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94.赤面コルトの新しい気持ち

「コルトはどこにいったんだ?」


ディルが難しい顔で首をひねる。すると、リアンが言い難そうに口を開いた。


「あの・・・コルトさん、兵士さん達に連れていかれたんじゃないですか? 三日後にまた来るって言ってましたよね?」


わたしはコルトの家に来た兵士の言葉を思い出す。


『三日後、また来ますんで、その時一個も武器が出来てなければ、今度こそ強制的に連行します』


「・・・今日って何日目だっけ?」


 わたしの中では今日で三日目だった気がするんだけど・・・。


「えっと、俺が城に忍び込んで一日目、戦場からゴーレムを持って来て二日目、ゴーレムの加工と歩く練習で三日目・・・今日で四日目だな」


サーっと血の気が引いた。


「「過ぎてるじゃん!」」

「「過ぎてる!!」」


皆の声が重なった。


「どうして皆して気付かなかったの!?」


 わたしも含めて、この場の全員が三日目が過ぎてることに気が付かなかったなんて・・・おかしすぎるよ!


さっきのディルのように首をひねるわたしに、皆が申し訳なさそうに手を挙げて話していく。


「悪い、ゴーレムの歩く練習で夢中になってた」

「俺はそもそも数えてなかったっす」

「あたしも・・・三日ってこと自体頭になかったわ」

「すみません、僕は気付いてたんですけど、計画に変更があったんだとばかり・・・言うべきでした」


 最年少のリアンしか気付いてなかったのか・・・皆してマヌケだったね・・・。


「リアンは悪くないよ。わたし達がマヌケだったんだよ」


 わたし達がポンコツだったのはあとで反省するとして、それよりも今は行動しないとっ! のんびりしてる場合じゃない!


「わたし、コルトのことお城の人に聞いてくる!」


 兵士に連れていかれたんなら、兵士に聞けばいい!


ビュンと飛び上がる。コツンと天井にぶつかった。


「い、いたい~・・・」


 そうだった。家の中だから普通に天井あるよね。


「ソニア!」


ディルがわたしを掴もうとするのをスッ躱す。


 いつでも簡単にディルに掴まれるわけじゃないんだから!


「ディルは待ってて!」

「アホ! 待つわけないだろ! 俺も一緒に行く!」


ビュンっと煙突から飛び出してお城に向かって飛ぶ。ディルが建物の屋根から屋根へと飛び移ってわたしについて来ているのが視界の端に見える。


 待っててって言ったのに!


お城の入口の近くで止まったわたしに、ディルが追いついた。


「兵士が立ってるな、どうやって侵入する? ソニア」


ディルが物陰からこっそり様子を伺いながら、堂々と道のど真ん中で浮いているわたしに「見つかるだろ」と手招きする。


「侵入? 何言ってるの。普通に入ればいいんだよ」


 別に攻撃を仕掛けに来たわけじゃないんだから、ただお話をしに来ただけ。普通に入って普通にコルトのことを聞けばいいんだよ。


「は? そんな簡単に入れるわけないだろ・・・ってソニア!」


わたしは何食わぬ顔で見張りの兵士の前に出る。そしてペコリと軽くお辞儀してお城に入っていく。


「どうも、おじゃましまーす」

「え!? は・・・え? ど、どうも?」


兵士が戸惑ってる間にお城に入る。


「さてと、コルトのこと誰に聞こうかな?」


  ・・・あれ? こんなところに下に続く階段がある。地下なんてあるんだ。


前に来た時は見当たらなかった。ただ見てなかっただけかもしれないけど、なんとなく気になったので、その階段の先に進んでみる。


 ・・・なーんか嫌な場所。


そこは地下牢だった。頑丈な鉄格子がズラリと並んでいて、手前には見張りの兵士が立っていた。


 うわっ、兵士がいる!


わたしは慌てて天井にベッタリとくっ付いた。そしてそのまま天井すれすれを飛んで地下牢の奥へと進む。牢には誰もいない。誰もいないのに、あの兵士は何を見張ってるんだろうか。


 ここが行き止まりかな?


行き止まりまで行くと、なんだか他の牢とは違う、分厚い扉があった。この扉は土ではなく鉄で出来てるみたいだ。


 ふふん、土じゃないなら電気になって通れるね!


分厚い扉をパチパチっと通り抜ける。


「え!? ソニアさん?」

「あ! コルトだ!」


足に鎖を繋がれた状態のコルトが部屋の隅で体育座りして、わたしを見上げて目を真ん丸にしている。周囲にはコルトの家にあった鍛冶道具っぽい物があり、竈のような物もある。


 これが缶詰めってやつか・・・ひどい。


「もしかして、武器を作るまで出られないとか言われてるの?」

「その通りですけど・・・」


 あの王様! やっぱり嫌い! ディルを戦争に行かせるとかほざくし! コルトに酷いことするし!


「えっと・・・ソニアさんがどうしてここに? もしかしてソニアさんも捕まっちゃったんですか?」

「違うよ! コルトを探しに自分から来たんだよ! 捕まったと違う!」

「え・・・?」


 ブンブンと首を振るわたしを、コルトが信じられないようなものを見るような目で見上げて来る。わたしはコルトの近くまで飛んで、首を傾げながら口を開く。


「何を意外そうな顔してるの? さっさとここを脱出して皆のところに行くよ!」

「いやだって、僕はもうゴーレムの加工で皆さんの為にやれることはやりましたし、用済みになったんじゃ?」

「はい?」


 何を言いだすの? そんなわけないじゃん。


「期限の三日を過ぎても迎えに来なかったので・・・そういうことかと」


 あ~、コルトは三日経ってることに気づいてたんだね。そりゃそうだ。わたし達が馬鹿なだけだ。・・・にしても、気付いてたんなら教えてくれたら良かったのに。その日会ってたよね?


「ごめんね。それはわたし達が三日経ってることに気が付いてなかっただけなの。本当に馬鹿でごめんなさい」


ペコリと頭を下げる。


「え・・・いやいや! それは気にしなくていいんですけど・・・」

「っていうことだからさっさと脱出しちゃおう!」


わたしがコルトのゴツゴツとした指を両手で握ってそう言うと、コルトがフルフルと頭を横に振って俯く。


「どうしたの? どこか怪我した?」

「怪我はしてないです。でも、僕は行きません。さっきも言いましたけど、僕は用済みなんです。ソニアさん達と一緒に行っても何の役にも立てないですよ。むしろ、足手まといになっちゃいます」


そう言って力なく項垂れるコルトの膝に乗って、顔を見上げる。今にも泣きそうなコルトの顔が見えた。その表情には見覚えがある。三年前、わたしが攫われたあと「俺なんて」と悔しがっていたディルと同じ表情だ。


「あのね、コルト。わたしは役に立って欲しいから連れていくわけじゃないの。コルトに一緒に来て欲しいから連れていくの。それに、コルトは何の役にも立てないって言ったけど、それはコルトがわたし達の役に立ちたいと思ってるからこそ出て来た言葉だよね?」

「・・・」


コルトは無言で頷く。


「その気持ちがあるなら、コルトならセイピア王国でもきっと役に立ってくれる! わたしはそう思うよ。そう思うわたしを信じて一緒に来てよ!ゴーレムの加工を真剣にしてるコルトの横顔、仕事をしてる男の顔って感じでかっこよかったから、また見たいな。・・・ね?」


ニコリと笑ってコルトの顔を覗き込むと、顔を真っ赤にして、目を丸くしてわたしの目を見つめている。


 へへへっ・・・さすがにちょっと恥ずかしいセリフ言っちゃったかな?


「ソ、ソニアさん!」


コルトが裏返った声でわたしを呼ぶ。急な大声に背筋が伸びる。


「な、なに?」

「僕・・・僕も一緒に行きたいです。必ずソニアさんの役に立つので連れていってください!」

「わたしの話、聞いてた? コルトが何を言っても連れてくよ!」


 ・・・でも、わたしだけじゃなくて皆の役にも立ってほしいかな?


わたしの小さな手を、コルトが意外とゴツゴツとした指でつまむ。


「あの・・・ソニアさん。もしセイピア王国でソニアさんの役に立てたら・・・」

「ソニアーー!! どこだーー!?」


コルトが何かを言い終える前に、上の方からディルの叫び声が聞こえて来た。


 何か既視感があるような・・・。


「そろそろ出ないとディルが兵士達に取り押さえられちゃうね。行こっか」


 ま、今のディルがそんな簡単に取り押さえられるとは思えないけど。


「でも、どうやって? そこの扉は鍵が掛かってますよ。妖精のソニアさんとは違って僕は人間なので通れませんよ?」

「ちょっと待っててね。鍵探してくる!」


扉を通り抜けて、さっきの牢の前で見張っていた兵士のところに行くが、見当たらない。


「ソニアー! どこだー!! なんだお前ら!? どけよー!」


階段の上からディルの声が聞こえる。


 もしかして、ディルの方に行ったのかな?


わたしもディルの声がする方へ向かう。階段を飛んで上がると、わりと近くにディルがいた。兵士達に取り囲まれている。妙なのが、兵士達が武器を持たずにディルと一定の距離を保ったまま睨み合っている。


 どうして武器を構えないのか知らないけど、ディルが危険な目に会わないなら何でもいいや。


「あ、ソニア! 良かった、無事だったんだな」


この張り詰めた雰囲気をぶち壊すような明るい声と表情でブンブンとわたしに手を振る。


「ディル、これどういう状況?」

「それが、こいつら、俺を取り押さえるでも攻撃するでもなくずっと一定の距離で囲んでくるんだよ。一体何がしたいんだ!? 逆にこわいよ」


『あの子に・・・ディルにそんなことさせたら、わたしがこの国を滅ぼしてやる!』


 あ、わたしが王様にあんなこと言ったから、兵士達もディルに手を出せないでいるんだ! あの時のわたしナイス!


「あ、そこの兵士さん!」


自画自賛しながらも兵士達を観察してたら、牢の前で見張りをしていた腰にジャラジャラと鍵を付けた兵士を見つけた。


「ディル! この鍵束を持ってついてきて!」

「お、おう!」


見張りの兵士の腰の周りを飛びながら言う。わたしが自分で運びたいけど、こんなジャラジャラとした重そうな鍵束を持てる気がしない。兵士が「おっおっ?」と変な声を出して戸惑ってるけど、気にしない。


「・・・あ! 鍵が! 君、待ちなさい!」


ディルが素早く兵士の鍵束を奪って、地下牢に向かうわたしについて来て、その後ろを兵士達がぞろぞろと追いかけて来る。


「こないでよ!!」


わたしがそう叫ぶと兵士達がビクッと跳ねて立ち止まった。そしてわたしのことをチラチラと見ながら渋々と解散していく。


 あの兵士達はいったい何がしたかったんだろうね?


ディルを連れてコルトが閉じ込められている分厚い鉄の扉の前まで飛ぶ。


「ここ! この扉を開けて!」

「おう!・・・ってどの鍵だよ!?」


たくさんある鍵の中から手当たり次第に試してみるけど、扉の鍵穴と全然合わない。


「早く! 早く!」

「せ、急かすなよ! もう・・・開けよ!」


ガコン!!


ディルが力強くドアノブを持って押したり引いたりすると、鍵が掛かったままなのに扉が開いた。明らかにドアノブが壊れてる。


 鍵、必要なかったね。


「よしっ、開いたな!・・・うわっ、コルト! こんなとこにいたのか!」


 そういえば中にコルトがいること伝えてなかったね。でも普通に考えれば分かるよね?


「ディル! コルトの足枷を!」

「今開けるから! 顔を叩くな! 距離が近い!」


コルトがディルから鍵束を受け取って、素早く自分の足枷を外す。


「ありがとうソニアさん、ディル」

「どういたしまして! さ、早く行こっ」


走る2人を連れて、城の出口に向かう。


「ソニア様」


出口付近で見覚えのある人物がわたしに声を掛けた。


「王様!」


 解散した兵士達が報告したのかな? ・・・そりゃするよね。


「ソニア様、コルトを何処へ連れていくおつもりですか?」


感情を頑張って隠しているような声で王様は言った。頬に汗が流れてるのが見える。


「どこだっていいでしょ? コルトはあなた達の道具じゃないんだから!」

「ソニア様は・・・ソニア様はセイピア王国の味方をするんですか?」


王様が険しい顔で、拳を震わせながらわたしを見る。


「ううん、違うよ。わたしはどちらの国の味方でもないよ。・・・ただ、どっちの国の敵でもないからね。決してこの国の不利になるようなことはしないよ。わたしは戦争の被害者を減らしたいのと、ディルの両親の手掛かりを探したいだけだから」

「ディルの両親?」


王様がディルを見て首を傾げる。


「そ、この子の両親。心当たり無い? 黒髪黒目の男と茶髪緑目の女の人」

「・・・申し訳ありません」

「心当たりが無いならいいや、行こ? ディル、コルト」


わたしがそう言うと、王様はすっと横に避けてくれた。


「通してくれるんだ?」

「コルトが武器を作らないなら、ここに閉じ込めている必要もないです。ご自由に連れていってください。ソニア様に逆らって国が滅ぶよりはずっといいですから」


王様がどこか諦めたような顔をして、踵を返して去っていった。わたし達もお城から出てネリィ達が待つコルトの家に向かう。


「なんだかとんでもない大物が最後に出て来たけど、これでコルトはオードム王国から出なくても大丈夫になったな!」


ディルが「ふう」と額の汗を拭いながら言う。コルトが「どういうこと?」とわたしとディルを交互に見る。


「だって、王様の言いようだと、もうコルトを徴兵したり牢屋に入れたりなんてしないだろ。やけにソニアを怖がってたしな」


 言われてみれば・・・確かにそうだね。コルトは無理してまでわたし達についてくる必要はない。


「ソニアさん、僕は行きますよ。連れていってください。ソニアさんの役に立ちたいんです」


コルトが「置いて行かないでください」と懇願するようにわたしを見る。


「いいの? 危ないと思うよ?」

「いいんです。ソニアさんの為ならそのくらいの危険、なんともありませんよ」

「・・・コルトってそんなんだったか?」


ディルが不可解な物をみるような目でコルトを見ている。


 行きたいと頼まれたんなら、断る理由は無いよね。


「改めて、よろしくね。コルト」

「はい!」

読んでくださりありがとうございます。コルトの新しい気持ちってなんでしょうね?(すっとぼけ)

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