表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
96/334

95.あたしを戦場に連れてって

「おまたせ~、コルト連れて来たよ~」


ディルが扉を開けてくれた玄関から、コルトの小指を持って「ただいまー」と家の中に入っていく。小指を持って・・・というか、持たせてもらってるというか、コルトが前に差し出した小指を掴んでるだけだけど。


「ソニアちゃん! いきなり飛んでっちゃうんだもの、ビックリだわ!」

「まぁまぁ、お姉ちゃん。そのおかげでコルトさんと合流できたんだから・・・」


プンプンと頬を膨らませて睨むネリィをリアンがどうどうと宥める。


「分かってるわよ! ・・・でも、心配くらいさせてよ!」


ネリィがツンとわたしの頬を突きながら言う。


「・・・心配してくれたの?」

「当然でしょう? だって友達じゃない」


ニコリと微笑みかけてくれるネリィに、わたしも笑顔で返す。


「そうだね! ネリィもリアンも友達!」

「僕も!?」

「あたりまえ! もちろんコルトも友達だからね!」

「嬉しいです! もっと上を目指したいです!」

「・・・うえ?」


 親友ってことかな?


満面の笑みでわたしを見ているコルトを、ディルがトントンと肩を叩いて部屋の隅へ連れていった。どうしたんだろう? と目で追ってたら、ウィックに声を掛けられた。


「姉御、お城で何があったんすか?」

「ああ、説明するね。そんな長い話にはならないんだけど・・・」


ウィックとネリィとリアンに、お城であったことを話す。コルトが地下牢で缶詰めにされていた、王様がコルトのことを見逃した、と。


「じゃあ、急いで今日出発する必要は無くなったんすね」

「いや、今日出発しよう。急ぐ必要は無くなったって言っても、ゆっくりしてる理由も無いからな」


いつの間にか戻ってきていたディルが真面目な顔で言う。


「あ、ディル。コルトとの話は終わったの?」

「おう」


 ディルの後ろに不貞腐れたような顔をしてるコルトが見えるけど、何を話してたんだろう? あとで時間がある時にでも聞いてみようかな。


それから、コルトがせっせと身支度を終えるの皆で待って、オードム王国の城壁まで歩いて向かう。わたしは飛んでるけど。


「天井が無い区域はボロボロだね。まともな建物が見当たらないよ。瓦礫だらけ・・・皆歩きずらそうだね」

「姉御はいいっすね。ふわふわ飛べて。羨ましいっす」


ウィックが背中を突いてきたのを、ヒラリと躱す。


「上から岩が降ってくるかもしれないから気を付けろよ。俺とウィックがこの前通った時も上から降ってきたからな。まぁ、ちっちゃいソニアに当たることはまず無いと思うけど」

「う、うん。気を付ける!」


 わたしがちっちゃくても、岩が大きかったら当たるかもしれないからね。


無事に上から降ってくる隕石もどきに当たることなく、わたし達は城門に着いた。


「どうやってオードム王国の城壁を越えるんだろう・・・って思ってたんだけど、こういうことね」


わたしはディルの頭に乗ってうんうんと納得する。


「前に見た時はこんな立派な城壁が無ければお父さんも気軽に戻ってこれるのにって思ったけど。・・・穴だらけじゃない」


ネリィが泣きそうな顔で穴だらけになった城門もどきを見つめる。


「大丈夫だよ、お姉ちゃん。お父さんは忙しくて戻ってこれないだけだよ」

「・・・そうね。きっとそうよ」


ネリィがリアンをギュッと抱きしめる。その光景に涙が出そうになった。


 2人ならきっと大丈夫だよ。・・・戦争はよくないよ。


「さて! 皆作戦は覚えてるっすか?」


ウィックが手をパンッと叩いて重たい空気を霧散させる。わたしもそのノリに乗っかることにした。


「モチのロン! 覚えてるよ!・・・覚えてるけど一応確認しようかな。覚えてるけど」

「忘れたんなら正直に言えよ~。ソニア」


ディルが揶揄うように言って、頭の上に乗ってるわたしを首を振ってユラユラと揺らす。


「いや、覚えてるよ」


 ・・・覚えてるよ?


「まず、大きく迂回してセイピア王国側の陣地近くまで行く。そこで土の魔石を使った目隠しの土の壁ををネリィに作って貰う。そこで俺とコルト、ソニアとネリィとリアンがそれぞれゴーレムの中に入る。ここでウィックは俺達と一旦別れて、単独で城門を越えて先にセイピア王国に侵入する」

「そして、セイピア王国の偉い人がゴーレム達を連れて城門を通る時に、上手いこと紛れ込むんだよね」


わたしが確認の為にそう言うと、皆が意外そうな目で見てくる。


「・・・って作戦覚えてるのかよ!」


ディルがブンッと頭を降って、わたしはディルの手のひらに落とされた。ぺしゃっと座ったまま、ディルを睨む。


「だからぁ、覚えてるって言ってるじゃん!」

「だったら、紛らわしい言い方するなよ!」


むぅと睨み合う。


「ほらほら、ツンケンしてないでさっさと行動開始するわよ!」


さっきまで辛そうな顔をしていたネリィが呆れ顔でそう言った。


 不本意な形だけど、少しでもネリィ達の気持ちが上向きになったのならよかった。・・・なったよね?


なるべく足音を立てないようにしながら、周囲を警戒しながら城壁を沿って戦場から離れていく。


「よしっ、これだけ離れれば大丈夫っす。そろそろセイピア王国の方へ向かうっすか」

「・・・そ、そうね。早く行くわよ」


ネリィが戦場のオードム王国の兵士が集まっているところをチラチラと不安そうに見ている。


「お姉ちゃん・・・」

「分かってるわよ。何でもないの」


2人から何やら深刻な雰囲気を感じたので、わたしはネリィの肩に乗ってそっと頬を指で突いて口を開く。


「ネリィ、何かあるなら言って? 抱え込んだらダメだよ?」

「ううん、これはあたし達姉弟の問題。ソニアちゃんには関係無いから・・・」

「そっか、分かった」


 誰にでも踏み入れて欲しくないことはあるからね。


「気を遣わせちゃってごめんね」


ネリィがぎこちない笑顔をわたしに向ける。


「・・・それで、ネリィ達姉弟の問題って何?」

「・・・へ!? ソニアちゃん、さっきと言ってることが違くない?」

「ん? 関係ないのは分かったけど、それはそれとして、わたしが気になるから! 友達がそんな表情してたら気になるのは普通でしょう?」


ネリィの顔の前に飛んで、ニッと笑う。ネリィとリアンが顔を見合ってフフッと笑った。


「気になってたのよ。お父さんのことが・・・」

「お父さんの・・・あっ」


 そっか、ネリィのお父さんは徴兵されたんだから、もしかしたらあそこの戦場にいるかもしれないんだよね。


「ごめんね。そのこと、まったく考えてなかった」


 もう少し気にしてあげた方が良かったかな。


「いいの。あたし達は皆に守られる立場だから、私情で皆を振り回すわけにはいかないもの。それに、お父さんのことは、もう・・・」


 ネリィが気持ちを切り替えるように頭をブンブンと振って、無理矢理作った笑顔をわたしに向ける。


「さ、早く行きましょ!」

「そうだね、行こっか」


 今は無理矢理にでも笑った方がいいのかもしれな。でも、それはそれてとして・・・


「ディル、ちょっと予定を変えてもいいかな?」


黙ってわたしとネリィの会話を聞いていたディルは、グッと親指を立ててニヤリと笑った。


「俺もちょうどあっちの方が気になってたんだ。いいよな? ウィック、コルト」

「俺はいいっすよ」

「僕も、ソニアさんが行くなら・・・どこへでも」


 うんうん、なら大丈夫だね。ちょっと危ないけど、戦場にネリィとリアンのお父さんを探しに行こう。!


「ちょっと! 何でそういう流れになってるのよ! あたしは反対よ! 皆が危ないじゃない!」

「ああ、それなら心配無いぞ」

「はい?」


ディルがニヤリと笑ってわたしを見る。


「ネリィとリアンが中に入るゴーレムはソニアが動かすんだ。ソニアが友達に怪我を負わせるわけないからな」

「うん! わたし、友達がひどい目に会うの大嫌い!」


腰に手を当ててプクーっと頬を膨らませる。ネリィはそんなわたしを見て、笑いを堪えるような、必死に真面目な顔を作ってるような、そんな顔をしている。


「それに、手の届く範囲に真実があるなら、手遅れになる前に確認した方がいいっすよ。・・・経験談っす」


ウィックが真面目な目でネリィとリアンを見る。


「・・・行くわ。あたしとリアンをあそこに、戦場に連れてって!」

「・・・僕も! 僕も・・・連れて行ってください!」


2人が決意の籠った瞳でわたしを見つめる。


 本人は真剣なんだろうけど、気合を入れて手をグッパーしてるリアンが可愛い。


「うん! 一緒に行こう!」


わたし達は来た道を引き返す。ゴーレムの中に入って。ウィックはここでお別れだ。先にセイピア王国に侵入して、わたし達を迎える手筈になっている。


「このプゥーって口から外を覗けるのはいいけど、視界が狭いわね。正面しか見えないし」


 (さん)の口ね・・・って言いたいんだけど、あいにくと、わたしは体を電気にしてゴーレムの鉄の部分に入ってるので、こちらからネリィとリアンに話しかけることは出来ない。せいぜい、ディルに一方的にテレパシーを送れるくらいだ。


わたしが動かすゴーレムの前を、コルトと一緒に中に入っているディルが動かすゴーレムが歩いている。


 あ、ディル! そろそろ兵士達が見えて来たよ!


ディルのゴーレムが右手を挙げる。了解の合図だ。ウィックに「あまり時間が掛かるとお互いに危ないっすからね」と言われてるので、じっくりと探し回るようなことは出来ない。


「ゴーレムがいるぞ!」

「本当だ!・・・何でこんなところに!?」


オードム王国の兵士達がわたし達に気付いた。ガッシャガッシャと重そうな鎧を鳴らして追いかけて来る。


「わぁ! 皆こっちくるわよ!」

「大丈夫だよ、お姉ちゃん。ソニアさんが守ってくれるよ」

「そ、そうね。ソニアちゃんが守ってくれる。あたしは信じてるわよ、友達を」


ゴーレムの中でネリィとリアンがそんな会話をしてるけど、わたしが守るまでもなく、前を歩いているディルのゴーレムが襲ってくる兵士達を優しく投げ飛ばしている。そう、優しく・・・。


「ただ歩いてるだけで兵士達が寄ってくるから、探す手間が省けるわね」

「お姉ちゃん・・・ちょっとは空気読もうよ。皆命懸けで戦ってるんだから・・・」


 ネリィって・・・リアンと二人きりだと声が少し低くなるんだね。そしてリアンは少しお喋りになってる気がする。


「ソニアちゃんを見習って、少し場を和ませようとしただけじゃない」

「あ~、ソニアさん。あんまり空気を読むの得意じゃないから・・・」

「そこがソニアちゃんの美点でしょ?」

「そうだね」


 わたしに聞こえてるの分かってないのかな? ・・・っと、それどころじゃないや、そろそろオードム王国とセイピア王国の戦線を通過するよ! ディル!


ディルのゴーレムが左手を挙げる。よく分からないっていう合図だ。


 あれ? もしかして、わたしが送ったテレパシーのどこかにディルの知らない単語でもあったかな? まさかね。


セイピア王国の兵士や騎士達が見えるようになって来た。同時に見たくもない景色がわたしの視界に入ってくる。血を流す人がたくさんいる。わたしは出来るだけディルのゴーレムだけを見て、前に進む。


「お姉ちゃん、大丈夫? 汗が凄いし、顔色も悪い気がするけど・・・」

「・・・だ、大丈夫よ。あたしがお父さんを探すから、リアンはじっとしててね」


 ダメだね、わたしは。ネリィが頑張ってこの酷い景色に向き合ってるのに、ネリィをここまで連れて来たわたしが目を逸らしちゃダメだ。


わたしは、覚悟を決めて、周囲に目を向ける。でも、そこにはわたしが思ってたような景色は無かった。


「なんだろう? 皆が上を見てるわ」


皆が見ている方向をわたしも見る。ネリィにも見えるようにゴーレムの首を動かして。


「岩が降ってくるわ! 町に落ちてるやつと同じやつよ!」

「え!? ここって戦場なんだよね? 町じゃないよね?」


オードム王国の兵士達がたくさん固まっているところに大きな岩が降ってきている。


 ど、どうする!? 雷で撃墜したいところなんだけど、ここでネリィ達の入っているゴーレムを放置して、わたしが飛び出すわけにも・・・もしかしたらあそこにネリィとリアンのお父さんがいる可能性だってあるのに!


「お姉ちゃん! 僕にも見せてよ! 岩は落ちて来たの!? どうなったの!?」

「もう、直ぐ近くまで来てるわ! ソ、ソニアちゃん! どうしたら・・・」


 ディル! ディル! 岩が降ってきてるの気付いてる!?


ディルのゴーレムがバッとわたしの方を振り返る。そして、上空を見て、ビクッと跳ねた。


 今気付いたんかい!!

読んでくださりありがとうございます。ディルはこっそりとゴーレムの中に干し肉を忍ばせています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ