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77.海図と役割分担

「これが海図っす」


この海賊船の中では一番小柄な、頭にバンダナを巻いた爽やかイケメン君がバサッと大きな机の上に羊皮紙の海図を広げた。如何にもファンタジーっていう感じの古びた味のある海図だ。ところどころに文字が書いてあるのは全船長のメモか何かだろうか。


 あ、地図の端の方に、本当に困ったら俺を探せって書いてる・・・前船長も船員達を心配はしてたんだね。


わたしは机の真上に飛んで海図の全体を眺める。


「・・・ふむふむ」

「どうだ? ソニア。分かるか?」


ディルが心配そうにわたしの顔を覗き込む。


 ・・・ぜんぜん分かんないや。まず、現在地が分からない。それさえ分かればどうにかなると思うんだけど。


「・・・ちなみに君は現在地は分かる?」


ダメもとで爽やかイケメン君にパスをする。


「ウィックっす」

「ウィックは現在地分かる?」

「見当もつかないっす」


 だよね。分かったらわざわざ地図の読める人を探したりなんてしないよね。


「ディルは?」

「・・・いや」


ディルはそう言いながらわたしに目配せをする。パチパチと海図のあるところを見て。


 え、なに? ディルは現在地が分かるの? ・・・ここ?


わたしはディルの視線を追って海図の上に座って指を置く。


「お、ここっすか!? ここが今いるところっすか!?」


海図の全体を見てみる。わたしが指を置いたところの近くに小さな島があって、その島のすぐ西に、途中で途切れてれるけど大きな大陸があって、ここからずーっと南にも大きな大陸がある。


 ・・・ここがブルーメ、この辺がグリューン王国で、この山脈のすぐ近くが緑の森かな? 地名とかも書いといてくれれば分かりやすいのに・・・。


「うん、合ってるっぽい!」

「おお! 船長ーー! マイク船長ーー! 現在地が分かったっすー!!」


ウィックが叫ぶと、甲板で周囲の見張りをしていたらしいマイクがバンッと勢い良く扉を開けて入ってきた。


「姉御! 流石だぜ!!」

「いや・・・」


 分かったのはわたしじゃなくてディルのおかげなんだけど・・・。


「流石ソニアだな!」


ディルはわたしを見てニッと笑った。


 ま、いっか。


「なるほど・・・、姉御達はここからずっと下のこの大陸に行きたいんだな?」

「そうなの!」

「思ったより距離があるんじゃないか?」

「そうなの?」

「ああ、結構な日数掛かると思う。たぶん。」

「そうなの!?」

「そうなんだ」


 確かに、グリューン王国とブルーメまでの距離と比べて何十倍もあるもんね。・・・あれ? そういえば食糧ってあるのかな?


「ねえ、食べ物の備蓄ってどうなってるの?」

「案内するっす」


甲板の端にあった階段を降りると食糧庫だ。学校の教室くらいの広さがあって、変色した果物が数個と異様な臭いを発している腐ったお肉が転がっている。


 ・・・噓でしょ!? 一日も持たないじゃん!


「終わった・・・。もうダメだ。俺はこの船の上で餓死するんだ。もうお腹が空いてきた気がする」


ディルが膝から崩れ落ちた。


 すんごい弱気じゃん・・・。


「そういやぁ、さっきの島で食糧調達するの忘れてたな! だっはっは!」


マイクが腰に手を当てて豪快に笑う。


「だっはっはー、じゃないよ! どうすんのさ! 妖精のわたしはともかく、人間は食べ物を食べないと死んじゃうんでしょ!?」

「たしかに!!」


 この・・・ハゲ!! 髪の毛と一緒に知能まで切り捨てちゃったんじゃないの!?


わたし達は頭を抱えながら海図を広げていた船長室に戻る。


「まずは、食べ物っすね。近くに島はあるっすか?」

「ここから一番近い島は・・・、あれ? このドクロマークに丸が書いてある印はなに?」


進行方向の海にドクロマークが書かれている。


「姉御に分からないものが俺達に分かるわけないだろ」

「そうっす」


 こいつらに頼るのはやめよう。わたしは見切りをつけて、ディルの方を見る。


「たぶんだけど、俺とソニアがブルーメに行く途中で通った海域みたいに、危険な魔物とかがいる海域なんじゃないか?」

「じゃあ、とりあえずそこに向かうっすね」

「「・・・は?」」


わたしとディルの声が重なった。


 この爽やかイケメン君は何を言ってるんだろう? 死にたいのかな?


「だって危険な魔物は美味しいっす。特に魚っぽいのは」

「え? 魚だよ? 食べるの?」


 この世界の人間は魚は食べないんじゃなかったの!? ブルーメではそう聞いたんだけど・・・。


「驚くのも無理はないっすね。俺達も餓死寸前にまでならなきゃ食べなかったっすから」


なんと、この人達はブルーメに来るまでの途中で空腹に耐えられなくなり、海で泳いでいる魚を銛のような武器で捕まえて食べていたらしい。「焼けば何でも食べられるって前の船長も言ってたっす」と自慢げに言われた。


「だとしても、わざわざ危険な海域に突っ込むことはないだろ」

「はぁ・・・ディルの兄貴はビビりっすね~。俺達は余裕のよいっすけどね!」


 あ~、これはもう決まりだね。


「俺はビビりじゃないぞ! お前らが余裕なら俺なんて暇すぎて欠伸が出るくらいだな!」


 ちょろいよ、ディル君。


「まぁ、わたしは別にどっちでもいいんだけど。このドクロマークに向かうってことでいいんだよね?」

「おう!」

「はいっす!」


ディルとウィックが「上等だ」と顔を見合わせる。


「・・・って言ってるけど、マイクはいいの?」

「上等だ!」


 もう、本当に男って・・・。


「じゃあ、とりあえず、ドクロマークを経由して南下する進路で、食糧に関しては島を見つけ次第そこで調達。それまでは海でお魚を捕ってなんとかする・・・。そうだね、班分けをしよう!」


 放って置いたら全員で1つの事をするか、やりたくないことはやらなさそうだもん。しっかり役目を決めなくちゃ!


「班分け? ・・・ってなんだ? 姉御」


 ・・・今までどうやって航海してきたんだろうか。


「役割分担だよ! お魚を捕る人、それを料理する人、船を操縦する人、辺りを警戒する人、みたいにそれぞれに役割を与えるの! 今この船って何人くらいいるの?」

「姉御と兄貴を抜いて、32人だ」

「うーんっと、そしたら・・・お魚を捕る人に10人、それを焼く人に5人、船を操縦する人と警戒する人に10人くらい? 残りは夜の為に休憩、みたいな感じかな。人選はマイクに任せるね。魔石の適正とかも考えて選んでね!」

「任せろ!」


そう言ってマイクは扉をバァンっと勢いよく開けて部屋から出ていった。


 いつか扉が壊れそう。


「あ、ウィックはちょっと待って!」


わたしはマイクの後ろをついて行こうとしたウィックを呼び止める。


「ん? なんすか? 愛の告白っすか?」

「違うよ、船内を案内して欲しいの」


わたしとディルはウィックにの後ろを歩いて船内を歩き回る。甲板の中央にある階段を降りると広い食堂があって、そこから小さな二段ベッドが並ぶ部屋、厨房、とそれぞれに続く扉がある。甲板上には大きな帆と操舵室、それから今は使っていない部屋がある。わたしとディルはその空き部屋を使うことにした。使っていないベッドなどを移動してとりあえず生活できる環境を整える。


 ベッドは一つでいいよね。わたしにはマリちゃんから貰った寝袋があるし。


「姉御! 人選が終わったぜ!!」


ウィックが闇の適性を持っていると知り、部屋の中でディルとウィックが腕相撲をしているのをぽけーっと眺めていると、部屋の扉をバァンと開けてマイクが我が物顔で入ってきた。


「空の適正持ちは昼と夜の船の操縦で、泳ぎが得意な奴と水の適正持ちは魚の捕獲で、あとは、比較的料理が得意な奴は厨房で、残りは警備だ。俺達は全員が火の適正を持ってるから、夜に暗すぎて見えないってことは無いし、魚を焼くことも容易だからな」


マイクがドヤ顔で報告してくれた。ウィックが「俺は闇の適正しかないっすけどね」と付け足す。


 なんだ。マイクもやれば出来るじゃん!


この船には帆の後ろ側に風を吹かす空の魔石が付いていて、それを発動させれば風が無くてもゆっくりではあるけど進むらしい。前の世界の物理学者が聞いたらビックリして腰を抜かしちゃう。


「ディルはわたしの護衛ね!」

「喜んで」


ディルがわたしの前で忠誠を誓う騎士様のように跪き、「お守りします、姉御」とからかう様な笑顔でわたしを見上げた。


 あ、耳が赤い。フフッ、やってる本人が照れてどうすんのさ。


わたしが照れるディルを見て和んでいる横で、マイクがウィックに声を掛ける。


「ウィックはどうしたい? お前なら船の操縦以外なら何でも出来そうだが」

「そうっすね~、とりあえず大変そうなところを手伝うっす」

「分かった。・・・姉御、こっちへきてくれ」


マイクに促さられるまま部屋の外に出ると、皆が甲板に集まってわたしを見上げていた。


「あいつら、姉御の号令が欲しいって言っててな。すまんがお願いしてもいいか?」

「いいよ!」


 色々と指示は出したものの、実際わたしに出来ることなんてそれくらいしか無いからね。お安い御用だ。


「それじゃあみんな! わたしの優雅な船旅の為に精一杯働けよー!! 行動開始!!」

「「うおおおおおお!!」」


 何が彼らをそこまで盛り上げさせるのか分からないけど、やる気があってなによりだ。



そして、3日が経った。途中で小さな無人島を見つけてたくさん果物とか獣の肉を補充できたので、今は食糧に多少余裕が出て来た。お陰で暇が出来たのか、たまにディルとウィックが甲板の上で殴り合っている。訓練らしい。素人のわたしから見てもウィックはかなり手練れだと思う。


「もうすぐ、ドクロマークの海域に入るな」


部屋の中で机に海図を広げたディルが目を顰めながら言う。


「無人島で食糧は確保出来たんだし、無理して行かなくてもいいと思うんだけど・・・」

「いや、ダメだ! 俺がビビってると思われちゃうだろ!」


 ・・・もう、変なところで子供っぽいんだから。


突如、船が大きく揺れた。わたしは飛んでいたから影響は無かったけど、ディルがバランスを崩して膝をつく。


「姉御! 甲板に出てきて欲しいっす!」


 いよいよ凶暴な魔物が出て来たのかな? 大丈夫、想定内だ。凶暴な魔物が出ると分かっててドクロマークの海域に来たんだし、ディルも海賊達はまともに戦えばかなり強いと言っていた。


ディルと一緒に甲板に出ると、そこにはわたし達が乗っている船と同じくらいの大きさの、巨大なイカがいた。


「姉御! ディルの兄貴! クラーケンです! しかも群れのクラーケンです!」


クラーケンの足から必死に船を守ろうとしている船員が叫んだ。今、この船は巨大なイカの魔物、クラーケン達に囲まれている。


 いくらなんでもこれは想定外だよ・・・。

読んでくださりありがとうございます。実は師匠から色々と教わっていたディルと元船長から色々と教わってたのに全く覚えてない馬鹿な海域達でした。

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