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6.すごい男の子、ディル

「ここが俺たちの村だ!」


ディルが満面の笑みで両手を広げて叫ぶ。ジャーンという音が聞こえそうだ。


「ちっちゃいね・・・」

「お前よりは大きいけどな!」

「当たり前でしょ!」


 思ったよりも小さい。昔大きな木の頂上から見た時は、遠くにあるから小さく見えるのかと思ってたけど、ただ小さかっただけみたいだね。


「ミーファ、案内は頼んだぞ」


アバン達はわたしに丁寧に会釈したあと、村の奥の方の、緑の森とは反対の方向へ側近おじさんを連れて歩いて行った。


「まずは川からだな!行こうぜ、ほら!」


王子様がお姫様をエスコートするかのように、ディルはわたしに向けて小指を差し出した。わたしはそれを掌いっぱいで掴む。ディルの頭の高さくらいを飛んで、小指と片手で手を繋いで村の中を進んでいく。後ろを歩くミーファから生暖かい視線を感じる。


「妖精!?」「ディル!無事だったのか!」「ミーファ、どういうことだ!?」


わたし達を見かけた村の住人達が、様々な反応を見せてわたし達の後ろをぞろぞろとついてくる。


「ここが川だ!水遊びをするとこ!」

「ここの水を使って、食器や衣服、体を洗ったりしているわ。・・・ディル、私は後ろの人達に事情を説明してくるから、妖精さんとお話して待っていて」

「分かった!」


ミーファは後ろの野次馬たちを連れて川下の方へと離れていく。


「村がこんなになる前は、同じくらいの歳の友達がたくさんいて、一緒にこの川で遊んでたんだ」


ディルは少し寂しげな顔で川を見つめる。

 

 10歳の子供がしていい顔じゃないよぉ・・・


川の水は、よく透き通った透明な色をしていて、わたしと同じか少し大きいくらいのサイズのお魚が元気に泳いでいた。わたしはディルから手を放して川の水面を覗いてみる。


 お魚、久しぶりに食べてみたいな。妖精になってからたまに暇つぶしに果物を齧るだけでちゃんとした食事は一度もなかったもん。


わたしが水面付近で浮いていると、バシャン!っと川の魚がわたし目掛けて跳ねてきた。


「ひゃあ!!」


 食べられる!!ごめんさい!?


大きなお口がわたしの目の前に迫ってくる。わたしは手を前に交差させて魚から身を守ろうとするけど、意味はなさそう。


「よっと!」


バチン!


 はぇ?なにが起こったの?


目の前に迫っていた魚がいきなり弾き飛ばされて、今は川の水面にぷかーっと浮いて流されている。


 魚を食べるどころか、わたしが食べられるところだったよ・・・


「大丈夫?」


少し離れたところにいたディルがわたしの元へ駆け寄って来た。


「う、うん。助けてくれたの?何をしたの?」

「そこら辺に転がってる石を投げて魚にぶつけた」

「そうなんだ・・・凄いね、ありがとう。ディル」


わたしはニコッと微笑んでお礼を言った。


 この世界の子供って皆こんなに力が強いの?それともこの子が特殊なの?


「・・・っ! どういたしまして!」


ディルはわたしの顔を見て一瞬目を見開いて驚いた顔をしたあと、昔を懐かしむような優しい顔でわたしに微笑み返してくれた。可愛い子だ。


「まだお母さんとお父さんがいた時、何か手伝いをした時は必ずそうやってお礼を言ってくれてたんだよ」

「そうなんだ・・・お母さんとお父さんに会えるといいね」

「うん」


 この子の両親は何で自分の子供を見捨てるようなことをしたんだろう。もし、この子の両親に会うことがあればわたしの強烈妖精パンチでも食らわせてやろう。以前これで勝手に家に入ってきた小鳥さんを撃退したこともあるのだ。ミドリちゃんからは「小鳥さんが可哀そう!」とお褒めの言葉も頂いた。


「・・・そういえば、妖精さんの名前は何て言うんだ?皆は妖精さんって呼んでるけどちゃんとした名前があるんだろ?」

「名前?妖精の皆からは雷の妖精って呼ばれてるけど、人間みたいな名前はないよ」


 人間の頃の名前は当然あるけど、それをここで名乗るのはなんとなく違う気がする。


「お母さんから付けてもらったりしないのか?」

「わたしにはお母さんとかいないからね、妖精は基本的に名前はないんだよ」


 これも、人間だった頃はママ・・・じゃなくてお母さんはいたけど、ここで「お母さんは異世界の人間だよ」なんて言えるわけないよね。色々と説明がめんどくさそうだ。


「・・・名前がないって不便じゃないか?」

「不便ではないけど・・・ちょっと寂しいかな」

「だったら自分で自分の名前を付けちゃえば?というか、俺も一緒に考えたい!」


 確かにそれもいいかもしれない、別に名前を付けてはいけないなんてルールは無いと思うし、ミドリちゃんのことも、名前では無いけどあだ名で呼んじゃってるし。


しばらくディルと一緒にわたしに合う名前を考えていると、ミーファが疲れた顔をして川下から戻って来た。


「ハァ・・・遅くなってごめんなさい。それじゃあ村の中の方を案内するわね」


それからわたし達は井戸や畑などをまわって村長の家に向かった。村長の家は村の王都方面の入口傍にある他の家よりも少し大きい家で、一目で村長が住んでると分かる見た目だった。


「お待ちしておりました。デル、ミーファ。私は妖精さんと大事な話があるので少し外で待っていなさい。色々と決まったあと皆を集めて説明します」

「デルじゃない!」


 ・・・今まで、この子は村長がデルと言う度にいちいちツッコミを入れてたんだろうか。疲れないのかな? 疲れないんだろうな、若いし。わたしも若いけど。


そんな現実逃避をしているわたしを置き去りに、話はどんどんと進んでいく。


「私は自宅で昼食の準備をしながら待っているから、ディル、知らせに来てちょうだい。」

「うん!」


 どうしよう・・・人間だった頃の知識があれば何かアドバイスできるかも・・・くらいのノリだったのに。もう、なるようになれ!だね。


「それじゃあディル。わたしがアバンとお話してる間に、名前、考えといてね!」

「おう!」


 ・・・変な名前を考えたりしないよね? ディルのセンスに任せても大丈夫だよね? なんか急に不安になってきた。


「もし、素敵な名前を付けてくれたら、わたしがディルのお友達になってあげる!」

「え!?本当!?」

「うん、だから変な名前にしないでね!」

「わかった!とびっきりカッコイイ名前を考えてやるよ!!」


 出来れば可愛い感じのでお願いね・・・


「それでは妖精さん。中へどうぞ」


わたしはアバンに言われるまま、家の中に進んだ。

家の中には椅子と机が真ん中に置かれていて、左側に台所があり、奥と右側の壁に扉が2つ付いている。


「では、奥の部屋へどうぞ」


 側近おじさんはどこにいるんだろう。奥の部屋で待ってるのかな?


案内された奥の部屋は寝室だった。簡素なベッドとクローゼットが置かれている。ただそれだけだ。


「え?寝室?」


ガコン


後ろで扉を閉める音が聞こえた。


「すいませんね、妖精さん」

「へ?」


直後、後ろからアバンに両手で掴まれた。


「うわぁ!?」


 このおじさん・・・ヨボヨボのくせに意外と力が強い。いや、わたしがちっちゃくて非力なだけかもしれないけど・・・と、とにかく! なんだか分からないけど放して貰わないと!


「いきなり何するのさ! 放して!・・・ハゲェ!」


手足をバタバタさせて抵抗してみるけど、あまり意味はなさそう。


「森の開拓が出来ない、無償で援助はしてくれない・・・ならば、貴重な妖精を王に献上して村の援助を交渉すればよいと思わないか? ・・・それと私はハゲていない」

「そんな・・・」


 そんな都合よくいくハズがない・・・とも言い切れない。だってわたしはこの世界の人間のことをよく知らない。・・・それにアバンはハゲている。本人が気付いてないだけだもん。


「出来る範囲で手伝ってくれると、そう言ってくれましたよね?」

「確かに言ったけど・・・これは手伝うとかじゃなくて、犠牲になるって言うんだよ!」


わたしを掴む手をパシパシと叩きながら必死にうったえるけど、「フン!」と鼻で返事をしたアバンにガラスで出来たボトルの中に無造作に放り込まれてしまった。


「もっと優しく扱ってよ!・・・って、え? ちょっと待って! 蓋閉めないで!」


慌てて逃げようと飛び上がったけど間に合わない。アバンはキュッとボトルにきつく栓をした。


 マ、マジか・・・。

読んでくださりありがとうございます。男の子はすごいんです。

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これはひどい
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