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ちっちゃい妖精さんになりました! 暇なので近くにいた少年についていきます  作者: SHIRA
第3章 回る妖精とよわよわ鍛冶師

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82.【ディル】俺の考え方

「だったら俺が話してくるよ。ソニアは2人を頼む。・・・あ、俺のベッドを使ってもいいから弟は寝かせてやれよ。本当なら寝てる時間だろ?」


俺はあの姉弟とソニアを置いて部屋を出る。本当ならソニアを知らない奴と同じ部屋にしたまま置いていくなんてしたくないけど、何となくあの姉弟は大丈夫だと思った。もしこれまでのネリィの行動が全部演技だったとしたら、俺は人間不信になる。


「それで、あの姉弟にはどんな事情があったんだ?」


食堂の椅子にドカッと座ったマイク船長が、向かいに座ってる俺に話をするように促す。その隣にはジェイクさんが座り、俺の隣にウィックが座る。


「扉の前で盗み聞きしてたんだから、俺が改めて話す必要あるか?」

「よく聞こえなかったんだよ。もっとでっかい声で喋れよ」

「姉御の声なんてまったく聞こえなかったっすからね」


 まぁ、ソニアはそうだよな。体が小さい分、声も小さい。普段は無意識かもしれないけど、割と大きめな声量で話してる。ただ、眠かったり疲れてたりするとソニアにとっての普通の声量で話すからな。


「あの姉弟は戦争から逃げて来たみたいだ」


俺はネリィが話してくれたことを、そっくりそのまま話す。俺達が向かっているオードム王国が戦争真っただ中なこと、あの姉弟はそのオードム王国から逃げて来たことを。


「戦争か・・・」

「はぁ・・・」



マイク船長とジェイクさんが眉間に深い皺を刻む。そんな2人にはお構いなくウィックがお気楽な声で「どうするっすか? 船長」とマイクに問いかけた。マイクは特に考えるそぶりも無く、空になったコップを握って口を開く。


「あいつらは俺達で保護する。戦争の被害者は放っておけない」

「なるほどっす。それで、具体的な今後の方針は?」

「知らん!」


マイク船長が「こんな時に船長が居てくれればな」とツルツルの頭を撫でながら呟く。マイク船長の言う船長とは、きっと前の船長のことだろう。


 前の船長かぁ。こんな頭の足らない奴らをまとめてたんだから、さぞ頭のいい人だったんだろうな。


俺が前の船長の姿を想像している前で、ジェイクがそっと手を挙げた。


「まずはあの姉弟がこれからどうしたいのかを知ってからじゃないですか? 俺達が勝手に動いても余計なお世話になるかもしれないですよ」

「そうだな。それを聞いてから姉御に考えてもらうか」

「なんでソニアなんだよ!」


俺はダンッとテーブルを叩いてマイクを睨む。


 あんまりソニアの負担を増やさないで欲しい。ソニアはあれでもまだ8歳で、この海賊達の誰よりも歳下で子供なんだから。


「そりゃあ、今この船を仕切ってんのは姉御だからな。その姉御に判断を委ねるのは当然だろ?」

「そうっすね。姉御が言うことなら誰も反対はしないっす」

「あ? なんだウィック。俺の判断には反対するのか?」

「自分の過去に聞いてくださいっす」


マイク船長がウィックに掴みかかり、ウィックはさらりと払いのけて逃げる。それをマイク船長が追いかける。そしてジェイクさんが仲裁に入ろうとする。


 また始まったよ。気が抜けるといつもこうだ。こいつらと真面目な話なんてできっこないな。ちっちゃいソニアに負担が行き過ぎないように俺も頑張ろう。


騒がしくなり始めた食堂から一度外に出て、ソニア達がいる自分の部屋に戻る。最近は暑くなってきたから少し冷たい夜風が心地いい。


コンコンコン


「自分の部屋なのにノックするのもおかしいよな・・・ソニア! 入っても大丈夫か?」


返事が返ってこない。


 ・・・寝てるのか?


「・・・・・・入るぞ~」


起こさないようにそーっと扉を開けて入る。部屋の中では、俺の言った通りリアンが俺のベッドで寝ていて、ネリィがそのベッドに寄りかかって寝ている。


 弟の方は人見知りなのかあまり喋らないけど、姉のネリィはよく喋る。弟の分も喋る。ソニアもよく喋るけど、ソニアと違って何か尖った感じがするんだよな。


部屋の中を見回すけど、ソニアの姿だ見つからない。


 ソニア、ちっちゃいからな~。村に居た頃もよく何かの隙間に挟まってた。ほこりが堪ってたから掃除しようとしたって埃まみれになって言ってたな。


「ソニア、どこだ~?」


寝ている姉弟を起こさないように少し声量を抑えて呼ぶ。だけど、返事がない。


 村にいた時みたいにまた変な悪戯でも仕掛けてるんじゃないだろうな?


ソニアがマリと一緒になって俺を驚かそうとあれやこれやをしてたのを思い出しながら、部屋中を注意深く探していると、ふと足元で何か聞こえた気がした。下を見るとソニアが居た。


「・・・っおお!? あっぶねぇ!」


俺が次に右足を置く場所でちょうどソニアが寝ていた。俺は慌てて後ろに飛んで尻餅をつく。


 あ、あぶね~・・・。何でこんな変なとこで寝てるんだよ。・・・また飛んだまま寝落ちしたのか?


部屋のど真ん中ですぅすぅと小さな寝息を立てて、バンザイの態勢で寝ているソニアを、俺は羽に触れないようにそっと掬い上げて、机の上に敷かれているソニア用の小さい布団の上に起こさないようにそっと寝かせる。


「おやすみ、ソニア。・・・本当、他人に寝相が悪いとか言えないよな」


寝相が悪い俺は、ソニアに他人が居るところで寝るなと言われてる。


 あいつらのとこで寝るか。ベッドは使えないし、下手なとこで寝るとネリィのことを蹴飛ばしちゃうかもしれないからな。でも、筋肉逞しい海賊達なら大丈夫だろ。例え蹴っ飛ばしても罪悪感はこれっぽちもない。


俺は踵を返して部屋を出る。

食堂に入ると、マイク船長とジェイクさんが床に倒れていて、ウィックが勝ち誇った笑顔で腕を挙げている。俺はあえてこの状況に突っ込まずに話しかける。


「なぁ、俺の部屋であの姉弟が寝てるからこっちで寝たいんだけど、空いてるベッド無いか?」

「俺の隣のベッドが空いてるっすよ。よかったっすね。俺の隣で★」


ウィックがソニアを真似てバチッとウィンクしたけど、ソニアと違ってまったく可愛くないし、上手くも無い、ちょっと腹が立つだけだ。


「何がよかったのか知らないけど早く案内してくれ。正直、俺も眠いんだ」

「っす~」


ウィックがよく分からない返事をしながら、船員達の寝室に続く扉を開ける。いくつもの二段ベッドが奥に向かって並んでいて、「ぐー!がー!」と船員達がいびきをかきながら寝ている。その一番奥に二段ベッドではない普通のベッドが二つ並んで居いた。


「ここが俺のベッドっす」

「・・・何でウィックだけ普通のベッドなんだ?」

「俺の寝相が悪すぎるから、奥に1人追いやられたっす」

「・・・まぁ、なんでもいいや。隣のベッド借りるな」


俺はベッドの上にボフっと横たわった。意外と硬かったせいでちょっと腰を痛めた。


「あれ? シャワー浴びなくてもいいんすか? いつも寝る前に浴びてたっすよね?」

「寝る前に体を綺麗にしろってソニアがうるさいからな。今日はソニアが先に寝てるし、わざわざ水の適性持ちの船員を起こすのも悪いしな」

「じゃあ、俺も寝るっす」


ウィックはいつも付けている赤色のバンダナを外して、俺と同じようにベッドに横になる。


 お父さん以外で俺と同じ髪色の人なんて初めて見たな・・・。


「おやすみっす」

「おやすみ」


そう就寝の挨拶をして目を閉じたら、ウィックに話しかけられた。


「・・・そういえばディルに聞きたいことがあったっす」

「いやお前、今おやすみって言っただろ。寝ろよ」

「気になりだしたら眠れなくなるっすよ。っていうか、ディルってソニアの姉御と俺達で接し方違い過ぎないっすか?」


 それは当たり前だ。


「ソニアとお前らじゃあ付き合って来た長さが違うからな」

「本当にそれだけっすか?」


ウィックがからかう様な口調で言ってくる。


俺は仕方なく「ハァ」と溜息を吐きながら体を横にしてウィックの方を見て、話題を戻す。


「それよりも、俺に聞きたいことってなんだよ? まさか今のことじゃないよな?」

「ディルの姉御に対する気持ちも気になるっすけど、聞きたいことは別っす。・・・ディルはどうして武器を持たないんすか? 最初の触手以外ディルはずっと素手で戦ってるっすよね? 武器なくしたんすか?」


ウィックが「ドジなんすか?」と煽って来る。


「なくしたわけじゃない」

「じゃあどうしてっすか?」

「ソニアが苦手だからだよ」

「姉御が?」


最初はお父さんと同じ戦い方をしてただけだった。でもデンガに武器を使った方がいいと言われて、剣でも装備しようかと思ったけど、止めた。ソニアが血を見るのが苦手だからだ。

3年前のソニアが誘拐された時もそうだし、村にいた時にデンガとの修行で切り傷だらけになった俺を見て、ソニアは泣いていた。だからソニアは血が苦手なんだと思う。それからは極力ソニアが居ない時に修行するようになった。


「・・・っていうことで俺は武器を使わないんだ。まぁ、一応ナイフの1本でも持って置こうと思って鍛冶が盛んなオードム王国に向かってるんだけどな」

「ふーん、そうなんすか。甘いっすね」

「え?」


ウィックが今まで見たことのないような冷え切った目で俺を見る。「甘い」それは俺も心の何処かで思ってたことだ。だからか分からないけど、そっと視線をウィックから逸らしてしまった。


「ディルはずっとその考えのままでいられると思ってるんすか?」

「それは・・・」

「ああ、別に攻めてるわけじゃないっすよ。俺もその考え方は嫌いじゃないし、昔は俺も似たような考えだったっす」

「・・・そうなのか。じゃあ、今は?」


ウィックは何も言わず、フッと冷たく笑い、背を向けてしまった。


「でも、俺が側にいるうちは、その考え方が変わらないようにするっすよ」


そう言ってウィックはあっという間に眠りについた。俺は焦燥感を感じながらゆっくりと目を閉じる。


 ・・・俺はこのままでいいのか?



翌朝、目が覚めると珍しくベッドの上に居た。ただ寝た時と壁の位置が反対だ。横を見ると、ウィックが俺の寝ていたベッドで寝ている。どういうわけか、寝ている間にお互いがお互いのベッドに移動していたみたいだ。俺はベッドから起き上がり、食堂に向かう。


「あ、ディルの兄貴。起きたんですね。朝飯なら出来てますよ。今日は何かよく分からない魚を塩とか入れて煮たやつです」

「ハァ、最近はよく分からない魚しか食べてないな。今度はハズレじゃなきゃいいんだけど・・・」

「はっはっは! ディルの兄貴は胃が弱いですからね」


 お前らの胃がどうかしてるんだよ・・・。ソニアが食べ物を必要としない妖精で良かったよ。あれを食べずに済むんだから。


俺は運ばれてきた口が三つある不思議な魚を丸ごと煮た料理? を目を閉じて、鼻をつまみながら食べる。


 ・・・案の定、味は最悪だな。


そして、食べ終わった食器を料理係の船員に渡して、ソニアと姉弟がいる自分の部屋に向かう。


コンコンコン


「ソニア! 入って大丈夫か~?」

「大丈夫よ!」


返ってきた返事は何故かネリィの声だった。


 ・・・ソニアはまだ寝てるのか?


俺は昨日のウィックとの会話の記憶を拭うように頭を振ってから扉を開けた。

読んでくださりありがとうございます。現実と理想の間で揺れる、思春期のディルでした。

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