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ちっちゃい妖精さんになりました! 暇なので近くにいた少年についていきます  作者: SHIRA
第2章 グルメな妖精と絶景のブルーメ
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67.武の大会、決勝と表彰式

「「今大会最年少にして様々な対戦相手を武器を持たずに倒し、決勝まで勝ち進んだ黒髪黒目の闇の魔石を扱うディル選手!!」」


サークリーの選手紹介と共に、ディルが拳を突き上げながら入場して来た。その顔にはこれから強敵と戦う緊張が現れている。わたしが「ディル~!」と叫ぶと、聞こえてるのか聞こえてないのか分からないけど、こちらを向いて手を振ってくれた。


「「先ほど予想のつかない方法で見事に一番人気のパンクロック選手に勝利した、三番人気のデンガ選手!!」」


デンガが自信に溢れた表情で入場して来た。さっきの試合で出来た傷が無くなっているので魔石の治療をしたのだろう。ジェシーとマリちゃんが大きな声で呼ぶと、こちらを向いて拳を突き上げた。2人が台の上に乗ると、審判のトトガが台の端っこで手を挙げる。


「「試合開始!!」」


2人とも見合ったまま動かない。デンガがディルに手招きをして挑発気味に笑う。


「あ~、そんなことしたらディルは・・・」


ディルは「上等だ」と言わんばかりに凄い速さでデンガに向かって駆けだした。グアテマと戦っていた時よりも早く感じる。それをデンガは剣を構えて待ち受ける。デンガとの距離を詰めたディルは怒涛の勢いで攻撃を繰り出す。両手足全てを使って。


「「デンガ選手、ディル選手の身体強化有りきの猛攻を全て剣で防いでいるぞ!!」」


 デンガすごい・・・さすが経験の差って感じかな?


暫くディルの攻撃を防いだあと、デンガがディルに足払いをした、ディルはそれを躱したものの少しバランスを崩す。それを機に攻守が逆転する。


「「今度はディル選手がデンガ選手の剣を全て躱す!」」


 ・・・あれ? デンガは魔石を使わないのかな?


「きっと魔石を使えないんでしょうね」


ジェシーが感心したようにそう言った。


「だって、あの至近距離で刀身を伸ばしたところで、ただデンガが剣を扱い難くなるだけでしょう?」


 そっか。デンガが使ってる魔石は刀身を伸ばす魔石だったね。そりゃ接近戦が得意なディルには使いにくいよね。


「そして、水の魔石も発動したところで水球が出てくるか、水を纏わせるかしか出来ませんしね」


水の妖精が補足するように言う。


「ええ、ディル君は水球は対策済みって言ってたからデンガはそれを知ってるんでしょうね。ずっと一緒に鍛錬してきたんだもの」

「お父さん、それでもディルお兄ちゃんと互角に戦えてるね」

「それがデンガの凄いところよね。いくらディル君がまだ子供だからって流石にあの速さは普通じゃないもの。闇の魔石を使っているし」


 逆に言えば、経験豊富な年嵩のデンガと互角に戦えてるディルも凄いんだけどね。


「「ディル選手! デンガ選手との距離が空いたぞ!!」」


「え!?」


わたしは視線を中央に戻す。


デンガがディルを蹴り飛ばし、2人の距離が空いたみたいだ。ディルが再び距離を詰めようと立ち上がったところで、デンガの刀身が伸びた剣が上から振り下ろされる。ディルはそれをギリギリで躱し、ドガンッと剣が石畳に当たり、敷石が剝がれ、砕ける。


 あっ、あっぶな~・・・口を開けっ放しだった。


わたしはキョロキョロと周りを見て、だらしない顔を皆に見られてないことを確認してから視線を戻す。


「「ディル選手間一髪!! 両選手ここからどう攻めるのか!!」」


ディルは砕けた石をチラっと見たあと、自分の足元にある敷石を無理矢理剝がして、それをデンガに向かって投げ始めた。


「「おーっと! ディル選手、次々と剝がしては物凄い速さで投げていく! 私の隣に座っているクラウス王子がこれ以上会場を壊さないでほしいと仰っているぞ! 勘弁してあげてくれ!!」」


 ・・・それはわざわざ実況しなくてもいいんじゃ?


デンガは分の自分の目の前に水球を出して投げられてくる敷石を受け止める。ディルは投げながら少しずつ距離を詰めていく。台の石畳も少しずつ壊れていく。


「「ディル選手、徐々に距離を詰めていく! しかしデンガ選手の前には水球があるぞ!? ディル選手どうする!?」」


 どうするの!?


ディルは考えがあるのか、それとも何も考えてないのか、そのまま水球の中へとダッシュで突っ込んでいった。そして、その勢いのまま水球を突っ切った。


「「ディル選手勢い任せで水球を突っ切ったー!」」


 ・・・え!? さっきの試合のパンクロックは水球から出られなくて負けたのに!? 凄いよディル! そのまま吹き飛ばしちゃえ!


デンガは突っ切ってくるとは思ってなかったのか、突然目の前に現れたディルに反応が遅れる。


「ディルー!!」

「お父さん!」


わたしとマリちゃんが叫ぶ。マリちゃんはどっちも応援するとは言っていたものの、なんだかんだお父さんの方が好きみたいだ。


 まぁ、当然だよね。マリちゃんとジェシーがデンガを応援するなら、わたしはわたし1人で2人分応援するよ!


「ディル頑張ってーー!!」


デンガが剣を振り下ろすよりも早く、ディルはデンガの顎にアッパーを食らわせた。続いて、脳が揺れてふらつくデンガのお腹を思いっ切り蹴り飛ばす。飛ばされたデンガは苦痛に顔を歪めながらも、ギリギリで場外には出ずに踏みとどまったが、持っていた剣を手放してしまった。


「そのままやっちゃえ! ディルー!!」

「お父さん頑張ってー!!」


「「デンガ選手大ピンチだ! そして、ディル選手はこの好機を逃さまいと、一気に距離を詰めていく!」」


デンガは慌てて水の魔石を自分の前に出すが、さっきと同じようにディルは突っ切って来る。デンガは苦しそうにお腹を抑えながら立ち上がり、鋭い目つきでディルを待ち構える。


 もう少しで優勝だよ! ディル!


ディルの拳が届く距離になる前にデンガが殴りかかる。それを素早く避けて、デンガに強烈な蹴りを入れる。


「「ディル選手の強烈な一撃がデンガ選手に入った!! しかし、デンガ選手一歩も動かないぞ!?」」


ディルの渾身の蹴りをくらったデンガは場外まで吹き飛ぶ・・・と思いきや、少し後ろにずずっと下がっただけで堪えた。デンガは苦しそうな顔で自分の腹部に食い込んだディルの足を両手で掴んでいる。皆が息を吞むように、会場が静寂に包まれる。


 ・・・ディル! 諦めないで! まだ負けたわけじゃないんだから! わたしは応援してるよ!


ディルが一瞬遅れて、ハッとしたような動きで慌ててデンガの手を振りほどこうと暴れる。デンガは一層苦痛に顔を歪めながら、一瞬わたし達の方を・・・恐らくジェシーとマリちゃんを見たあと、「うおおおおおおお!」と雄叫びをあげながらディルの足を掴んだまま上に振り上げて、そして場外へ叩きつけるように投げた。


そしてディルは・・・場外に落ちた。


 ・・・負けちゃった。


「「試合終了ーー! 今大会の優勝者はデンガ選手です!!」」


デンガが台の上で大きくガッツポーズをしたあと、ジェシーとマリちゃんに手を振る。サークリーがこれまでのデンガの戦いぶりを賞賛し、観客席から盛大な歓声が巻き起こり、皆が試合の勝者であり、大会の優勝者のデンガに注目するなか、わたしは地面に仰向けなったまま動かないディルの元へ飛んで向かう。


 ディルはかっこよかったよ。


わたしはディルの意外と筋肉質な胸の上にポスッと座った。ディルが空を見たまま「ソニアか?」と言う。「わたしだよ」と返事した。


「・・・負けた」

「見てたよ」


ディルは目を閉じて、スーッと大きく息を吸ったあと、ハァーっと大きく吐いた。胸の上に乗っているわたしはバランスを崩してぽてっと転がり落ちる。わたしはもう一度胸の上に乗って、少し瞳を潤ませながら空を見つめるディルを見る。


「やっぱり俺の師匠は強いなぁ・・・」

「ディルも強かったよ」


言いながらそっと胸を撫でる。


「こんなんじゃあ、お父さんに追いつくなんて夢のまた夢だな」

「じゃあ、今よりももっと頑張って強くならないとね!」

「・・・うん、ああ、そうだな」


わたしはディルに片手で優しく掴まれて、立ち上がりながら肩の上に乗っけられた。すると、少し離れたところでわたし達の様子を見ていたアザレアが近づいてきた。


「お疲れ様です。とても素晴らしい戦いぶりでした。本来ならば次は三位決定戦なのですが、パンクロックの対戦相手は棄権しているため、ディルが大丈夫そうなら魔石の治癒を行ったあと、すぐに表彰式を行いたいのですが・・・」


アザレアが退場していくデンガを目で追いながら言う。


 そうだよね、いつまでもここにいたら邪魔だよね。


わたしとディルは一緒に退場したあと、必要ないとは言ってたけど、一応ディルには控え室の隣にある部屋で魔石の治癒をしてもらう。その間に表彰式の準備が整ったみたいで、さっきまでディルとデンガが戦っていた台の上に向かう。


「ソニア、遅くなったけど応援してくれてありがとうな。凄く嬉しかったし、心強かったぞ」


ディルが中央に向かう廊下を歩きながら、肩に座っているわたしの頭をポンポンと軽く叩いた。わたしがその感触を確かめるように自分の頭の上に両手を置いていると、そんなわたしをじっと見て「可愛いな」と耳元で囁かれた。


 きゅ、急になに!? 煽てても電気しか出ないよ!?


「ハハハッ、そんなに羽をパタパタさせないでくれ! くすぐったいから!」


そうこうしている間に廊下を抜けて、会場の中央に出た。台の上に高さがバラバラの小さな丸い台が三つ置いてある。パンクロックが一番低い台に、デンガが一番高い台の上に立っていて、その後ろに何故かジェシーとマリちゃんがいて、マリちゃんの頭の上には水の妖精が偉そうにふんぞり返っている。ディルは不思議そうな顔をしながら空いている台の上に乗った。


アザレアが隣に立っている女性に魔石を発動させて、これまでの3人の戦いを少し誇張気味に観客席に向かって話し始めた。わたしはそれを頭の片隅で聞きながら、ディルの肩から降りてジェシー達の方へ少し移動してジェシー達と話す。


「どうして皆がここに? もしかしてジェシーって意外と目立ちたがり?」

「何を言ってるのよ、私はデンガに半ば強制的に連れてこられたのよ」

「私はお母さんに連れてこられたの」

「私はこの小麦色の子に連れて来られました」


 ふむふむ、デンガがジェシーを連れてこようとしたら色々くっついてきた、と。そういうことね。


「「第三位のパンクロック選手、今大会では惜しくも二連覇は成りませんでしたが、その正々堂々と戦う姿はとても騎士らしかったです。第三位、おめでとうございます」」


パンクロックの首に銅のメダルがかけられる。


「「ありがとうございます。グリューン王国の騎士団を束ねる者として恥じない戦いをお見せできたようで良かったです。今後はどのような策を練られても勝てるように精進していきます」」


パンクロックはチラッとデンガを見て言った。


「「第二位のディル選手、予選から決勝まで自分よりも歳上で体格の良い選手を相手に様々な戦いぶりを見せ、会場を大いに盛り上げてくれました。私はあなたの今後がとても楽しみです。第二位、おめでとうございます」」


ディルの首に銀のメダルがかけられる。


「「俺は、俺の師匠のデンガと、騎士団長様以外は簡単に勝てると思ってました。でも、皆凄く強くて、苦戦して・・・、賞金目当てで参加した武の大会だったけど、それ以上の物が得られたと思います。これからは、この経験を糧にして、もっと強くなりたいと思います。俺の肩に乗っている大切なものを守るために・・・っていないしっ!」」


観客席から笑いが起こった。ディルは顔を真っ赤にして後ろを振り返り、マリちゃんの頭の上で水の妖精と一緒に座っているわたしを見た。


「そんな睨まれても・・・わたしは悪くないよ」


 気付かなかったディルが悪いよ。


「「・・・コホン! 第一位のデンガ選手、決勝と四回戦までは余裕で勝ち進み、その傭兵経験に基づく優れた剣技と戦闘センスはクラウス様・・・我がグリューン王国のクラウス王子も賞賛しておりました。優勝、おめでとうございます」」


デンガの首に金のメダルがかけられる。


そのまま前の2人と同じように大会の感想を言うのかと思ったけど、デンガは後ろを振り返って、ジェシーの手を取り、もう片方の手で腰を支えて、同じ台の上に引っ張り上げた。


「「え?え? デンガ・・・なにを・・・?」」


ジェシーの困惑しきった声を魔石が拾って会場中に響き渡る。それに気付いたジェシーは慌ててきゅっと口を塞ぐ。デンガはゆっくりとした動作でジェシーから手を放したあと、自分の首にかかっているメダルを外して両手で持つと、ジェシーの前に膝をついた。その瞳にはジェシーしか映っていないのが分かる、男の眼差しをしていた。

わたしは不覚にもその真剣な横顔が格好いいと思ってしまった。すぐに頭をフルフルと振ってその思考をポイっと捨てる。


 デンガがカッコイイなんてナイナイ!


「「この勝利と俺の力すべてをお前を守るために捧げる。遅くなったが・・・、俺と、結婚してくれ!」」


 え!? まさか! こんな大衆の面前で!?


ジェシーが顔を真っ赤にして、助けを求めるようにわたしを見る。


 ・・・あなたの旦那でしょう? 自分で何とかしてよ!


わたしはプイっとそっぽを向いた。

読んでくださりありがとうございます。色々な経験を経て、少年は強くなっていきます。頑張れ!

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