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ちっちゃい妖精さんになりました! 暇なので近くにいた少年についていきます  作者: SHIRA
第2章 グルメな妖精と絶景のブルーメ
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72.わたしの願い、ブルーメの絶景

「ソニアちゃん、ソニアちゃん、起きて、朝だよ」


 ・・・あ、そうだ! 今日はブルーメを発つ日だ!


わたしはマリちゃんに優しく起こされて、髪を丁寧に梳かされる。


「マリちゃん達はいつ村に帰るの?」


髪を梳かしてくれてるマリちゃんに聞いたら、マリちゃんは首を傾げてジェシーを見た。


「お母さん、私達っていつ帰るの?」

「今日のお昼に出発する船に乗って帰るつもりよ。言ってなかったかしら?」

「聞いてないよ~」


そう言ってマリちゃんは頬を膨らませた。


「ほら、支度が出来たら下に行くわよ」


ジェシーが不揃いになっていたわたしのサイドを整えてから、食堂に向かう。

食堂に移動すると、いつものメンバーに加えて、アンナと赤ん坊がいた。わたしはマリちゃんにテーブルの上に置かれ、朝食を食べさせられる。


「そういえば、ヨームはこのあとどうするの?」


 マリちゃんと色々と約束してるみたいだけど。


向かいで焼き魚を美味しそうに頬張っているヨームがチラッとマリちゃんを見たあと、わたしの質問に答えてくれる。


「僕もマリさん達に同行して村に行く予定ですよ。暫くはそこで生活しようかと思ってます」


 おお!いいね、そのまま移住したらいい!


「暫くとは言わず、普通に村に移住してもいいんだぞ」


わたしが思っていたことを、そのままディルが言った。


「まぁ、ディルさんが村に帰ってくるまでは滞在しているかもしれませんね」

「どれくらいで帰れるか分からないけどな」


 下手したら何年も戻ってこない可能性もあるもんね。現にディルの両親は10年近く戻ってきてないわけだし。本当・・・自分の子供を放って置いて何してるんだろうね。


「ヨームは村に帰るまで私の荷物係だからね」

「分ってますよ。そして、マリさんは村に帰ったら僕の研究を手伝ってくださいよ?」

「うん、ヨームも妖精さんのお話聞かせてね」

「移動中にでも話しますよ。いい暇つぶしになるでしょう」


 うーん・・・、やっぱりこの二人の雰囲気変わってるよね。


「ねぇ、ジェシー。マリちゃんとヨームって何かあった? ブルーメに来た時と比べて明らかに雰囲気が柔らかくなってる気がするんだけど・・・」


わたしがマリちゃんの隣に座っているジェシーに尋ねると、「ああ、それね」と訳知り顔で答えてくれる。


「実は、料理大会の前、お魚を取りに宿に一度戻った時に質の悪い男の人達に絡まれたのよ」

「えぇ! そうだったの!? 大丈夫だった? 怪我とかしなかった?」

「フフフッ、そんなに心配しなくても大丈夫よ。ヨームが助けてくれたからね」


ジェシーがそう言ってニマニマと笑いながらヨームを見た。ヨームは少し視線を逸らして口を開く。


「別に、宿の前で騒がれて邪魔だったから退かしただけですよ」

「そう言う割には、ちゃんと感情を込めてマリちゃんを馬鹿にしてた奴らを怒ってくれたじゃない。あの時のマリちゃんの呆けた顔と言ったら・・・まるで初恋に・・・」

「お母さん!」


・・・まさかね? まさかマリちゃんがヨームに・・・てことないよね?


マリちゃんが顔を真っ赤にしてジェシーをパシパシと叩く。周囲の皆が微笑ましい目でマリちゃんを見ている。すると、ずっと静かにご飯を食べていたアンナが「フフッ」と笑った。


「まさかこんな風に笑って美味しい食事が出来るなんて・・・昨日までの私には想像出来なかったわ」


別の席で赤ん坊をあやしているカカを見て幸せそうに微笑んだ。


「ねぇ、赤ちゃんの名前は何て言うの?」


マリちゃんがニコニコと赤ん坊を見ながらアンナに尋ねる。


「アンズよ。女の子なの」

「へぇー! 可愛いね。私も新しく弟か妹が欲しいなぁ~」


マリちゃんの無邪気な言葉を聞いたデンガとカカが目を合わせて顔を赤くする。


「まぁ・・・何年後かには・・・な?」

「フフッ、マリちゃん、もしかしたら近いうちに出来るかもしれないわよ」

「え、本当!?」

「ジェ、ジェシー!?」


デンガが目を丸くしてジェシーを見つめる。甘ったるい空気が二人の間に出来ている。それを羨ましそうに見ていたプラティが「ハァ」と溜息を吐く。


「私もそろそろ結婚したいなぁ・・・」

「そういえば、プラティの彼氏とは結局話してないな~」


 わたしも話してないなぁ。ちょっと気になってたんだけどな。


「俺は話したぞ。昨日のおつかれさま会でプラティの兄としてな。うちの妹と結婚したいならもっと強くなれ! ・・・って激励しておいた」

「もう! お兄ちゃんのせいでグアテマが余計修業ばっかりで私に構ってくれなくなっちゃうじゃない!」


プラティがそう言いながらゲシゲシとデンガの足を蹴る。ジェシーが宥めるようにプラティの肩に手を置いた。


「いいじゃないプラティちゃん。彼氏さんはプラティちゃんの為に強くなろうとしてるんだから」

「それは・・・分かってるけどぉ」


その様子を見ていたカカが「子供が成長するのは早いねぇ」としみじみと言う。


食事を終えたわたし達は荷物を整理するために部屋に戻る。日用品以外のほとんどの荷物は男性側の部屋にあるため、そっちに集まっている。


「あ、そうだ。ソニアちゃん、今のうちにコレ渡しておくわね」


ジェシーはそう言いながら、両掌に収まるくらいの布袋をポンっとわたしではなくディルに渡した。


 わたしだと重くて持てないからね。荷物係はディルだ。


「これはソニアちゃんの衣服よ。ソニアちゃんってあの白いワンピースと今着てる青いワンピースしか持ってないでしょう? 時間がある時に作ってたのよ」

「わぁ、嬉しい! 見ていい!?」


ディルの手にある布袋をギュッと掴んで開けようとしたら、ジェシーに首根っこを摘まれて止められた。


「あとで、着替えるときに見た方がいいわよ。下着とかも入ってるからね。ディル君、勝手に見ちゃだめよ?」

「・・・見ないよ!!」


 新しい服かぁ、どんなのがあるんだろう? オードム王国に着く前に着替えたいな。楽しみ!


「それじゃあ、忘れ物はない? そろそろ出発するわよ」


わたし達は荷物を持って一階に降りる。


「はぁ、寂しくなるねぇ」

「また近いうちに帰ってくるさ」


カカとデンガが「また」と笑い合う。


「カカ、島に来た時に助けてくれてありがとう! プラティとアンナもこれから頑張ってね!」


わたしが3人にニコリと笑ってそう言うと、ディルとマリちゃんもカカとプラティに声を掛ける。


「カカさん、ありがとうございました」

「2人のお陰で俺達はデンガとジェシーと合流できたし、金銭的にもだいぶ助かった。ありがとう、カカ」


ディルとマリちゃんがお礼を言うと、2人も柔らかい笑みを作って応えてくれる。


「こっちこそ、食堂の手伝いは助かったし、料理大会のお陰でブルーメも活気づきそうだ。ソニアちゃん達はこれから大変だろうけど、自分たちの幸せを最優先に、諦めずに頑張るんだよ」

「たくさんお魚料理を創作するから、またブルーメに来てね!」


2人がわたし達にお別れの挨拶をしたのを確認して、アンナが一歩前に出る。


「ソニア様、皆さん、色々と便宜を図ってくださってありがとうございました。お元気で」


皆とお別れを済ましたわたし達はそれぞれが乗る船に向かう。わたしとディルが乗る船は南側の砂浜近くに、マリちゃん達が乗る船は西側にあるので、途中の分かれ道でお別れだ。


「ソニア、・・・俺達はこっちだぞ」


見晴らしのいい大きな橋の上で、わたしはディルに呼び止められる。それを聞いたデンガ達がわたしとディルの方に振り返る。


「いよいよお別れだな。ディル、しっかりと自分の大切なものを守って、約束通りマリの兄として、自分の両親を連れて戻ってこい」

「うん・・・師匠! 今まで鍛えてくれてありがとうございました!」


デンガがガシッとディルの頭を鷲掴みにして、わしゃわしゃと乱暴に撫でる。


「ソニアちゃん、妖精には心配ないことかもしれないけど、体に気を付けてね。それと、あまりディル君を振り回して困らせちゃダメよ? 村でしていたみたいな悪戯もほどほどにね? それから・・・」

「もう・・・ジェシー、お母さんみたいだよ!」

「お母さんだもの。私はマリちゃんのお母さんで、ソニアちゃんはマリちゃんの妹でしょ? お母さんみたいなものじゃない?」

「そうかなー?」

「そうなのよ」


ジェシーが少し身を引いて、そっとマリちゃんの背中を押した。


「マリちゃん」

「えっと・・・これ、あげる」


マリちゃんが震える手でもふもふ生地の小さな布をわたしに差し出した。わたしがそれを両手で受け取るのをじっと見ていたマリちゃんは、泣くのを必死に堪えながら説明してくれる。


「あのね、ソニアちゃん、いつも寝るとき布団がないでしょ? だから、ソニアちゃん用に小さいお布団を作ったの。それ、中に入れるんだよ?」


 あ、本当だ。寝袋みたいになってる!


「お母さんに教えてもらいながら、頑張って作ったの。お別れの・・・贈り物・・・だから・・・だいっ・・・じにっ・・・・うぅ・・・」


マリちゃんの目から大粒の涙が零れ落ちる。唇を震わせて、わたしを見上げる。


 ・・・ダメ! 泣かないで! マリちゃんとは笑顔でお別れしたいの! ジェシーとも約束したし、笑ってくれないと・・・わたしまで・・・。


「マリちゃん・・・泣かないで・・・、ぐすっ・・・笑ってお別れしようよ! ね?」

「・・・うん、うん、笑って・・・お別れ・・・うぇ・・・」


わたしが無理矢理笑ってマリちゃんの頭を撫でても、マリちゃんの涙は止まらない。


 ああ、どうしよう。マリちゃんが笑ってくれない・・・。


『寂しくなるな、と思ったのよ。マリちゃん、きっと泣くでしょうね・・・』

『泣かせないよ、笑ってまたねって言ってもらうんだから』

『ふふっ、言ったわね? 約束よ』


 あんな事言ったのに、結局泣いてお別れなんて・・・。それに、ジェシーとマリちゃんは餞別に贈り物をくれたのに、わたしからは何もあげられてない。情けないなぁ・・・。


「ソニアちゃん・・・うわぁぁん!」


 マリちゃん、泣かないで・・・。お願い、笑って、マリちゃんの笑顔でお別れしたいの・・・。じゃないと、わたしもマリちゃんも次に会う時までずっと後悔しちゃう。


 お願いだから笑って・・・!


ゴゴゴゴっと大きな音が鳴り、水の山が水を噴射した。ヨームとデンガが慌てて水の魔石を発動して、水球をわたし達の上に作って降り注ぐ水から守ってくれる。水が降りやむと、水球を消したデンガとヨームが口を開けたまま呆然と空を見上げていた。


「なんだ・・・あれ?」

「綺麗・・・ですね」


ディルとヨームが感嘆の声を出す。周囲の皆が水の山の上空をポカンとした顔で見ている。わたしもマリちゃんもつられるように泣きながら見上げる。


「わぁ・・・」

「すごぉい・・・」


虹があった。大きな綺麗な虹だ。水の山の上空にくっきりと大きな虹が架かっている。人間だった頃もこんなにも大きくてハッキリと見える虹は見たことがない。


「ソニアちゃん、綺麗だね!」


マリちゃんが頬を伝っていた涙をゴシゴシと拭いて弾けるように笑った。


 よかった・・・。よく分からないけどわたしのお願いは叶ったみたいだ。マリちゃんが笑ってるもん。そういえば、水の山が噴射するのを初めて見た時に感じた物足りなさはコレだったみたいだ。


わたしがマリちゃんに返事をしようとした瞬間、突然目の前がパーッと光った。あまりの眩しさに目を閉じたわたしが、恐る恐ると瞼を開けると、目の前で見知らぬ妖精が満面の笑みでわたしを見ていた。わたしと似た金色の髪にマリちゃんと同じショートヘアの女の子が、金色の目をパチクリとさせてわたしを見ている。


「え・・・妖精さん!?」

「誰!?」


わたしとマリちゃんが驚きの声を上げると、虹を見ていたディル達がわたしとマリちゃんの方を見て驚愕の表情を浮かべる。


「なっ・・・いつの間に現れたんですか!?」

「ソニアの知り合いか?」

「見たことない妖精さんね・・・」


わたしの前に現れた妖精は周囲をキョロキョロと見回したあと、もう一度わたしを見て口を開いた。


「初めまして! 私は虹の妖精です! 光の妖精の願いで産まれました!」

「・・・え?」


 待って待って! まず、わたしは光の妖精じゃないし、虹を願った記憶もないよ? 確か、偉い妖精のこんな自然があったらいいなって言う願いで新しい自然と一緒に新しい妖精が誕生するんだよね。


「えーっと、わたしは雷の妖精のソニアだよ」


とりあえず、自己紹介には自己紹介で返す。


「雷の妖精? ソニア? 分かりました! これからはソニア先輩って呼びますね!」


 ・・・先輩!? なんでそこで先輩!? ・・・なんだか人間だった頃に仲の良かった元気な後輩が脳裏をちらつくなぁ。というか、この世界に虹って無かったんだ・・・。


「あと、わたしは虹を願った記憶はないんだけど・・・」

「・・・でも、私は先輩のお願いで生まれましたよ?」


虹の妖精がコテッと首を傾げる。わたしもコテッと首を傾げる。


 まぁ・・・生まれたものは仕方がない。細かいことは考えないで、生まれたことを祝ってあげよう。


「とりあえず、生誕おめでとう! お陰でわたしもマリちゃんも笑顔でお別れできそうだよ!」

「お別れ?」

「うん、わたしとそこの黒髪の・・・ディルはこれから別の所に行くの。だからお別れ」

「お別れは悲しいものですよね?」

「う、うん。そうだね。ずっと会えなくなるし、当然お喋りも出来ないからね」


虹の妖精は何やら考え込んだあと、ポスっとマリちゃんの頭の上に座った。


「私がいれば、遠く離れててもお喋りは出来そうですよ!」

「え・・・どういうこと?」

「何でもいいからこの子に何か言葉を頭の中で送ってみてください!」


わたしは色々な疑問を飲み込んで、虹の妖精の言う通りにしてみる。


 ・・・マリちゃん、マリちゃん。

(・・・え? ソニアちゃん?)


わたしの頭の中に直接マリちゃんの声が響いた。


「え、すごい! これなら遠く離れててもお喋りが出来るね!」

「・・・うん!」


わたしとマリちゃんは喜び合っているけど、周囲はポカーンとしている。


「でも・・・虹の妖精がいないとダメなんだよね? 虹の妖精は・・・」


 マリちゃんと一緒に居てくれるわけじゃないよね。わたし達の事情で自由を奪いたくない。


「私はこの子と一緒にいるので大丈夫ですよ! なんだかこの子とは波長が合うんです!」

「本当!? やった! 私、マリって言うの! よろしくね!」


マリちゃんが両手を上げて喜ぶ。


「気を使ってない?」

「何ですかそれ? 私はマリちゃんと一緒に居たいから一緒に居るんです」

「そっか」


 なんだかわたしのポジションが取られたみたいで寂しいけど、マリちゃんが寂しい思いをしなくて良さそうで良かった!


「なんだかよく分からないけど、新しい妖精がマリと一緒にいれば遠く離れてても会話が出来るってことか?」

「うん! そゆこと!」


マリちゃん以外の皆はとりあえずディルの簡単な説明で納得したみたいだ。ヨームが興味深々に虹の妖精を見つめてるのが少し怖いけど・・・。


「ソニアちゃん、絶対に定期的に連絡してね! ディルお兄ちゃんも無茶しないでね! じゃないと今度は私が探しに行くからね!」


マリちゃんがわたし達に向かってウィンクをしながら「めっ」と指を立てる。


「うん! 必ず連絡するよ! マリちゃんも危ない男やヨームには気をつけるんだよ。またね! マリちゃん!」

「マリも、あんまりわがままを言ってお父さんとお母さんを困らせないようにな。じゃあな!」


わたしはマリちゃんの指を両手で握ってウィンクをする。その後、マリちゃん達はゆっくりとした足取りでわたしとディルとは反対側に歩いて行く。


「二人きりになっちゃったね」

「これからずっとだろ?」

「こうして皆とお別れをすると、これからいよいよ旅が始まるって感じだね!」

「だな、ソニアが一緒だとずっと楽しい旅になりそうだ。よろしくな」

読んでくださりありがとうございます。二章もう少し続きます。次話は別の人視点のお話です。

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