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85.洞窟in洞窟

船が向かう先、これからわたし達が降り立つ陸が見える。・・・否、崖が見える。


「おいおい、あれじゃ降りられないぞ」


マイクが「迂回するしかないか?」と頭を悩ませる。


 断崖絶壁だもん。・・・崖の上の方で渋い刑事さんが犯人を追い詰めてそうな崖だね。


「俺なら登っていけるっす」

「俺も登れるぞ」


ディルとウィックが得意気な顔で崖を見上げる。


 わたしだって・・・!


「わたしも飛べばいけるよ!」


わたしも負けじと崖を指差して訴えるけど、マイクに溜息を吐かれた。


「お前ら人外は行けても、俺ら人間には行けないんだよ」

「俺は人間だ!」

「俺は人間っす!」


ウィックとディルが揃ってバッと振り返った。髪色が似てるからまるで兄弟みたいだ。そんなわたし達のやり取りを冷めた目で見ていたネリィが「何言ってるのよ」と呆れ気味に口を開く。


「あんな崖を登るわけないじゃない。上ばっかり見てないで下を見なさいよ、下を」


ネリィが崖の下の方をビシビシと何度も指差しながら言う。


「下の方? なんか穴が空いてるね。・・・洞窟?」


崖の下の方に、海がそのまま続いた洞窟がある。この海賊船がギリギリ通れるか通れないかくらいの大きさだ。


「あそこから入るのよ。迂回すればもっと広いちゃんとした船着き場があるけど、そこだと目立つもの。あんまり人の目に触れない方がいいんでしょ?」

「そうだな・・・。でもあの大きさは無理じゃないか? この船じゃあギリギリすぎる。入っても戻れないくなる」


 船ってバック出来ないの? 出来ないよね。そんなの常識だよね。当然分かってたよ。


「・・・海賊船は洞窟の近くで停めて、小船かなんかで行けばいいんじゃない? 全員は行けないけど、船の見張りをする人も必要でしょ?」


わたしが何気なく提案すると、マイク、ウィック、ジェイクの海賊組三人が鳩が豆鉄砲を食ったような顔でわたしを見る。


「すげえっす! 姉御は頭がいいっすね!」

「ああ! さすがだぜ」

「俺達の姉御!」


 これくらいで褒められても・・・もしかして、馬鹿にされてる?


崖のすぐ近くで錨を降ろして、小船で洞窟に向かう。元から海賊船に備え付けられていた小船と、ネリィ達姉弟が乗っていた少し大きめの小船の二隻をロープで繋いで行く。


「留守番する船員は可哀そうっすけど、しょうがないっすよね。戦闘能力的にもこのメンバーが妥当っす」


乗っているメンバーは、小さいほうの小船にわたし、ディル、ネリィ、リアンの4人が、大きい方にマイク、ウィック、ジェイクの海賊三人組が、売る予定の魔石が詰まった袋と一緒に乗っている。


「なぁ、ソニアのそれって乗ってるのか飛んでるのかどっちなんだ?」


ディルが船の上で浮いているわたしに「ソニア自身は自分で進んでるのか?」と聞いてくる。


「乗ってるんだよ。気持ち的に」


洞窟はあまり大きくなかった。入って何回かオールを漕ぐと、すぐに陸に着いた。先にディルが船から身軽に降りて、ネリィとリアンに手を貸す。


「ほらっ、手を」

「あ、ありがとう」

「リアンも」

「ありがとうございます。兄貴さん」

「・・・兄貴さんはやめてくれ」


続いてマイク達海賊三人組も大きく船を揺らしながら、船から降りていく。声が響く薄暗い洞窟の中で、マイクが何かに足をぶつけた。


「ちょっと船長。今俺の足蹴ったっすよね?」

「あ、悪い。・・・しっかし暗いなぁ。どこに進めばいいんだ?」

「どこにって、ここ一本道じゃない。目の前の洞窟を進むのよ」


洞窟の中にある更に小さな洞窟をわたしが先頭になって進む。キラキラの羽が皆の目印になるらしい。


「船長、灯り用の火の魔石は持って来て無いんですか? さすがに姉御のキラキラの羽頼りは心もとないですよ」

「持って来て無いな! だっはっは!」


 なにが可笑しいんだろう? きっと頭のどこかの回路が切れてるんだろうね。納得だ。


「俺は魔石で身体強化すればある程度は見えるけど・・・ネリィ達はここをどうやって通ってきたんだ? さすがにこんなに暗いと危なくないか?」

「これくらいあたしもリアンも普通に見えるわよ。アンタ達の目が悪いんじゃないの?」

「いや、お前の目が良すぎるんだよ」


 ・・・確かに暗いね。正直わたしも羽が光ってるとは言え、前がよく見えない。・・・なんか既視感。


「あっ! そういえばわたし、明かり作れるかも!」

「おお! やっぱり持つべきものは姉御だな!」


わたしは気持ちの悪い触手を辿って深海まで行った時にやったように、右手から左手へ電気を流し、明かりを作る。海中程じゃないけど、そこそこ明るくなった。


「ソニア、そんなことも出来たのか。結構長いこと一緒にいるけど初めて見たな」

「でしょ! この間出来るようになったんだー」


わたしはディルに振り返って「凄いでしょ?」と自慢する。「危ないから前を見て進め」と注意された。


「もうすぐ洞窟を抜けるハズよ」


狭くて暗い洞窟を抜けると、町に出た。洞窟から出たのになんかまだ薄暗いなと思って上を見ると、茶色い天井があった。まるで、大きな洞窟の中に町があるみたいだ。


 国が崖に埋まってるって、こういうことか~。


「船で洞窟に入って、降りて狭い洞窟を抜けたら、巨大な洞窟の中っすか。訳が分かんないっすね」

「洞窟の中って訳じゃないんだけど・・・まぁいいわ。・・・とりあえず、あたし達の家に案内するわね。ちょっと狭いかもしれないけど、全員入れるハズよ」


ネリィが「また戻ってくるなんて思わなかったわ」と苦笑気味に言いながら、リアンと仲良く手を繋いでわたし達の先頭で案内してくれる。周囲には土で出来た茶色い豆腐みたいな家が並んでいる。どこからかトンカンと鉄を打つような音が聴こえるけど、まったく人とすれ違わない。


 戦争中だもんね。そりゃこんなゴーストタウンみたいにもなるよね。


キョロキョロしながらネリィとリアンの後ろを飛んでいると、ネリィの頭にぶつかった。ネリィが「大丈夫?」とわたしを心配しながら、目の前の大きな建物を指差す。


「ここがあたし達の家よ」

「でっかい・・・」


三階建ての大きな縦長の家があった。


「これのどこが狭いんだよ!」


ディルが屋上の方を見上げながら叫ぶ。


「・・・何を勘違いしてるのか知らないけど、ここは色んな人がそれぞれの部屋に住んでるから、あたし達の家はここの一部屋よ。ま、今はあたし達以外には誰も住んでないんだけどね」


 あ~、マンションみたいな感じなのね。


ネリィが大きな二枚扉を開けようとした。その瞬間少し遠くの方でドォン! ドォン! と地面を揺らす程の大きな音が聴こえて来た。ディルがわたしを庇うように素早く前に出る。わたしからは小さいけど頼りになるディルの背中しか見えない。


「大きな物が落下してきたみたいな音っすね。大砲かなんかで攻撃されてるんすかね?」

「いや、姉御の雷じゃないか?」


マイクがそう言ってわたしの方を見る。


「・・・そんなわけないでしょう」


 ここでいきなり雷を落とすわけない。


「気にしなくてもいいわよ。戦争が過激化してからはいつものことだから」


 ネリィもリアンも平気そうな顔してるから、本当にいつものことなんだと思うけど、あんな異常な音が日常的に聞こえるのは普通に恐ろしい。


「いつものことって・・・一体あっちで何が起こってるの?」


ディルの頭の上に座ってネリィにそう尋ねると、ネリィが扉を開けて、階段を上がりながら教えてくれる。


「どうやってるのか分からないけど、相手の国が大きな岩を上空からこの国に向かって落としてくるのよ」

「上空から? 天井があるんだからこの中には落ちないっすよね?」

「もっと奥の方に行けば天井が無いの。向こうの方はもう、まともな建物が残ってないくらいボロボロなハズよ」


そう言ってネリィは3階にある扉のドアノブに手をかける。


「ここがあたし達の部屋。玄関が狭いから1人ずつ入ってちょうだい」


玄関は狭かったけど、中は思ったより広かった。10畳くらいの部屋に3つ扉がある。一つが寝室で、あとはトイレとお風呂、それから倉庫らしい。部屋の隅に置いてある本棚には子供向けっぽい絵本がたくさん並んでいる。ネリィとリアンが部屋にある椅子に座り、わたしはテーブルの上に座る。他の男達は床に腰を下ろした。


「さてと、これからどうするっすか?」


ウィックがまるで自宅のように寛ぎながら言う。ディルがそれを呆れた目で見ながら口を開いた。


「うーん、町の人達にお父さん達について聞き込みをしようと思ってたんだけど・・・この国って人はいるのか?」

「ちゃんといるわよ。大体の人達は城の兵士に連れて行かれたけど、女性や老人や子供とか、あんまり体力のない人達はまだ町にいると思うわ。あ、あと鍛冶師もね」


 皆、徴兵されちゃったんだね・・・。


「鍛冶師はなんで連れていかれないんだ?」

「鍛冶師は武器を作るのに必要でしょ? 武器が無いと戦えないじゃない」

「俺は武器が無くても戦ってるけど・・・」


ディルが自分の拳を見ながら不思議そうに首を傾げる。


 ディルは別に誰かを殺すのを目的に戦うわけじゃないからね。


「・・・とりあえず、俺とソニアは町の中を見て回るか。それでいいか? ソニア」

「うん! わたしはディルについていくよ。一緒に行こう」


ディルの前でニコッと笑ってそう言ったら、頭の上に乗せられた。


「俺達はどうするっすか?」

「ん~、まずはこの魔石達を売れるところが無いか探さないとだな。それから食糧の調達だ」

「ネリィちゃん達はここら辺に魔石が売れるところが無いか知らないかい?」


ジェイクが優しくネリィに問いかける。


「どうかしら? 魔石を売ったことなんて無いから・・・。でも、向こうの国に行けば確実にあると思うわよ。オススメはしないけど」

「そうか・・・」


マイク達海賊三人組は難しそうな顔で相談した結果、とりあえずこの国の中で魔石が売れるところが無いか探して、無かったら仕方なく向こうの国に行くことにしたらしい。


 何をするにも先立つものは必要だもんね。世知辛い。


「あたし達はソニアさん達について行くわね」


ネリィがディルの頭の上に乗ってるわたしに「よろしくね」と微笑む。「よろしくね」と微笑んで返した。


「何かあってもしっかり守ってやるぞ」


ディルがリアンの頭をガシガシと撫でる。


「ありがとうございます。兄貴」

「・・・ディルな?」


マイク達とわたし達は別行動だ。お昼ごろに一旦ネリィの家に集合することになった。


「不思議ね。ソニアさんと一緒にいると、なんだか明るい気持ちになれるの。現実感が無いからかな? どうしてか分かんないけど、同じ町並みでも悲壮感を感じないもの」


 それは本当に不思議だね。わたしにそんな力は無いよ。


町を歩いていると、一つ気付いたことがある。人を見かけないと思ったけど、人は居た。四角い建物の四角い窓からわたし達を覗いている。目が合うとサッと隠れてしまうけど。


「どうして、家から出て来ないんだろう?」

「用が無いからじゃないか? 用事がないと家から出ないだろ」

「確かに!」


 なんと、当たり前の理由だった。


「・・・いや、違うわよ。皆、戦争中で何があるか分からないから極力家から出ないようにしてるんだと思うわよ。家に引きこもったところで何も変わらないのにね」

「じゃあ、皆窓からわたし達のことを見てるのはどうして?」

「ソニアが可愛いからじゃないか? 可愛い妖精がいたら普通見るだろ?」


 わたしそんなに可愛い? 珍しいだけじゃない?


「・・・あたしだってこんな可愛らしい妖精が窓から見えたら、つい見つめちゃうもの」


 2人とも真面目な顔で言ってるけど、これに対してわたしは何て返せばいいの? リアンも何度も頷いて同意してるし。わたしよりもリアンの方がよっぽど可愛いと思うけど・・・。


暫く町中を散策していると、反対側から人が歩いてくるのが見えた。


「ソニアは一応隠れててくれ」

「ダメ、そうやってディルだけ矢面に立とうとしないの。わたしも一緒なんだから」


 魔物相手にはそんなに警戒しないのに、何故か人間相手になるとこうなるんだよね。もしかして、未だに3年前の誘拐事件を引きずってるのかな?


わたしがディルの横に並んで、こちらに向かって歩いてくる人を見ていると、わたし達に気が付いたのか、走って近づいてきた。ディルがその人物を見て「なんだあの人か」と肩の力を抜いた。


 どの人だろう?

読んでくださりありがとうございます。ふわふわとディルの周囲を飛んだり、ディルの頭の上で寛いだりしているソニアをずっと目で追っていたネリィでした。

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