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ちっちゃい妖精さんになりました! 暇なので近くにいた少年についていきます  作者: SHIRA
第2章 グルメな妖精と絶景のブルーメ
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66.武の大会、デンガの四回戦

わたしが観客席に戻ってすぐに、ディルとデンガも観客席にやってきた。中央では色んな楽器を持った背の小さい人達が集まって、揃ってお辞儀をしたあと演奏が始まった。


 見たことのない楽器がたくさん・・・不思議な演奏だなぁ。


わたしが体をぐでーっと水の座布団に沈ませて演奏に耳を傾けていると、デンガがジェシーとマリちゃんに声を掛けるのが視界の端に見えた。


「ジェシー、マリ、今のうちに親父に挨拶しに行きたいんだが・・・」

「いいわよ、ずっと座りっぱなしでお尻が痛くなってきたところだったのよ。マリちゃんもその唐揚げは置いて一緒に行くわよ」

「うん」


ジェシーとマリちゃんが離席する。わたしもついていこうと腰を浮かせたら、水の妖精にガシッと力強く手を掴まれた。


「雷の妖精はここにいましょう」


 すごい圧のある笑顔だ・・・。


わたしは自分の席から水の妖精が座っている席に移動して、水の妖精にピタリと肩をくっ付けて隣に座った。すると、マリちゃんとジェシーから飲み物と唐揚げを預けられたディルがわたしが座っていた席に腰を下ろした。わたしは気になっていたことをディルに聞くことにする。


「そういえば、二回戦目で対戦相手の背の小さい人と試合前に何か話してたけど、何を話してたの?」

「二回戦・・・あぁ、ジイダムさんか。今後の話をしてたんだ」

「今後って・・・むぅわ!」


いきなり隣にいる水の妖精にぷにっと頬を突つかれた。


「私のことを放っておかないでください」


水の妖精が少し拗ねた顔でわたしの頬をツンツンと突っついてくる。


 甘えん坊さんか!


それから、わたしとディルは水の妖精のうろ覚えな昔話を聞きながら演奏を見ていると、デンガの父親に挨拶に行っていたジェシーとマリちゃんが戻ってきた。デンガは控え室に戻ったみたいだ。


「優しそうな人だったよ。お菓子貰っちゃった」


マリちゃんが口の中で飴を転がしながら言った。唐揚げは飽きたからディルに全部あげるらしい。


「「四回戦の始まりです! まずは以前の大会でパンクロック選手に勝利して優勝した実績がある三番人気のデンガ選手!」」


腰にいつもとは違う大会用の剣を下げたデンガがわたし達とカカとプラティが居る方へ交互に手を振りながら入場する。正面のカカ達が居る観客席を見ると、いつの間にかプラティの隣にグアテマが座っていた。


「「前回の優勝者!グリューン王国騎士団長パンクロック選手! デンガ選手には以前に負けています、リベンジは成るでしょうか!?」」


大会用の大きなハルバードを持ったパンクロックが王子様とアザレアを気にしながら入場する。2人が台の上で向き合って武器に手をかけると、審判のトトガが台の端っこで手を挙げた。


「「試合開始です!」」


試合が始まった瞬間、パンクロックの持っているハルバードが炎を纏った。そのハルバードを振るうと、切っ先から炎の鎌の様なものが飛び出して、回転しながらデンガを襲う。デンガはそれを水の魔石を使って相殺して、剣に水を纏わせながらパンクロックに向かって走り出す。


 本当、ファンタジーって感じだよね。ああいう魔石を使った戦いを見ると。


「「パンクロック選手は火の魔石を、デンガ選手は水の魔石を使っています! 相性的にはデンガ選手が有利でしょうか。パンクロック選手はこの不利をどう覆すのか!?」」


パンクロックが右足でドンッと地面を踏むと、土の槍が石畳を突き破って地面から生えてくる。デンガはそれを躱したり、切ったりしながらパンクロックとの距離を詰めていく。そこからは2人の打ち合いが始まった。パンクロックが炎を纏ったハルバードを振るい、それをデンガが地面から襲ってくる土の槍を避けながら水を纏った剣で弾く。わたしには早すぎてよく分からないけど、かなりレベルの高い戦いに違いない。


「どっちが優勢なのか、さっぱり分からないわね」

「デンガが少し押されてる感じだな」

「そうなの?ディル」

「パンクロックの攻撃に対応するのに精一杯で攻撃に転換できずにいるからな」


その言葉にジェシーが心配そうな顔で試合を見る。マリちゃんもつられたように顔を強張らせる。


 2人の為にも勝ってよ! デンガ!


暫く2人の打ち合いが続く。


「あれ? いつの間にかパンクロックの方が押されてない?」


ずっと防戦一方だったデンガが、いつの間にか攻撃を仕掛けるようになっていた。パンクロックが何だかやりずらそうにしながらその攻撃をスレスレで躱していく。


「土の魔石ですね」

「え?」


水の妖精がデンガが持ってる剣を指差しながら言う。


「土の魔石を使って刀身の長さを変えながら戦ってるんですよ」

「ああ、そうか。それは確かにやりずらいよな」


ディルが納得したように手をポンと叩いた。


「「おおっと! パンクロック選手! これはかなりピンチだ!もう後ろは場外だ!」」


パンクロックがジリジリと後退していく。あと一歩で台から落ちるというところでパンクロックは自分の足元に土の槍を生やして、その上に器用に乗ってデンガの頭上に飛ぶ。そして、空中でハルバードの切っ先を真下にいるデンガに向けると、そこから物凄い勢いで炎の弾丸を放った。デンガの姿が炎と煙に包まって見えなくなる。


「お父さん!」

「デンガ!」


ジェシーとマリちゃんが身を乗り出して悲鳴をあげる。


 煙くてよく見えないよ~。


炎が消えると、そこには水球に包まれたデンガの姿があった。ジェシーとマリちゃんがホッと胸を撫で下ろす。


「よかった~」

「お父さん、さっきの人みたいに燃えちゃったかと思った」


デンガを包んでいた水球がパンッと弾けた瞬間、デンガは持っている剣を着地したパンクロック目掛けて長く、長く伸ばす。


 すごっ・・・剣ってあんなに伸びるんだ。


着地した瞬間に足元に剣が伸びてきてバランスを崩したパンクロックの隙を逃さず、デンガは伸ばした剣を縮めながらパンクロックに突進して膝をつかせる。「ぐふっ」と苦しそうな声を出したパンクロックのお腹辺りに水の魔石を当てると、そこから水球が膨らみ、砂浜でお魚を運んだ時のようにパンクロックを包んだ。


「あれって荷物を運ぶ為に使うものだと思ってたよ」

「私も、戦闘中に自分や相手に使うなんて思わなかったわ」

「俺はデンガとの鍛錬中に何回かやられたことがあるぞ。もう対策済みだから大丈夫だけど」


 ほぇ~・・・ちゃんと対策済みなんてすごいね。次の試合も安心だ。


「私は呼吸が必要な生き物を窒息死させる為に使うものだと思ってましたが」


 ・・・わたしはたまに水の妖精が怖いよ。


水球に包まれたパンクロックはその中でジタバタと暴れるが、中々抜け出せないでいる。デンガはそれを場外まで移動させてから水球を消した。パンクロックが場外に悔しそうに着地した。


「「しょ、勝者はデンガ選手!! まさかあの水の魔石をこのように使うとは! パンクロック選手の隙をついた見事な戦略でした!」」


デンガの勝利で、ジェシーとマリちゃんがホッと安心したように息を吐く。


台の上ではデンガとパンクロックが握手をしている。2人ともお互いをからかうような顔で、それでいて称えるように握手をしている。


「予想外の勝ち方だったけど、これでディルの決勝の相手はデンガになったね!」

「だな! じゃあそろそろ俺も控え室に戻るか!」


ディルがニッとわたしに笑って立ち上がる。


「ディルお兄ちゃん頑張って!」

「お? マリも俺を応援してくれるのか?」

「お父さんと、ついでにディルお兄ちゃんだよ」

「ついでかよ!」


 しょうがないよ。デンガはマリちゃんのお父さんだもん!


「わたしはディルを応援するからね! 頑張って勝ってね!」

「おう! 絶対勝つから安心して応援しててくれ!」


ディルは自信たっぷりにそう言うと、控え室に向かっていった。


「ねぇ、水の妖精はどっちが勝つと思う?」

「思う・・・というか、私にはもう結果が見えてます。それでも聞きたいですか?」

「え・・・、うーん。やめておく!」

「そうですか」


 水の妖精にはいったい何が見えてるんだろうか、何千年・・・何億年?も生きてるとやっぱり何でも予想できちゃうのかな?


「ちなみにジェシーとマリちゃんはどっちが勝つと思う?」

「分かんない・・・けど、どっちも負けて欲しくないよ」


マリちゃんが首をフルフルと振って眉をひそめながら言った。


「私はデンガに勝って欲しいわね。ディル君も強いと思うけど、ブルーメに来る途中、私を守りながら船の上で戦ってたデンガは凄く・・・その、かっこよかったから・・・」


ジェシーがすこし頬を赤くしながら照れたように言う。


 ・・・うーん、惚気かな?


「わたしはやっぱり・・・」

「ディル君でしょ? 本当、ソニアちゃんはディル君が大好きよね」


わたしが「ディルに勝って欲しい」と言う前に食い気味にジェシーに言われた。しかも尾びれを付けて。


「いや、大好きっていうか・・・」


 大好きだけど・・・なんかジェシーが言ってる意味合いとは違うような・・・。


「雷の妖精は何故そんなにあの黒い少年を気に入っているんですか?」


水の妖精が心底不思議そうに首を傾げてわたしを見つめる。その目を見てわたしは「人間と違う」と何故かそう思った。


「あの少年に対する雷の妖精の態度は他の人間達よりも、なんというか・・・砕けた感じの態度に見えます。それに、他の人間が怪我を負っても心配しないのに、あの少年が怪我を負えば泣くほど心配してました。それが不思議なんです。雷の妖精はあの少年をどう思ってるんですか?」


 ・・・別に他の人達を心配してないわけじゃないけど、確かにディルよりは優先度はかなり低いかもね。


「ディルは・・・わたしの恩人だし、幼い頃に両親が去って寂しい思いをしてるのに、それをちゃんと糧にして頑張って生きてる姿が凄くカッコイイと思うし、同時に心配にもなる・・・。なんだろう? 簡単に言うと、放っておけない弟みたいな大切な友人・・・かな?」

「大切な友人・・・ですか」


水の妖精が理解したのかしてないのかよく分からない顔で頷く。


 ・・・簡単に言ったつもりだけど、改めて考えてみると、弟みたいな友人ってなんだろうね?


「「いよいよ決勝戦です」」


台の修復作業が終わり、会場にサークリーの声が響いた。ついに決勝戦だ!


読んでくださりありがとうございます。次話は決勝です。

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