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79.ぶくぶく、ツルツル

ポチャン!


海の中に入ると、気持ち悪く蠢いている触手が螺旋状に巻いて一本になり、暗くて深い海の底から伸びていた。船のすぐ近くで枝分かれして複数の触手になっているみたいだ。


「ぶくぶくぶく!!」


 触手が気持ち悪い!!・・・あれ? 喋れない。・・・いや、水の中なんだから当たり前なんだけど、水の山では普通に会話してたよね・・・? あそこだけが特別だったのかもしれない。


わたしは気持ちの悪い触手を辿って海底の方へ潜っていく。・・・どんどんと暗くなっていき、ついには一寸先まで見えずらくなってきた。


「ぶくぶくぶく・・・」


 明かりが欲しいな。


わたしは右手から左手に高圧の電流を流し合い、豆電球のように光らせる。その周囲の温度が上がってブクブクと気泡が出来る。


 よし! なんとか明かりは作れたね。周囲はっと・・・


触手の先を追って少し明るくなった海底の方へ視線を向けると、無数の巨大な魔物がこちらを見てひしめき合っていた。


「ぶがぼ!!」


 ひいぃぃぃぃ!!


一瞬でぞわぞわと鳥肌が立った。わたしは恐怖に駆られるままに、両手で明かりを作っていた電流を魔物達に放つ。


「ぼぼえ!」


 くらえ!


海水なだけあって、放った電流は瞬時に感電していき、わたしの電撃はバリバリという音とたくさんの気泡を生みながら魔物達を屠っていく。でも、どんどんと深海から魔物が現れてキリがない。


 うぅ・・・。まだ出てくるの!? いい加減にしてよ!


どれだけ倒しても、次から次へと海底から魔物が現れる。額に魔石が付いている細長い龍みたいなのが出て来たところでわたしは諦めた。


 ・・・というか、この一本にまとまった触手を切っちゃえば良くない? 本体まで辿る必要なんてないじゃん! こんなたくさんの巨大な魔物達に付き合ってらんないよ!


「ばびょうばば!!」


 さようなら!


えいっ!と触手を焼き切って上へ上へと浮上する。たくさん魔物が付いて来ている気がするけど、気にしない。だっていくら倒してもキリがないから。


 こんなちっちゃいわたしを追いかけてどうするつもりなのか・・・。


力なく沈んでいく触手の先っぽとすれ違いながら海上に出ると、皆が甲板の上で息を切らしながら寝そべっていた。


「みんな! わたしが戻ったよ!」


わたしが声をかけると、皆が一斉に「姉御! 姉御!」 と尊敬の眼差しでわたしを見上げている。筋肉ムキムキだけど、尻尾を振って喜んでる犬みたいでちょっと可愛い。


 例えるならドーベルマンかシェパードだ。


筋肉をかき分けて、ディルがわたしの元に近づいてくる。わたしもディルの方へ近づく。


「ソニア! 無事か!? 怪我とかしてないか!?」

「うん!」


ディルは安心しきったようにホッと肩を落とすと、ジロリとわたしを睨む。


「魔物に食べられちゃうんじゃないかって・・・心配したんだぞ」

「本当っすよ。姉御のあとを追って海に飛び込もうとしてたっすからね。止めるの大変だったっす」

「え!? 危ないよ!」

「ソニアが言うな!」


ディルはそう怒鳴りながらもわたしの頭を優しく撫でてくれた。さっきまでの気持ち悪い光景が頭から去っていくみたいだ。


「でも触手をなんとかしてくれて助かった。ありがとうな」

「これで、やっと一息付けるっすね」

「そうだね!・・・あっ」


わたしは思い出す。わたしを追って来ていた魔物達を。


「姉御?」

「ソニア?」


ディルとウィックが首を傾げてわたしを見下ろす。わたしはすっと降りて床に足を付ける。


「先に謝っておくね、ごめんなさい!」


わたしが腰を90度に曲げるのと同時に、後ろでバシャーン!という海から何かが飛び出すような音が聞こえた。


 見なくても分かるよ。わたしを追って来ていた巨大な魔物が顔を出したんでしょう。


わたしは後ろを振り向かずに、目を見開いて固まっているディルと海賊達へ話を続ける。


「触手はなんとか出来たんだけど、色々と付いてきちゃった!」


「てへっ☆」と舌をだして誤魔化してみたけど、ディル以外誰もわたしを見ていない。


「に、逃げるぞおおおお!!」

「おおおおおおおお!!」


マイクが行動不能状態で船内にいるので、代わりにジェイクが号令を出す。船員達は大急ぎで帆の後ろ、マストに備え付けられている空の魔石を発動させて、風で船を前進させる。


「手が空いてる奴は漕ぐぞ!」


そう言ってジェイクはどこからともなく緑の魔石を出して、それをマストに当てて発動させた。すると、にょきにょきとマストから太い枝が生えてきて、大きなオールの形になってゴトンと甲板に落ちた。それを何個も出して、残りの船員達に持たせる。


 すごい・・・マストからオールがどんどん出てくる。質量保存の法則とかどうなってんだ・・って今更だよね。特に妖精のわたしが言えたことじゃないよ。


「漕げ! 漕ぎまくれぇ! だっはっはー!」


 笑ってるよ・・・。


この状況で海賊達が笑ってることに若干引きつつ、追って来ている魔物達を見る。色んな魔物がいる。口から水鉄砲のように水球を打ち出してくる魔物、魚雷のように突進してくる魔物、それぞれの攻撃をディルとウィックが短刀と船に落ちていた盾のようなもので防いでいる。


 最後に見た額に魔石が付いた龍みたいなのはいないみたいだね。よしっ、わたしも自分の尻拭いをしよう!


「わたしも手伝うよ!」


わたしがドカーン!っと雷で牽制して、ディルとウィックが攻撃を防ぎ、空の適正がある船員達が帆に風を送り、他の船員達がオールを漕ぐ。


そして・・・


 どれくらい経ったんだろう? やっと追ってくる魔物がいなくなった。


「ハァ・・・ハァ・・・、やっと追われなくなったのに、次は嵐かよ!!」


魔物はいなくなった代わりに、天候が物凄く悪くなった。大雨、暴風、そして雷。至る所で竜巻が起きてっていて、海水が巻きあがってとんでもない光景が広がっている。もう今が朝なのか夜なのか、それすら分からない。船員達は嵐を物ともせず、それぞれの持ち場に戻っていった。わたしとディルと違って、風で飛ばされたりはしないっぽい。


 さすが筋肉だ。非常時に頼りになるのはやっぱり筋肉だ。わたしも鍛えようかな、筋肉を。


「わぁ・・・お魚が飛んでるよ~! 見て見て! ディル!」


わたしはマストの金属部分に足の裏を電磁石のようにしてくっつけて、マストに対して垂直に立っている状態で景色が横になって見えるけど、お陰で風で飛ばされずに済んでいる。


 わたし賢い!


「あれは飛んでるんじゃなくて暴風で巻き上げられて魚が・・・いたっ!」


ただ、スカートが風でバッサバッサと翻る。中に短パンを履いてるから平気なんだけど、それでもディルが律儀に見ないように目を逸らすので、わたしの下でマストにしがみ付いているディルは、ちょくちょく飛んでくるお魚や樽などに当たっている。


 あとで、別の服に着替えなきゃ。ディルが痣だらけになっちゃうよ。


ドコーーン! ドコーーン!


「なぁ、ソニア。なんで雷を落としてるんだよ。魔物はもういないだろ?」


ディルが遠くの方で青く光ってる稲光を指差して聞いてくる。わたしは何もしてない。


「あれはわたしの雷じゃないよ。他所の子だよ」


そんな会話をしていると、どこかに行っていたウィックが風に飛ばされないように姿勢を低くしながらやって来た。わたしは横・・・わたしからしたら上を見上げてウィックを見る。


「姉御、ディル、船長が呼んでるっす。・・・何でわざわざ外にいるんすか?」


ディルが理解不能っといった顔で言う。


「だってディルが外にいるから・・・」

「だってソニアが外にいるから・・・」


わたしとディルはお互いを見合う。その瞬間スカートが翻り、ディルが慌てて目線を逸らす。そして飛んできた樽に頭をぶつける。


「なにしてるんすか・・・早く来てくださいっす」


ウィックにしがみ付いているディルの服にしがみ付きながら、マイクがいる操舵室に行く。操舵室の扉を開けるとマイクが「よっ」と手を挙げてわたし達を見る。


「動けるようになったの?」

「おう! この通りだ!」


そう言いながらマイクはブンッとその場で素振りする。


 さすが筋肉だね。


「ウィックから聞いたんだが、俺が動けなくなったあとにあんな面白そうな事が起きてたなんてな! 退場するタイミングを間違えたぜ! がっはっは!」

「笑い事じゃないと思うんだけど・・・、まぁいいや。それで、わたし達に何か用?」

「ああ、大事な話だ」


マイクがスッと真面目な顔になる。それにつられてディルとウィックも表情を引き締める。わたしはいつも通りの顔でマイクを見る。


「いいか、重要なことだ」


そう念押しして、マイクはすぅと息を吸って口を開く。


「俺達の団名を決めなきゃいけない」

「・・・はい?」


ディルが素っ頓狂な声を出して、「そんなことか」と興味なさげな顔になった。


「それってアレ? なんたら海賊団、みたいな」

「それだ」


 今考えること? どうでもよくない?


「前は前船長の特徴から取って名乗ってたんだが、船長が変わったからな。名前も変えなきゃいけない」

「そんなの勝手に決めたらいいじゃん!」


 わざわざ、わたしとディルを呼び出してまで考えることじゃないよ!


「そういうわけにはいかないっす。今この海賊団は姉御がトップっすから。カッコイイ名前を付けてほしいっす」


 ・・・だとしても今この状況で考えることじゃないと思うんだけど。ディルはカッコイイって単語を聞いてワクワクしだしたけど、わたしは別に興味ない。


「カッコイイ名前がいいよな! ソニア」

「妖精の姉御が考えてくれるなら俺は何でもいいぜ!」

「姉御! どんな名前にするっすか?」


 めんどくさい。なんだか急に眠くなってきた気がするよ。・・・ひょっとして今は夜なんじゃ?


わたしはマイクのスキンヘッドを見る。


「じゃあ、ツルツル海賊団で」

「ソニア・・・か、カッコ悪っ!」

「あ、姉御・・・」

「ハハハッ、面白い名前っすね!」


ディルとマイクがショックを受けたような顔になって、ウィックがお面白そうに笑う。この海賊団の名前はツルツル海賊団になった。彼らは今からツルツル海賊団だ。


 船長の特徴から取った。ぴったりじゃん。


未練がましく名付けのやり直しを要求するマイクを置いて、わたしとディルは自分達の部屋に戻った。戻った瞬間、「ふぁ~」と小さな欠伸が出た。


「眠そうだな」

「うん、眠い」


くしくしと目を擦る。


「外は嵐だけど、海賊達はなんともなさそうだし寝てもいいんじゃないか?」

「そうだね・・・」


 あっ、その前に着替えよう。またスカートが翻る度にディルが目を逸らして何かにぶつかるのは可哀そうだ。


「ちょ、ソニア! 何で服を脱ごうとしてるんだよ!」


ディルが慌てて自分の目を両手で隠しながら言う。隠してるけど、指の隙間からしっかりとディルの黒い目が見える。


「え? 着替えようかと・・・」

「だったら先に言ってくれよ!後ろ向いてるから!」


 あ~・・・寝惚けてたみたい。ディルももう思春期だもんね。気を付けよう。


わたしはディルのカバンからジェシーが作ってくれた衣服が入っている布袋をせっせと引っ張りだし、その中の一着を出して着替える。


「ディル、着替え終わったよ」


そわそわした様子で壁側を向いていたディルが振り返る。


「お、おお。ワンピースも良かったけど、そういうのも似合ってて可愛いな。なんていうか、元気なソニアらしいぞ」


わたしが着替えたのは、フリルが付いたオフショルダーの白いTシャツに、デニムっぽいショートパンツだ。胸元にはマリちゃんとお揃いの青いリボンを付けた。


 そんな照れくさそうに褒められたら、こっちまで恥ずかしくなるよ・・・。


「も、もう寝るから、おやすみ!」


そう言ってわたしはマリちゃんが作ってくれた寝袋に入る。今頃マリちゃんはどうしてるかな? なんて思ってると、(ソニアちゃん、ソニアちゃん)と頭の中でマリちゃんの声が響いた。懐かしい声に眠気が少し引っ込む。


わたしは目を閉じて、マリちゃんの声を聞くのに集中する。


 マリちゃんの声、落ち着くね。

読んでくださりありがとうございます。だんだんと電気を使いこなせるようになってきたソニアと、男の子ディル。

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