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97.合流、そしてトイレ

「ここはやっぱり、わたしの雷でウィックをおびき寄せるしかないね」


ネリィの膝の上でドヤリと笑って言ったら、ディルにすぐ止められた。


「ちょっと待て! そんなことしたらウィックどころか関係無い人までおびき寄せられるから」


 良案だと思ったんだけどな~。そうでもしないと、この広いセイピア王国で先に潜入しているウィックを探すなんて無理だと思う。


「そんなことしなくても俺はここにいるっすよ」

「うおっ!?」


いつの間にかディルの後ろにウィックが立っていた。へらっと笑って手を振っている。ディルが驚きすぎて躓きそうになったのを寸でで堪えた。


「ダメっすよ~、ディル。一仕事終えて達成感に浸るのもいいっすけど、油断しすぎっす。近付く俺にまったく気が付かないようじゃあ姉御に・・・」

「分かった! 分かったから! 気を付けるからその先は言うな!」


 わたしに・・・何なんだろう?


「それよりも、よく俺達がここに居るって分かったな」


ディルが首を傾げるわたしをチラチラと見ながら少し早口で言った。


「城門からここまでずっとディル達のことを陰から見てたっすからね」

「は!? 見てたんなら助けてくれてもいいじゃない!! ここで皆捕まっちゃうんじゃないかって、心臓バクバクだったんだから!」


ネリィが涙目でウィックに掴みかかる。わたしもネリィの膝の上でうんうんと頷きながらウィックを睨む。


「俺まで騎士や兵士に顔がバレるのは避けたかったっすから。それに、本当に危なそうだったら助けったっすよ?」

「本当に危なかったと思うんだけどな・・・」


ディルがハァと深い溜息を吐く。


「まぁ、何はともあれ、無事に城門を抜けられて良かったっす。俺はジェイクを迎えに明日またオードム王国に行かなきゃならないっすから、それまでにセイピア王国での拠点に出来る場所を見つけなきゃっす」


 拠点か~・・・なんかワクワクするね。そんな状況じゃないのは分かってるんだけどさ。


「これを見てほしいっす」と言って、ウィックが羊皮紙を広げた。そこにはウィックが描いたであろう、簡単な地図が記されていた。


「下手くそな地図ね」

「こういうのは苦手なんすよ」


セイピア王国は半球状の形になっていて、わたし達が通った城門は湾曲になっている部分の真ん中らしい。


「・・・んで、城はその反対のここにあるっす」

「なるほどね、それで、この丸印は何? お宝?」


わたしは地図の丸印が書いてあるところの上に立ってウィックを見上げる。ネリィが「ちっちゃくて可愛い足ね」とか言ってるけど無視する。


「そこは宿っすね」

「宿? ネリィとリアンはともかく、俺とウィックみたいな明らかな余所者は目立たないか?」


 この地方の人間は皆が褐色で背が低いからね。ディルとウィックがその中に混じると確かに目立つ。


「大丈夫っすよ。町を歩けば分かるっすけど、何故かこの地方の出身じゃない人達がちらほらと歩いてるっすから」

「なんで?」

「そんなの知らないっすよ」


ウィックがフルフルと首を振る。すると、何やら考え込んでいたネリィがそっと手を挙げた。


「それなら心当たりがあるわ。たぶん、普通に他所からの移住者だと思う。戦争が始まる前にオードム王国を通過して、セイピア王国に向かう人達がたくさんいたから・・・」

「何でそんなにセイピア王国に移住する人がいるんだ?」

「知らないわよ」


 理由は分からないけど、そのお陰でディル達が目立たないなら、いいこと・・・なのかな?


「じゃあ、さっさとその宿に向かおう。案内よろしくなウィック」

「うぃっす」


ディルとウィックが拳を突き合わせる。


「あ、話は終わったの? よいしょっと・・・」


わたし達が話をしている間、ずっとぐでーっと呆けた顔で横になっていたコルトが怠そうに立ち上がる。


 無茶苦茶な動きをするディルのゴーレムの中に入ってた上に、全力疾走するディルに抱えられてたからね。そうなるのも仕方ない。


わたし達は路地裏から表の大きな道に出る。人通りが多く色んな馬車が行き来していて、奥の方には大きくて立派なお城が見える。オードム王国のお城の倍くらいはありそうだ。


「立派なお城だね~、グリューン王国と同じくらいあるんじゃない?」


わたしはディルが肩からかけているポシェットから「ぷはぁ」と顔を出して、周囲を見渡す。


「あんまり顔を出すなよ。この辺りじゃ妖精はかなり珍しいらしいから、騒ぎになったら困るだろう? ソニアには前科があるからな」


ディルに指で頭を抑えられて、ポシェットの中に押し込まれる。


 ちぇ~、つまんないけど仕方ない。わたしのせいで皆が捕まったら嫌だもん。


 ポシェットの中で一人いじけたように丸くなるわたし。


 ・・・暇だし、昼寝でもしてよっと。



「・・・ん?」


目を開けると、ディルとネリィとリアンの顔が見えた。3人でポシェットの中にいるわたしを覗いている。


「え? なになに? 何で見てるの?」

「・・・いや、何でもない。もう宿に着いて色々と手続きも終わったから出てきて大丈夫だぞ」

「はーい」


ディル達が顔を避けてくれる。ポシェットから出ると、少しボロ・・・年季のある部屋の中だった。3つあるベッドの一つでコルトが口を開けて気絶するように寝ていた。


「部屋に着くなりベッドに倒れ込んでたわよ。まったく、一流の鍛冶師だとは思えないわね」


ネリィが「情けないわ」とコルトを見て肩を竦める。わたしはそんなネリィの前に移動して、顔を覗き込む。


「ネリィとリアンは大丈夫なの? 疲れてない?」

「あたしは全然・・・大丈夫よ。ソニアちゃんのゴーレムの中で悠然としていたから」


ネリィが胸を張って答えると、リアンが呆れたような目でネリィを見た。


「お姉ちゃん・・・」

「な、何よリアン」


 わたしも知ってるよ。ネリィ、ゴーレムの中で慌てまくってたよね?


「ネリィ、ゴーレムの中の様子はわたしにも見えてたからね」

「え、えぇ!?」


真っ赤になったネリィの背中をリアンが慰めるように撫でた。


「あれ? そういえばウィックは?」

「トイレだ」

「あ、そう」


ガチャン!と大きな音を立てて、部屋にあるトイレからウィックが勢い良く出て来た。何故かとてもワクワクしたような目をしている。


「やばいっす!」

「どうしたのよ。お腹でも下した?」

「いやいや、そんなんじゃないっすよ」


ウィックがちょいちょいとネリィを手招きする。ネリィが眉をひそめながら立ち上がり、リアンと一緒にウィックの後ろをついて行く。


「何だろうね?」

「さ~、どうせくだらないことじゃないか?」


ポスッとディルの頭の上に座る。やっぱりここが一番落ち着く。


「何よこれ! 水が流れたわ!」


トイレの方からネリィの興奮した声が聞こえた。ガチャリと静かに扉を開けて、興奮冷めやらぬ感じのネリィとリアンが戻って来た。その後ろから、何故か得意げなウィックも一緒だ。


「ちょっとディル! ここのトイレ凄いわよ! あんたも見て来なさいよ!」


ディルが立ち上がってトイレに向かう。わたしを頭に乗せたまま。


「なんだこれ? 水が張ってる・・・」


わたしには見覚えのある水洗トイレがあった。横に紐が付いている。


「この紐を引っ張るんじゃない?」


ディルが便器の横に付いている紐を引っ張ると、ジャーっと水が流れる。わたしには見慣れた光景だ。


「お・・・おぉ! 凄いなこれ!」


だけど、この世界の人達にとっては、そうでもないみたいだ。


「そんなに驚くなんて・・・普段はどうしてたの?」

「ポイだ」

「ポイ?」

「うん」


 ポイか・・・それは水洗トイレで感動するわけだね。


部屋に戻ったら、ネリィが自慢げな顔でディルに寄って来た。


「どうだった? 凄かったでしょ?」

「凄かった・・・」


皆は興奮してる様子だけど、これが当たり前だったわたしはついつい冷めた目で見てしまう。


「コルト、アンタも見てみなさいよ」


ネリィが寝ているコルトをバシバシと叩きながら言う。


「ん、んん・・・なに?」


目を擦りながらむくりと起き上がったコルトが「何かあったの?」とネリィを見る。


「ここのトイレが凄いのよ、ちょっとコルトも見て来なさいよ」

「えぇ・・・は? そんなことの為に起こされたの?」

「いいから、いいから」

「はぁ・・・」


コルトがのそのそと眠そうにトイレに向かう。そして、静かに戻ってきた。


「僕の家にも欲しい」

「でしょ?」


コンコンと扉がノックされた。ディルがすかさず頭の上のわたしを掴んで、ポシェットに入れる。わたしはされるがままだ。


「失礼しまーす、お夕飯をお持ちしましたー」


元気な女の子の声が聞こえた。姿は見えないけど、大人ではなさそう。


「ありがとう、わぁ! 美味しそうな・・・カレー・・・じゃなくて、何これ?」

「これはカレーうどんって言うんですよ。なんでも、この国の王子様が・・・あ、今は王様ですね。王様が大妖精様から聞いた料理だそうですよ」

「大妖精様? 妖精じゃなくて?」

「はい、大妖精様です。・・と言っても本当に存在してるか怪しいですけどね。妖精なんて見たことないですし、この料理も実は王様が考えたものだと思います。人伝に広がる中で、尾ひれが付いたんでしょうね」


コトコトとお皿がテーブルに置かれる音がする。ポシェットの中からでもカレーの香ばしい匂いが分かる。


 わたしも食べたいカレーうどん。


「それにしても、本当に三人部屋で良かったんですか?」

「大丈夫よ。あたしは弟と一緒のベッドで寝るし、そこの男どもは床でも寝られるから」

「・・・僕はベッドじゃないと寝られないよ」

「じゃあ、コルトはベッドで、ディルとウィックは床ね」

「いや、おい。1つ余ってるだろ!」


 じゃあ、余ってる1つはわたしが使おうかな。


「フフッ、仲が良いんですね。それなら三人部屋でも大丈夫そうです。では、私は失礼しますね」


扉が閉まる音が聞こえたので、わたしはポシェットから出る。


「美味しそうなカレーうどんだね。人参がいっぱい!」


ディルの前に置かれたカレーうどんを覗き込んで、少し指に付けて舐める。


「うまうまだね。スパイシー!」

「・・・でも、これは流石にソニア用に小さくは出来ないぞ?」


ディルが同情するような憐みの目でわたしを見下ろしながら箸を持った。わたしはディルが食べているのを近くで未練がましく眺めることにした。


ズズズズズ・・・ズズズズ・・・・ベチャ!


「あっづいい!!」


わたしの頬に汁が飛んできた。


「いや、熱くはないんだけど、気持ち的にあっついよ!」

「ごめんソニア。・・・でも、そんな近くで見てられたら食べづらいから止めてくれ」


ディルがわたしの頬をハンカチで優しく拭いてくれる。


「凄く美味しいけど・・・汁が飛んで食べづらいわね。本当に王様が考えた料理なのかしら?」

「どういうこと? お姉ちゃん」

「だって、王様って言ったらメイドさんや執事とかにあれこれ世話されながら生活して、豪華な服を着てる偉そうな人でしょ? こんな服に汁が飛び散るような料理を考えるかしら? そもそも料理なんて出来るの?」


 わたしはグルメな王様なのかなって思ったけど、この世界ではわたしの常識がズレてるみたい。


「じゃあ、やっぱりその大妖精様っていうのが考えたんじゃないっすか?」

「大妖精様かぁ、緑の森のミドリさんや水の山の水の妖精みたいなのってことか?」


懐かしそうに目を細めながら言うディルを、ネリィが少し恨めしそうに見る。


「何よディル。アンタ大妖精様と会ったことあるの?」

「あるぞ。な? ソニア」

「うん、わたしのお友達!」


 ミドリちゃんも水の妖精もわたしのお友達!


「さすがソニアさんですね。・・・もしかして、ソニアさん自身も大妖精様だったりします?」

「コルトはどう思う?」


わたしがそう聞くと、コルトは「うーん」と少し考えたあと、とてもいい笑顔で口を開いた。


「ソニアさんはソニアさんですから」

「なら、そういうことだよ!」


 今まで、そうなんじゃないかと思うことはあったけど、正直わたしもどっちでもいいんだよね。偉い妖精でも、そうじゃなくても、わたしのやりたいことは変わらない。それが出来るならどちらでも構わない。

読んでくださりありがとうございます。前掛けは必須ですよね。ディルは音を立てて麵をすする派です。

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