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86.二流冒険者と一流鍛冶師

「おう! 坊主じゃねぇか! 無事だったんだな!海賊船にいるとこを見た時はもうダメかと思ったぜ!」


ディルと同じくらいの背格好で褐色肌の茶髪の男性、ブルーメの武の大会でディルと戦った相手だ。 


 前に見た時と違って髭が生えてるのが気になる。ブルーメでディルと戦ってた時は生えてなかったよね? 髭ってそんなすぐに生えて伸びるんだぁ。


そんなことを考えながらディルの横で浮きながらジーっとジイダムを見つめていたら、ジイダムが居心地悪そうにわたしのことチラチラと見たあと、「オードム王国に来ちまったんだな」と申し訳なさそうに言う。


「すまんな、俺もまさか戦争がここまで激化するとは思ってなかったんだ。俺がブルーメに出発した時はちょっとした小競合い程度だったんだがな・・・」


 小競り合いはしてたんだね・・・。


行き先を勧めるくらいなら状況くらい教えてよ、と思った心のちっちゃいわたしと違って、ディルは寛大だった。


「いや、それに関しては俺達も戦争中なのが分かっててオードム王国に来たからな、別に気にしなくていいぞ。それより、ジイダムさんは大丈夫なのか? ほとんどの人は兵士に連れて行かれたって聞いたけど・・・」

「ああ、俺も近々戦地に向かわなきゃならん」

「え?」


 そんな免許の更新行かなきゃみたいなノリで・・・?


「国に到着した途端に兵士に声を掛けられたんだ。無理矢理連れていかれそうなところを何とか交渉して数日待って貰ってたんだよ。代わりに金が底をついちまったがな」


 それって賄賂的渡してるんだよね? まぁ、お金で平和な時間を買ったと思えばいいのかな? どうだろう?


「ここじゃなんだし、近くに俺の自宅があるんだ。寄ってってくれよ。焼いた肉くらいなら出せるぜ」

「肉!? やった!」


ディルが大きくガッツポーズをして感動に打ち震えている。もうすぐ戦地に向かわなきゃいけないのに、他人を自宅に招く余裕のあるジイダムは普通に凄いと思う。


 わたしだったらもう枕をびしょびしょに濡らしてるね。


ジイダムに先導されて町中を歩く。前でディルがジイダムにブルーメからここまでの経緯を話している後ろを、ネリィとリアンが不安そうについてくる。わたしが「大丈夫だよ。良い人だよ」とウィンクすると、安心したように笑った。


「ここだ。入ってくれ」


ジイダムの家は立派な一軒家だった。大きな煙突が目立つ二階建ての家だ。中に入ると、部屋がいくつもあって、一つだけ分厚い扉がある。何の部屋か聞いてみたら鍜治場だと言われた。


「ほぇ・・・立派な家ね。ジイダムさん、だっけ? 何の仕事をしてるの?」


ネリィが「あたしもこんなところに住んでみたいわ」とジイダムを羨ましそうに見る。


「俺はしがない二流冒険者だ。弟が腕のある鍛冶師なんだ」


ジイダムがわたし達に座り心地のよさそうな椅子を勧めながら教えてくれた。わたしはそこには座らず、テーブルの上にちょこんと座った。


 ・・・え? というか今なんて言った? 冒険者って言った! この世界に冒険者がいるなんて知らなかったよ!


わたしは降ろしたばかりの腰を上げて、ジイダムの手をペシペシと叩く。ジイダムが目を丸くしてわたしを見下ろす。


「ねね! 冒険者って言ったよね!? 普段は何をしてるの? どうやってなるの!?」

「うおっ、坊主の妖精か・・・冒険者は普段、魔物を退治したり、一般人が立ち入りにくい危険なところで採取をしたり、住民からの依頼を受けたり・・・階級によって差はあるが、大体こんな感じだな」

「階級なんてあるの?」

「三流、二流、一流の三段階で・・・って妖精に言って分かるのか?」

「分かる!分かる! ディル! 冒険者になろうよ!」


わたしが目をキラキラとさせながらディルの顔面にずいっと近づくと、「近い!」と言って手で押しのけられた。


「何でソニアはそんなにテンションが高いんだよ」


 だって、冒険者って言ったらね? 異世界にしかない職業と言えば、のナンバーワンじゃん!


「冒険者なら身近にいただろ? 何を今更・・・」

「え? いたっけ?」


 思い出そうとするけど思い出せない。本当にいた? もしかしてわたしが知らないだけ?


「デンガだよ。師匠も冒険者だろ?」

「そうなの!? 知らなかった~」


 まさかデンガが冒険者だったなんて・・・。わたしにはそんなこと一言も言って無かったよ。


「あ~・・・、地域によって呼び方が変わるらしいからな。だからデンガは自分が冒険者とは言って無かったかもな。グリューン王国付近では傭兵、ブルーメでは魔物退治なんて呼ばれてたぞ」

「そういえば、そんな感じのこと言ってたような気がする。ディルは冒険者にならないの?」


ディルの顔に張り付く勢いで近付くと、「だから近いって!」と手で離される。


「俺は冒険者になるつもりはないぞ。特になりたい理由も無いし」

「そっかぁ・・・」


わたしがしゅんと萎れてテーブルの上に落ちると、ディルが気遣わし気にわたしをそっと持ち上げた。


「ソニアは俺に冒険者になって欲しいのか?」

「だって、冒険者ってなんかカッコイイじゃん」

「カ、カッコイイか? そうか・・・」


ディルが真剣な顔で考え込み始めたのを視界の端に留めながら、わたしは珍しそうにわたしを見下ろすジイダムに問いかける。


「そういえば、弟さんも家に居るの?」

「あ、ああ。いるが・・・」

「じゃあ・・・」


「紹介してよ!」と言う前に、トントンと誰かが階段を降りてくる足音が聞こえてきた。ジイダムは顔を顰めながら二階の方へ視線をやった。


「兄貴・・・誰かいるの?」


階段から降りて来たのは、顔つきはジイダムに似ているが、なんとなく雰囲気がジイダムより柔らかい感じがする男性だった。髭は生えてない。ジイダムが「コルト」と呟いた。弟さんの名前だろうか。


「もしかしてジイダムの弟?」

「うわぁ!? 妖精!?」


ジイダムが尻餅を着く男性とわたしの間に入って紹介してくれる。


「はぁ・・・弟のコルトだ」


ペコリと頭を下げるコルトに、ネリィとリアンもジイダムとコルトに軽く自己紹介をした。お互いの自己紹介が終わったところで、ネリィが興奮気味に口を開く。


「コルトって・・・あのコルト!? 本物!?」

「ネリィはコルトのこと知ってるの? もしかして有名な人?」

「知ってるも何も、このオードム王国で一番の鍛冶師じゃない! つまり、世界一の鍛冶師よ!」

「え!? そうなのか!? すげー! 俺、防具と武器を作りにオードム王国に来たんだ! よかったら・・・」

「嫌だ!!」


ディルが言い終える前に食い気味にコルトがドン!とテーブルを叩いて立ち上がった。テーブルの上に座っていたわたしは驚いて「ひゃあ!」と悲鳴を上げて飛び上がってしまった。それを見てディルが軽くコルトを睨む。


 びっくりした~。急に大きな音を立てないで欲しい。わたしはただでさえちっちゃいんだから、大きい音は余計大きく感じるんだよ。


「あ、ごめん。ソニアさん・・・」


コルトがそう言いながらスッと椅子に座り直す。


「コルト、そんなこと言ってるとお前まで戦争に駆り出されるぞ。鍛冶師だから見逃されてるってのに・・・いい加減に武器を作れ!」

「嫌だ・・・。何度言われても武器は作りたくないし、戦争も行きたくない」


コルトはそれだけを言うと、俯いたまま黙ってしまった。


 く、空気が重いよ・・・。


わたしはどんよりした雰囲気を柔らかくしようと出来るだけ明るい声を出してコルトに話しかける。


「コ、コルトは武器以外には何か作れないの?」


 声が裏返っちゃった! 恥ずかしっ!


コルトが笑顔を引き攣らせるわたしを見て「クス」と軽く笑って答えてくれる。


「うん、作れるよ。アクセサリーとかちょっとした工具とか、まだ鍛冶師見習いの時はよく依頼を受けて作ってた。今は武器ばっかり依頼されるようになっちゃったけど・・・」

「依頼されるようにって・・・お前。今は依頼じゃなくて命令されてるだろ! 国から!」


せっかく柔らかくなってきた雰囲気をジイダムがテーブルをダン!と叩いて台無しにした。さっきよりも大きな音が部屋に鳴り響く。わたしはびっくりしすぎて声も出さずに慌ててディルの手の近くに避難した。ディルにそっと片手で摘ままれて肩の上に乗せられた。


 だから、やめて欲しい。大きい音は本当にこわい。自分で落とす雷はともかく、不意にくる大きい音はダメだよ。


「なぁ、ソニアが怖がってるから怒鳴ったりするのはやめてくれないか?」

「す、すまん」

「ごめんなさい」


キッと睨むディルに2人は頭を下げる。いや、肩に乗せられてるわたしに下げてるのかもしれない。ジイダム「ハァ」と息を吐いたあと、視線をコルトに戻す。


「いい加減に何で武器を作りたくないのか教えてくれ」

「・・・」


コルトは黙ったままだ。


「ねぇ、あたし達帰った方がいいかしら?」


ネリィが気まずい雰囲気をぶった切るように手を挙げて軽い口調でそう言った。


「いや、いいんだ。こっちこそ悪いな、家庭の事情に巻き込んじまって。・・・ああ、焼いた肉を出すって言ったよな。今、焼いてくる」


そう言ってジイダムはキッチンの方へ向かっていった。重い雰囲気を置き去りにして。


「皆さん、すみません。僕のせいで・・・」

「コルトさんはどうして武器を作りたくないのよ? 前はたくさん作ってたわよね?」


 ネリィは空気が読めないのかな? さすがのわたしでもこの雰囲気でそんなズバッと質問できないよ。


コルトは、そんなネリィに目を見開いて驚きつつも、「別に隠してるわけじゃないから」とちゃんと答えてくれた。


「僕には親友がいるんです。僕が鍛冶師になった頃から僕の作った剣を使ってくれてる親友が・・・いたんです。その親友は戦争で殺されました。僕の作った剣で・・・。戦争の為にたくさん武器を作ったのに、国からの依頼が収まらないから不思議に思って聞いたんだ。そしたら、こっちの武器が敵に奪われてるって・・・」

「それは・・・確かに武器を作りたくなくなるわね」


 わたしだったらとっくに自暴自棄になっておかしくなっちゃってるよ。やっぱり戦争って良くない。とっても良くない。


「だから、僕はもう友人を、味方を、人間を殺す武器を作りたくないんだ」

「でも・・・武器が無いと碌に抵抗できないんじゃないの?」

「・・・武器があるから戦争で人が死ぬんだ」


 ネリィの意見とコルトの意見、どっちも間違ってはいないんだよね。


わたしは黙って会話を聞いていたディルの頭肩の上からテーブルの上に降りて、考える。


 どうにかして、解決できないかな? これじゃあディルの両親の聞き込みどころじゃないし、このまま放って立ち去るなんて気分が悪いよ。


「コルト、そんな理由だったのか。どうして俺には話してくれなかったんだ?」


ジイダムが美味しそうなステーキを持ってキッチンの方から歩いてきた。聞き耳を立てていたみたいだ。


「・・・だって、兄貴に言ったら軟弱だとか腑抜けてるとか言われると思って・・・」

「俺はそこまで人でなしじゃねぇよ」

「だって昔から僕に弱虫って言ってたじゃないか。お前は戦えないのかって」

「・・・ったく。いつの話してんだよ。それはお前が鍛冶師になるか冒険者になるか悩んでた頃だろ」


ジイダムがコトコトとわたし達の前にステーキを置いていく。わたしの前にも皆と同じ大きさのステーキが置かれた。


「こんなに食べられないよぉ」

「俺が食うよ」


これからどうしようかと皆が頭を悩ませながら食事をして、ディルがわたしの分のステーキを食べ終わる頃、誰かが玄関扉をノックした。


「ジイダムさん! そろそろ出発準備は出来ましたか!?」


ドンドンとノックをしながら男性の声が響く。別に驚いてはいないし、怖がってもいないけど、ディルがそっとわたしを持って肩の上に乗せてくれる。


「ちっ、そろそろ限界か」


ジイダムがめんどくさそうに立ち上がって、壁に立てかけてあったハンマーを手に取った。

読んでくださりありがとうございます。ネリィ・コルト・ディル・ジイダム、背の順です。

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