べ終え、食器を回収してもらったあと、ウィックとディルは夜の街の様子も見ておきたいと言って、二人で外出していった。


 こんな夜更けにまだ子供のディルを連れ回すなんて・・・悪い大人だよ、ウィックは。


バイバイと二人を見送って、バタリと閉まった扉を見ていると、ネリィがニンマリとした笑顔でわたしの顔を覗き込んできた。


「ねぇねぇ、ソニアちゃんってディルのことどう思ってるの?」


 なんか似たような質問されたことあるなぁ。前はジェシーに聞かれたんだっけ?


「ディルは大切な友達だよ」


それ以上でもそれ以下でもない・・・というか、それ以上なんて無い。わたしの中でディルは一番大切な人だから。


「まぁ、そうよね~。そんな気がしてたわ・・・」

「友達なんですねー」


ネリィが難しい顔で腕を組んで、コルトが安堵の表情で肩を撫でおろす。


 え、何その反応?


「わたしがディルのこと嫌ってるとでも?」


ムッと頬を膨らませて睨むと、ネリィが慌てたように手をブンブンと振った。


「違う違う、何でもないの。ただ気になっただけよ」

「ふ~ん。そんなことよりも、ディル達が戻ってくる前に早くシャワー浴びようよ。そこの扉は奥はシャワー室なんでしょ?」


ネリィの肩の上に乗って、シャワー室に続く扉を指差す。


「そうね、行くわよリアン」

「え!? リアン君も一緒なんですか!?」


ネリィと手を繋いで一緒に入ろうとしたリアンを、コルトが驚愕の顔で見る。


「リアンしか水の適性を持ってないんだから当たり前でしょう? 何よ? コルトも水の適性あるの? あっても一緒に入るなんて嫌だけど」

「いや、僕は土と火の適性しかないけど・・・」

「アンタが何を考えてるか想像はつくけど、リアンはそんな低俗なこと考えてないわよ。・・・さ、行くわよリアン」

「う、うん」


リアンが申し訳なさそうな顔でコルトをチラリと見たあと、ネリィに手を引かれて一緒にシャワー室に入る。


ちなみに、シャワー室のシャワーは水の適性とかは必要なくて、普通に蛇口を捻ったらぬるい水が出て来た。


 リアンは相変わらず顔を赤くしながら頻りにわたしを気にしながら洗われてるけど、わたしは幼い男の子の裸を見たところでなんとも思わない。。どうせなら、いい感じのバランスのいい筋肉が付いた・・・って、何でもないよ!


備え付けの洗髪剤を使ってネリィに丁寧に洗わてシャワー室から戻ると、ディルとウィックが散策から戻って来ていた。


「あ、ディル。おかえりなさい」


濡れた髪をネリィのハンカチでポンポンと叩いて拭きながらディルに手を振る。


「ただいまソニア。シャワー浴びてたのか? なんか良い匂いするな」


 変態みたいなこと言うなぁ。ディルじゃなかったら普通に気持ち悪かったよ。ほんと、ディルだからいいけど。・・・この洗髪剤分けて貰えないかな?


とりあえずこの香りを脳内に記憶だけして、わたしは少し汗っぽい匂いがするディルにシャワーを勧める。


「ここのシャワーは水の適性がなくても使えるからディルだけでも使えるよ。浴びてきたら?」

「マジか! じゃあ早速浴びてくる!」


ディルがシャワーを浴びて、順番にディルとコルトもシャワーを浴びる。皆、砂まみれだった体が綺麗になった。


綺麗にはなったけど、あの良い匂いの洗髪剤は使わなかったんだね。まぁ、確かに、ディルはともかくウィックやコルトからこの匂いがするのは・・・ちょっと無い。


どっと疲れる一日を過ごしたわたし達は、昨日よりも早い時間に就寝する。ネリィとリアンが同じベッドで、コルトが一つのベッド。寝相の悪いディルとウィックは部屋の隅に毛布を重ねて寝かせる。可哀そうだけど、この二人は皆と距離をとってもらわないと怪我人が出かねない。ちなみに、わたしは余ったベッドを広々と使わせてもらっている。


「おはようソニア」

「おはようディル」


ディルに朝の挨拶をしながら部屋の中を見回す。ウィックの姿が無い。


「ウィックはもうジェイクを迎えに行ったの?」

「ああ。小さくしたゴーレムを持ってオードム王国までな。面倒でも戦場で戦いながら兵士が迎えに来るまで待ってろって言っておいた」


 ああ。わたし達は変なところで紛れ込んだせいで大変なことになったもんね。


「それにしても・・・ジェイクまで加わったら余計手狭になるな。この部屋」


わたしは部屋の中をもう一度見回す。ネリィとリアンはまだ寝ていて、コルトは既に起きてベッドの上で寝癖を直している。


「じゃあ、ウィックがジェイクを連れて戻ってくるまで今日はここで待機かな?」

「まぁ・・・そうなるな。退屈だけど仕方ない。こと情報収集に関してはウィックに頼るしかないからな」


ディルはそう言ったけど、結局、起床したネリィとリアンが町を見て歩きたいと言ったので、外出することになった。


「ディルとコルトはお留守番ね」

「むぅ・・・」


わたしが「ちゃんとお留守番しててね」とディルの頭をポンポンと叩いたら、凄く嫌そうな顔をされた。そんなディルの肩に、コルトが手をポンッと置いた。


「しょうがないよディル。僕達は騎士や兵士達に顔が割れてるんだから、ついて行った方が余計ソニアさん達を危険に晒しかねないからね」

「分かってるよ。・・・ソニア、絶対に目立つことはしないんだぞ? 危ないことには首を突っ込まない、危険だと思ったらすぐに逃げる。・・・本当に大丈夫か?」

「しつこいわよディル。あんまりネチネチ言うと嫌われちゃうわよ」


ネリィが呆れたように目を細めながら言うと、ディルが「嫌われ!?」とわたしをバッと見上げる。わたしは安心させるように微笑んだ。


「大丈夫だよ。心配してくれてるのは分かってるから。・・・じゃあ、行ってくるね!」


少し元気の無くなった男二人を置いて、三人で宿を出る。人目に付かないようにわたしはネリィの服の胸元に隠れた。


「それにしても大きな国よね~。お城も大きいし、空も見えるし、人通りも多いし、戦争中なのをまったく感じさせないわね。オードム王国と大違いだわ」

「そうだね。それにオードム王国よりも暑いよ」


服の襟から顔を出しているわたしに「ね?」と同意を求めてくるけど、妖精のわたしいは暑さとか平気なんだよね。


「大丈夫? リアン。どこかで飲み物でも買いましょうか」


ネリィが周囲を見渡して、リアン手を引いて屋台が多く並ぶ通りに向かって歩く。


「あれ? そういえば、宿のお金って誰が払ったの?」


 ネリィ達にお金があるようには見えないし・・・タダで泊ってるわけじゃないよね?


「ディルよ。ちなみに今あたしが持ってるこのお金もディルから貰ったの。お土産よろしくって」


 いつの間に・・・。


「・・・ねぇ、ソニアちゃん。ディルって実はお金持ちのお坊ちゃんだったりする?」

「え!? ぜんぜん違うよ! 前に話さなかったっけ? 大会で準優勝した時の賞金がたくさんあるんだよ」

「あ~、そういえばそんな風なこと聞いたっけ」


 ディルがお坊ちゃんなんて笑っちゃうよね。そんな柄じゃないよ。どっちかと言うと、お坊ちゃんを守る護衛とか? 色んなものからわたしを守ろうとしてくれるからね。


「あ、あそこ飲み物売ってるよお姉ちゃん」

「本当だ。リアンちょっと買って来てくれる? あたし、ソニアちゃんを取り込んでるから」

「分かった!」


 取り込んでるって・・・確かに服の中にわたしを入れてる状態だけど、他に言い方があるでしょう。


リアンはネリィからお金を受け取って、トテトテと小走りで屋台の方へ向かう。そして満面の笑みで液体の入ったコップを2つ持って来た。


「二つ目はサービスだって、無料にしてくれた!」

「ふふふ、リアンの可愛さの勝利ね。予想通りよ!」


 あ、分かっててリアンに買いに行かせたんだ。・・・まぁ、リアンは可愛いよね。


特に目的もなくフラフラと歩いていると、お城の前に出て来た。フラフラと歩いてたのはわたしじゃなくてネリィだけど。


「近くに来ると一層大きく見えるわね。それに、こんな立派な城門はオードム王国には無いし」


ネリィが2メートルくらいはありそうな大きな城門を見上げて感嘆の息を吐く。


「オードム王国のお城はいきなり玄関だもんね、扉も無かったし」

「こうして比べてみると全然違うのね・・・あれ? 何か木札が立ってるわ」


城門のすぐ近くに大きな木札が立っていた。近くまで飛んで見てみる。


「えーっと・・・お城で働く人募集中、料理人、使用人、他色々・・・っと」


 求人かな?


「へぇ~、人手不足なのかしらね。・・・確かにこんなに大きいお城だといくら人がいても足りなさそうだものね」

「城は大きいのに、人は背が低いしね」


服の中からネリィを見上げて言と、苦い顔をされた。


「あたしの身長は高い方よ。・・・っていうかソニアちゃんに言われたくないわよ!」

「わたしも妖精の中では身長高い・・・あれ? どうなんだろう」


 今思えば、ミドリちゃんも水の妖精もわたしより若干背が高かった。それに人間だった頃も決して高い方では無かった・・・と思う。


「ソニアちゃんが妖精の中でどうでも、あたしからしたらどんぐりの背比べよ」

「う、うぅ・・・」


 今ほど人間に戻りたいと思ったことはないよ。


その後、わたし達はディル達に激辛スパイスをお土産に買って宿に戻った。


「ただいまディルー! それにコルトも!」

「お、おかえりソニア。ウィックはまだ戻ってきてないぞ」


コルトと一緒にベッドに座っていたディルが振り返ってそう言う。


「ディルとコルトは二人きりで何してたの?」

「あ、ああ。ちょっとな・・・」


ディルが気まずそうに視線を逸らして、コルトを見る。


「え? 何? 何か話しずらいことでもしてたの?」


 二人でベッドの上で・・・え!? まさかそういう関係!?


「ソニアは何で羽をパタパタさせてるんだよ・・・」


ディルに呆れた目で見られた。コルトがわたしとディルのやり取りを見て「クスリ」と笑って口を開く。


「妖精の話をしてたんですよ。ソニアさん達は何か収穫はありましたか?」

「お土産を買ってきたよ!」


じゃーん! とネリィが持ってる小瓶に手を翳す。


「はいこれ、美味しいスパイスよ」


ネリィが赤い粉末が入った小瓶をコルトに小瓶を投げる。受け取ったコルトは「へぇ~、スパイスかぁ」と色んな方向から小瓶を眺めている。すると、ディルがソワソワした感じでベッドから立ち上がってわたし達に近付いてくる。


「なぁ、俺にもあるのか?」

「あるわよ、はい」


ネリィがディルに小瓶を渡す横で、コルトが小瓶の蓋を開けて指に少しスパイスを付けて舐めた。


「うぇっほ! ごっほ! ごっほ! な、なんだ・・・これ!?」

「激辛スパイスよ」

「は、はぁ!? だってさっき・・・ちょっと水貰ってくる!」


顔を真っ赤にした涙目のコルトが凄い勢いで部屋から飛び出していった。小瓶の蓋を開けようとしていたディルが、そっと手を放してテーブルに小瓶を置く。


「あ、危なかったぁ」

「良かったね、先に渡されてなくて」

「本当にな」


わたしとディルはお互いを見合って微笑み合う。その様子を見ていたネリィが、手をポンと当てたあと、ニヤニヤとした悪戯を思い付いたような顔で口を開く。


「ねぇ、二人とも。突然だけど、お互いのカッコイイと思うところ、可愛いと思うところを言い合ってよ!」

「え? どうして急に?」

「いいから、いいから、ほら、どうぞ!」


 え~・・・まぁ、言えって言うなら言うけど・・・。


「え、えっと、わたしはディルの・・・たまに変な寝癖がついてるところが可愛いと思うよ?」


わたしはそう言ってディルを見る。次はディルの番だ。わたしは言ったからね。


「俺はソニアの・・・村で身の丈以上の昆虫に立ち向かってた時にカッコイイと思ったな」


わたしとディルが「言い合ったけど?」とネリィを見ると、ネリィと、リアンまでもが微妙な顔をした。


「違うわよ! 逆だし、内容もしょうもないし! 全然違う!」


ブンブンと頭を振ってそう訴えるネリィは、まるで我儘を言う子供みたいだ。


「何がしょうもないんだ! ソニアよりも大きい昆虫だぞ! 人間の子供だってビビる程なんだぞ!?」


ディルが大声でネリィに抗議する。わたしもディルの頭の上に乗って便乗する。


「そうだよ! あの時は流石に死ぬかと思ったんだから! それに、ディルは自分の寝癖に気付かないまま一日を終える時だってあるんだよ! それがまた可愛くて・・・」

「ちょっと待て、それは初耳だぞ」


頭の上に乗っているわたしはそっとディル掴まれて、胸の前まで降ろされた。ディルにじーっと見下ろされている。なんか怖かったから飛んでネリィの後ろに隠れた。


 今も寝癖がついてることは黙っておこう。そのままの方が可愛いし。


ガチャリと部屋の扉が開かれ、水を飲みに行っていたコルトが戻って来た。


「はぁ、戻りました~・・・って何してるの?」

「何でもないわよ、しょうもない話をしてただけ」

「そうなんだ。それより、ウィックが戻ってきたよ。ジェイクさんと一緒に」


コルトの後ろから、ウィックとジェイクがひょっこりと姿を顔を出す。


「良かった、無事に城門を通れたんだね」

「本当に何事もなく通れたっすよ。ちょっと拍子抜けっす」

「それで、姉御。今後の作戦はどうなってるんですか?」


 ん? どうなってるんだろうね? わたしも分かんない。

読んでくださりありがとうございます。お節介を焼く少女と、それを台無しにする妖精でした。

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