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ちっちゃい妖精さんになりました! 暇なので近くにいた少年についていきます  作者: SHIRA
第2章 グルメな妖精と絶景のブルーメ

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71.水の山とマリちゃんと

「ゼェ・・・ハァ・・・ハァ・・・、着いたぁ」


水の山の頂上で、マリちゃんを降ろしたディルが激しく肩を上下させながら仰向けに倒れ込んだ。


全力疾走だったもんね。しかもマリちゃんを背負いながら。


「早かったね~。流石ディル! マリちゃんは寒くない?」

「ちょっと寒いけど大丈夫だよ。お母さんに山頂に行くならって上着を貸してもらってるから。ぶかぶかだけど」


 さすがマリちゃんのお母さん、自称姉のわたしは絶対に敵わない。


「ディルは・・・大丈夫そうだね!」

「むしろ暑いくらいだな」


 汗だくだもんね。闇の魔石を使っていたとはいえ、それでも人間とは思えない凄い速さで登って来たもん。ディルに背負われてたマリちゃんが歯を食いしばって一言も発さなかったぐらい物凄い速さだった。素早く動くディルの足が少し気持ち悪いと思ったことは言わないでおく。


「ソニアちゃん、妖精さんはどこにいるの?」

「うん? 妖精ならここにいるじゃない! ほら! わたし!」


ニコーっとほっぺに指を当てて微笑んでみる。


「んもう・・・可愛い~!!」


マリちゃんに一通り頬ずりされたわたしは優しく膝の上に立たされる。微笑ましそうにわたしを見てたディルが池の方に視線を移す。


「それで、またあの池の中に入るのか?」

「ううん、わたしが水の妖精達を呼んでくるよ。ディルとマリちゃんはここで待っててね。すぐ戻ってくるから」

「俺の体温が下がる前に頼むな。マリ、ソニアが戻ってくるまで軽く体を動かしてようぜ」


ディルとマリちゃんが妙ちきりんな体操をし始めたのを横目に、わたしは池の中にポチャンと入った。


「あ、雷の妖精じゃないですか!」


池の中に入った瞬間、波の妖精に捕まった。


「水の妖精に用事ですか?」

「水の妖精と波の妖精に用事・・・というか明日ブルーメを発つから一応挨拶をって思ってきたんだよ」

「もういなくなっちゃうんですか・・・もっと一緒に遊びたかったです。・・・あ、今水の妖精を呼んできますね!」


暫く水の中をクルクルと回りながら待っていると、波の妖精が水の妖精の手を引っ張ってきた。水の妖精の髪は、まだわたしとマリちゃんとお揃いの髪型のままだ。


「さっきぶりですね。雷の妖精」

「だって水の妖精、料理大会が終わった途端に挨拶する間もなく帰っちゃうんだもん!」


 「淡白すぎるよ!」と睨む。すると、何故か波の妖精がわたしの前にずずいっと入ってきた。


「・・・っていうか聞いてくださいよ! 水の妖精ったら帰ってくるなり自慢話ばっかりしてくるんですよ! お魚が美味しかったとか、雷の妖精と一緒の席に座ったとか、私が水の山から離れられないことをいいことに!」

「波の妖精も一緒に来れば良かったじゃないですか。どうして来なかったんですか?」

「「・・・え?」」


 水の妖精が言ったんだよね!? 約束を守れなかった波の妖精に暫く水の山から出たら駄目だって・・・。


「えっと、その話はいったん置いといて、上でディルとマリちゃんが待ってるからそっちでお話しない?」

「ああ、小麦色の子供と雷の妖精のお気に入りの人間ですね。いいですよ。移動しましょう」


池から出ると、ディルとマリちゃんが輪になってクルクルと回っていた。


 なにそれ楽しそう!


「ディル、マリちゃん、お待たせ~」


わたしは水の妖精と波の妖精の手を引っ張って池の上から移動する。


「お、意外と早かったな」

「あ、妖精さん!」


マリちゃんが目をキラキラにして駆け寄ってきて、わたし達妖精をまとめてギュッと抱きしめた。


「んん~~! この前も思いましたけど元気で良い子ですね! マリちゃんでしたよね? このまま池の中に連れて行きたいです!」

「うんうん、気持ちは分かるけどマリちゃんは人間だから死んじゃうよ」


 ・・・あれ? 波の妖精は普通に名前で呼ぶんだ?


マリちゃんの膝の上に座らされたわたしは、同じく座らされた水の妖精と波の妖精を見比べる。波の妖精が「何ですか?」と首を傾げる。


「いや、波の妖精は普通にマリちゃんのことを名前で呼ぶんだなって・・・。わたしのことは雷の妖精って呼ぶのに」

「・・・? 雷の妖精も名前じゃないですか?」

「雷の妖精も名前だけど、ソニアも名前だよ。出来ればソニアって呼んでほしいな」

「いいですよ! ソニア」


 ・・・と言っても、わたしは明日にはもうブルーメに居ないんだけどね。もう少し早く言ってれば良かったな。


「そういえば、雷の妖精はこのあとどこに向かうんですか?」


水の妖精がわたしとディルを見ながら言う。


「えーっと・・・」

「オードム王国っていうところだ。ブルーメから海を渡ってずーっと南にある大陸の鍛冶が有名な国だ」


 そうそう、そんなところだったね。


「ここからずーっと南・・・土の妖精がいるところですね」

「あっ、確か偉い妖精同士で使える連絡手段があるんだよね」

「はい・・・、それよりもそろそろ山を下りたほうがいいんじゃないですか? 小麦色の子供が震えていますよ」

 

 ・・・本当だ! マリちゃんの膝の上に座ってるわたしも震えてる!


「たいへん! 早く宿に戻って温まらなきゃ風邪ひいちゃうよ!」

「なら、さっさと戻るぞ。マリも気を使わないで寒かったら寒いって言っていいんだぞ」

「さ、さむいぃ」


ディルが「ほれ」とマリちゃんに背中に乗るように促す。


「そんなことしなくても、これを使っていいですよ」

「え?」


水の妖精が平べったい水球をマリちゃんの前に出した。


 あ、今朝にお屋敷から会場に行く時にマリちゃんを乗せた水球だ。あれに乗ればあっという間に宿に着きそうだね。


「なんだこれ?」


ディルが訝しげに水球をツンツンと突いた。


「わぁ! これ乗れるんだよ! ディルお兄ちゃん!」


マリちゃんが勢いよく立ち上がって膝の上に座っていたわたし達を吹っ飛ばしたあと、水球の上にポヨンと座った。


「おお! なんだこれ凄いな! しかもあったかい!」


ディルもマリちゃんの横にポヨヨンと座った。わたしもディルとマリちゃんの間にポヨっと乗ったけど、マリちゃんの手によって再び膝の上に乗せられた。その横に水の妖精が座る。


「波の妖精は留守番ですよ」

「うぅ・・・、覚えてたんですか」

「思い出したんです」


波の妖精は名残惜しそうに水球を見たあと、わたしに視線を移す。


「ソニア・・・、何百年後かでもいいですから、また遊びに来てくださいね!」

「うん!」


わたし達はポヨポヨした水球に乗って波の妖精に手を振りながら下山して、宿まで飛んでいく。空に浮かんでいる夕日が水球に映って淡い色合いに輝いていて、なんだか虚しい気持ちになる。


「・・・ソニアちゃんとディルお兄ちゃんはもうすぐいなくなっちゃうの?」

「いなくなるっていうか・・・明日ブルーメを出発する予定だな」

「明日・・・、そっか。明日でお別れなんだ・・・」


マリちゃんが泣きそうな顔で俯いた。


 わたしも寂しいけど、せめて明日のお別れの時までは気にしないでいて欲しかったな。


「今日は・・・今日も一緒に寝ようね、マリちゃん」

「うん・・・」


宿に着いた。マリちゃんとディルが水球から降りると、ポチャンと弾けて消えた。


「雷の妖精、またいつか会う日まで・・・元気でいてくださいね」

「うん! 水の妖精もね! またね!」


ニコッと微笑んだ水の妖精は、後ろを向いてそのまま振り返らずに水の山に帰っていった。その姿をしんみりとした気分で見送っていると、不意に後ろから声が聞こえた。


「あら? もう水の山まで行って帰って来たの?」

「は? いくらディルが闇の魔石を使ったからって早すぎないか?」


ジェシーとデンガが後ろから話しかけてきた。一緒にアンナもいる。島主の屋敷で両替えをして来た帰りみたいだ。マリちゃんがジェシーに駆け寄って飛びついた。


「帰りは水球で飛ばして貰ったんだよ!」

「水球・・・? ああ、今朝会場で見たやつね」


ジェシーがよしよしとマリちゃんの頭を撫でる。


「なんだ? 俺は見てないぞ」

「あとで話すから、とりあえず中に入りましょ」


そう言いながらジェシーが扉を開けて、わたし達は宿に入った。入って早々に目に入ってきたのはいつも以上にたくさんいる食堂のお客さんだった。ちらほらと料理大会や武の大会で見た人がいる。皆お酒を飲んでいてお祭り騒ぎである。わたし達に気付いたカカとプラティがこちらに寄ってきた。


「おや? 遅かったね皆」

「御袋・・・どうしたんだ、この騒ぎ用は」


デンガが食堂を見回して若干引き気味に言う。


「おつかれさま会だよ! お兄ちゃん」

「要は、お酒を飲む口実を見つけた奴らが騒いでるだけさ。あんたらはどうするんだい? ここで皆と騒いでもいいし、ゆっくり休みたいなら、あとで夕食を運んでやるから先に部屋に戻って休んだらいい。先に戻ってきたヨームはそうしてるよ」

「ああ~・・・っと、その前に御袋。ちょっと話したいことがあるんだけど、一度上の部屋で話せないか?」


デンガがアンナにそっと視線をやりながら言う。わたし達は二階の空き部屋に移動する。心なしかアンナの顔が緊張で強張っている気がする。


 アンナをここで働かせることを言うんだね。


「・・・ということなので、私をここで働かせてください!」


アンナがこれまでの経緯を正直に話して、カカとプラティにお願いした。カカとプラティは号泣している。


「アンタ・・・今まで辛かっただろう? 育児が・・・ましてや生まれたばかりの赤子を女手一つで・・・本当に・・・綱渡りの日々だったんだろうねぇ」

「ううぅ・・・っ、こんなっ・・・私、全力でアンナさんを支えますから! これから頑張りましょうね!」


その後、アンナと赤ん坊はカカとプラティによって甲斐甲斐しく世話を焼かれながら、綺麗に掃除をされた空き部屋で一足先に休むことになった。仕事内容などの詳しい話はアンナと赤ん坊が健康な体に戻ってから、ということになった。


「ソニア様、改めて今までありがとうございました。ソニア様が私にお金を渡してくれたから延命できて、ソニア様が料理大会を開いてくれたから、こんなにも暖かい人達と一緒に働けることになりました。お陰で私はこの子の成長した姿を見られそうです。本当に、本当にありがとうございました」


アンナが抱いている赤ん坊をそっと優しく撫でながらお礼を述べる。赤ん坊が「あぅ~」と言いながらアンナの指を掴んだ。それを眩しい顔で見ていたマリちゃんがキュッとジェシーの腰に抱き着いた。


 そう言ってくれると、料理大会を開いて良かったなって思えるよ。


「ゆっくり休んでね」


アンナが部屋に入っていくのを確認したあと、わたし、ディル、マリちゃん、ジェシーは部屋に戻ってゆっくりと夕食を食べることにした。朝早くから活動していたマリちゃんも、武の大会で連戦続きだった上に、水の山をマリちゃんを背負って全速力で登ったディルも、食堂で馬鹿騒ぎするような体力は余ってないらしい。デンガは「お酒が飲めるようになったら分かるさ」と捨て台詞を吐きながら食堂に向かっていった。


 人間だった頃はお酒を普通に飲んでたけど、飲み会とかは苦手だったな。気の合う人達だけで飲むのがいい。


「そういえば、ディルは何か1つデンガの言う事を聞かないといけないんじゃない? 武の大会で負けた方が~・・・とかって言ってたよね?」


部屋に向かう途中で、気になっていたことを聞いてみた。


「あ~・・・それなんだけど、あの試合の前に控室で、デンガに俺が勝ったらマリの兄ちゃんになってくれって言われたんだ」

「私のお兄ちゃん?」


マリちゃんが首を傾げてディルを見上げる。


「うん、マリの兄としてちゃんと村に戻ってこいって・・・、勝敗に関係なくそのつもりなんだけどな」

「きっとデンガは、何か形としてそういう約束をしたかったんじゃないかしら。ディル君も大人になれば分かるわよ。すこしでも安心出来る要素を増やしたいのよ」

「そういうもんなのか・・・よく分かんないな」


ディルは「じゃあ、また明日な」と言って男性側の部屋に入っていった。わたしとジェシーとマリちゃんも女性側の部屋に戻った。そして夕食を終え、3人で話しながら就寝準備をする。


「マリちゃんとヨームは同率で優勝だったけど、あの賭けはどうなったの?」

「賭け?」

「うん、ディルが勝ったらマリちゃんはヨームの研究に協力する。マリちゃんが勝ったら妖精のお話をたくさん話して貰って色々とお願いを聞いてもらう・・・だったよね?」


 だいぶマリちゃんに偏った内容だったよね。


「結果は引き分けだったけど・・・どうなったの?」

「分かんないけど、私のお願いは聞いてもらうつもりだよ。ヨームの研究を手伝うのも、別にやってもいいかなって思ってるの」


 やっぱり、マリちゃんのヨームに対する態度が柔らかくなってるような・・・?


わたしが枕の上でポフポフと寝転がっている間にジェシーとマリちゃんが部屋着に着替えたあと、マリちゃんと同じベッドに横になる。マリちゃんが小さなハンカチをわたしにかけて微笑みかける。


「ソニアちゃん・・・」

「なあに?」

「・・・おやすみ、ソニアちゃん」

「うん、おやすみ、マリちゃん」

読んでくださりありがとうございます。マリちゃんと最後のおやすみでした。

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