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93.プゥー、コンコン

「かーんせーい!」


皆で汗だくになりながら鍛冶場で作業を続けること数時間、やっとゴーレムの加工が終わった。汗をかかないはずの妖精のわたしも、何故か汗をダラダラと流している。


 呼吸や食事が必要ないのに出来たり、汗をかかないはずなのに汗をかいたり、我ながら不思議な体だね。


「もう昼過ぎかー・・・腹減った~」


インナー姿になったディルが、軽く汗を拭いて床に寝転がって服の間から見えるお腹を力なく擦る。


「まだ昼過ぎなんだよ。僕一人だともっと時間がかかったと思う・・・まさかこんなに早く終わるなんて思ってなかった。やっぱり人手が増えると全然違うなぁ。ありがとう皆」


そう言ってコルトがわたし達に軽く頭を下げた。


 そもそもわたし達がお願いしたことなんだけどね。それに・・・


「わたしはディルの応援してただけだよ・・・」


 むしろディルの気を逸らしまくってたんじゃないかと思う。・・・何度も目が合ったもん。


「ふふっ、小さい手を一生懸命に振って応援しているソニアさんは可愛かったわよ。・・・ね? ディル」

「え、うん、凄く可愛かった。あれがあれば何でもできる気がする」


ディルが寝転がったまま少し顔を赤くしてグッと親指を立てる。


「もう・・・大袈裟だよ」

「あ、ソニアさんの羽がパタパタしてる!」

「う、うるさいっ!」


 ディルが真面目な顔であんなこと言うからだよ! いつもなら茶化すような感じで言うのに、たまにこうやって真面目な顔で言うんだから!


「ディルは将来女の子を泣かせそうだね!」

「は!? なんでそうなるんだよ!」


 わたしがディルと同じ歳の人間だったら勘違いしてたかもしれないんだから! そういう所、気を付けてもらわないと!



わたし達がゴーレムを小さくして鍛冶場から出ると、居間でマイクとジェイクが椅子にもたれかかって寝ていた。


「あ、終わったっすか? 船長! ジェイク! 起きてくださいっす」


唯一起きていたウィックがマイクとジェイクをバシバシと叩いて起こす。


「んあ? やっと終わったか? ・・・じゃあ行こうぜ」

「ああ、姉御。ごめんなさい寝てました」


マイクとジェイクがノロノロと動き出す。


「先に帰ってても良かったのに・・・どうして待ってたの? 退屈だったでしょ?」

「いや、明日のことで伝えたいことがあってな。姉御達、明日向こうの国へ出発するんだろ?」

「うん」


 その為にゴーレムを超特急で加工してたんだしね。


「ジェイクも向こうの国に連れていってくれ」

「船長!?」


わたし達だけじゃなく、ジェイクも驚いてるとこを見ると本人も聞かされていなかったみたいだ。


「こいつ、船の中でうるさいんだよ。ネリィちゃん達が心配だ~ってな。・・・だから連れていってくれないか? 俺達の中では頭の切れる方だし、色々と器用な奴だからな。足手まといにはならないと思うぞ」


 え、それってもしかして・・・。


「ネリィちゃんが心配って・・・もしかして、ジェイクってネリィのこと好きなんじゃ・・・」

「違いますよ! 俺はただ心配してるだけです!」


ジェイクが慌てて大声で否定する。そして真剣な眼差しでネリィとリアンを見て口を開く。


「その・・・俺には姉がいたんです」

「いた?」


 いる、じゃなくて?


「俺が子どもの頃に戦争で亡くなりました。俺を庇って・・・」

「そう・・・だったんだ」


 なんか、いきなり重たい話ぶっこんで来たよ・・・。


「だから、ネリィちゃんとリアン君を見てると昔の自分達と重ねてしまうんです。だから、決して恋愛感情とかじゃないです」

「あ、うん。それが伝えたかったんだね。分かったよ」


 わたしが変なこと口走っちゃったせいだね。


「俺達がいた国は戦争で家族を失った人達がたくさんいるからな。孤児が多いんだ。俺達海賊団はジェイクを含めてほぼ全員が戦争孤児なんだ」


その言葉にリアンが不安そうにネリィを見る。ネリィはそっと視線を落とした。


「すいません。暗い話しちゃいましたね」

「ううん。・・・でも、ゴーレムは二体しかないしどうやって連れていこうか? 今からもう一体なんて間に合わないよ?」


 ディルとコルトのところは物理的に入らないし、ネリィとリアンの方は頑張れば入れるかもしれないけど、ネリィが嫌がりそう。


「そうですね・・・・・・向こうに着いたら、ウィックに小さくしたゴーレムを持たせて戻らせてください。それを使って俺もセイピア王国に侵入します」

「うへぇ、マジっすか。相変わらず人使いが荒いっすね~」


コルトに「明日の朝迎えに行くね!」と伝えて、わたし達はぞろぞろとコルトの家を出る。マイクとジェイクは海賊船に、わたし達はネリィ宅へと戻った。


「さて、明日まで歩く練習だな! ゴーレムで!」

「うん! 一緒に頑張ろう!」

「「おー!!」


わたしの手とディルの指でパシッとハイタッチする。


ネリィ宅で昼食を挟んだあと、わたしとディルは建物の裏の空きスペースでゴーレムを動かす練習だ。ディルはゴーレムの中に入って、わたしも体を電気にしてディルとは違う形でゴーレムの中に入って、2人でグルグルと歩き回る。マヌケな顔のゴーレムがひたすらに無言で回ってるんだから、事情の知らない人が見たら、さぞ可笑しな光景だろう。


「どう? わたしのゴーレム君、ディルから見て違和感なく動けてた?」

「動けてた。俺はどうだった?」

「たぶん大丈夫だよ」


 まぁ、戦場のゴーレムがどんな動きしてるか分からないから、ディルの動きが正しいのかも分からないんだけどね。


「ディルにソニアさん、もうすぐ夕飯よー!」


ネリィが軽く伸びをしながらやって来た。ゴーレムから出て休憩しているわたし達を見て「もう練習は終わったの?」と問いかける。


「もう自分の体のように動かせるようになったぞ!」

「ヘースゴイスゴイ」


ネリィがまったく興味なさそうにディルを褒めたあと、わたしが頭に座っているゴーレムを見て不安そうに口を開く。


「・・・これにあたしとリアンも入るのよね? ディルは普通に動き回ってたみたいだけど、中から外の様子見えるの?」

「見えるらしいよ!このプゥーって口から」

「プゥー?」

「うん。(さん)の口ね」


ネリィは「分からないわね」と言いながらゴーレムの背中をガコンと開けて、恐る恐る中に入る。


「わぁ! ちゃんと座る所が2人分あるし、毛皮が意外とふかふかで気持ちいいわね!ちょっと狭いけどこれなら大丈夫そうね。プゥーって口から外も覗けるし!」

(さん)の口ね」


ネリィが満足そうな顔でゴーレムの中から出て来た。ディルが「お腹が空いて動けない」と言いながら、凄い速さで階段を登ってネリィ宅に帰っていく。わたしとネリィはその様子を呆れ気味に見ながらゆっくりと帰る。


階段を登ってる最中に、ネリィが「あたしの頭の上にも乗っていいのよ?」と言ってきたので、わたしは暫くの間ネリィの頭の上でポニーテールを背もたれにして寛ぐことにした。


 背もたれはいいけど・・・なんていうか安定感がないね。やっぱりディルの頭が一番落ち着く気がする。


夕飯を食べ、皆で明日のセイピア王国行きについて詳細を話し合ったあと、明日に備えて早めに就寝する。


「明日は早いからな、夜更かししないで早く寝ろよ。・・・特にソニア」


ずっとネリィのポニーテールにもたれ掛かって寛いでいたわたしに、ディルがビシッと指を差す。


「子供じゃないんだから・・・そんなこと言われなくても大丈夫だよ」

「いやいや、まだ子供だろ。・・・そういえば、よく考えてみれば妖精ってかなり長生きだから、8歳でも人間の8歳とは違うんじゃないか? 妖精の中ではまだ赤ちゃんくらいなんじゃ・・・」

「そんなわけないでしょ! 何処にこんな大きな赤ちゃんがいるのさ!」


 どうやったらわたしが赤ちゃんに見えるんですかあ!?


ネリィの頭から降りてディルの目の前でふんぞり返ってみた。


「大きなって・・・ソニア・・・」


ディルがジトーっと怪しむようにわたしを見てくる。その隣でネリィとリアンが驚いた顔をしている。


 あっ、やば! そういえば前にネリィ達に質問攻めにあった時に年齢を聞かれて、わたし「ネリィよりは歳上だよ」って答えたんだった!


「ソニアさん、まだ8歳だったの!? だって前に・・・」

「わあああああ!! 明日は早いんだからもう寝よう! ね!? ほら早く!」


わたしが大声を出してディルの指を両手で持って引っ張ろうとすると、仕方なさそうな顔で「はいはい」と言って、襟を摘ままれてネリィの頭の上に乗せられた。そしてディルは寝室の扉を開ける。


「じゃ、おやすみソニア」

「うん。おやすみディル」


手を振って明日の朝までのお別れの挨拶をするわたしとディルの間に、空気の読めない人間が割って入って来た。


「姉御! 俺は姉御を子供だとは思ってないっすから! だって胸が子供のサイズじゃ・・・いっ、いだだだだ! ディル! 耳を引っ張らないでくださいっす!」


 自業自得だよ。ナイスディル。


バタンと勢い良く閉められた寝室のドアから回れ右して、わたしは自分用の寝袋に入り、ネリィとリアンもそれぞれの布団に入って横になる。


「ソニアちゃん、明日はよろしくね。おやすみなさい」

「よろしくお願いします。ソニアさん。おやすみなさい」

「うん、おやすみ」


 ・・・ん? ソニア()()()?!



「あ、おはようございます。ソニアさん」


 何故いつもわたしが最後に起きるんだろう? そして、起きたらわたしの横に毎回リアンがいるのは何でだろう?


「お、ソニア起きたか。おはよう」

「おはようディル」


リアンの頭上からディルの顔がひょっこりと現れた。わたしが挨拶するとニッと笑う。これもいつものことだ。


「お、姉御が起きたっすか? じゃあ、出発っすね」

「え? わたし寝起きなんだけど?」


 寝起きでいきなり戦場なんてどんなモーニングルーティーンなの。わたしは兵士でも戦闘狂でもない。


「ソニアが起きるの遅いんだよ。もうギリギリだぞ」

「いやいや、起こしてよ!」

「いやだって・・・」


ディルがもじもじと顔を逸らした。ネリィがそんなディルを揶揄うように口を開く。


「ディルったら、ソニアちゃんを起こしてって頼んだのに、ずーっとソニアちゃんの・・・」

「気持ちよさそうに寝てたからもう少し寝かせてやろうって! そう思ってただけだ!」

「本当にぃ?」


ネリィが腰に手を当ててディルをジロリと睨む。


「はぁ、もう何でもいいから早く支度してくれよ」

「じゃあ、ソニアちゃん。こっちにおいで」

「うん」


ネリィが自分の膝をポンポンと叩くので、そこに移動して座る。


 ネリィってわたしに対してこんな態度だったっけ? いや、別にいいんだけどね?


髪をネリィとお揃いのポニーテールに結んで貰って、わたし達はネリィ宅を出る。ディルとウィックが邪魔にならない程度の小さめのバックを背負って、ネリィとリアンが小さくしたゴーレムを一体ずつ持っている。


「ふぁ~~ぁ」

「おっきな欠伸だな。ソニア」


ディルの横でフラフラと飛びながら欠伸をしたわたしに、ディルがニヤリと微笑みかける。


「だってまだ日が出たばっかりじゃん。普通に眠いよ~」

「って言っても睡眠時間はいつもと変わらないだろ?」

「起きる時間帯が問題なの!」


 人間だった頃もこんな早い時間に起きることはそんなに無かったもん!


「妖精も意外と人間っぽいんすね~」

「妖精でも人間でも変わらない所は変わらないんだよ!」


そんなどうでもいい会話をしながら、天井があるせいでまだ薄暗い道を進むこと数分、コルトの家に着いた。


「コンコン!」

「それ、口で言う人初めて見たっすよ」

「人じゃないからね」

「そうっすね。口で言う妖精は初めて見たっす」


ディルがわたしとウィックのやり取りを横目で見ながら扉をコンコンとノックする。


「コルトー・・・コルトー!」

「・・・・・・寝てるのかな?」


 コルトだってきっといつもは寝てる時間だもんね。


「ねぇ、誰かコルトに朝早くに迎えに行くこと伝えたの?」


ネリィが一歩引いた位置から少し呆れ気味に言う。


「迎えに行くことは伝えたよ。明日迎えに行くねって・・・」

「でも、時間までは伝えてないな」

「決まったのはコルトと別れたあとっすからね」


わたし達の間に沈黙が流れる。


「・・・仕方ない。勝手に入るか」

「入るかって・・・鍵掛かってるんじゃ・・・」


ガチャリ


ディルが物は試しとドアノブを捻ると、普通に開いた。


「不用心っすね~」

「あたしの家も鍵なんて掛けてないわよ?」

「「え!?」」


ネリィが「何を驚いてるのよ」と呆れ顔で理由を説明してくれる。


「だって町がこんな状態だもの。鍵なんて意味ないわよ」

「でも、コルトは有名な鍛冶師っすよね? 泥棒とかに狙われたりするんじゃないっすか?」

「・・・海賊が何言ってんのよ」


皆で手分けして家の中を探し回る。けど、コルトの姿はどこにも見当たらない。トイレにもいなかった。


「ソニア、コルトがいない」

「姉御、どこにもいないっす」


 寝てるのかなぁ、とか吞気な事言ってる場合じゃないかもしれない。

読んでくださりありがとうございます。ネリィは植木鉢の下に鍵を隠しておくタイプです。

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