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ちっちゃい妖精さんになりました! 暇なので近くにいた少年についていきます  作者: SHIRA
第2章 グルメな妖精と絶景のブルーメ
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75.【マリ】村の名前を考えてみよう

「・・・ちゃん! マリちゃん! 起きて!」


 ・・・お母さん?


「あ、やっと起きたわね。おはようマリちゃん。もうすぐ村に着くわよ」


私は重たい瞼を擦りながらお母さんの膝の上からむくりと起き上がる。


ゴツン!


「いたいっ!」


何か硬いものに頭をぶつけた。いたい。


「大丈夫? マリちゃん」

「邪魔だよ、これぇ・・・。やっぱり置いてきた方が良かったんじゃない?」


私は馬車の荷台に無理矢理に詰め込まれたヨームの大きな古代の遺物(にもつ)をコンコンと叩く。


「邪魔なのは認めますけど、これを置いていくという選択肢はありませんよ。もうすぐ村に着くのに今更何を言ってるんですか」


そう言いながらヨームは馬車の進む方向を見る。


 そっか、もう帰って来たんだ。ブルーメから私達の村に。


村の入口に停まった馬車から、お父さんとヨームが水の魔石を使いながら荷物を降ろしているのをボーっと見ていたら、村長のミーファおばさんがやってきた。ミーファおばさんの家は入口のすぐ近くにあるから、窓から私達が乗っている馬車が見えたんだと思う。


「おかえりなさい、マリちゃん。ブルーメは楽しかった?」


ミーファおばさんが優しく頭を撫でてくれる。お父さんよりも撫でるのが上手。


「うん! 楽しかったよ! 新しいお友達も出来たんだよ!」

「あら、マリちゃんが妖精さん以外のことで興奮するなんて珍しいわね。お友達っていうのはあそこにいる灰色の髪の少年かしら?」


ミーファおばさんが荷台から慎重に遺物を降ろしているヨームを指差した。


 アレは違う。ちょっと違う。


「ヨームは違うよ」

「そうなの?」

「うん、ヨームは私の騎士様なの」


 私とお母さんを守ってくれるから。


「騎士様? あんな細っこい少年が?」

「私とお母さんを守ってくれるの」


 ミーファおばさんはヨームを細っこいって言うけど、ヨームはキヤセするタイプ?で脱いだら凄いんだって、ソニアちゃんが言ってた。


「そうじゃなくて、私のお友達は今この中で寝てるの」


私は肩から下げているちっちゃいポーチをミーファおばさんによく見えるように持ち上げる。するとミーファおばさんが困った顔になって、隣で私達のやり取りを静かに見ていたお母さんと私を交互に見た。


 どうしたんだろう?


お母さんが私の肩に両手を置いた。


「えっと・・・マリちゃん。着いたら教えてって言ってたんだから、もう起こしてあげてもいいんじゃない?」


 そういえば、そうだった。


私はポーチを開けて、新しいお友達のほっぺたをツンツンと突いた。すると、「ふわ~」とちっちゃい口でおっきな欠伸をしたあと、ビュンと勢い良くポーチから飛び出した。


「わっ、妖精・・・!? ソニアちゃん・・・じゃないの?」


ミーファおばさんが一瞬ソニアちゃんと勘違いしたけど、目を見開いてよく見たあと、首をコテっとした。


 雰囲気が似てるもんね。でも、ちゃんと見たら違う。ソニアちゃんの金髪の方が少し明るいし、ふわふわしてる。虹の妖精はサラサラだし、短い。瞳の色も違う。ソニアちゃんはキラキラの青色で、虹の妖精はピカピカの金色。あと、ソニアちゃんの方がお胸がおっきい。


「着いたんですね! ここがマリちゃんの村ですか? なんにも無いですね!」


虹の妖精が私の目の前でキョロキョロと辺りを見渡す。


「まだ入口だからね」


虹の妖精は「ふぁっ」ともう一度小さく欠伸をしながら私の頭の上に座った。私は出来るだけ頭を動かさないように気を付けながら、新しい友達をミーファおばさんに紹介する。


「私の新しいお友達で、ソニアちゃんのコウハイ?の虹の妖精だよ」

「後輩? ソニアちゃんのお仲間の妖精ってこと?」


ミーファおばさんが虹の妖精を見つめながらコテっとする。すると虹の妖精が私の頭から降りて、私とミーファおばさんの間で腕を組んで得意げな顔で口を開いた。


「私は先輩・・・ソニア先輩の仲間であり、娘であり、後輩であり・・・友達なんです!」

「そ、そうですか・・・」


 ちなみに、私はソニアちゃんの保護者であり、姉であり、友達であり、そして姉である!


ミーファおばさんは「仲良くね」とだけ言うと、お父さん達の方へと足早に去っていった。


 もっと色々とお話したかったのに・・・。


荷物を降ろし終わって、お世話になったお馬さんを手を振って見送ったあと、私達は家に帰る。ヨームも一緒。だって私の騎士様で、私とお母さんの荷物係だから。


「よし! ありがとなヨーム。マリ達の荷物を持ってくれて、とりあえず全部ここに置いてくれ。お前もこれから宿を取るなりしなきゃならんだろ」


お父さんが「これから忙しいぞ」とヨームに向かって手を払う。


「そうですね。宿を取るか・・・どこか空いている家か部屋ってないですかね?」

「そうだな・・・、確かルテンのとこの上が空いてたな。場所は・・・」


 ルテンお姉ちゃんの店なら私が分かる。


「私が村の案内してあげる」

「マリ?」

「マリさん?」


 私も、もうこの村に来て3年経つんだもん。村の案内くらい私だってできる。


私が許可を求めてじーっとお父さんを見つめていると、「はぁ」と溜息を吐いてから渋々と許可をくれた。


「とりあえず、もう一度村長のところに行って、ヨームが村に長期間滞在することと、一応他に空き家が無いか聞いてこい。ああ、ヨームの荷物は一旦ここに置いておいたらいい」


お父さんがヨームに難しいあれやこれやを言ったのを聞いて、私はヨームの大きな手を引いて村長の家に走る。


「案内よろしくお願いしますね、マリさん」

「虹の妖精に村を案内してあげるついでだからね」


私の言葉を聞いた虹の妖精が「ヨームは私のついでだって!」と嬉しそうに言う。


「はいはい、分かってますよ」


ミーファおばさんにヨームが長い間村に住むことを伝えたら、とても喜んで歓迎してくれた。村長のミーファおばさんは誰かが村に移住してくれると、自分の家族が増えるかの様に喜んでくれる。私もそうだった。


「今空いている部屋はルテンちゃんのお店の上しか無いね・・・。今ある空き家や建造中の家はもう既に住民が決まってるからね」


ミーファおばさんが村の案内図みたいな紙を開いて、「ここしかないね」と指を差す。


「どんどん村が大きくなっていくね」

「そうね、この村も昔に比べるともう何倍も大きくなってるからね」


私とミーファおばさんは村が大きくなる前からいたけど、ヨームはもちろん、虹の妖精も前の村を知らないから、不思議そうに案内図の上に立って見てる。


「昔のこの村ってどのくらいの大きさだったんですか? 先輩もこの村にいたんですよね?」

「私が来た時は、村は今よりもずーーっとちっちゃかったんだよ! これくらい!」


私が胸の前で「これくらい」と手で表すと、虹の妖精が「これくらい?」と小さな手を精一杯広げて首をコテっとした。そんなやり取りを黙って見ていたヨームが静かに手を挙げた。


「あの、ずっと気になってたんですけど、この村の名前ってなんですか?」


私とミーファおばさんは一度お互いを見合ってから、ヨームに視線を戻す。


「無いよ?」

「無いわ」


ヨームは何度か瞬きしたあと、呆れたように口を開いた。


「何故です?」

「だって最初から無かったもん」

「無くて不便はしなかったしねぇ」


 ここは私達の村。ただそれだけ。


「・・・でも、この村は今凄い勢いで発展していってますよね? 後々名前がないことで不便になることもあると思うんですけど・・・。この機会に名前を考えてみては?」

「それもそうだねぇ・・・、でも名前を考えるったって・・・」


そう言ってミーファおばさんは私を見た。


「マリちゃん、名前付けてみない? この村に」

「え・・・私?」


 こういうのは、大人の人が集まって決めるんじゃないの?


「そう、マリちゃん。私はそういうの苦手だし。せっかくならマリちゃんみたいな若い子に考えて貰った方が、この先村を支えていく若者達にも受け入れやすい名前になりそうだしね。・・・嫌かい?」


嫌じゃないけど・・・。そんな大事なこと、私が決めてもいいのかな?


「そんなに気を張らないでもいいからね。無理なら無理で必要になった時に考えるし、もし何かいい名前を思いついたら教えてね」


虹の妖精が「村の中を案内しながら考えましょ」と言ったから、私はミーファおばさんの家を出て、虹の妖精と、ついでにヨームに村の中を案内をする。まずは一番近いここから。


「ここが村長のミーファおばさんの家で・・・」


私は道なりに少し走って違うお家を指差す。


「ここがディルお兄ちゃんとミーファおばさんのお家だよ」

「村長は家が2つあるんですね」


 村長のミーファおばさんの家と、ディルお兄ちゃんの保護者のミーファおばさんの家だよ。


「じゃあ先輩もここに住んでたんですか?」

「ううん、ソニアちゃんは普段は森にいたよ。たまに村に来た時はここか、私のお家に泊ってた」


 ソニアちゃんが村に来た時はよくディルお兄ちゃんのお家のお庭で蝶々さんと一緒に飛び回ってた。凄く可愛かった。


ディルお兄ちゃんのお家からもう少し中央に歩いたら綺麗な噴水がある広場に出た。


「ここでたまにルテンお姉ちゃんがパンとかお菓子を売ってるんだよ」

「ルテンさん・・・。確か、この村でパン屋を営んでいる方ですよね」


 そういえば、ルテンお姉ちゃんも「お店の名前どうしようかな」って悩んでた。


「この噴水ってどうやって水が出てるんですか?」


虹の妖精が噴き出す水の近くではしゃぎながら聞いてきた。


 この噴水は元々は無かったんだけど、ソニアちゃんが「広場と言えば噴水だよ!」って言ったことで作られたんだよね。どうやって水が出てるかは私も知らない。


広場から北の川の方に少し進んだ所にルテンお姉ちゃんのパン屋さんがある。


「ここがルテンお姉ちゃんのパン屋さんだよ。ここの上は元々ルテンお姉ちゃんが住んでたんだけど、今はルテンお姉ちゃんが横に出来た新しいお家に住んでるから今は誰も住んでないの」

「パン屋ライラック・・・ですか。いい響きのお店ですね」


 私がブルーメに行ってる間にお店の名前が決まったんだぁ。


「美味しそうな香りがします!」


虹の妖精がお店の窓に張り付いていると、お店の中からルテンお姉ちゃんが出て来た。


「騒がしいと思ったらマリちゃんじゃない! 今日帰ってきたの?」

「うん」

「・・・ってあれ? ソニアちゃん・・・じゃない?」


ルテンお姉ちゃんが虹の妖精を綺麗に二度見した。


「初めましてです! 私はソニア先輩の後輩の虹の妖精です!」

「あ、初めまして・・・。あのソニアさんに後輩さんがいたんですね」


ルテンお姉ちゃんが「しっかりした後輩さんですね」と微笑んだあと、私の隣に立っていたヨームを見た。


「それで・・・、そちらの方は?」


ヨームが一歩前に出て、長い前髪を分けてニコリとルテンお姉ちゃんに微笑んだ。


「初めまして、僕は今日からこの村に移住してきたヨームと言います。恐らく一時的にですが、新居が出来るまでこのお店の上に住まわせて貰うことになると思います」

「そうなんですか! 大歓迎ですよ。あなたみたいなカッコイイ方なら尚更! ぜひこのお店をご贔屓にしてくださいね!」


 あ、大事なことを言って無かった。


私はヨームの裾を掴んでルテンお姉ちゃんを見上げる。


「ヨームは私の騎士様なんだよ」

「騎士様・・・? フフッ、大丈夫だよ。マリちゃんのお気に入りを取ったりしないから」


 ルテンお姉ちゃんは何か勘違いをしてる気がする。


私のことをそっと撫でたルテンお姉ちゃんは「ちょっと待っててね」と言ってお店の中に戻って、小さなクルミパンを持って出て来た。


「これ、今日焼いたパンなんだけど、良かったらヨームさんと後輩さんにどうですか?」

「美味しそうです!」

「ありがとうございます」


ヨームがパンを受け取って、少しちぎって虹の妖精に渡した。二人とも凄く美味しそうに食べている。じーっと見ていると、ヨームが私にもちぎって渡してくれた。美味しい。


「食べている姿もソニアさんそっくりだね。・・・村に来た時はよくお店に来てああやってパンを美味しそうに頬張ってたもん」


ルテンお姉ちゃんのお店を紹介したあと、大きな畑と川を案内して、最後に私のお家に戻って来た。ヨームの荷物を回収して、再びルテンお姉ちゃんのお店の方へ向かう。ヨームの新しい部屋の掃除とかを手伝うためにお父さんも一緒だ。


「そういえば、村の周りに生えている木は何の木なんですか?」


ヨームが何に使うか分からないようなガラクタを綺麗に並べながらお父さんに聞いた。


「あれはクルミの木だな。色々と落ち着いたら試しに1個だけ実を取ってみたらいい。驚くぞ」

「驚く・・・とは?」

「取っても取っても、新しい実がすぐなるんだ。流石、緑の大妖精様が生やした木だな」

「それは凄く興味深いですね・・・」


ヨームの新しいお部屋のお掃除を少し手伝って、疲れてきた私はルテンお姉ちゃんの差し入れを食べてから虹の妖精と一緒にお家に戻った。


「おかえり、マリちゃん・・・と虹の妖精ちゃん。晩御飯出来てるけど、虹の妖精ちゃんも食べる?」

「うっ・・・さっきパンを食べて来ちゃいました! ・・・ちょっとだけ食べます! 食べたいです!」

「私もさっきルテンお姉ちゃんのパン食べちゃったから少しだけ・・・ごめんなさい」

「貰ったものを残すのはいけないことだもの、しょうがないわよ。・・・そういえば緑の妖精さんのお土産はどうするの?」


お母さんが台所に置いてあるお魚を指差して言った。


 そうだった。でも、今日はもう無理。


「明日、お料理して持ってく。今日はもう疲れたぁ」

「それに、もう暗くなってきてるものね。じゃあ、早く晩御飯を食べて寝る支度して寝ちゃいなさい」

「うん」


晩御飯を食べて、お湯で私と虹の妖精の体を綺麗に拭いたあと、久しぶりにお家のお布団の中に潜る。私のお腹の上にポスっと座った虹の妖精がウトウトしていた私に話しかける。


「村の名前はいいの思いついた? マリちゃん」

「うーん・・・ソニアちゃん村にする」


虹の妖精が微妙な顔をした。


「・・・一応理由を聞いてもいいですか?」

「ソニアちゃんとの思い出がいっぱいの村だから」


 だって、どこを見てもソニアちゃんの姿を探しちゃうんだもん。


「ソニアちゃん村でも私はいいけど、先輩が嫌がりそうじゃないですか? もしこの村がマリちゃん村になったら、マリちゃんは嫌じゃないですか?」

「・・・嫌かも」

「じゃあ、別のにしましょう」

「・・・雷の妖精村」


虹の妖精は仕方なさそうに「同じですよ」と言ったあと、ポンッと手を叩いた。


「そうです! 先輩に意見を聞いてみませんか?」

「ソニアちゃんに?」


虹の妖精は「そうです!」と元気よく返事したあと、私の頭の上に乗った。


「私が先輩の位置に電波を合わせるので、マリちゃんは頭の中だけでも、実際に声を出してもいいので先輩を思い浮かべて話しかけてください!」

「わかった」


 ・・・ソニアちゃん、ソニアちゃん


(・・・え? マリちゃん!? どうしたの? こんな夜に)


 今、ミーファおばさんに頼まれて村の名前を考えてるの。ソニアちゃん村は嫌?


(村の名前? そういえば無かったね。・・・って、ソニアちゃん村は嫌だよ!)


 そっかぁ、何かいい名前ないかな?


(マリちゃんの好きな名前でいんじゃない? ソニアちゃん村以外で。どうしても思いつかないなら、適当にそこら辺のものから取って付けたらいいよ。どうせ村の皆は名前なんて気にしてないんだから、そんなに悩まなくても適当に付けちゃえ!)


 適当に? 大丈夫かなぁ?


(大丈夫だよ! 何年も経てばどんな名前だってしっくりくるようになるんだから!)


 なんか・・・ソニアちゃんらしいね。 そう言われてみれば適当でもいい気がしてきたよ


(そうそう! その調子だ・・・うわぁ!! ちょっといい加減に・・・・!)



「ソニアちゃんの声、聞こえなくなっちゃた」

「先輩忙しそうですね」


 ・・・そこら辺のものから適当に、かぁ。


私は寝返りをうって、窓の外を見た。そこからはミドリちゃんが植えた大きなクルミの木が見えた。


「これでいいや!」


ソニアちゃんのお陰で悩みの種があっさり解決した私は、スッキリとした気持ちで眠りについた。

読んでくださりありがとうございます。これで2章はおしまいです。次話から3章スタートです。

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