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96.セイピア王国潜入成功?

「うおおおおお!!轟け! 喰らえ! 俺の炎!!」


聞き覚えのある声、聞き覚えのあるセリフが近くで聞こえた。直後、上空から降って来ていた巨大岩が炎のビームに貫かれ、バラバラと砕け散った。


「なになに!? 何が起こったのお姉ちゃん!」


ゴーレムの中でリアンがネリィの方をゆさゆさと揺さぶる。


「岩が破壊されたわ。・・・ドラゴンのブレスみたいなので」

「ドラゴン? ドラゴンがいるの!?」


わたしが操縦するゴーレムの中でネリィとリアンがそんな会話をする。


 いや、あれはドラゴンじゃなくてマイクの魔剣の攻撃だったハズ・・・。もしかして、ここにいるの?


今まで、あまり注意深く見てなかった周囲をよく見てみると、背の低い土の地方の人達の中にちらほらと背の高い海賊達が見える。ジェイクの姿もある。皆が手加減をしながら、敵味方を問わずに死者を出さないように、わたしの意に添うように立ち回っているのが分かってちょっぴり嬉しくなった。


 マイクはどこだろう? 確かあの辺りからビームが出て来たハズ・・・あっ、いた。


マイクは仲間に肩を貸してもらいながら、辛うじて立っている。フラフラになりながらグッと親指を立てて笑っている。その周囲を仲間達が囲んで守っていた。


 あ~、あの攻撃をした後は動けなくなるんだったね。どうしてわたし達が戦場に寄っていることを知ってるのか分からないけど、マイクが親指を立てながら見てるゴーレムはわたしもディルも入ってない、セイピア王国のただのゴーレムだよ。


自分が親指を立てていた相手に、いきなり攻撃されそうになって驚いているマイクを尻目に、わたしとディルは一層激しくなった戦場の中を進んでいく。


「お父さん・・・結局見つけられなかったわ」


一番激しい区域を抜けて、辺りはセイピア王国の兵士や騎士が多くなってきた。もうオードム王国の兵士達はほとんどいない。ネリィ達のお父さんがこんなところにいるとは思えない。悲しそうに俯くネリィとリアンに、わたしは何も声を掛けてあげられない。


 ディル、ここら辺で騎士がゴーレムを連れて城門に入るまで待機してよう。


ディルのゴーレムが右手を挙げる。わたし達はセイピア王国の陣地から少し離れたところに向かい、ネリィに土の魔石を使って身を隠すための砂の山を作ってもらい、そこに隠れる。


「本当にこんな砂の山で隠れられてるのか? 誰にも見られてないか?」


ゴーレムから出たディルが周囲を警戒しながらコソコソと話す。


「見られてないから大丈夫だよ。電気になって何かの中に入ったわたしは、草食動物並みに視野が広いんだから!」


 もはや死角など存在しないと言っても過言ではないんだから!


「草食動物の視野がどれくらい広いのか知らないけど、見られてないならよかった。・・・それで、ネリィ達はお父さんを見つけられたのか?」

「ううん」


ネリィが元気のない声で返事をした。そのネリィと手を繋いでいるリアンも俯いている。そんな2人にディルが何気ない顔で声を掛ける。


「あんまり気にするなよ。見つけられなかっただけだ。もし、あの戦場のどこかにいたとしても海賊達が守ってくれるさ。見ただろ? 敵味方関係なく守ってた海賊達を」

「うん、そうね。今は前を向くわ。ごめんなさい、無駄足になっちゃって」


ネリィが申し訳なさそうに「ハハハ」と空笑いする。


「無駄足かどうかはまだ分からないよ。ここで知ったことや、経験したことをわたし達がこの先どこかで生かせれば無駄足にはならないからね!」

「ソニアちゃん・・・」

「ソニアさん・・・」


それっぽいことを言ってみた。わたしはディルの頭の上に座ってネリィとリアンの尊敬の眼差しを向けられる。


「ソニアさんのポジティブさには僕も救われました」


ディルのゴーレムの中から顔色の悪いコルトが出て来た。


「どうしたのコルト? 顔色最悪だよ?」

「・・・ディルのゴーレム使いが荒いんです。もう気持ち悪くって・・・」


「うっ」と口元を抑えて何かを飲み込むコルト。


「あ~、ディルの動かすゴーレム、たまに凄い動きしてたもんね」


暫くセイピア王国の陣地の様子を見ながら、騎士がゴーレムに命令して城門の中に戻るのを待つ。


「しっかし、あっついな~。ネリィ達はあんまり無暗にゴーレムに触らない方がいいぞ、火傷するからな」


ディルが両手をブンブンと振りながら言う。


「ディルじゃないんだから、触らないわよ」

「ディル、触ったの? 火傷したの? 大丈夫?」


ディルの手の周りをグルグルと飛んで見てみるけど、火傷は見当たらない。


「大丈夫。もう治った」

「そっか、よかった」


わたしを安心させるようにニッと笑うディルに、ネリィが素早くツッコミを入れる。


「いやいやいや! そんな早く治るわけないでしょ! コルトも何か言ってやって・・・ってコルトはどこ行ったのよ?」

「ゴーレムの中の方が暑くないからって、さっき中に入っていったぞ」

「鍛冶師が何を言ってるのよ。情けない・・・」


ネリィが呆れたようにゴーレムをジト目で見ると同時に、リアンがネリィの脇腹を突いた。


「ひゃっ、ビックリした~。どうしたのリアン?」

「お姉ちゃん、騎士が動き出したよ」


セイピア王国の陣地を見ると、城門から偉そうな騎士が出て来て周囲を見回して、近くにいた数人の兵士に何か指示を出すと、兵士達は何やら細い棒を持って戦場の方へと駆けて行った。


「あの騎士だ。前にゴーレムを連れて城門に入っていったのもあの騎士だった。走り出して行った兵士達が戦場から回収してくるゴーレムをあの騎士が連れて城門に入っていくんだ」

「え、じゃあ早く行動しないとっ。皆! ゴーレムに入って!」

「わ、分かったわ! リアンおいで!」

「うん!」


皆がゴーレムの中に入ったのを確認して、わたしも体を電気にしてゴーレムの中に入る。わたしの動かすゴーレムの中で、ネリィとリアンが不安そうに肩を寄せ合う。


「うぅ、ちょっと緊張してきた~」

「僕達はただゴーレムの中に入ってるだけだから、実際にゴーレムを動かしてるソニアさんの方がきっと緊張してるよ」

「うーん、あの妖精のソニアさんが緊張なんてするかしら?」

「す・・・しないかも?」


 緊張はしてないけど、あとで会話がわたしに聞こえてることを教えてあげよう。


ゴーレムに入ったまま待機すること数分、ディルの言った通りに兵士達がゴーレム十数体を連れて戻って来た。


 これなら、戦場で兵士達がゴーレムを迎えに来るまで待ってた方がバレるリスクが少なかったかな? いや、でも戦場で待つなんて危ないよね。


兵士達がわたしとディルのゴーレムが合流しても違和感が無いところまで来るのを待つ。


 よしっ、ディル、今だよ!


ディルのゴーレムが右手を挙げた。了解の合図だ。わたし達は何食わぬ顔で砂の山から姿を出して、兵士達の後ろをぞろぞろと歩いているゴーレム達の中に紛れ込む。何食わぬ顔って言ってもゴーレムだから表情はずっとマヌケな3の口のまんまなんだけど。


「大丈夫かしら? バレてないかしら? あの偉そうな騎士、凄いこっち見てる気がするんだけど・・・」

「お姉ちゃん、僕にも見せてよ・・・あっ、本当だ。凄いこっち見てる」


 だ、大丈夫! バレてない、バレてない・・・。


ゴーレムを連れた兵士達が城門前で偉そうに立っている騎士の前に並んだ。一人の兵士が一歩前に出て、息を大きく吸って口を開く。


「グラッダ様! ゴーレム達を回収して参りました」


ビシッと綺麗な敬礼をする兵士に、グラッダ様とやらが目を細めて睨む。


「・・・お前、全部で何体のゴーレムを回収してきたか覚えてるか?」

「え・・・、命令通りに戦場で稼働している半数のゴーレムを回収して・・・」


 や、やばいやばい!


「何体だ?」

「18体です」

「後ろを見て数えてみろ」


兵士が後ろを振り返って数え始める。


 バ、バレる!


「17、18、19、20・・・あれ? ・・・全部で20体です」


グラッダと呼ばれた騎士が、兵士をドンと手で避けて、わたしとディルのゴーレムの前に立ち、何やらブツブツと呟き始めた。


「ふむ・・・この二体は途中で見当違いな方向から合流してきていた。今までこんな挙動を見せたゴーレムは見たことなかったが、報告が必要か・・・?」


ディルのゴーレムが左手を挙げた。よく分からないっていう合図だ。


 いやいやいや! よく分からないのは今のディルの行動だよ! 何してんの!?


「うおっ、何だ!? 」


突然腕を上げたゴーレムに驚いて騎士が一歩後退り、周囲の兵士達もディルのゴーレムから距離をとる。


 ディル! 何してんのさ! 明らかに不審者だよ! 不審ゴーレムだよ!


ディルのゴーレムが左手を下げて、右手を挙げた。了解の合図だ。


「な、何だこのゴーレムは!? おい、誰かコレに命令を出せ!」


騎士がそう言うと、さっき騎士と話していた兵士が細い棒を持って近づいてくる。


 もしかして、あの細い棒を使ってゴーレムに指示をだしてるの? どうやって?


「もう! 腕を上げたり下げたり、ディルは何がしたいのよ!」

「兄貴のことだから、きっと何か考えがあるんだよ」


 本当かなぁ? ディル、何か考えがあるの?


ディルのゴーレムが一度右手を降ろし、もう一度挙げた。近付いた兵士がビクッと跳ねる。


 なるほど、考えがあるんだね。分かった。わたしはディルに合わせるから好きにしていいよ!


細い棒を持った兵士が、ディルのゴーレムの目の前で棒を高く振り上げた。その瞬間、ディルのゴーレムが兵士をドンっと押し、兵士が尻餅を着くのと同時にディルのゴーレムが右手を挙げて振りながら城門に向かって走っていく。


 あの合図は・・・ついてこいって?


「お・・・追え! あのゴーレムを追え! 門番、門を閉じろ!」


騎士が門番に指示を出し、門番が城壁に付いている魔石を触ると、重そうな鉄の二枚扉がギギギと閉まり始める。


 ディル! 急いで! 門が閉まっちゃうよ!


わたし達の進行方向を塞ごうとする兵士達を、前を走るディルのゴーレムが次々と殴り飛ばしていく。わたしはその後ろを金魚の糞のようにくっついて走る。


「あわわわわわわわ!」

「お姉ちゃん! 外はどうなってるの!? なんか色んな叫び声が聞こえるし、凄い揺れてるんだけど・・・お姉ちゃん?」

「あわわわわわわわ!」


完全にパニックになっているネリィをリアンが揺さぶっている。そんなゴーレムの中の様子に気を取られていたわたしは、ゴーレムの足を兵士に掴まれたことに気付かなかった。


 うっわぁ!


ゴスンという音を立てて、転んでしまった。中にいるネリィが頭をぶつける。


「・・・八ッ! あたしは何を!?」

「いてて・・・あ、よかった、お姉ちゃん戻って来た。ちょっとそこ退けて僕にも外の様子見せてよ・・・あれ? 何にも見えない?」


ネリィの意識が戻って来たのは良かったけど、外はそれどころじゃない。転んだわたしのゴーレムを取り囲むように兵士達が集まってくる。


 ま、まずいよ! ディル! ディル! 助けて!! 後ろだよ!


ディルのゴーレムがバッとこちらを振り返り、すぐにわたしの現状に気付き、物凄いスピードで駆け寄ってくる。マヌケな顔のゴーレムだけど、やけに凄みがある。わたしを取り囲んでいた兵士達をさっきよりも割と強めに殴り飛ばして、ゴーレムの足にしがみついている兵士をぺいっと引きはがす。


 あ、ありがとうディル! 助かったよ!


わたしは「よっこいしょ」と立ち上がる。そっとディルのゴーレムに背中を押された。


 そうだね! まだ門は閉まりきってない。頑張れば間に合うはず!


わたしはゴーレムを全力で走らせる。門はゴーレムが一体通れるかどうか、といったところまで閉まってきている。


 ま、間に合ってぇぇぇ!


門が閉まるスレスレのところで、なんとか城門を通り抜けられた。抜けた先は軍備施設とかではなく、普通に町の中だった。急に入ってきたゴーレムに、周囲の人達が目を丸くしている。


 ディルは!?


後ろに視線をやると、ディルのゴーレムがガコンと門の扉に挟まっていた。


 ディル!?


助けようと思って駆け寄ろうとしたら、ディルのゴーレムが手のひらを突き出してくる。


 え? 来るなってこと?


「今だ! そのゴーレムを拘束しろ! 回収して陛下と大妖精様に報告しなければならないならないからな! 多少壊しても構わないが壊し過ぎるなよ!」


門の後ろから騎士の怒号が聞こえる。その途端、ディルのゴーレムが力なく項垂れた・・・と思ったら、ゴーレムの背中が勢いよく開き、ディルが慌てたように出て来た。まるで脱皮みたいだ。続いてディルの手を取ってコルトも出てくる。コルトがゴーレムを土の魔石で小さくして回収するのを確認したディルは、コルトを横抱きにして走り出す。


「ソ・・・ゴーレム! 走れ!」


 了解!!


コルトを抱えたディルとわたしが操縦するゴーレムが、セイピア王国の町中をめちゃくちゃに走り回ること数十分、やっと兵士達を撒けた。薄暗い路地裏で、わたしとネリィとリアンはゴーレムから出る。


「セイピア王国潜入成功だな!」

「「成功??」」


ディルが自信満々に言った言葉に、その場の全員が首を傾げる。


「・・・というか、ウィックはどこなのよ?」

「あ・・・確か、先に潜入してるって言ってたけど」


 ぱっと見ただけでもオードム王国よりも何倍も広いセイピア王国の中で、身を隠しながらウィックを見つけられるだろうか・・・。


読んでくださりありがとうございます。潜入というよりは、突破ですね。

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