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ちっちゃい妖精さんになりました! 暇なので近くにいた少年についていきます  作者: SHIRA
第2章 グルメな妖精と絶景のブルーメ
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73.【ディル】俺の隣で笑うのは

「「しょ、勝者はデンガ選手!! まさかあの水の魔石をこのように使うとは! パンクロック選手の隙をついた見事な戦略でした!」」


たった今、俺の決勝の相手がデンガに決まった。観客席で観戦していた俺はソニア達から激励の言葉を貰って控室に戻る。


「お、戻ったか。ディル」


控室では、デンガとパンクロックが魔石の治療を受けていた。俺はデンガの近くにある椅子に腰を下ろして気になっていたことを聞く。


「なぁ、前に負けた方が勝った方の言う事を何でも聞くって約束しただろ?」

「そうだな。お前は勝ったら俺に何をさせる気だ?」


デンガがニヤッと挑発的な笑みを浮かべて俺を見る。どうせお前は勝てないけどな、というデンガの心の声が聞こえるみたいだ。俺は少し考えたあと、「じゃあ」と口を開く。


「デンガが持っている一番高い武器か防具・・・素材でもいいから何か1つ貰いたい」


 正直、別にデンガにして欲しいことなんてそんなに無いんだよな。


「一番高い・・・か。ずいぶんと大きく出たな」

「そうか? 一つくらいいいだろ」


 そう言いながら俺はデンガの脛を蹴る・・・が、あっさり躱された。


「ま、一度帰って取りに行かなきゃならないが、いいぞ」


デンガが「勝てたらだけどな」と笑う。

 

「デンガは決まってるのか? 俺に勝った時のこと」

「決めて無かったなぁ・・・、あ、そうだ、ディル」

「なんだ?」


デンガは一度息を吐いて、真面目な顔を作って俺を真っ直ぐに見る。何を言い出すのか、俺は少し背筋を正してデンガを見る。


「お前、あの妖精のこと、どう思ってるんだ?」

「・・・は!? あの妖精ってソニアのことか!?」


いきなり突拍子もないことを言われた俺は驚いて椅子から転げ落ちそうになる。


「いきなり何なんだよ・・・」

「いいから答えろ」


デンガが普段からは想像出来ないほど真剣な目をしているせいで、嫌な汗が流れる。


 これは、茶化して躱すのは難しそうだな。


「ソニアは・・・俺の恩人だ。友達も家族もいなくなった俺に寄り添ってくれて、幸せな時間を取り戻してくれた。ソニアが居なかったら村は無くなってたし、俺もこんな風に何かを楽しめる余裕は無かったと思う。だから、ソニアは俺の大切な恩人で、俺が俺であるために必要な存在だ」


俺は言ってて恥ずかしくなり、少しデンガから目線を逸らしながら言った。すると、魔石の治療を終えたデンガは俺の視線の先に移動して、何かを確認するような目で俺の顔を覗き込む。


「本当にそれだけか?」


 ・・・ハァ、この師匠はガサツそうに見えて意外と人のことを見てるんだよなぁ。


「・・・好きだよ」

「俺のことが・・・か?」

「ちげーよ!! もう! 分かってて言ってるだろ!」

「ハハハッ、他の奴らが気づいてるかは知らねえけどな。それで、好きって言うのは友達として、とかそういうんじゃないんだろ?」


デンガのニヤニヤが腹立つけど、誤魔化しても無駄そうだ。俺は観念して誰にも言っていない心の内を少し暴露することにした。


「俺はソニアのことが、異性として、女の子として好きだ」

「ほぉ? いつからだ?」

「自覚したのは最近だけど・・・恥ずかしいから言わないぞ」




自覚したのは、ブルーメに来た最初の夜だった。


初めて村から遠く離れたせいか、あまり眠れなかった俺は夜のブルーメを散歩して、特に何かが変わるわけでもなく陰鬱とした気分で宿に戻った。そしたら、両手を上げてバンザイの姿勢でぐっすりと寝ていたハズのソニアが起きていて、話の流れで今度はソニアと一緒に散歩することになった。


さっきまで1人で歩いていた道を、ソニアと2人で歩いている。


「なんか、久しぶりに2人きりだねー」


真っ暗な夜の中、俺の頭の上から降りたソニアが羽をキラキラとさせながら言った。その出会った時から変わらない無邪気な笑顔を見て、俺の心臓がドクンと大きく波打った。陰鬱とした気分の暗闇の中、一際目立つその笑顔が綺麗だと思った。ずっと見ていたい。そう思った時には俺の口から言う予定の無かった言葉が発せられていた。


「綺麗だな」


 ・・・しまった!


思わず視線を地面に滑らせた。恐る恐ると視線を上げてソニアを見ると、羽をパタパタさせ、顔を真っ赤にして口を開けっ放しにしていた。羽をパタパタさせるのはソニアが動揺したり、噓を吐いたりする時の特徴だ。


 俺の言葉で照れてるのか? ・・・可愛い。あのソニアでも、こんな表情をするんだな。もっと色んな顔が見てみたい。俺以外にこんな顔をしてほしくない。ずっと一緒に傍で見ていたい。


俺は気付いた。俺に幸せを取り戻してくれたソニアに、恩でも友情でもない感情を抱いていることに。


 そうか・・・。俺はソニアのことが()()なのか。



 そう自覚してからは、マヌケだと思っていたソニアの寝相も愛らしいと思うようになったし、ソニアの何気ないスキンシップや、些細な動きで心がドキドキすようになったんだよな。


 それに、今まではソニアの胸にあんなに視線が奪われることも、ソニアのスカートが心許ないと思うことも無かった。・・・あれ? なんか俺って変態みたいじゃないか!? いや、男なら普通だ!


俺が自分の思考で羞恥に悶えていると、デンガが俺の前に顔をやってニィと笑った。


「よし! 俺が勝ったら妖精に告白しろ!」


手をパンッと叩いて、意地悪そうな顔で、でも真剣な目で俺を見る。


「は・・・はぁ!?」


俺は椅子から転げ落ちた。


「そ、そんなこと出来るわけないだろ!」


俺は椅子に座り直しながらデンガを睨む。


「なんでだよ」

「いや、だって、絶対俺の片思いだし・・・ソニアを困らせるだけだよ」


 ・・・それに、俺は人間で、ソニアは妖精だ。体のサイズも寿命も違い過ぎる。


「確かにそうだな」


 うっ・・・否定しないのかよ。いや、その通りなんだけどさ。どうせソニアは友人か、もしかしたら弟みたいに俺のことを思ってるんだろう。俺の方が歳上なのに。


「じゃあ、もう、俺が勝ったら何でもいいから妖精を口説け」


デンガがやや投げやり気味に言う。


「口説けって・・・どうやるんだよ」


 俺がそういう目で見るのは後にも先にもソニアだけだ。口説くなんて経験あるわけない。


「まぁ、お前の歳じゃ難しいか。・・・そうだな。率直にお前が妖精に対して思ったけど、恥ずかしく言えなかった、もしくは言わなかったことって無いか?」


俺は過去の自分を思い出す。「可愛い」「綺麗」「好き」「大きい」・・・恥ずかしくて言えなかったことはたくさんある。


「・・・あるけど」

「じゃあそれを言え」

「そんなことでいいのか? それで口説くことになるのか?」

「そんなことが意外と難しいんだぞ」


 流石、三年もジェシーにプロポーズ出来ずにいただけはあるな。説得力がある。でも、それも俺が負けたらの話だけどな。


「ディル選手、デンガ選手、中央の準備が終わりました」


係りの人に案内されて、俺とデンガは中央に続く廊下まで歩く。


「・・・っていうか、ソニアに勝負の賭けのこと聞かれたら何て答えればいいんだよ」


 ソニアを口説くよう言われた、なんて、それこそ恥ずかしくて言えないよ。


「マリの兄になってくれ」

「え?」

「マリは妖精のことだけじゃなくて、お前のことも大切に・・・本当の兄のように慕ってる。だから、マリの兄として、ちゃんと村に戻ってこいよ」

「そんなこと、勝敗に関係なく了承するよ」


俺はデンガと拳を突き合わせた。


「「今大会最年少にして様々な対戦相手を武器を持たずに倒し、決勝まで勝ち進んだ黒髪黒目の闇の魔石を扱うディル選手!!」」


隣の国の騎士団長様の声が響く。いよいよ決勝戦だ。


・・・・・・



「「試合終了ーー! 今大会の優勝者はデンガ選手です!!」」


 ・・・負けた。なんでか今まで勝てなかったデンガに勝てると思っていた。大会だから? 今までと違う環境だから? 暫くデンガと会えなくなるから? ・・・違う。ソニアが応援してくれたからだ。


俺は仰向けになっていつもと変わらない青空を見つめる。


 ソニアが応援してくれてたからって俺の力が強くなるわけでも、デンガが弱くなるわけでもない。俺もデンガも実力はいつもと変わらなかっただけだ。だからいつも通り負けたんだ。・・・じゃあ、どうしたら勝てたんだ?


胸の上に何かがポトっと落ちてきた。


「ソニアか?」

「うん」


ソニアの心地の良い可愛い高い声が胸に響く。


「・・・負けた」

「見てたよ」


ソニアの優しい言葉が心に染みる。俺は大きく深呼吸して泣きそうになるのを我慢する。


「やっぱり俺の師匠は強いなぁ・・・」


 ・・・そして、まだまだ俺は弱いなぁ。


「ディルも強かったよ」

「これじゃあ、お父さんに追いつくなんて夢のまた夢だな」


 ・・・頑張って修業してきたんだけどなぁ。


「じゃあ、今よりももっと頑張って強くならないとね!」

「・・・うん、ああ、そうだな」


ソニアが俺の胸を優しく撫でながら励ましてくれる。


 ソニアは俺が落ち込んだ時、俺の欲しい言葉をくれる。このままじゃ駄目だ。このままじゃ、いつまで経っても俺はソニアの弟ポジションから抜け出せない。・・・そうだな。もっと頑張らないと!


アザレアに言われてソニアと一緒に退場する。ふとデンガに口説けと言われたことを思い出した。


 何を言えばいいんだ!?


俺が内心であわあわしているうちに、魔石の治療が終わり、表彰式が始まる時間になる。中央に向かう廊下を歩く最中、そういえばソニアに応援してもらったお礼を言ってなかったなと思った。


「ソニア、遅くなったけど応援してくれてありがとうな。凄く嬉しかったし、心強かったぞ」


指でソニアの小さな頭をポンポンと慎重に撫でながら言った。すると、ソニアはその感触を確かめるように頭に手を当てて「えへへ」と可愛く破顔した。


 ・・・なんだぞの仕草! 可愛いすぎる!


『率直にお前が妖精に対して思ったけど、恥ずかしく言えなかった、もしくは言わなかったことって無いか?』


デンガが言っていた言葉が脳内に響いた。


 ・・・言ってみるか? もっと頑張るって決めたんだ。こういうところで攻めていかなくちゃ男が廃る!


「可愛いな」


その瞬間、ソニアが固まった。


 ・・・失敗したか? いや、ちがう。羽がめっちゃ動いてる!


「ハハハッ、そんなに羽をパタパタさせないでくれ! くすぐったいから!」



 明日、俺とソニアはブルーメを発つ。2人きりになるんだ。デンガ達と別れるのは寂しくはあるけど、ソニアとこういうやりとりが出来ると思うと、俺が想像していた旅よりもずっと楽しい旅になりそうだ。よろしくな、ソニア。

読んでくださりありがとうございます。デンガにも応援してくれていた存在がいたことを見落としている成長途中のディルと、そんなディルを励ましながらも、ちゃっかりとディルの胸筋を堪能していたソニアでした。

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