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ちっちゃい妖精さんになりました! 暇なので近くにいた少年についていきます  作者: SHIRA
第2章 グルメな妖精と絶景のブルーメ
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74.【ヨーム】居場所を求めて

「地下の禁書を読んだらしいな? どうやって入った?」


派手な装飾の椅子に座った父上が怒りと焦りを感じさせる声色でそう言い、僕を見下ろす。その目に子を想う愛情など一切ない。


 これは、流石にまずいな。最悪処刑、良くて死ぬまで監禁だ。どこでバレた? 兄上か? ・・・いや、そんなことより早く逃げなくては・・・。


「父上、母上、今まで育ててくれたことには感謝しています。さようなら」


僕はその言葉を最後に故郷であるこの国から亡命した。趣味で集めていた大量の魔石と貯金を全て持って、生まれ育った故郷を捨てた。


「さて、どこへ行きますかね・・・」


ただ何となく国から国へ渡っている最中に気になる噂を聞きました。「グリューン王国で見たことない色の妖精が現れた」と。その噂を聞いて、僕はグリューン王国に行くことにしました。


 そうですか。見たことのない色・・・ですか。


「この国は・・・以前来た時と比べて、かなり変わりましたね」


以前来た時は国民全員が妖精に怯えていました。僕が妖精の話をすると必ず言葉を濁して逃げていくのです。あの時は一緒に同行していた兄上が暴走して大変でしたね。


 過去の出来事が原因らしいですが、過去は過去でしょう。今を生きる僕らに過去なんて関係ありません。僕は歴史を追及こそすれど、それに囚われるような生き方はしたくありません。やりたい事だけやって生きていきたいです。まぁ、その結果、亡命する羽目になったのですが。


僕が子供の頃に来た時と違い、今は国中が妖精のことで盛り上がっています。可愛い妖精が国を救ってくれた。辺境の村にたまに遊びにくるらしい。その妖精は子供に懐いている。胸が大きい。・・・などなど、この国に入ってから色々な噂を聞きました。


 これは・・・妖精が目撃されたことは事実と考えてよさそうですね。


「ブルーメとの間の海で古代の遺物が見つかったらしいぞ」


遺物の研究が生き甲斐の僕にとって、聞き逃せない噂でした。


 妖精が遊びに来るという村にも行きたいですが、村は後回しにしてあちらを優先した方がよさそうですね。

 妖精には寿命がありませんし、遥か昔と違って、現在の妖精はその土地から離れることは滅多にないです。けれど、古代の遺物は違います。発見されたあとは、どこかの物好きな富豪か、国の上層部、またはギルドに渡されるハズです。


 その前に確保しなくてはいけませんね。


僕は港町に着き、捨てた故郷の威厳を何の躊躇いもなく使い、古代の遺物を発見した者から良い額で買い取った。


 ・・・買い取ったはいいものの、やはり、この遺物の動力源となっているであろう黄色い魔石を解明しないことには何も分かりませんね。禁書の内容から魔法の種類はなんとなく想像出来ますが、魔法を発動出来なければ想像出来たところで意味がありません。そして、その魔法を再現しようとしても、実際に魔法を見てみないことには何も出来ません。


 どこかに黄色い魔石の適性を持っている方が居ればいいのですが・・・いいるわけないですよね。やはり例の『見たことない色の妖精』の方を調査してみるべきですかね。


そう考え事をしながら宿に戻っていました。すると、上から突然幼い女の子を抱いた少年が降ってきたのです。それにも驚いたのですが、さらに驚いたのが、少年に続いて降りてきた妖精。現実では見たことのない黄金色の髪に、どこか人間らしさがある青い瞳、そして髪と似た色の羽を背中につけた可愛らしい妖精。


 見たことない色・・・金髪碧眼の妖精ですか。本当に存在したんですね。それも、まさかこんなところでバッタリ出会ってしまうとは、普段は不運な僕ですが、今日は強運かもしれません。


僕は物語でしか見たことのないような金髪の妖精を目の前に興奮が抑えられず、その勢いのまま妖精と少年達を遺物のもとへ連れて行きました。そこでまさか妖精では無く、抱かれていた幼い女の子が予想外の事態を起こすとは知らずに・・・。


・・・。


ブルーメに着いたあとは、まさに不運の連続だった。砂浜に着地した際に足を怪我して動けなくなり、風邪をひいて動けなくなり、港町の宿では追加料金が発生し、一度港町まで戻って荷物を取りに行く羽目に・・・。


「戻りました~、いや~メバチの魔石をリュックに入れっぱなしで、またずぶ濡れになってしまいました」


宿に戻り、カカさんに言われるまま二階の部屋に戻る最中、マリさんとすれ違った。今まで誰も発動させることが出来なかった古代の魔石を発動させたマリさん。僕の失言で嫌われてしまったマリさん。


「戻りました。・・・あ、そうそう。マリさんには是非魔石の研究を手伝って欲しいのですが・・・」

「・・・」


 無視ですか・・・。今まで子供に好かれたいと思ったことはありませんが、流石にここまで嫌われると少しショックですね。マリさんには是非とも研究に協力して欲しいですし。


僕は部屋に戻り、水の山の噴射で濡れた髪や服を乾かしながら考える。


 マリさんが黄色い魔石を発動させたことで思い至った仮説ですが、魔石を扱う際の属性の適正は幼少期、もしくは胎児の時にいる場所に左右される。正確にはその時に付近にいる大妖精に影響される可能性が高い。闇の適正だけは例外みたいですが・・・。


「闇系列の妖精の目撃例は2000年前を最後に、一度もないんですよね。本当に存在するかも怪しんでいる者もいますが、闇の適性を持つ者がいる限り、今も存在はしているのでしょう」


 大妖精の影響力は今もなお健在です。全盛期に比べてだいぶ力を失ったらしいですが、それでも侮れない。大妖精が長くその土地に留まることで、何もない砂漠は緑豊かな森になり、溶岩あふれる危険な火山は水が噴き出る水の山になったと言われているくらいです。


「やはり、ソニアさんが鍵になっていますね」


 それを確かめるためには、マリさんの協力は必要不可欠です。出来ればソニアさんに協力して欲しいところですが、妖精の思考は人間の僕達には理解出来ません。予想もできない突飛なことをされて危険な目に合うことは避けたいです。


髪と服を乾かし終わった僕はベッドに潜り、マリさんに協力してもらう方法を考える。そして、夕食の場でソニアさんの提案によって料理大会が開かれることを知った。


 これは、使えますね。


色々と条件をつけられましたが、料理大会でマリさんに勝てば協力してくれることになりました。

それから僕は宿の厨房を借りてお魚料理を研究していました。視界の端では時々「いたっ」と指を切りながらも真剣な目で包丁を持つマリさんの姿があります。


「マリちゃんどうしよう!? ソニアちゃんがネックレスに入っちゃった!」


突然焦った表情を浮かべたジェシーさんが厨房に入って来ました。ソニアさんがネックレスの中に入って出られなくなった、と。直物や土の中に入る妖精が他にもいるので、それ自体は珍しいことではありません。ですが、出られなくなった、というのがおかしいです。


「もしかして・・・ソニアさんはあまり長く生きていないのでは?」

「ううん、ソニアちゃんはもう8歳なんだよ。私と同じで」


 ・・・やはりそうですか。魔石の適正は幼少期に近くにいる大妖精に影響される。今まで古代の魔石を発動出来る者が居なかった理由、ソニアさんと同じ時期に産まれたマリさんが発動出来た理由。僕の中でかちりとピースがハマった音がした。・・・新たな疑問も増えてしまいましたけど。


そして翌日、食堂で遅めの昼食を頂いていた僕は、ソニアさんとディルさんから予想外のことを言われました。ディルさんがあの古代の魔石を発動させた、と。ディルさんの話を聞く限り、妖精の祝福ではないかと思った。


 ・・・なんてことだろう! 物語の中でしか存在しないと思われていた妖精の祝福を、今! 僕が確認したんです!


初対面で興奮してディルさん達に引かれたことを思い出して、必死に冷静を装いながら話を続けます。


「ただ、この魔石は少なくとも2000年くらいは昔の物です。ソニアさんはまだマリさんと同じくらいしか生きてないんですよね?」

「そだね」


ソニアさんの呑気な返事を聞いて、僕は思考の海に潜る。


 ・・・禁書の内容から色々と仮説は立てられますが、やはりまだ情報が少ないですね。


それから、僕はディルさんにもあわよくば協力して貰えないかと武の大会に出てディルさんと戦いましたが・・・負けました。


 ・・・慣れないことをするものではありませんね。


料理大会当日、皆が武の大会を観戦している中、僕は料理大会で使うための魚を確保するために、砂浜から小舟を出してデンガさんに教わった釣りというものをしていました。何故かこんな浅瀬にいるハズのない魚や魔物が泳いでいたお陰で想定よりもかなりレアな魚を確保出来ました。いい結果に満足した僕は、岩陰に隠してある壊れた遺物と確保した魚を水球に入れて砂浜を離れた。


僕はその魚を宿に持ち帰り、一部分を切り落として味見していた。するとマリさんとジェシーが厨房に入って来て、小さな魚を手に持つと、僕の魚に驚きながら厨房を出ていった。


 マリさん達がここに魚を取りに来たということは、武の大会が終わったんですね。僕もそろそろ会場に向かいますか。


魚を水球に入れて厨房を出ると、宿の外が何やら騒がしいことに気が付いた。


「いいよな嬢ちゃんは、あの妖精に気に入られてるんだから。適当に魚を切るだけで優勝できるんだろ?」

「ちょ、ちょっと! マリちゃんはちゃんと美味しい料理を作れるわよ!」


 知らない男性の声とジェシーさんの声・・・言い争っている?


「美味しい料理ねぇ・・・妖精に何かアドバイスでも貰ってんじゃねぇのか? いいよな、楽して勝てて、俺達が必死になって試行錯誤しても、お前がいたら優勝出来ないんだ」

「マリちゃん、こんな人達のいう事なんか聞くことないわ、行きましょ」

「あ、おい! 待てよ!」

「きゃあ!」

「お母さん!」


只事じゃない雰囲気を感じ取り、僕は急いで玄関の扉を開けた。そこには2人の男と、男に腕を掴まれたジェシーさん、それを放させようと、持っていた魚を地面に放り投げて男の腕を掴む涙目のマリさんの姿があった。


 ・・・腹が立ちますね。


僕はジェシーさんの手を掴んでいる男の腹部を思いっ切り殴った。男は「うぐぅ」と悲痛な声を上げて蹲る。ジェシーさんとマリさんが突然現れた僕に目を見開いて驚いている。その様子を横目に見つつ、僕は蹲った男をもう片方の立ち尽くして啞然としている男の方へ蹴り飛ばす。


「マリさんは努力しています。 厨房で真剣に魚と向き合っていたマリさんを僕は知っています。何度も何度も試行錯誤して、頑張っていたことを知っています。この切り傷だらけの小さな手を見れば分かるでしょう? マリさんは妖精など関係なくお前達みたいな小物が敵う相手ではありません!」


僕がそう言いながら、一歩男達に近付くと、「すまなかった!」と言いながら勢い良く逃げていった。


 大したことないですね。この程度の奴らなら僕が出るまでも無かったでしょうか。


「ヨーム、ありがとう。助かったわ」

「いえ、邪魔だったから退かしただけですよ。マリさん、大丈夫ですか?」


マリさんは目元と顔を赤くしながら僕を見ています。きっと怖かったんでしょう。僕は屈んでマリさんの頭の上にそっと手を置き、出来るだけ優しい声で声を掛ける。


「あんな奴らの言う事を気にする必要はありません。もしマリさんが優勝したとしら、それはマリさんの努力の結果です。マリさんと同じ空間で魚を研究していた僕はそう思います。ソニアさんもそれは分かっていると思いますよ」

「・・・うん。ありがとう」


マリさんが小さな手で僕の手を掴んで笑いました。


その後、マリさんの魚を僕の水球に入れて汚れを落としながら会場に向かい、料理大会に参加した。結果はマリさんと同率で優勝で、お互いのお願いを聞くことになった。


「ヨームは村に帰るまで私の荷物係だからね」

「分ってますよ。そして、マリさんは村に帰ったら僕の研究を手伝ってくださいよ?」

「うん、ヨームも妖精さんのお話聞かせてね」

「移動中にでも話しますよ。いい暇つぶしになるでしょう」


 ・・・本当はソニアさん達に同行したかったのですが、突飛な行動をする妖精のソニアさんと、大人顔負けの強さとしぶとさを持つディルさんに僕が付いていけるとは思えませんからね。それに、ソニアさんと共に行動していれば、その内僕の居た国の連中に絡まれそうです。それは普通に嫌ですね。


・・・。



「マリちゃん・・・泣かないで・・・、ぐすっ・・・笑ってお別れしようよ! ね?」

「・・・うん、うん、笑って・・・お別れ・・・うぇ・・・ソニアちゃん・・・うわぁぁん!」


ソニアさんとマリさんが涙ぐみながらお別れをしている最中、信じられないことが起こりました。水の山が噴射したあと、その上空に七色の半球が現れたのです。そして、その絶景に呆気にとられている間に、新しい妖精が誕生した。


 グリューン王国に来て良かったです!こんなに心躍ったのは生まれて初めてですよ! やはりソニアさんは・・・


・・・。



ソニアさん達と別れて、グリューン王国に向かう船の列に並んでいると、背の低い男性が僕達に話しかけてきました。


「なぁ、あんたら! 黒髪の坊主の知り合いだろ!?」


 黒髪の坊主? ディルさんのことですよね。


「お前は・・・武の大会に出てた・・・ジイダムだったか。ディルがどうかしたのか?」


デンガさんが僕達を代表して答える。


「それが、オードム王国に行く船だったんだが、今南の砂浜に海賊船が停まっているらしくてな、急遽西側の港から出航することになったんだが・・・あの坊主はどこにいる?」

「ディルならもう砂浜に向かったぞ。今頃もう砂浜に着いてるんじゃないか?」

「クソッ、なんてことだ!」


そう言ってジイダムは慌てて駆けだしていった。


「お父さん、ソニアちゃん達大丈夫かな?」

「ん? 大丈夫だろ。それくらい何とか出来ないと妖精と一緒に旅なんて無理だ。安心しろ、ディルも強いし、あの妖精も規格外な力を持ってる。むしろ海賊達が心配になってきたな・・・」


 ・・・やっぱりあの2人に付いて行かなくて正解でしたね。


僕はマリさん達の村に行く。居場所を失った僕の居場所になることを期待して。新しい発見を願って。

読んでくださりありがとうございます。 ヨーム視点のお話でした。

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