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91.大きなお土産(人型)

ネリィの部屋を出て、3人で建物の階段を降りる。一階に近付くにつれてガツン!ガツン!という何かをぶつけたような音が聞こえてくる。


「何の音だろう?」

「さぁ、分かんないけど、どうせディル達じゃないの? ってゆーか、あいつらしかいないでしょ」

「確かに」


足早に一階まで降りると、ディルとウィックがゴーレムらしきものを建物の中に運び込もうとしていた。ディルが建物の中でゴーレムの頭を引っ張って、ウィックが外から足を押している。でも、ゴーレムの肩幅がありすぎて絶対に入らないのがわたしには分かる。


ガツン! ガツン! ガツン!


「ちょいちょい! ディル!絶対入らないよソレ!」

「やめて! 建物が壊れちゃうわ!」


ネリィがディルの肩をバシバシと叩き、わたしがディルの頭をパシパシと叩く。


「お、ソニア! 見てくれよコレ! ゴーレムだってよ! 凄いだろ!」


ここ最近で一番の笑顔でそう言った。


「いやいや、そうじゃなくて! 明らかに入らないでしょ! よく見て!」

「いやいや、頑張れば入るって!」

「「入らない!!」」


わたしとネリィの声が重なった。ディルが一瞬目を丸くして驚いたあと、仕方なさそうに息を吐いてゴーレムを引っ張るのを止める。


「とりあえず、建物の裏にちょっとしたスペースがあるからそこに運んでちょうだい。・・・ほら早く!」

「・・・はーい」

「・・・っす~」


渋々といった感じで、ディル達はゴーレムを裏に運ぶ。わたしはディルの頭に乗って、ネリィは普通に後ろをついていく。


 それにしてもこのゴーレム、変な顔してるな~。


塀にゴーレムをもたれかからせて、その横にディルとウィックを座らせて、ネリィが「建物は大事にしましょう」というようなことを説教している。心なしかゴーレムもしょんぼりしている気がする。


「で? どうしてゴーレムを持って来たの?」


わたしはゴーレムをコンコンと拳の裏で叩きながらディルとウィックを交互に見下ろす。鉄で出来たゴーレムで成人男性くらいの大きさだけど、この地域の人達は背が小さいので、戦場だとかなり目立ちそうだ。腕はディル1人分くらいの太さがある。これで殴られたら痛そうどころじゃない。そして、一番気になるのが顔だ。口が「3」の形をしていて、全然強そうに見えないし、むしろマヌケに見える。


「ディルの足が思いのほか速かったんで、予定よりも早くに城門の調査が終わったっす」

「それで戦場で珍しい魔物ががいたから、俺とウィックで色々と実験してたんだ」

「へぇ~・・・ずいぶんと余裕があったんだね」


 わたしはディルが戦場で怪我しちゃうんじゃって心配してたのに・・・本当に、心配損だよ!


わたしがツーンと顔を逸らすと、ディルに頬っぺたを突かれた。


 むぅ・・・。


「・・・んで? 実験して何が分かったのさ?」

「まずは、昨日言った通り魔石が無いこと、それから頭と胴体を切り離せば動かなくなること、そして中身がスカスカなことっす」


ウィックが指を折りながら教えてくれる。わたしはもう一度ゴーレムを見た。


「頭と胴体、くっついてるけど?」


 切り離せば動けなくなるってことは、切り離さないと動き続けるってことだよね?


「これは例外なんだ。俺が思いっ切り殴ったら何故か動かなくなった。理由は分かんないけど」


 ・・・確かに後頭部に凹んでるところがあるけど、大丈夫なの?


「いきなり動いたりしないよね?」

「しないっす。・・・しないっす」


 なんで二回言った?


わたし達の間に微妙な沈黙が流れる。


「・・・にしても何で持って来たのよ。邪魔じゃない」


ネリィがボソッと呟いた。


「別にいいじゃんか!持って来て色々と試したかったんだよ!」


ディルが我儘を言う子供みたいにゴーレムをバンバンと叩きながら必死に主張する。


「すでに試したんじゃないの? さっきそんなようなこと言ってたじゃない」


 確かに、戦場で色々と実験したって言ってたよね?


「あそこでは出来なかったことをやりたいんだよ!」

「もうっ、はっきりしないわね! 何がしたいのよ!」

「このゴーレムの中に入るんだ!」


ディルが頬を膨らませてネリィを睨む。


 あ、その顔ちょっと可愛い。


「ソニアは何でそんなマヌケな顔してるんだよ・・・可愛いけど」


またディルに頬を突かれた。


「ねぇディル。今は遊んでる場合じゃないんだよ? 分かってる?」

「それくらい分かってるよ・・・っていうかソニアに言われたくない」


 わたしは別に遊んでませんけど?


「ねぇ、ちょっと。あたし達もいるんですけど? 二人だけの世界に入らないでちょうだい」

「そうっすよ。こんなところでイチャイチャしてないで、さっさと帰って飯にするっす」


ネリィとウィックに呆れたような目で見られた。ディルと顔を見合わせて、「デヘヘ」と笑ったら何故かバッと顔を逸らされた。


「俺も腹減ったし、続きは夕飯を食べながら話すか」


ディルはちょっと早口でそう言って、わたしに顔を見せず背を向けたまま先を歩き出す。ネリィがそんなディルの脇腹を揶揄うように小突いた。


 なんか、わたしの知らないところでディルとネリィが仲良くなってる・・・?


皆でネリィの部屋に戻って夕飯を食べる。今日はカレーだ。ちなみに昨日もカレーだった。たぶん明日もカレーだ。わたしは中途半端な時間にお菓子を食べたせいで満腹なので、何も食べない。


「まず、正攻法で城壁を突破するのは無理そうだった」


ディルが昨日よりも少し水っぽくなったカレーをスプーンですくいながら言う。


「正確には俺とディルだけなら余裕なんすけど、ネリィ姉弟とコルトには無理っす。姉御は・・・まぁ、飛べるんで関係ないっす」


 仲間外れにされた気分だけど、実際にこの場でわたしだけ人間じゃないししょうがないか。


「アンタとディルだけなら余裕って・・・どうやって行くつもりなのよ?」


ネリィが昨日よりも具の少なくなったカレーをスプーンですくいながらウィックを見る。


「そんなの簡単っす。自力で城壁を登るっす」

「無理ね」

「無理です」


ネリィとリアンがフルフルと首を振る。見事に動きがシンクロしている。


 確かに、わたしは飛べるからね。登るとかもうそういう問題じゃない。


「まぁ、そんなわけで、どうしたものかと暫くウィックと2人で陰から城門の様子を見てたんだけど、そしたら偉そうな騎士の人が戦場にいた傷だらけのゴーレム達を呼び戻して、そのままぞろぞろとゴーレムを引き連れて城門から中に入っていったんだ」

「なるほど・・・」


 偉そうな騎士がマヌケな顔のゴーレムを何体も後ろに連れてるんだ・・・その場で見たら笑っちゃいそう。


「んで、戦場から戻ってる最中にディルがゴーレムの中に入れたら簡単にセイピア王国に入れるんじゃないかって閃いたっす」

「ああ、閃いたんだ」


ディルが得意気な顔で、テーブルの上でダラダラと寝転がっているわたしを見てくる。


「ほえぇ~・・・それって中に入って動かせるの?」

「それを確かめるために持って来たんだよ」


適当に返事したら凄く残念そうな顔をされた。


 それにしてもショートパンツはいいね。なんも気にしないでダラダラ出来る。もしスカートだったらこんな態勢出来ないもん。


皆が夕飯を食べ終わったので、もう一度建物の裏に置いてあるゴーレムの所へ行く。


「で? どっからどうやってゴーレムの中に入るのよ?」

「それは考えてあるっすよ」


ウィックは徐にしゃがみ込むと、ゴーレムの大きな足の裏を持っている短刀の一つで切り始めた。


 これ鉄だよね? そんな林檎の皮を剝くみたいに簡単に切れる物なの?


「こっから入るっす。足の裏なら穴が開いてても気付かれないっすからね」


ウィックが自分の肩幅あるかどうかkらいの穴の開いたゴーレムの足の裏を指差す。


「ウィックが入るにはちょっと狭くない? わたしは余裕だけど・・・」


その穴に入ったり出たりしながらウィックに問いかける。


「入るのは俺じゃないっすから大丈夫っす。俺は城壁をこっそり登って侵入するっす。だから入るのは、コルトと君ら姉弟、それから操縦役のディルっすね」

「え!? 嫌よ! リアンはともかく、こんな狭い空間で男と一緒なんて絶対に嫌!」


ネリィがゴーレムとディルを交互にビシビシと指差しながら必死に訴えている。


「俺は何もしないぞ!」

「そうだよ! ディルをそんな獣みたいに言わないで!」


 ディルはまだ子供なんだから! 純粋なの!


わたしの言葉にディルがコクコクと頷く。


「まぁ、ディルがソニアさん以外に何かするとは思えないけど・・・とにかく! あたしの沽券に関わるの!」


ディルが「ぶっふぅ!」と吹き出した。


「ディルはわたしにも何かしたりなんてしないよ!」


 たとえディルじゃなくても、こんなちっちゃい妖精のわたしに何かしたりなんてないよ!


「いや、ディルはソニアさんのこと・・・」

「もういいから! 一緒に乗らなきゃいいんだろ!? もう一個ゴーレム持ってくるから! そっち乗れよ!」


何か言いかけたネリィとわたしの間にディルが慌てて入った。


「真面目な話、あたしもリアンもこんな重そうなゴーレムを動かすなんて無理だと思うのよね」


 そりゃそうだ。ディルとウィックの2人がかりでここまで運んできたくらいだもん。女の子のネリィも可愛い男の子のリアンも絶対に動かせるような重さじゃないよ。


「そうだ! ソニアさんなら妖精の不思議な力とかであたしとリアンが入ったゴーレムを動かせないの?」

「わたし?」

「いや、ソニアにそんな力無いだろ? ・・・あるのか?」


皆が「どうなんだ?」とわたしを見てくる。


 どうだろう? ゴーレムは鉄で出来てるし、うまいこと電気で動かせないかな?


わたしはゴーレムの凹んだ頭部に触れて、とりあえずビリリッと電気を流してみる。


「ん・・・あれ?」

「どうしたんだ? ソニア」


 なんか不自然に電気が通りやすい所がある。なんというか・・・回路のような線がゴーレムの体中に張り巡らされている感じだ。まるでゴーレムの神経みたいに。


 ・・・よしっ、この神経にわたしの電気を流せば・・・!


「いける! いけそうだよ!」

「え!? 動かせるのか!?」

「さすがソニアさんね!」


 右手を上げる、右手を上げる・・・。


わたしがそう考えながら電気を流すと、ゴーレムの右手がゆっくりと動き始めた。


「動いたよ!」

「動いたわ!」

「うわっ、本当に動いた!」


ゴーレムが右手を上げて、キラキラ笑顔のリアンに手を振る。・・・元気に振り返してくれた。可愛い。


「うん、ちょっと練習すれば普通に動かせそう!」

「じゃあ、あたしとリアンはソニアさんが動かすゴーレムに入るわね」


ネリィが「よかったわ」と安堵の息を吐く。


「じゃあ、もう一体持ってこないとっすよね。ディルは中に入って動かせそうっすか?」

「入ってみる」


ディルがゴーレムの足の裏からもぞもぞと入っていく。


 そんなにお尻を振っちゃって・・・なんかシュールな絵面だなぁ。


ディルが中に入ったゴーレムを、ウィックがコンコンと叩いて口を開く。


「どうっすか? 動かせるっすか?」

「んっ・・・と!」


ギギギと音が鳴りそうなくらいぎこちない動きで、ゴーレムが立ち上がった。


「闇の魔石を使えば動かせる・・・けど、かなり態勢がキツイぞ。特に股が」


 ・・・股か。


「あ~・・・ディルは手足が短いもんね!」

「違う! 身長が足りないだけだ!」


ゴーレムがガコンと勢いよく座り込み、足の裏からディルが出て来る。


「もっと入りやすくした方がいいんじゃないの? あたし、こんなみっともない格好したくないわ」


お尻からもっそもっそと這い出てくるディルをネリィが冷ややかな目で見ながら言う。


「まぁ、入口はともかく、何かしら手を加えた方がいいかもしれないな。このままじゃ違和感なく歩くなんて絶対に無理だぞ」

「手を加えるって言ったって・・・ウィック、そういうの出来る仲間いないの?」


ダメもとで聞いてみる。


「うーん、ジェイクは手先が器用っすけど、流石に鉄を加工したりは無理っすね」


 だよね~、裁縫とかとは訳が違うもんね~。鉄を加工なんて鍛冶師でもないと・・・。


「あっ、コルトならどうにか出来るんじゃない?」


ポンッと手を叩いて皆を見回す。


「あ~、確かに! 鍛冶師だもんな、武器を作るわけじゃないし、頼んでみてもいいかもな!」

「よしっ、じゃあ今から行こう!」


そう言ってある方向を指差す。コルトの家がそっちにあるのか分からないけど、ノリで。


「今から!? もう夕方を過ぎる時間だぞ! 明日でいいだろ? どうせ、もう一体ゴーレムを持ってこなきゃいけないんだから・・・」

「駄目だよ! コルトが徴兵されるまで時間が無いんだから! コルトだってそれを分かってるからきっと快く協力してくれるよ!」


「ね?」と軽くウィンクする。ディルが「うっ」と言葉に詰まった。


「姉御の言う通りっすね。もう一体のゴーレムは明日、俺が船長とジェイクと一緒に早めに捕獲しに行ってくるっすから、そっちはそっちでお願いっす」

「そっち? ・・・あぁ、俺はゴーレムで歩く練習か」

「っす」


ディルがゴーレムをお姫様抱っこしてコルトの家に向かう。リアンが眠そうにしてたので、ネリィはリアンを連れて帰って行った。ウィックも一応護衛としてネリィ達についていく。久々にディルと二人きりだ。


「今度は引きずらないんだね?」

「え?」


わたしがディルの肩に座ってそう問いかけたら、すぐ近くにあるディルの顔が固まった。


「こっちに来る時、ゴーレムを引きずって運んで来たでしょう? 窓から見えたの」

「ああ、自分がこの中に入るんだと思うと、ちょっと愛着が湧いて・・・」

 

 人型だし、顔があると尚更だよね。愛着が湧いちゃったのなら乱暴には扱えないよね。


「それにしても、こんな大きいゴーレムをよく運んでこれたね。かなり目立ったんじゃない?」

「いいや、戦場から町の中まで投げ飛ばして、帰りに探して持って来たんだ」

「投げ飛ばしたの!? めっちゃ力持ち!」

「え、そ、そうか? ふふん! ウィックにグルグル回って勢いをつけて放り投げるといいってアドバイス貰ったんだ!」


わたしに頭の中で、ディルがゴーレムをハンマー投げのように投げ飛ばす姿が浮かぶ。


「見てみたかったな」

「機会があればな」


天井があるせいで、まだ夕方なのにすっかり暗くなった道を、ディルの隣を羽をキラキラと輝かせながら飛んで進んでいく。


読んでくださりありがとうございます。(-з-)←ゴーレム君

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