表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/334

76.ソニアの姉御

「姉御! 東から魔物の群れが来てますぜ!!」

「姉御! 船底に穴が空いて海水が入ってきやした!」

「姉御! ディルの兄貴が変な魚食って腹壊しました!」


大きな船の船首の上、周囲は魔物の群れと大嵐、船員は地図も読めない筋肉野郎ども、この状況がもう何日も続いている。


 ・・・ああ、私達の分岐点はブルーメでマリちゃん達と別れたあと、砂浜で海賊船を見て、その時のノリで海賊船に乗り込んでしまったことだろう。そこで間違えなければ今頃平和で優雅な船旅を満喫していただろうに。




「ジイダムさん・・・だっけ? その人が言ってた船ってアレのこと?」


わたしは砂浜から少し離れたところに停めてある大きくて、いっぱい大砲が付いて、ドクロマークの旗を掲げた船を指差す。


「そうじゃないか? 随分とカッコイイ船だな!」


 ・・・え? マジで?


「いや、絶対違うでしょ! どう見ても海賊船だよ!」

「ソニアがアレじゃないかって聞いたんだろ・・・。海賊って・・・あいつらのことか?」


ディルが指差した方を見ると、大柄で筋肉質な男数人が子供を連れた母親の手を強引に掴んで乱暴しようとしていた。


「・・・って言ってる場合じゃない! 助けるぞ!」


そう言いながらディルは男達の方へ駆け出していき、母親から手を離させて、男数人をまとめて蹴り飛ばした。わたしが風でなびく髪をおさえている間の出来事だった。


 よくもまぁ、こんな足の取られる砂浜であんな素早い動くが出来るもんだ。


わたしは感心しながらも急いでディルの方へ飛んでいく。ディルは驚いて尻餅を着いた母親に手を差し伸べている。


「大丈夫か? 立てるか?」

「あ、ありがとうございます」

「ここは俺達に任せて逃げてくれ」

「は、はい!」


母親は子供を抱いて何度も頭を下げながら町の方へと逃げていった。


 あの人、料理大会に出てた人だ。良かった、ディルの助けが間に合って。


わらしが去っていく親子をみながらホッと安堵してたら、後ろから「このガキがぁ!」という怒号が聞こえた。振り向くと、さっき蹴り飛ばされていた男達がディルに向かって殴りかかろうとしてた。


 ディルに乱暴したらダメ!!


バチバチバチ!!


「「ぐああああ!!」」


わたしの電撃によってその場に崩れ落ちた。


 ちゃんと手加減はしてるからね。


ディルは地面に転がっている男達をその場に座らせると、腰に手を当てて男達を見下ろす。


「それで、お前らはそこの海賊船の船員・・・でいいのか?」

「・・・そうです」


砂浜に縮こまって体育座りしている屈強な男達は、雨に濡れた子犬のような目でわたし達を見上げながら事情を説明する。男達が言うには、船長に賢そうな女を連れてこいと命令されて、あの母親を船に連れて行こうとしていたらしい。

 

 賢い女・・・?


「賢い女ならここにいるけど・・・」


わたしがどうしようかと悩んでいると、体育座りしながら珍しそうにわたしをチラチラ見ている男達よりも一回り大きなスキンヘッドの男が海賊船の方からわたし達にズカズカと近付いてきた。


「お前ら!どしたんだ!? ・・・てめぇ、俺の仲間に何してんだ!」


男は体育座りしている仲間を見て、形相を変えてディルに掴みかかろうとしたが、ディルは何ともないような顔で背負い投げした。


 なんだかディルが乱暴な子に見えるけど、正当防衛だよね?


「お前が船長か?」


ディルが男達を一列に並べて、さっきディルに掴みかかろうとしていたスキンヘッドに問いかける。


「そうだ・・・それよりも、隣で浮いてるお前は妖精だよな?」


船長が観察するようにわたしを見る。とりあえずパチッとウィンクしておいた。


 どう? 珍しい? 妖精だよ! ・・・このウィンク。自分でやっててちょっと恥ずかしいかも。今更だけどね。


「頼む!!」


船長はそう言いながら、既に縮こまっている船員の前でずさーっと地面に頭を擦り付けて土下座のようなポーズをした。そしてわたしを見上げて口を開く。


「俺達の船に乗ってくれ! 」

「・・・へ?」

「ソニアは俺のだぞ!」


 わたしは誰のものでもないけど・・・。


「俺達はあんたみたいなのを待っていたんだ! 賢そうで、可愛くて、頼れる存在を! 頼む! 姉貴! いや姉御!」


 賢そうで、可愛くて、頼れる存在? ・・・ふーん。


「・・・まぁ。話を聞くだけなら? いいけど?」

「ちょろすぎるぞ・・・ソニア」


 ちょろいんじゃないよ。賢くて頼れるわたしは助けを求める人にはたとえ海賊でも手を差し伸べるのだ。


わたし達は船長に案内されて、一旦船内で話を聞くことにした。わたしの横を歩いているディルがどこか諦めたような表情で「どうにでもなれ・・・だな」と言って乾いた笑いをこぼしてるのが見えたけど、気にしない。


「で? この頼れるわたしに何の用なの?」


既に船に乗っていた船員達にジロジロと物珍しそうに見られながら、大きな地図や地球儀みたいな物が置いてあるそこそこ広い部屋に案内されたわたし達は、部屋の一番奥の立派な椅子に座った船長の話に耳を傾ける。砂浜でディルに蹴り飛ばされた男達は壁際で背筋を伸ばして立っていた。


「ここに来る前の島でのことだった・・・」


船長は言う。俺は元々船長では無かったと、別の人物が船長だったと。


「前の船長は頭の良い人だった、船のこと、俺達の食糧のこと、進路のこと、全部があの人任せだったんだ」


船長は続けて言う。前の島でその船長が船を降りたこと、それから海図も読めない、食糧も減る一方のなか、長いこと海を彷徨ったあと、やっと着いたのがこのブルーメだったと。


「恋に落ちたんだとさ。そう言って船長は船を降りたんだ。訳が分からなかったし、必死になって止めた。でも船長は聞かなかった。お前らにも良い出会いがあるといいなって爽やかに言っていなくなっちまった」

「・・・うわぁ、とんでもない船長だね」


 でも、恋は盲目っていうし、そういうものなのかな・・・。


「船長は本当にいい奴なんだ、戦争孤児だった俺達を拾ってくれて、色々と世話になったんだ。船長が幸せなら俺達はそれでいいと思ってる。思ってるんだが・・・」


船長は「ハァ」と溜息を吐いて、せめて海図の読み方だけでも教わっとくんだった、と嘆いた。


「それで、海図が読めそうな人を探してたんだね。・・・でもどうして女の人を探してたの?」

「そんなもん・・・やっぱりむさくるしい男より可愛い女の方がいいからに決まってる!」


船長が拳を握りしめて立ち上がった。壁際に立っている船員達もうんうんと頷いている。


 うんうん・・・じゃないよ!!


「・・・理由は分かったけど、いや分からないんだけど・・・女の人に乱暴するのはダメだよ!」

「乱暴?」


わたしはビシッと指を立てて、砂浜で船長が来るまでのことを簡単に説明した。


「なにぃ!? てめえら! そこらの女の人は船長や俺達と違って繊細だから優しく、丁寧に、小さな食器を運ぶくらい気を付けて連れてこいって言ったじゃねぇか!」

「す、すいやせんでした!!」


 ・・・なんか海賊っていう割には悪い人達じゃなさそう?


「それで、賢そうで頼れるわたしに頼んだんだ?」

「ああ、お前みたいな・・・いや、ソニアの姉御みたいな賢そうで可愛いくて頼れる女は今まで見たことがない! まさに俺達が待ち望んだ存在だ!」


わたしは思った。


 ・・・この人達と一緒に行くのもいいかもしれない。意外と良い人達っぽいし・・・なんだか面白そう!


「聞いた? ディル。わたし、可愛いって! 賢いって!」


言いながらバシバシとディルの額を叩いたら、鬱陶しそうにそっと退けられた。


「聞いてたよ。ソニアが可愛いのは俺の方が知ってるけど、賢いかは・・・どうだろうな?」

「か、賢いよ! 少なくともディルよりはね!」

「じゃあ、俺よりも賢いソニアは俺達の目的、忘れてないよな?」


 目的? それはディルの両親を探すことで、とりあえず今はここからずっと南にあるオードム王国っていう鍛冶が盛んな国にディルの装備やら何やらを作ってもらう為に行くこと、だよね?


「大丈夫!忘れてないよ!」

「だったら・・・」


ディルが何か言いかけたところで、船が突然動き出した。


「え?え?船動いちゃってるよ?」

「お、おい! 俺達はまだ一緒に行くなんて言ってないぞ!」


ディルがわたしを掴んで慌てて部屋から出ようとしたその瞬間、見張りをしていたっぽい槍を持った船員が勢いよく扉を開けて部屋に駆け込んで来た。


「船長!大変だ! 町の方から武装した兵士達が!」

「なっ! 急いで出航しろ!」

「もうしてやす!」


その言葉を聞いたディルが「行くぞソニア!」と言ってわたしを掴んだまま甲板に出る。そこから町の方からブルーメの兵士を引き連れたジイダムの姿が見えた。。船に乗っているわたし達を見て叫んでいる。


「おーい! ディルの坊主! 無事かー!」

「無事だ! 今そっちにい・・・ぶわっ!」


 しっーー!!


わたしはビタンッとディルの口に飛びついて止めた。片腕が口の中に入った気がする。ディルにすぐに剝がされて、「危ないだろ!」と叱られた。何故か耳が少し赤い。


 確かに、ちょっと腕が口の中に入っちゃったもんね。そのまま食べられたら大変だ。


「ねぇ、ディル。このままこの人達と一緒に行こうよ!」


わたしはディルの前で両手を広げて「ね?」とアピールする。


「ダメだ! こんな男だらけの船にソニアを乗せられないだろ!」

「え~、でも良い人そうっだたし、それに・・・」

「面白そう、だろ?」

「そう! それ! 分かってるじゃんディル! 流石わたしの相棒!」


わたしが「いぇい!」とディルの額を叩くと、仕方なさそうな顔で「もう戻れないしな」と言った。直後、後ろからやってきた船長がディルの背中をバシッと叩いた。


 うわぁ、痛そう。


「姉御!話は聞かせてもらったぜ! 名乗り遅れたが、俺はこの船の船長をやってるマイクだ! 決して退屈しない船旅を約束するぜ!よろしくな! ソニアの姉御にディルの兄貴!」

「あ、兄貴・・・?」


口をポカーンと開けたディルと「よろしくね☆」とウィンクをしたわたしを見て満足そうに頷いたマイクは、背中に背負っている大剣を掲げて、叫んだ。


「てめぇら! 集まれ!」


すると、船のあちこちから屈強な男達が甲板に集まった。全部で30人くらいはいる気がする。


「今日からこの船と俺達の面倒を見てくれる、可愛い女の子の妖精のソニアの姉御とディルの兄貴だ!2人の実力は俺が保証する! 姉御の言う事には従え!分かったか!」


「おおおおお!」「癒される!!」と野太い雄叫びが船中に響き渡る。後ろを振り返ると、わたし達がさっきまでいたブルーメはもう遠く離れていた。

読んでくださりありがとうございます。3章の始まりです。なんだかんだとソニアに弱いディルと、知識はあっても決して賢くはないソニアでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ