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ちっちゃい妖精さんになりました! 暇なので近くにいた少年についていきます  作者: SHIRA
第2章 グルメな妖精と絶景のブルーメ
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64.武の大会、三回戦

「ソニアちゃん、ずっと息が止まってたけど・・・大丈夫?」


ジェシーが心配そうにわたしの顔を覗き込んでくる。どうやらハラハラしすぎて呼吸が止まっていたみたいだ。


 まぁ、必要無いんだけどね。


「大丈夫だよ、わたし達妖精は呼吸なんてしなくても大丈夫だからね」


ジェシーを安心させるために胸を叩いて得意気に言う。


「そ、そうなの!? やっぱり人間とは違うのね・・・」

「何を当たり前のことを言ってるんですか」

「妖精さんは可愛いもんね!」


ジェシーが驚き、水の妖精が呆れ、マリちゃんが感心した。


その後もグアテマ、パンクロック、デンガの試合が続き、全員が勝ち進んで二回戦目は終了した。そして、三回戦目が始まる。最初はディルVSグアテマだ。


「「いよいよ後半戦が始まります! 三回戦一試合目はこのカード! ずば抜けた戦闘センスで大人達を屠ってきた13歳の漆黒の少年、ディル!!」」


1つしかない入口からディルだけが入場してきた。観客席から「おおおおお!!」「きゃああああ!」と歓声が巻き起こる。ディルが少し照れた顔で台に上がった。


「フフッ、ディル君も女性人気が高そうね」

「ディルはまだ子供だもん・・・」


誇らしい気持ちと苛立たしい気持ちがわたしの中でせめぎ合う。


「ソニアちゃんったら・・・嫉妬かしら?」

「・・・嫉妬じゃないよ」


 嫉妬じゃないよ・・・。


「「二試合とも相手に攻撃させずに一瞬で勝利した、前回の準優勝者!グアテマ!!」」


グアテマが黄色い歓声を受けながら入場する。プラティに向かって軽く手を振りながら台に上がった。2人とも緊張した面持ちで向かい合う。


「「試合開始!!」」


直後、ディルが今まで見たことがないくらいの物凄いスピードでグアテマに突進した。ディルが立っていた所の石畳が衝撃で砕けている。グアテマはそれを予想していたのか、軽く横に飛んで躱して距離を取ろうとする。だがディルもそこまで想定済みだったみたいだ。距離を取ろうとするグアテマに向かって素早く回転しながら飛んで、その勢いで蹴りを入れる。グアテマは剣の端と端を両手で構えて受け止めたが耐えられず、少しよろめいた。

 

 わ、わぁ・・・よく分かんないけどディルのスピードが凄い!


「「ディル選手!凄いスピードです! グアテマ選手も速さには自信があった様ですが、流石に闇の魔石持ちには敵わない!」」


ディルがグアテマに向かって殴り続ける。グアテマは防戦一方になっている。


「いけっいけっ! そのまま!」


わたしは拳を握って水の座布団をぽよぽよさせながら応援する。ふと反対側の観客席にいるプラティの方に視線をやると、同じように拳を握って揺れていた。


「「グアテマ選手どんどん後退していくぞ!?」」


グアテマが端へ端へと追いやられていく。もう少しで場外というところで、突然グアテマの足元から風が巻き起こった。グアテマがディルの頭よりも高く飛び上がり、空中で水を纏った風の斬撃をディルに向かって放ちながらディルの遠く後方に着地した。


 グアテマが一気に窮地から抜け出しちゃったよ・・・。


突然のことに反応が遅れたディルは背中で斬撃を受けてしまう。服が切り刻まれ、背中から血が出ているのが見えた。その時、ディルが一瞬わたしの方をチラッと見た気がした。


 ・・・ディル!? ち、血がぁ・・・


「ソニアちゃん! 大丈夫だから泣かないで!?」


ジェシーの慌てた声に、頬に手を当ててみると濡れていた。


「で、でもディルから血が出て・・・」

「ディルお兄ちゃん、お父さんと戦ってる時はもっと凄い怪我してたよ?」

「え・・・?」


わたしが泣いて心配していると、マリちゃんがわたしの涙を指で拭きながら何でもないことのように言った。


「そういえば、デンガとディル君が本気で戦ってる時って大体ソニアちゃんが村にいない時だったわね。きっとソニアちゃんがこうなると思ったから敢えてその時にしてたんでしょうね」

「そ、そうだったんだ・・・」


 ・・・でも、わたしが村に行った時にディルが怪我してたことなんて無かったよ?


「「ディル選手!!中々距離を縮められない!グアテマ選手、接近戦にはさせないと牽制している!」」


ディルが背中の傷を物ともせずにさっきと変わらない速さでグアテマに向かうが、グアテマが斬撃を放ちながら後退していくので中々距離を詰めれないでいる。2人で台の上をクルクルと周っている状態だ。


「このままじゃ終わらないですね。あの青い人間も、あの空の魔石にはもっと別の使い道があるでしょうに・・・」


水の妖精の呟きが聞こえていたかのようなタイミングでグアテマが立ち止まり、剣先をディルに向けて構えた。ディルは一瞬立ち止まって警戒する。その瞬間、剣先からもの凄い勢いの突風がディルを襲った。


「うっ・・・・わあああああ!!」


ディルは屈んで石畳の隙間に指を引っ掛けて耐える。


「ディルー! 踏ん張ってー!!」

「ディルお兄ちゃん前見てー!」


グアテマが屈んでいるディルに向けて水の魔石を構えて発動した。魔石から水球が出たと思ったら、目の前にある突風に乗って、水の槍の様になってディルに飛んで行く。それに気付いたディルは慌てて立ち上がるが、突風によってバランスを崩す。そして後ろに勢い良く吹き飛ばされた。そのまま落ちれば場外になってしまう。


「ディル!」

「ディルお兄ちゃん!」

「あなたの持ってるそソレ、私も少し飲みたいです」


わたしとマリちゃんが思わず叫んで、水の妖精がジェシーの持っている飲み物を指差した。


「「ディル選手! 子供の体の軽さがここで不利になったー!」」


ディルは空中で「俺は子供じゃないぞ!」と叫びながらわたしには目に追えないくらいの速さで何かをグアテマに投げた。その瞬間、グアテマが「ぐっ・・・!」と呻きながら倒れた。その横にゴトッと台に使われている敷石が落ちた。それに遅れてディルが場外に着地する。


審判のトトガが場外に降りたディルを見たあと、倒れたグアテマの様子を急いで確認する。そして実況兼解説のサークリーと王子様達がいる貴族席に走っていった。


「ちょっとなにあれ! 1つの魔石であんな色んな使い方出来るの!? ズルだよ!ズル!」

「ズルじゃないですよ。波の妖精が波とは思えないものを生み出せるように、魔石も使う人間の技量や適性によって様々な工夫が出来るんです。この様に・・・はむっ」


水の妖精はそう言いながら、ジェシーが持っているコップの中身を小さな水玉くらいに切り取って浮かすと、そのまま自分の口の中に放り込んだ。


「私は液体なら水じゃなくても生み出せますし、操れます。これは・・・果実水ですか、ぬるいですね」

「すごーい! わたしにも飲ませてー! あーん」


わたしが水の妖精にジュースを飲ませて貰っていると、貴族席で何やら話し合っていた審判のトトガが戻ってきて、放置されていたグアテマを係りの人に運ばせる。そして所在なさげに立っていたディルを台の上に上がるように手招きする。ディルが台の上に乗ると「「コホン!」」というサークリーの声が響いた。


「「遅れましたが、試合終了です! 勝者はディル選手!!」」


会場にどよめきが起こった。一番人気だったグアテマが三回戦で敗退したことが皆にとっては意外だったみたいだ。


 わたしにとっては意外でもなんでもないけどね!


サークリーが試合結果について、ディルが場外に落ちるよりも先にグアテマが倒れたこと、意識が戻らないと次の試合に出られないことで勝者が決まったことを説明して、改めて試合の終了を宣言した。


「や、やったー!」


わたしは水の妖精にガシッと抱き着いた。


「か、雷の妖精・・・抱きつくならもうちょっと優しく・・・」


そういう割には嬉しそうにわたしの頭を撫でてくれる。


「ふぅ・・・危なかったけどちゃんと勝ったわね。私まで息をするの忘れてたわ」

「ひやひやしたね」


水の妖精に抱き着きながら、ふとディルの方を見ると目が合った。ディルがわたしに向かってグッと親指を立てた。わたしもディルからちゃんと見えてるか分からないけど、小さい腕を精一杯上に上げて親指を立てる。


苦戦はしたけど、勝ってよかった!


ディルが退場していったあと、台の修復作業が入り、次の試合が始まる。4番人気の選手と5番人気の選手の試合だ。


「あの2人似てるね」

「双子だそうよ。毎回兄弟で武の大会に出場しているらしいわ」

「へぇ~」

「デンガが出場した時の武の大会では相打ちで2人とも敗退してたって言ってたわね」

「今回もそうなればディルは不戦勝になるね」


・・・結果は相打ちだった。どっちがどっちか見分けがつかないけど、負けそうになった片方が「お前も道連れだあ!」と叫びながら抱きついて、胸元で火の魔石を発動して2人同時に燃えた。その瞬間わたしは思わず「ひぃ!」と悲鳴を上げた。流石に命の危険があると判断したトトガが遅れて水の魔石を使って消火したけど、2人とも意識を失って運ばれていった。


 ・・・すこし焦げた臭いがするよ。あの人達、本当に死んでないよね? 


運ばれていく2人を見ていると、トントンと頭を叩かれた。わたしが左右に座っているマリちゃんと水の妖精を見ると、水の妖精は「何か?」と首を傾げて、マリちゃんは焦げた2人を見ながら唐揚げを食べている。


 マリちゃんの胆力がすごい・・・。


わたしがキョロキョロと辺りを見回していると、後ろから「クククッ」と笑い声が聞こえた。後ろを振り向くとディルが立っていた。


「・・・ディル?」

読んでくださりありがとうございます。安心してください、生きてます。

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