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7.お姫様じゃないけれど

わたしは今、ガラス製のボトルの中に入っている。自分から入った訳じゃないよ。この村の村長、アバンに閉じ込められた。


 まさか、わたしが瓶詰めにされる日が来るなんて・・・ボトルの中にいる限り外から何かされることが無いのは不幸中の幸いだね。像に踏ん付けられたりしない限り安全だ。


わたしをボトルの中に閉じ込めて、してやったり顔をしていた憎きアバンは、ボトルに布を被せてわたしの視界を奪ったあと、たぶん部屋の外に出ていった。 


「あれからどれくらい経ったんだろう・・・」


どうやら妖精は酸欠で死ぬことは無いっぽい。あれから結構な時間が経っている気がするけど苦しくなったりはしてない。精神的には苦しいけど。


 これからどうしよっかな・・・。


ミドリちゃんが植物を操れるように、わたしも電気を操ることが出来る。いや、正確には雷を落とすことが出来る。まだ上手に加減が出来ないんだよね。

最悪、ここに雷を落とせば脱出は出来るかもしれないけど、確実に怪我人が出るし、死人まで出るかもしれない。そんなことになっちゃったら、わたしは一生引きずる。妖精の一生がどれくらいか知らないけど。


キィィ


暗くなると何故か光る自分の羽を見て癒されていると、誰かが扉を開けたような音が聞こえた。思わずビクッと体を震わせる。


 アバンが帰ってきた?


直後、バサッと被せてあった布が取られて視界が開けた。

・・・人間が2人、わたしを見下ろしていた。この村の村長であるアバンと、目元がアバンによく似ている30歳くらいの男性がいる。側近おじさん程ではないけど、それなりに綺麗な服を着ていて、この村の村民にしては少し浮いてる気がする。


「ほぉ~ん・・・これが妖精なのか? 初めて見た」


男性がグイっと顔を近付けて値踏みするようなに顎に手を当ててマジマジと見てくる。


 気持ち悪い!・・・なんなのこの人!


「あっかんべー!」と舌を出してやったら、男性は一瞬目を丸くしたあと「威勢がいいねぇ」とニヤリと笑った。


「威勢がいいうちにここから出してよ!!」


トントンと目の前の分厚いガラスの壁を叩いて叫ぶ。


「それは無理な相談だなぁ」


そう言いながら男性はわたしが入ったボトルを持った。


 え、なになに・・・なにすんの?


その瞬間、世界がまわった。


「ひゃあああああ!」


 ええ!?何が起きてるの!? 天変地異!?


ゴツンゴツンと体のあちこちをぶつけた。


「おいアボン!あまり乱暴にするな!」


村長にアボンと呼ばれた男性は面白くなさそうな顔でボトルを机の上にコトリと置いた。


 うぇ・・・この男、もしかしてボトルをシャカシャカ振ってたの? わたしを胡椒の付いたチキンか何かだと思ってる?


「アボン!妖精を傷付けるようなことはするな!」

「はいはい分かってるよ。国王様に献上する大切な品なんだろ?」


村長に怒鳴られたアボンは「無事だよな?」と全然心配してなさそうな顔でわたしを見てくる。プイッとそっぽを向いて些細な抵抗をする。


「それでアボン、本当に国王様に伝手があるんだろうな?」

「あるさ、これでも王都じゃあ有名な大商人なんでね。親父は知らないだろうけど度々お城にご招待いただいているんだぜ? 今回は村のお土産っていう体で国王様に直接献上するつもりだ」


 親父って・・・まさかとは思ったけど村長の息子なんだ。アボンもきっと将来は村長みたいにおでこからハゲていくんだろう。・・・いや! そうじゃなくて! わたしはお土産にされるような物じゃない!


「あの王の側近とやらには妖精の怒りがどうのこうのと言って断られてしまったからな。今はお前が頼りだ。妖精の献上と村の交渉、任せたぞ」

「あぁ、任せとけ。俺がたまたま村に帰って来ててよかったな」


アボンに再びボトルを布で包まれて、わたしの視界はまた真っ暗になった。


 ゆらゆらと揺れてる・・・たぶん、あのアボンとかいう男に何処かに運ばれている最中なんだろう。


「さてと、じゃあそろそろ出発するかな」

「表の玄関から出ていくなよ。もし今あの子供にバレたら確実に邪魔されるだろうからな」

「あのやたらと正義感の強い子供か。確かに、こういうのは嫌いそうだな」


 ディルのことだよね・・・試しに叫んで助けを求めて見ようかな・・・。


「ディルーーー!! 助けてーーー!!」


妖精になってから一番の大声で叫んだ。・・・叫んだけど、返事をしたのはアボンだけだった。


「うおっ、ビックリした・・・妖精か。助けを求めても無駄だぜ。妖精に言っても分かんねぇかもしれねぇけど、この布は防音の魔道具だからな、完全には防げねぇけど、さっきの声が俺にしか聞こえねぇくらいには抑えてくれる。だから諦めて大人しくしてるんだな」


魔道具とかいうめちゃくちゃ面白そうな単語が聞こえたけど、全く気分が上がらない。というか、こんな状況で上がるハズない。


 諦めはしないけど、大人しくはしていよう。無駄に疲れるだけだもん。


そして何度かカタンと扉を開け閉めする音が聞こえたあと、別の誰かの声が聞こえた。


「アボンさん、お話は終わりましたか?」

「あぁ、早めに馬車を出してくれ」

「かしこまりました」


ガタガタと馬車が動いた感覚がボトル越しに伝わってくる。

 

 あーあ・・・村を出ちゃったよ。・・・王様に献上するって言ってたけど、王様の手に渡ったあとはどうなるの? 酷いことされないよね? 王様が人格者であることに期待しよう。


真っ暗闇の中、これから先のことを想像すると涙が出そうになる。


「それで、例の妖精は手に入ったんですか?」

「見てみろ」


視界が明るくなった。目の前にいる短髪の若者と目があった。わたしは目に浮かんでいた涙を素早く拭って若者を睨む。


 弱気になるなわたし! きっとどうにかなる!


「ほほう・・・これが妖精ですか。可愛らしいですね」

「だろう?これを闇市場で売れば一生遊んで暮らせるぞ?」


ゲスな顔で高笑いする2人に、わたしはガラスをトントンと全力で叩いて怒る。


「そうなったら一生恨んでやる! 妖精の一生はすっごく長いんだから! たぶん!」


 ・・・って、ちょっと待って? え? 闇市場とか言った? なにそれ、王様に献上するんじゃないの!?


「ねぇ!ちょっと!さっき王様に献上するって言ってたじゃん!」

「ん?あぁ、お前の声が俺たちに聞こえるんだ、こっちの声もボトルの中に聞こえるか・・・」


そう言って隣で馬を引いている若者にボトルをポイッと投げ渡した。


「ひゃあ!!」


 妖精使いが乱暴!ハゲちまえ!


「ねぇ!!王様に渡すんじゃなかったの!?闇市場ってなに!」


再度問い掛けてみるけど、普通に無視される。


「聞こえてるんでしょ!? ちょっと・・・この・・・ハゲ野郎! 将来は絶対にハゲる!」


それから、ひたすらに思いつく限りの蔑称を叫んでみた。


「・・・ハァ、ハゲハゲうるせぇなぁ。ハゲしか悪口が思い浮かばねぇのか!」

「うるさいハゲ!! 無視するのが悪いんだよ!」


 じーっと根気よく睨んでいると、アボンは根負けしたように溜息を吐いて口を開いた。


「常識的に考えて、俺らみたいな一商人がお城にお呼ばれされるわけ無いだろ。国王に伝手なんてないんだよ。お前はこれから、腹の黒い富豪か、どこかの研究馬鹿か、変態貴族か、それかハゲか、そういった奴らに闇市場を仲介して売られるのさ」

「変態貴族にハゲ!?」


 そんな奴らに売られるの!? ・・・絶対イヤ!!


「まぁ、そんなに悲観することはないさ。運が良ければいい暮らしができるかもしれないぜ?運が良ければな」


そして、馬を休めながら馬車を走らせること3日。とうとう王都の門に着いてしまった。

この間わたしは、飛んでボトルを持ち上げようとしたり、中から栓を開けようとしたり、二人の目を盗んでなんとか逃げ出せないか試みたけど、残念ながら無理だった。


 もし、このまま逃げ出せなかったら、雷を落として脱出しよう。わたしは雷を落とせるんだから。


 雷が落ちれば人が死ぬかもしれない。わたしが死んだ雷で誰かを殺すかもしれない。もしかしたら関係のない人を巻き込むかもしれない。それはとてもこわい・・・


考えただけでもブルブルと体が震える。

 

 でも、このまま闇市場とやらで売られるのもこわいよ。誰か助けてよ!


『勇者様が悪者に攫われたお姫様を助けるお話が好きだ!俺もそんな勇者様みたいになりたい!』


 ディル・・・もし、わたしが悪者に攫わたと知ったら、お姫様じゃなくてもあの子は助けに来てくれるのかな。


あの村長が正直にこのことをディルに話すとは思えない。それに、村から王都まで馬を休ませながらとはいえ、馬車で3日もかかった。ここまで来られるわけがない。しかもまだ10歳の子供だ。あんまり期待は出来ない。


 友達になってあげるって言ったのにな・・・。

読んでくださりありがとうございます。はたして主人公に名前は付くのでしょうか。

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