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87.今後の話し合い

ジイダムがガチャリと玄関扉を開ける。わたしから顔は見えないけど、重そうな甲冑みたいなのを着た男性が外に立っている。


 なんだろう? 兵士さんかな?


「ああ、ジイダムさん。良かった。ちゃんと居ますね。兵士長がもうしびれを切らしてますんで・・・」

「分かってる。準備は出来てる」


ジイダムはそのまま家を出ようとする。それをコルトが名残惜しそうに追い掛けた。


「あ、兄貴・・・」

「コルト、うまくやれよ。達者でな」


そう言ってジイダムは玄関から外に出て行く。そのジイダムと入れ替わるように兵士が家の中に一歩入って来て、コルトを見て口を開く。


「コルトさん、いい加減に武器を作ってくれないと戦地に連れて行かなきゃいけません。三日後にまた来ますんで、その時一つも武器が出来てなければ、今度こそ強制的に連行します」


それだけ言って、兵士は家を出ようとした・・・ところでバッと勢いよく振り返ってわたしを見た。


「よ、妖精!?」

「何さ?」


 何か文句でもあるの?


わたしが腕を組んで精一杯の怖い顔で睨むと、「いえ・・・」と何度もわたしをチラチラと見ながら去っていった。


 勝ったね!わたしの勝ちだ!


「ソニア、目をつけられたんじゃないのか?」


ディルがツンツンとわたしの頬を突いてくる。そして何故かネリィも反対の頬をぷにぷにと突いてくる。


「妖精なんてお目にかかれるものじゃないからね。確実に偉い人に知らせると思うわよ。それに、ソニアさんはとっても可愛いから」


 どちらかと言うと珍獣を見たような目だった気がするけど・・・。


「わたしのことはいいから、コルトはどうするのさ? 三日後まで武器を作らなきゃいけないんでしょ?」

「でも僕は・・・」


 作りたくない気持ちは分かるけど、このままじゃ何も解決しないもん。何か行動しないとっ。


「まぁ、コルトにもゆっくり考える時間が必要だろ。俺達はもう行こうぜ」

「待って、せめて食器くらいは片付けてから行くわ」


ネリィとディルで食器を片付けたあと、わたし達は暗い表情で俯くコルトに「また来るね」と声を掛けて家を出た。


「もうマイク達との集合時間のお昼は過ぎてるな、早く戻らないと」


ネリィ宅に戻ると、既に玄関の前で海賊三人組が待っていた。まるでコンビニ前で居座っている怖い人達みたいだ。人間だった頃のわたしなら確実に関わらないようにしてた。


「遅かったっすね。なんか進展があったっすか?」

「進展っていうか、知り合いに会ったんだ。ウィック達はどうだったんだ?」

「こっちは・・・」

「ちょっと! こんな所で立ち話しないでよ!」


狭い通路で話し始め男達をネリィがゲシゲシと蹴って家の中に押し込む。


 強い女の子だ。


家の中で思い思いに寛ぎ始めた男達がさっきの話の続きをし始める。わたしはお茶の用意をしにいったネリィとリアンについて行ってお手伝いをしながら聞き耳を立てる。


「俺達の方は収穫無しっすね」

「おいおいウィック、収穫無しではないだろ。魔石を買い取ってくれる店が無かったっていう収穫があっただろ」

「付け加えるなら、普通の食べ物などを売ってる店は品数は少ないながらもあったけど、オードム王国名物の武器屋は全部閉まってた、って感じですかね」


ウィック、マイク、ジェイクが相手に補足する感じで説明してくれた。わたしはタプタプに注がれた熱いお茶を慎重に運ぶリアンの手に軽くわたしの手を添えながら会話に参加する。


「まぁ、武器に関しては全部戦争で持ってかれてるんだろうね。コルトが国から急かされる訳だよ」

「コルト? コルトってあの魔剣打ちの鍛冶師っすか?」

「え、知ってるの? ・・・っていうか魔剣ってなに?」


 カッコイイからわたしも使ってみたいんだけど、無理だろうなぁ。サイズ的に。


「ああ、魔剣を持ってる奴でコルトと言う名を知らん奴はいないくらいだ。魔剣ってのは、簡単に言うと魔石を組み込める剣だ。ほら、ここに来る途中で俺が使ってただろ?」


 あ~! あの凄いビームが出たやつね。あのあとマイクは動けなくなってたけど。


「魔気が通りやすい素材で作ってるんで、魔石との相性が良くて扱いやすいらしいっすよ。まぁ、闇の適性しかない俺にはあんまり関係無い話っすけど」


ネリィが「丁度いいサイズがなくて・・・」とわたしの前にお茶の入ったコップを出してくれる。仕方ないので猫のようにペロッと舐めた。皆の視線が恥ずかしいけど、こうしないと飲めない。


「猫ちゃんみたいで可愛い・・・! あ、ごめんなさい、飲みにくいわよね」

「気を使ってくれてありがとね。このままでいいよ。こんなにたくさんは飲めないけど」


わたしが「ふぅ」とテーブルの上に腰を下ろすと、ディルがジイダムとコルトのことを海賊三人組に説明した。


「いいなぁ、俺も肉を食べたかったっす!」

「あのコルトが武器を作らなくなったのか・・・。あわよくば剣の一本でも作ってもらおうと思ってたんだがなぁ」

「それにしても、戦力にならなそうなコルトさんを戦地に連れて行こうとするなんて何を考えてるんでしょうね?」


 本当にね! この国の偉い人に喝を入れてやりたいよ。


「・・・戦力にはならなくても、戦力になる奴の盾にはなるんだろ。要は死にに行けってことだな。この調子だと、そのうち女子供まで駆り出されそうだ」

「ちょっと! リアンの前でそんな話しないでくれる!?」


ネリィがリアンの両耳を塞いでマイクを睨む。突然耳を塞がれたリアンはビクッと驚いたあと、そっと耳を塞いだ手を退けてネリィを見上げる。


「お姉ちゃん、僕は大丈夫だよ。・・・今までこうやって僕のことを辛い現実から守ってくれてたんでしょう? でも僕はお姉ちゃんと支え合っていきたいよ。姉弟なんだから」

「リアン・・・」


 本当にいい子だぁ。ディルにもこういう可愛げが欲しいものだ。最近は思春期なのか変なところで意地を張るし、妙に大人ぶった態度をとるから・・・少しは見習いなよ。ディル?


ディルを睨んでみたけど、意図が伝わるはずもなく、首を傾げるだけだ。


「コルトのことも気になるけど、それよりも俺は、ソニアが兵士に目を付けられたことの方が心配だ。今の話を聞いた感じだと、妖精のソニアは戦力が足りない現状に運よく転がり込んできた貴重な戦力みたいじゃん」

「わたしって戦力になるかなぁ?」


首を傾げるわたしに、皆が肩を竦めた。


 ・・・ならないよね?


「・・・そういえば、ハッキリとは聞いてなかったが、姉御はこの戦争をどうするつもりなんだ?」

「どうするって?」

 

 基本わたしは何も考えて無いけど・・・。


「妖精の姉御なら、こんな小規模な戦争なんて力押しで終わらせられるだろ? ・・・あ、もちろん戦争を軽く見てるわけじゃないが、姉御なら何の犠牲も厭わなければ、どっちかの国を亡ぼすなり、兵士達を皆殺しにするなりで、終わらせられるだろ。姉御にはそれだけの力があるのを俺達は見てきた」


マイクの言葉にウィックとジェイク以外の皆がゴクリと唾を吞んでわたしを見る。


 いやいやいや・・・。


「・・・こわいよ! そんな恐ろしいことしないし!」

「じゃあ、ソニアはこの戦争を放っておくのか?」

「ううん、それもしたくない! 出来れば・・・うん、穏便に戦争を終わらせたい! 犠牲無しで!」


わたしがグッと拳を握って宣言すると、不安そうに見ていたネリィ達がホッと肩の力を抜いたのが分かった。


 うん! 今までなんだか心がモヤモヤしてたけど、自分のしたいことを言葉にして出したら視界が晴れた気がするよ!


「よしっ、分かった! じゃあ俺達ツルツル海賊団は、その姉御に全力で協力しよう! 異論は無いな? お前ら?」

「おうっす!」

「もちろんですよ!」


海賊三人組がニヤッと笑って拳を突き合わせる。突然のツルツル海賊団呼びにネリィとリアンが吹き出して、ディルがやる気に満ちた顔でわたしを見る。心なしか・・・ううん、確実に雰囲気が明るくなった。


「まずは情報だな。情報が足りない。この国の詳細な現状と、相手の国の現状、それから、戦争の原因だ。この3つは知っておきたいな」

「そうだね!あと、コルトも何とかしてあげたい!」


 あの俯いた暗い表情を明るくしてやるんだから!


ディルが「ふんす」と鼻息荒く気合を入れるわたしを微笑ましそうに見ながら、同じように気合を入れて口を開く。


「そうだな! でもまずは、この国がソニアに対してどういう対応をするのかを知っておきたいな」

「それと、向こうの国に行く手段も考えないといけないっすね」

「ネリィちゃんとリアン君のことも忘れないでくださいね」


話し合いの結果。兵士がコルトを向かいに来る三日後、もしくは三日以内にコルトとネリィ達を連れて向こうの国に移動することになった。それまでにオードム王国の現状と向こうの国に行く手段を、諜報活動が得意らしいウィックと諜報活動を教えて貰うためにディルが情報を集める。


わたしは国が妖精に対してどのような対応をとるか分かるまで目立たないように、そして、ネリィとリアンの護衛も兼ねて引き籠ってるようにと、ディルに心配そうに言われた。マイクとジェイクは海賊船に戻って進展があるまで待機だ。


「本当にディルも一緒に行って大丈夫なの? お城に忍び込むんでしょ?」


 ディルはわたしの心配をしてるみたいだけど、わたしはディルの方が心配だよ。


「大丈夫っすよ。闇の適性があるなら、こういうことも出来たほうがいいっすからね。ディルと姉御の今後のためっすよ」

「俺よりも、ソニアの方こそ大丈夫か?」

「わたしは大丈夫だよ! ちゃんとネリィとリアンはわたしが守るから! 安心してね! ネリィ!」


グッと親指を立てて微笑みかける。


「うん、ソニアさんと一緒なら安心だし嬉しいわ」

「よろしくお願いします。ソニアさん」


マイクとジェイクが「何かあったら呼んでくれ」と言い残して、海賊船に戻っていった。


 ガタイが良いのが居なくなると、急に部屋が広くなった気がするね。


ウィックがディルに何やら諜報活動に関しての心得みたいなのを教えているのを横目に、わたしはネリィとリアンに本棚にある絵本を見せて貰う。絵本は妖精に関するものや、男の子が好きそうな騎士や勇者が活躍する物語がほとんどだった。


 女の子は妖精に、男の子は騎士や勇者に憧れてる感じなのかな? どれもこれもハッピーエンドなのがとてもわたし好みだね。・・・まぁ、子供向けの絵本でバッドエンドなわけないんだけど。


ウィックとディルは今日は打ち合わせだけにして、実際に動き始めるのは明日からにしたらしい。途中で食糧の買い出しに向かったあと、夕食を食べて寝る準備を始めている。


「ディルは寝相が悪いんだから、わたし達とは違う部屋で寝てね」


 同じ部屋だとネリィとリアンが潰されかねないからね。


「・・・分かってるよ。でも、ウィックも相当寝相が悪いぞ?」

「そうっすね。よく仲間達から、お前はそのうち寝ている間に他人を殺しそうだって言われるっす」

「・・・最悪だわ。2人はそこの部屋で寝てちょうだい。今は倉庫代わりに使ってるけど、元はお母さんと・・・お父さんの寝室だから」


ネリィが少し寂し気にそう言った。


「・・・俺達が使っていいのか?」

「気を遣わないで、あたし達はこの家を捨てて国を逃げるつもりだったんだから。それくらい何とも思わないわよ」

「僕も、僕達を助けてくれた兄貴さん達を硬い床で寝させるくらいなら、そっちの方がいいです」


 リアンが良い子すぎる。わたしの弟にしたい。


「じゃあ、有難く使わせてもらうな。・・・それと兄貴さんじゃなくて・・・もう、いいや」


ディルはガシガシとリアンの頭を撫でる。わたしも撫でたい。


「じゃあ、あたし達も寝るからアンタ達もさっさと部屋に入ってよ」

「はいはい・・・。おやすみソニア」

「うん。おやすみディル」


ディルとウィックを別の部屋に追いやったあと、わたしはネリィの枕横に自分用の小さな布団を敷いて、髪を解いたあと、のっそりと横になる。髪を結んでも跡が付かない自分の髪の毛に感謝だ。


「「おやすみなさい」」


ネリィとリアンが寝息を立て始めたのを確認したわたしは、こっそりとネリィ宅から抜け出した。

読んでくださりありがとうございます。これからの目標が定まって元気が出たソニアと、改めて妖精の恐ろしさを知るものの、変わらずに接してくれるネリィ達でした。

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