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83.姉弟の話と手掛かり

「・・・にゅあ?」


 布団の上だ・・・。いつの間に寝てたんだろう? 昨日は確か、ネリィとリアンが寝たのを確認したあと、部屋の中を意味もなくグルグルしながらディルが戻ってくるのを待ってたんだよね。無意識のうちに布団に移動してたのかな?


「お、ソニア。おはよう」


椅子に座っているディルが、わたしに向かって「よっ」と手を挙げる。


「ソニアさん、おはよう!」

「おはようソニアさん!」


ベッドに仲良く並んで座っているネリィとリアンが、「可愛い寝相だったわよ」とわたしに微笑む。リアンの目が昨日よりもクリクリしてて可愛らしく見えるのは、よく寝て疲れが取れたからかな?


「おはようディル。いつ戻ってきたの? ずっと待ってたのに」

「ついさっきだよ。下の寝室で寝てたんだ」


 え!? 下の寝室ってことは他の船員達と一緒のところで寝てたってことでしょ? あの寝相が最悪なディルが? 犠牲者とか出てないよね・・・?


「なんだよその顔は。別に誰にも迷惑はかけてないからな。ソニアこそ、俺が昨日一度部屋に戻った時、部屋のど真ん中の床に転がってたからな?」


 え・・・うそ!? 、もしかして飛んでる最中に寝ちゃったの!? もう何やってるのわたし! そんなのまるで子供みたいじゃん! ミドリちゃんに知られたら、またからかわれちゃうよ!


「フフフッ、ソニアさん可愛い。羽がパタパタしてるわ」


ネリィが目を細めて微笑ましそうにクスクスと笑いながら言う。隣ではリアンがコクコクと頷いている。


「も、もうその話はいいから! ・・・それよりも、ディルは昨日マイク達と話してたんでしょ? どうなったのさ?」

「とりあえずは保護してくれるってよ」


ディルが「よかったな」とネリィ達を見る。


「それは・・・本当に助かるわ。船長さんにはちゃんとお礼を言わないと駄目ね」


それを聞いたリアンがハッとしたようにベッドを見て、「僕もお礼を言わないとっ」と拳をギュッとして気合を入れる。


 微笑ましっ。


「ディルさん、ベッドを貸してくれてありがとうございます!」

「お、おう。ちゃんと礼が言えて偉いな」


ディルが椅子から立ち上がり、リアンの頭を少し乱暴に撫でる。髪をくしゃくしゃにされながらも嬉しそうにへへっと相好を崩した。ネリィが誇らしそうにリアンを見ている。仲のいい姉弟だね。


「それで、今後のことだけど、ネリィ達はこれからどうしたいんだ?」

「そうね・・・。本当ならこのまま違う国に逃げたいところだけど、アンタ達はオードム王国に行きたいんでしょ?」

「そうだけど、別に気にしなくてもいいぞ。どうしても行きたいってわけじゃないからな。な、ソニア?」


 武器を作りに行きたいんだったよね。別にオードム王国じゃなくても作れそうだし、あえて行く必要もないよね。


わたしはせっせと寝袋をクシャクシャにしながら答える。


「うん。出来れば行きたいけど、無理してまで行く必要はないって感じかな?」

「へぇ、そういえばアンタ達がどうしてオードム王国に行きたいのか聞いてなかったわね。何をしに行くの?」


ディルは両親を探してること、武器と防具を作りたいことを、わたしがクシャクシャに畳んだ寝袋を綺麗に畳みなおしながら説明した。


「黒髪黒目の格闘家に、茶髪の女性ね。残念だけどあたしは知らな・・・あっ、いや、知ってるかもしれないわ」


俯いて考え込んでいたネリィがピコーンと閃いて、ディルを見る。


「え、本当か!?」


バッと立ち上がったディルが、少し恥ずかしそうに椅子に座りなおす。


「うん、あたしがまだ小さい頃だったからうろ覚えだけど、お母さんが黒髪黒目の男の人と茶髪の女の人と話してるのを見た事があるの。美男美女の夫婦で、そのあとお父さんが嫉妬して喧嘩になったから記憶に残ってたのよ」

「へぇ!何を話してたんだ?」

「さぁ、悪いけど流石にそこまでは覚えてないわ」


 当の話をしていたネリィのお母さんはもう亡くなっちゃってるしね。


「でもまぁ、なんにせよ、少しでも手掛かりがあって良かったじゃん! 他にも話した人がいるかもしれないよ!」

「だな! ただそうなると、やっぱりオードム王国には行きたいな・・・」


うーんと呻くディルを見て、リアンがネリィの脇腹を突く。


「・・・そうね。あたし達のことは気にしなくてもいいわよ。向こうに行ってもアンタ達と一緒にいさせてくれれば大丈夫そうだもの。守ってくれる・・・のよね?」


ネリィがそっとリアンを抱き寄せながら真剣な表情でディルを見る。


「そこは任せてくれ、俺も海賊達も全力で守るよ」

「わたしもね!」


「ハイハイッ」と手を挙げる。ネリィとリアンが「クスッ」と笑った。


「なら安心ね」


わたし達はフフッと笑い合う。すると、ぐぅ~っと誰かのお腹が鳴った。


「あ、ごめんなさい・・・」


リアンが恥ずかしそうにお腹を抑えながら謝った。


「いや、こっちこそごめん。昨日の夜から何も食べてないんだもんな。朝食を持って来るよ・・・いや、俺が作ってくるよ」

「ディルが? ディルって料理出来たっけ?」

「・・・あいつらよりは出来る」


ディルがどこか遠い目になりながら言った。何かあったのだろうか。


 あいつらって海賊達のことだよね。そんなに壊滅的な料理を作るの?


「ま、待って! あたしも手伝うわよ!」


ネリィが慌ててディルの裾を掴んで立ち上がる。こうして並んでいるところを見ると、ディルとネリィは同じくらいの身長に見える。


「あたしも料理くらい出来るわ。少なくとも歳下の男の子よりは・・・」

「い、いや! 大丈夫だ! 俺に任せてくれ!」


ディルはそう言いながら逃げるように部屋から出て行った。


「何よ。あたしそんな女子力低そうに見える?」

「お姉ちゃんは素敵なお姉ちゃんだよ」


憤慨するネリィをリアンが宥めている。その様子を見てわたしは思う。この2人が乗っていた船には食糧など一切積んでいなかったらしい。

 

 本当に逃げるのが目的だったの?


「ねぇ、ネリィ達は本当は、このあとどうするつもりだったの?」


ネリィの膝の上に乗って見上げて問いかける。


「え・・・? 本当も何も最初に言った通り、あの国からの逃げるつもりだったわ」

「でも、ネリィ達が乗っていたあの小船には食糧は何も積んで無かったし、この先の海は本当に危険なところなんだよ? 賢いネリィなら、食糧も海に関する知識もなしに、2人だけで海に出たらどうなるか、分からないわけじゃないよね?」


わたしがジッとネリィを見つめると、ネリィは少し視線を落としたあと、わたしを見る。


「ハァ、妖精さんは凄いわね。・・・逃げたかったのは本当よ。でも、このあとどうしたいかなんて考えてなかったの。ただ、逃げたかっただけ。あのまま戦争に負けて、あたしも弟もひどい扱いを受けるくらいならこのまま海で朽ち果てた方がマシ・・・かもしれないって」

「戦争で負けた国ってそんなにひどい扱いを受けるの?」

「相手の国の王がまともな王なら、生活の質は落ちるけど国民として受け入れてくれるわ」

「・・・酷い王なら?」


わたしの言葉にネリィは視線を彷徨わせて、何かを言いかけたあと、気付かうような表情でわたしを見る。


「妖精さんの・・・ソニアさんのお耳に入れるようなことではないわ」


ネリィはやさぐれた表情でフッと笑う。


「それに、今は闇市場とかいう連中がこっちの地方に来てて、相手の王と何やら怪しい関係を持ってるらしいのよ。・・・だから、本当にどうなるか分からないの」

「闇市場?」


 どっかで聞いたことあるような・・・?


「そう、闇市場。元々は別の地方で活動してたんだけど、そこで何か失敗して、その残党がこっちの地方に逃げて来たらしいわ」


 あれ? もしかして、その別の地方ってグリューン王国がある緑の地方じゃない!? そういえば、わたしが誘拐されたあの事件のあと、闇市場がどうなったのかコンフィーヤ公爵から聞いていない気がする。


間接的とはいえ、まさかわたし達の行動がネリィ達に影響を及ぼしていると思わなくて、背筋がヒヤリとする。


「・・・そんなことより、あたしもソニアさんに聞きたいことがあるのよ!」


ネリィが場の雰囲気を明るくするように元気な声を上げて、「はい!」と挙手する。重かった雰囲気が一気に霧散した。


「なんでも聞いていいよ!」


それから、ネリィとリアンによる怒涛の質問攻めが始まった。どこから来たのか、何歳なのか、食べ物は食べるのか、どうやって飛んでるのか、仲間はいるのか、トイレはするのか・・・などなど、一般的な質問からかなり際どい質問までされた。


コンコンコン


「朝食持ってきたぞー、開けてくれ!」


ディルの声が聞こえて、ネリィが扉を開けると、湯気が立つスープを二皿載せたトレイを持ったディルが、スープを零さないようにゆっくりと入って来て、テーブルの上にスープを置いた。


「簡単なものだけど、食べれなくはないはずだ」


ネリィ達がベッドから立ち上がり、移動して椅子に座る。スープを除き込むと不安そうに眉を寄せる。


「食べれなくはないって・・・、大丈夫なの? 見た目は普通そうだけど・・・」

「それは自分で確かめてくれよ。・・・一応味見はしたぞ」


ネリィとリアンは恐る恐るスプーンを持って、スープを飲み始める。わたしもテーブルの上に移動して、一言断りを入れてから、ネリィのスープをペロっと舐めてみる。


「あんまり美味しくないわよ。この柔らかいお肉は何のお肉?」

「塩の味がするね」


それぞれ不満そうに感想を漏らす2人にわたしも続く。


「でも、食べられなくはないね。塩と・・・何をいれたの?」

「色々だよ。これでも食べられる味になるまで頑張ったんだぞ。気持ちは分かるけど、黙って食べてくれよ」


皆が不満そうな表情を浮かべる中、食事を終えたネリィ達は「ごちそうさま、ありがとう」と一応ディルにお礼を言った。


 わたしは最初の一口しか食べて無いけど、ディルが2人の為に試行錯誤して作ってあげたんだもん。優しい子だ。


ディルが食器を持って立ち上がると、ドォン!と勢い良く扉が開かれた。ネリィ達が驚いて固まっている中、マイクがわたし達を順番に見ながら、ずかずかと我が物顔で入ってくる。


「おう!さっきディルから聞いたぞ! オードム王国に行くんだってな! 正面にそれっぽい大陸が見えて来たぞ!」


皆で甲板に出て、船の進行方向を見ると、かなり遠くだけど、水平線ではない別のものが見えた。

読んでくださりありがとうございます。怒涛の質問攻めにも親切に答えるソニアと、雰囲気を和らげるために言ったものの、気になっていたことを感情に任せて聞きまくってしまったネリィでした。

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