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90.報告会

寝袋の中でもぞもぞと動く。


うーん・・・羽が寝袋の中でクシャクシャになっちゃう。


「・・・・・・・れよ」

「わか・・わ、・・・・・ね」


誰かの話声が聞こえる。でもまだ眠い。わたしは寝袋の中に潜って意識を沈めた。



「・・・ふにゃあ」

「あ、ソニアさん!おはようございます。・・・お姉ちゃん! ソニアさん起きたよ!」


んん~~! ぐっすり寝たー! 途中で起きちゃった気がするけど、久しぶりに気持ち良く寝られたよ。揺れないって最高!


「おはようソニアさん。気持ち良さそうに寝てたわね。もうお昼過ぎよ?」


ネリィがクスクスと笑いながら居間の方からやってくる。


 そっか、昨日は遅くまで起きてたからね。お城で王様に対してだいぶ失礼なことを口走っちゃったけど、後悔はしてないよ。


「あれ? ディル達は?」


家の中を見渡すけど、ネリィとリアンしか見当たらない。


「もう出発しちゃったわよ。・・・あ、そうそう。ディルから伝言を預かってるの」


ネリィが「髪を結びながら話すわ」と小指で器用にわたしの髪を梳いてくれる。


「俺達が戻ってくるまでここで大人しくしてろ、ソニアは暇だと何をするか分からないからな・・・だって、ディルはソニアさんを何だと思ってるのかしらね!」


 うっ・・・実際に昨日の夜抜け出しちゃったし、反論できない。しょうがない、今日は大人しくしてよっと。


「あたしとリアンはソニアさんの遊び相手を任されたわ」

「そ、そうなんだ。よろしくね?」


 遊び相手って・・・わたしは幼子じゃないよ!


「ふふっ、あたし達も暇だからソニアさんが一緒にいてくれると嬉しいわ」


そう言ったあと、「はい完成、可愛い!」とネわたしの頭をポンポンと指で叩いた。わたしの寝袋をクシャクシャに畳んでいたら、ネリィ達がわたし達がいた村のことを聞きたいと言ったので、村に居た頃のことを面白おかしく話してあげた。



「戻ったぞー」

「ただいまっす~」


窓から見える景色が一層暗くなってきた頃、そんな呑気な声と共に情報収集の為に城に忍び込んでいたディルとウィックが帰ってきた。ネリィが用意していた料理を出して少し早めの夕食を食べながら報告会だ。ディルがわたしのことをじーっと見つめてくるのがこわい。


 もしかして、昨日の夜ひと騒ぎ起こしちゃったこと、バレた? 絶対バレてるよね? すんごい見てくる。


わたしがディルの様子を窺ってビクビクしながら、わたしの前に置かれたドラゴンフルーツみたいな果物をはむっと食べていると、ディルが夕飯のカレーっぽいもの一口食べて「ハァ」と小さく溜息を吐いた。


「ちょっと! ソニアさん怯えてるじゃない! 何をさっきから剣吞な雰囲気を作ってるのよ!」


ネリィがバシッとディルの頭を叩く。


「しょ、しょうがないだろ! 城で自分の耳を疑う様なことを聞いたんだ。・・・ソニア、怒らないから正直に答えてくれ。昨日の夜、何をしてたんだ?」


ディルが優しい声を作ってわたしに問いかける。まるで不倫がバレたみたいだ。不倫どころか結婚もしたこともないけど。


「本当に怒らない?」

「怒らない」


ディルがそう言ってくれたので、渋々話す。


「実は・・・」


わたしは昨日の夜のことを説明する。コルトのことが心配でこっそりと抜け出したこと、その帰りで兵士に追いかけ回されて、お城に入っちゃったこと、そして王様からの取引を断ったことを。


「コルトのとこにも行ってたのかよ・・・」


ディルが頭を抱えてわたしを睨む。


「お、怒らないって言ったよね!?」

「怒ってない。呆れてるだけだ」


 それはそれで嫌だよ!


「うぅ・・・ディ、ディルはお城で何をしてたの?」

「俺達は・・・そうだな、順を追って説明するか」

「城に侵入したのはディルだけなんで、俺からはたいした説明は出来ないっすけど」


ウィックが「説明は任せたっす」とディルを見る。


「え? ディルだけで? ウィックは何をしてたの?」


サボってたの? という意思を込めてウィックを見る。


「俺もちゃんと働いてたっすよ。城の外で向こうの国に行く方法を探してたっす。俺が城に侵入するには身長が高すぎるっすからね」

「身長?」


 確かに高身長だけど、そんな目立つほどではないと思うけど・・・。


「この地域の人間は皆身長が低いからな。ウィックが兵士に扮して侵入しようとすると、身長が高すぎてすぐにバレるんだよ」


ディルが教えてくれた。


 そういえば、そうだったね。ディルならこの地域の成人くらいの身長だから違和感が無いのか。まだ子供だもんね。・・・そんな拗ねたような顔しなくてもきっとすぐに身長伸びるよ!


わたしがネリィとディルを見比べてながら感心していると、ネリィに「あたしは背が高いほうよ」と顔を逸らされた。


「ディルには顔に泥を塗って、見回りの兵士から拝借した甲冑を着て貰ったっす」

「拝借って・・・危ないことしてないよね?」

「ソニアには言われたくないんけど、少し眠って貰ってるだけだ。ちゃんと帰りには返してきたぞ」

「そ、そっか、それなら大丈夫だね・・・?」


 大丈夫だよね!?


「それからお城で兵士のフリして、城内で働いてる人達から色んな話を聞いたんだ。とりあえず、ソニアのことは置いといて、この国の現状から説明するな」


ディルがお城で得た情報によると、戦争のきっかけはオードム王国だったらしい。訓練に行った騎士団が、向こうの国・・・セイピア王国に手を出したとか。それもセイピア王国の言いがかりである可能性が高いそうだ。


「今は兵士達でなんとか防衛してるけど、長続きはしないらしい」

「え? 負けそうなの?」

「負けそうって訳じゃないんだけど・・・」


ディルがチラリとウィックを見る。


「そっからは俺が話すっす。この目で見てきたっすからね」

「見てきた? もしかして・・・」

「そうっす。戦場までひとっ走りっす」


 そんなコンビニ感覚で・・・・。でもそっか。ディルはお城に、ウィックは戦場に行ってたんだね。


「セイピア王国の兵士達にゴーレムが紛れてたっす。戦闘力はそこまでっすけど、人間と違ってゴーレムは疲弊しないっすからね。今は苦戦してなくても、長引けば敗北は免れないっす」


 それでか! 昨日の王様がやけに必死だったわけだよ。


「でも、どうして魔物が人間の味方をしてるのよ。魔物にそんな知性があるなんて聞いたことないわよ?」


 そうなんだ。わたしはそういう魔物もいるんだなって思ったけど、ネリィの言いようだとわたしが非常識だったみたいだ。


「それが、魔物じゃないんすよ。倒しても魔石が出てこなくて・・・」

「ああ、妖精の仕業らしいな」


ディルが「城で聞いたぞ」と言う。


 妖精?


「え? わたし何もしてないよ?」

「違う違う、ソニアとは別の妖精がセイピア王国に協力してるっていう噂があったんだ」

「なるほど、だったら上空から降ってくる巨大な岩も説明がつくわね」


 この地域の妖精って言うと、土の妖精だよね? ミドリちゃんからは、土の妖精は大人しい性格だって聞いてるけど・・・別の妖精なのかな?


「そんな状況だからソニアのことが救世主にでも見えたんだろうな。・・・メイド達がお城で飛び回る妖精の話をしていたのを聞いた時の衝撃といったら・・・」

「ちょっと、怒らないって言ったよね!?」

「怒らないけど、小言くらい言わせてくれよ」

「ダメ!」


ディルは仕方なさそうに肩をすくめたあと、気持ちを切り替えるように首を振った。


「なんにしても、向こうの国に行かなきゃ得られる情報はこれが限界・・・だよな?」


ディルがそう言ってウィックを見ると、ウィックも「そうっすね」と同意する。


「じゃあ、どうするのよ? これからセイピア王国に行くって言うの? どうやって?」

「ウィックがそれを調べてたんでしょ? 何かいい方法ある?」


わたしはテーブルの上でだらしなく寝転がりながらウィックを見上げる。


「向こうの城門までは夜中なら簡単に行けそうなんすけどね。申し訳ないっすけど明日もう一度向こうまで行って調べたいっす」

「わかった! ・・・もし三日以内に見つからなかったら、一回コルトを連れて海賊船に戻ろう!」

「保険があるのは助かるっす。精神的に」


ウィックは「船長にも報告してくるっす」と海賊船に向かっていった。


「なぁ、ソニア。明日俺もウィックに同行しようと思うんだけど・・・」

「ダメだよ! ウィックは戦場を越えてセイピア王国の城門まで行くつもりなんだよ? 危ないよ!」


バッと起き上がってディルの指を両手で握ってフルフルと首を振る。ディルはそんなわたしを見下ろして「フッ」と笑った。


「さすが、夜中に勝手に町中を駆けまわったソニアが言うと説得力が違うな」

「うぐぅ・・・だってぇ~」


 痛いとこを突いてこないでよ~。


「俺のことを心配してくれるのは嬉しいけど、ソニアはちょっと過保護すぎるぞ。というか俺の方が歳上だぞ!」

「か、過保護・・・」


 まさかそれをディルに言われるなんて・・・!


「そうですよ、ソニアさん。男は修羅場を乗り越えて成長するんです。兄貴に行かせてあげてください」


リアンが可愛らしい顔からは想像できないことを言った。わたしだけじゃなく、ネリィも驚いた顔でリアンを見ている。


「・・・もうっ! 分かったよ! 行ってもいいから絶対に無事に戻って来てね!」


パシパシとディルのおっきな指を叩く。


「おう! ・・・それと、俺はソニアと釣り合うくらいの男になりたいんだ。それまではたくさん心配かけると思うけど、見守ってくれよな」

「釣り合うって・・・友達同士でそんなもの無いと思うけど・・・」

「そう・・・かもな」


ディルは照れくさそうに頭を搔いたあと、そそくさと寝室に入っていった。


「ソニアさんって鈍感よね?」

「え?」

「ううん、何でもないわ」


翌日、わたしは早起きして、建物の入口でディルとウィックを見送る。


「気をつけてね、ディル。自分から戦場に突っ込んで行ったら駄目だからね。危ないと思ったらすぐに逃げるんだよ? それから、ウィックの言うことをちゃんと聞いて・・・」

「ちょ・・・ストップ!ソニアは俺の何なんだ! 分かったからいい加減服の袖を放してくれ!」


ディルは「先は長いな」と意味不明なことを言って、ウィックと一緒に戦地へと向かっていった。ネリィがその背中を見て、口を開いたり閉じたりしている。


「どうしたの?」

「あ、いや、ううん。何でもないの」


部屋に戻り、ネリィとリアンと一緒に大人しく留守番する。ディルからネリィとリアンを守ってくれ、と言われたので、ネリィ達から目を離すわけにはいかない。


「2人はわたしが守るからね」

「可愛らしい護衛ね!」


ネリィに微笑ましい感じで言われたけど、何と言われようとも今日のわたしは立派な護衛だ。



「ソニアさん、起きてください! 兄貴達が戻って来ますよ!」

「ふぁ!? ・・・ね、寝てた!」

「ふふっ、お菓子を食べたらぐっすり寝ちゃってたわよ。可愛い護衛さん?」


 うぅ・・・、今絶対顔が赤くなってるよぉ。


窓の外を見ると既に夕暮れ時だった。ディルとウィックが歩いてこちらに向かって来ているのが見下ろせる。ディルが何か大きなものを引きずっているのが遠目から見える。


 なんだろう、あれ? 人っぽい形だけど・・・。まさか、死体とかじゃないよね!?


「2人とも! 出迎えに行こう!」


そう言ってわたしはリアンのポニーテールをグイグイと引っ張った。


 怪我とかしてないよね!?

読んでくださりありがとうございます。お互いがお互いを心配しているソニアとディルを、微笑ましそうに見守るネリィでした。

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