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ちっちゃい妖精さんになりました! 暇なので近くにいた少年についていきます  作者: SHIRA
第2章 グルメな妖精と絶景のブルーメ
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65.武の大会、選手インタビュー

「見てたか? 見てたよな!」


ディルが座席の後ろからわたしを覗き込んでグイグイと言ってくる。


「見てたよ・・・っていうか、背中!背中の傷は大丈夫なの!?」

「おう! 大丈夫だぞ! ほら!」


ディルはそう言ってくるっと後ろを向いて、背中を見せてくれる。服は破けてるけど、その下には包帯が巻かれている。


「ほらって言われても包帯しか見えないし、分かんないよ。自分で包帯巻いたの?」


あたしは座席の背もたれの上に乗ってディルの背中をマジマジと見る。少し血がにじんでる気がする。


「まさか。大会の医療班っていう人達がやってくれた。決勝までいくか、敗退したら魔石を使った治療をしてくれるんだとよ」

「・・・魔石を使った治療?」


 そんな魔石があるの? もっと早く知りたかった。そしたらこんなにハラハラした気持ちにならずに済んだかもしれないのに。


「緑の魔石よね。切っても再生する樹木型の魔物から採取される魔石で、緑の適性がかなり高くないと発動出来ないらしいわよ。治癒の魔石って呼ばれてるわね」

「よく分かんないけど、それを使えば傷が治るんだよね?」

「ええ、私自身その治癒の魔石に救われたことがあるのよ」


ジェシーは「昔の話だけど」と遠くを見るような目で笑って言う。


「良かった、ならディルの傷もちゃんと治してもらえるんだね!」


 ・・・さっきの焦げた2人も今頃治してもらってるのかな?


「ま、俺には必要ないけどな」

「え、必要だよ! 血が出てたじゃん!」


 もう! こんなことで強がる必要ないのに・・・


「闇の魔石ですよ」


水の妖精がディルが手に握っている魔石を指差して言った。


「あ、ああ。なんか身体能力だけじゃなくて、治癒能力まで上がるみたいなんだ」


 ・・・なるほど、だから村ではいつ見ても傷が無かったのか。


「ただ、闇の魔石を使うと凄い腹減るんだよ。その唐揚げ一個くれないか?」


ディルがマリちゃんの持っている唐揚げを見て、手を差し出す。


「いいよ。はいディルお兄ちゃん」

「サンキュ」


マリちゃんから唐揚げを受け取ったディルは、口に頬張りながらジェシーの隣に座った。左から、水の妖精、わたし、マリちゃん、ジェシー、ディルの並びだ。


「「三回戦三試合目は一番人気のグリューン王国騎士団パンクロック選手!!」」


三試合目のパンクロックの試合が始まった。


「やっぱり皆強いよなぁ。俺、もっと楽に勝てると思ってた。・・・そういえば次の俺の対戦相手って誰なんだ?」


ディルが戦っているパンクロックを見て感心したように言う。


「ディルの次の対戦相手はいないよ。相打ちでどっちも敗退したんだよ」

「マジか・・・じゃあ不戦勝になるのか? どうせならちゃんと全部の試合で勝って優勝したかったな」


 わたしとしては、あの黒焦げになるのがディルにならなくて良かったと思ってるけど・・・。戦う数が少ないならそれに越したことはないよ。


「そういえばディル君はどうして観客席まで来たの? 休憩?」


ジェシーが「勝手に抜け出したわけじゃないわよね?」と言う。


「違うよ。全員の三回戦が終わったあとに選手インタビュー? みたいなのがあって、そのあと公平を期すためとかで選手全員の休憩を挟んでから4回戦、終わったら魔石の治療をして決勝だってよ。だから選手インタビューまではここに居るつもりだ」


 選手インタビューかぁ、ディル大丈夫かなー? 意外と空気読めない所あるからなー。


「「パンクロック選手勝利!! 圧倒的な実力差を見せつけました! さすが一国の騎士団長です! 私もですが!」」


パンクロックの試合が終わり、次の試合も無事デンガが難なく勝って終わった。貴族席の方で、サークリーが王子様に声を拡張する空の魔石を渡して、王子様がそれを念入りに拭いてからアザレアの側に仕えてる人に渡したのが見えた。


「「次は選手インタビューになります。少々お待ちください」」


「じゃ、行ってくる」

「ん、行ってらっしゃい」


そう言いながら、わたしはディルの後ろの襟にしがみついた。


 ディルだけじゃまともにインタビューに答えられるか分からないからね。ディルの保護者的なわたしがついて行かないと!


ディルはそのままわたしに気付く素振りもなく、観客席から飛び降りて石畳の台の上に移動する。さっきまで試合をしていたデンガとパンクロックもディルの横に並んだ。勝ち残った選手全員が揃うと、アザレアと魔石を持った女性が貴族席から台の上に移動した。


「「お待たせしました、選手インタビューです。まずは、ここまで何度か苦戦をしながらも確かな実力で前回の準優勝者に勝った、今大会最年少のディル選手・・・え!? ソニアちゃ・・・様!?」」


わたしがディルの肩からひょこっと顔を出すと、目をまん丸にして驚いているアザレアと目が合った。観客席が少しざわめいた。


「うわっ! ソニアついて来てたのかよ!」


ディルが自分の肩に座っているわたしを見てギョッとしている。隣にいるデンガも「妖精!? なんでここに!?」と声をあげて驚いている。


 ディルは他の選手と違ってまだ子供だからね。保護者がついていないと。


「「えー・・・、こちらは料理大会の発案者で、ディル選手のお友達? の妖精のソニア様です」」


アザレアの指示で、女性が魔石をわたしの前に持ってきた。


 え? 何か言えってこと? えーっと・・・料理大会の宣伝は大会が始まる前にしてたし・・・そうだ! 宣伝と言えば前に村で・・・


わたしは村でプラティと話したことを思い出す。


『こうやって村の人や王都の人達に私の作ったパンを食べて貰えるのは嬉しいんですけど、自分のお店を持つなら、夢は大きく持ちたいですよね~。世界中に私の名前が知れ渡るくらい有名になっちゃったり!』

『いいね! そしたら色んなところでクルミパンが食べられるようになるかもね!』

『フフッ、ディル君が旅に出たら宣伝してね』

『・・・ん? ふぁ~~ぁ・・・、俺もう寝たいんだけど。お前らいつまで俺ん家にいるんだよ。というかルテンの飲んでるそれ、お酒じゃん』

『せっかくソニアさんが村に来てるんだから、いっぱいお喋りしたいじゃないですか~』

『だからって何で俺ん家で・・・・』



 ・・・うん、この機会にルテンのパンを宣伝しておこう! そして世界中に知れ渡るといい!


わたしは女の人が持っている魔石をガッと両手で掴んで、口を開いた。


「「美味しいパンが食べたいよね!」」


アザレアが「え・・・?」と困惑顔でわたしを見る。ディルも「何を言ってるんだお前」みたいな顔をしている。


わたしは周囲の反応を気にしないで続ける。


「「そんな人達に! グリューン王国の端っこにある、おっきなクルミの木と小麦畑が目印の村に美味しいクルミパンがあるお店があるよ! 可愛い店主もいるよ!! 是非行ってね! 絶対行ってね☆」」


わたしはパチッとウィンクした。観客席から見えてるかは分からないけど、何やら一段とざわめきが大きくなった。


 うん、こんなもんでしょう。


わたしがうんうんと満足げに頷きながら魔石から離れると、女の人は魔石を少し笑顔を引き攣らしたアザレアの方へ向ける。


「「・・・えーっと、ディル選手、意気込みをどうぞ」」


魔石がディルに向けられる。


「「意気込み・・・、俺には勝たなきゃならない理由があるんだ。だから絶対勝つ!」」


ディルはグッと拳を握って力強い瞳で前を見る。


「「勝たなきゃいけない理由ですか、教えて頂いてもよろしいでしょうか?」」

「「金だ! 優勝賞金が欲しいんだ!」」

「「そ、そうですか。お金は大事ですものね・・・」」


 お父さんとお母さんを探す旅に必要なお金が欲しいんだよね。その言い方だとディルが守銭奴みたいだけど。


次にアザレアはデンガにも同じように質問した。


「「俺にも勝たなきゃならない理由があるんだ」」

「「お金・・・ではないですよね?」」

「「それも大事だが、もっと大事な家族が俺を応援してくれてるんだ。無様な姿は見せられないだろ?」」

「「素敵なお父様がいて娘さんが羨ましいです」」


アザレアはそう言って、パンクロックの方に向かおうとする。わたしが「アザレアにも素敵なお父さんがいるでしょ?」と声を掛けると、少し驚いたあと、「お父様のことは尊敬していますよ」と小さく笑った。


「「パンクロック騎士団長・・・パンクロック選手は今大会で優勝すれば前回に続き二連覇になりますわね。賞金はまた孤児院や貧困層への寄付ですの? 奥様に贈り物でもしたほうがよろしいのではなくて?」」


アザレアが少し口調を元に戻して、からかう様にパンクロックを見た。


「「今回も妻には黙って参加しているので・・・」」

「「だからこそ、贈り物をした方がいいと思いますわよ。どうせバレてお小言を言われるんです。騎士団長の仕事を疎かにしてはなりませんと・・・」」

「「アザレア様、その辺で勘弁してください・・・」」


観客席から笑い声が聞こえて来た。アザレアは困り果てたパンクロックを満足そうな顔で見たあと、一歩前に出て、「コホン」と咳払いをしてから口を開く。


「「このあとは、オードム王国の音楽騎士団による演奏会をご覧ください。その後、4回戦を行います。なお一試合目のディル選手の対戦相手は大怪我で棄権したため、ディル選手の不戦勝となります」」


アザレアが退場していくと、それに続いて、パンクロック、デンガ、ディルも退場していく。わたしは観客席でマリちゃんが手を振っているのが見えたので「先に戻ってるね」とディルに言って、飛んでマリちゃん達の元へ戻る。


「ソニアちゃんもディル君も微妙にズレてるわよね」


ジェシーに頭を撫でられながら「似た者同士ね」と言われた。

読んでくださりありがとうございます。ルテン、お酒の勢いでとんでもないことをソニアに言ってしまう。

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