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ちっちゃい妖精さんになりました! 暇なので近くにいた少年についていきます  作者: SHIRA
第2章 グルメな妖精と絶景のブルーメ
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62.マリちゃんの夢

「私も飛べるの?」

「飛べません。私が飛ばすんです」


水の妖精がマリちゃんを指差して、そのまま空を指差した。マリちゃんが「訳が分からないよ」というような顔でわたしを見る。


 そんな顔で見られてもわたしも分からないよ。


「まぁ、見ててください」


水の妖精はそう言うと、マリちゃんの前にポヨヨンっと大きな水球を出した。マリちゃんがすっぽりと収まるくらいの大きさだ。


「これをどうするの? ・・・まさか、マリちゃんをこの中に入れて運ぶとか!?」

「惜しいですけど、違います」」


水の妖精が首を振ると、水球がうにょーんと平べったくなった。大きな水の座布団みたいだ。


「この上に乗ってください」


 乗ってくださいって・・・これ、水だよね? 沈まないの?


マリちゃんは恐る恐るといった感じでそーっと片足を乗せる。


「わぁ!凄い! 沈まないよ? 乗れるよ!」


マリちゃんがわたしを見てポヨポヨと水球の上で跳ねる。


 なんか楽しそう! わたしも!


「本当だ!沈まないし跳ねるね!」


わたしもマリちゃんの横でピョンピョンと跳ねる。水の妖精が「危ないので座ってください」と言ってわたしの横に座った。


「じゃあ、行きますよ・・・あら?誰かこちらに向かって来てますね」


水球が地面から少し離れ始めたところで、会場からこちらに向かってくる王子様と護衛の人達と、その後ろにゲダイが見えた。王子様達は水球に乗ってるわたし達を不気味な物を見るような目で見る。


「ソニア様・・・これは、どういう状況ですか?」

「水の妖精とマリちゃんと一緒に会場に向かってる状況だよ!」

「・・・そうなんですか」


王子様はわたし達から目を逸らして、視線を合わせようとしない。


「王子様は・・・あ!アザレアを迎えに行くんでしょ!? 昨日一緒に大会を見ようって誘ってたもんね!」


わたしがニマニマとしながらそう言うと、王子様は色々な疑問を全て飲み込んだ顔をしたあと、一度息を吐いて屋敷の方向を見た。


「面倒ごとを片付けて来たので、一度屋敷に戻って休憩を取ったあと、アザレアと共に会場に向かう予定です」

「面倒ごと?」


 わたし、その面倒ごとに関係ないよね?


「宿の料金が高すぎると苦情が殺到していまして、急遽会場近くの空き地にキャンプ地を設営していたんです」


 あ、普通に関係なかった。


「・・・あ、そうそう! この水の妖精も料理大会の審査員やることになったから!アザレアにも伝えてあるけど、色々と調整お願いね!」

「え・・・」


わたしが水の妖精の背中を押して王子様に紹介してあげると、水の妖精は「偉い妖精の水の妖精です」と微笑んだ。


 王子様の笑顔が引き攣ってる気がするけど、わたしは気にしない。・・・頑張れ! こうして立派な大人になるんだよ!


「そろそろ行きましょうか」


そう言いながら水の妖精はわたしを見る。わたしはコクリと頷く。


「うん!じゃあ、しゅっぱーつ!」

「しゅっぱーつ!!」


わたしとマリちゃんの号令と共に、わたし達が乗っている水球が徐々に高度を上げていく。会場よりも高い位置になると進みだす。真下で王子様がポカンと口を開けてわたし達を見上げているのが見える。行列を作っていた観戦客達が驚いたような顔で上を見上げてわたし達に注目している。


 フフッ、なんだかいい気分だ。


「わぁ!たかーい!」


マリちゃんがわたしと水の妖精をギュッと膝の上で抱き寄せて、興奮したように肩を揺らしながら上空から見えるブルーメの景色を堪能している。


 うんうん、マリちゃんが楽しそうでなによりだ。どうせならもうちょっとこのままでいたいな・・・。


「ねぇ水の妖精!せっかくだからこのまま水の山をぐるっと周らない?」

「いいですよ」

「やったー!」


マリっちゃんはわたしと水の妖精を見下ろしてニッコリと微笑んだあと、水の山の頂上を指差した。


「私あそこに行きたい!」

「水の山の山頂ですか?」

「うん!」


水の妖精はマリちゃんが指差した山の頂上に向かって、水球の高度を上げながら水の山に移動させる。山頂に近付くにつれて、わたしと水の妖精がブルブルしだした。


 あれ? なんか、わたし震えてる? ・・・あ、違う。これマリちゃんだ!


マリちゃんが腕を擦りなながら震えてる。マリちゃんの膝の上に乗っているわたし達にその震えが伝わってくる。


「マリちゃん震えてるけどどうしたの!?」

「さ、寒いよ・・・」


 ・・・あ、そっか! ディルですら水の山の頂上では上着を羽織ったくらいだ。マリちゃんが震えるのも当然だよ。


「どうする? ここまでにして引き返す?」


わたしがそう言いながらマリちゃんを見上げると、マリちゃんは「いやだ」とフルフルと首を振る。すると、わたしの隣にいる水の妖精がポンッと手を叩いた。


「これならどうですか?」


水の妖精がそう言った瞬間、マリちゃんの震えが少し治まった。


「・・・あったかい」

「水の妖精、何したの?」

「水球の温度を上げただけですよ」

「へ~、便利~」


そうこうしている間に水の山の頂上に着いた。雲が下に見え、青く澄んだ色の海を跨いだ遠くの方にグリューン王国がある大陸が見える。その反対側には小さな島々と水平線が見える。


「・・・わぁ」


マリちゃんが目を輝かせて、息を吞んだ。


「いつか私も・・・」


マリちゃんが小さな声で何かを言った。わたしが「なあに?」と尋ねると、キラキラの瞳でわたしを見下ろして口を開く。


「私もいつか旅に出たいなぁ・・・」

「それは・・・」

「今はお父さんとお母さんと離れたくないんだけどね」


そう言ってマリちゃんはおどけるように笑った。


 マリちゃんがそんなこと言ったってデンガが知ったら泣いちゃうよ。マリちゃんの自由だから本気で反対はしないと思うけど。でも、わたしもマリちゃんが旅なんて心配だ。出来れば村でデンガとカカと一緒に過ごしてほしいと思う。まだ遠い未来のことだけどね。


「そろそろ戻りましょうか」

「そうだね。マリちゃんが風邪ひいちゃう」


会場に戻ると、観客の行列はだいぶ減っていた。わたし達はその行列の上を飛んで、上から観客席の方へ向かう。マリちゃんが「よいしょ」と水の座布団から降りた。観客席には、もうたくさんの人が入って来ていて、皆が上から入ってきたわたし達に注目していて、ちょっとした人だかりが出来ている。


「人間が多いですね、どこで観ますか?」

「うーん、近くて観やすい所がいいよね~」


わたし達が観戦する場所を探して移動すると、後ろを野次馬達がぞろぞろと付いてくる。その野次馬達をかき分けてわたし達の元へ駆け寄ってくる人物がいた。


「マリちゃん!」

「お母さん!」


マリちゃんが走って勢い良くジェシーに抱き着いた。ジェシーはマリちゃんの頭を撫でながらわたしと水の妖精を困った顔で見て口を開く。


「カカさんとプラティちゃんと一緒に受付を済ませたら、突然上からマリちゃん達が降りてきたんだもの。おかげでこの人だかりで2人と逸れちゃったわよ」

「この人間達、鬱陶しいですね。散らしますか?」


水の妖精が指先で小さな水球を高速で回転させながら、後ろをじろりと睨んだ。すると今まで物珍しそうに、微笑ましそうに見ていた人達が顔色を変えて逃げるように去っていった。


周りの人達が居なくなって進みやすくなったわたし達は、試合がよく見えそうな一番前の席に座る。


 ここならちっちゃいわたしでもよく見える!


水の妖精が自分とわたしとマリちゃんの椅子の上に先ほどの水の座布団を乗せて、体がちっちゃくても試合が見やすいように高さを調整してくれた。反対側の貴族席にアザレアと王子様が仲良さそうに座っているのが見えた。少し離れたところにカカとプラティも見つけた。中央の試合を行う場所は、予選の時は2つに分けられていた石の台が1つに合体している。


「デンガとディルは選手用の別の入口から入っていったわよ。あと、プラティちゃんの彼氏さんも」

「プラティの彼氏と会ったの? どんな人だった?」

「なんていうか・・・プラティちゃんとお似合いな元気な人だったわ」


 なんか含みがある言い方なのが気になるけど、悪い人ではなさそう。


「「これより武の大会の本選を始めます!」」


昨日の予選でも挨拶した女性が声を拡張する魔石を持って宣言する。観客席からたくさんの拍手や「おおおおお!」という雄叫びが出る。それを聞いて満足そうに頷いた女性は本選のルールや観戦する際の注意事項の説明を始める。


本戦はトーナメント式で魔石の使用は可能。上位3名に賞金と賞品が贈られ、上位2名は本戦終了後に開催される料理大会で審査員をすること、どちらかが戦闘不能になるか台から降りたら試合終了なこと、試合中に相手を殺してしまった場合は罪に問われることが説明された。


「「各選手のオッズなどは観客席の各エリアに貼り出しているトーナメント表に一緒に記してあります。ご確認ください」」


最後にそう宣言して女性は退場していった。そして入れ替わるように審判のトトガが台の端に立った。早速一回戦が始まるらしい。


「あの審判がデンガのお父さんなんだよ」

「へ~そうなのね・・・優しそうな人で安心したわ」


審判が一度観客席に向かってお辞儀をすると、2人の選手が同じ入り口から入場して来た。片方の選手はディルだった。


「あ、ディルお兄ちゃんだ!」


マリちゃんがディルを指差して嬉しそうに叫ぶ。


「本当だ・・・そういえば、わたしまだトーナメント表見てないんだけど、どんな感じなの? 何人くらい選手いるの?」

「30人くらいだったかしら? 優勝するなら全部で5回勝たなきゃならないわね。デンガとディル君はお互い決勝まで進まないと当たらないわよ。この試合が終わったら一緒にトーナメント表見に行きましょうか」


ジェシーが観客席の後ろにあるトーナメント表を見ながら言う。


「ディルの相手はどんな人だろう?」

「相手の人間は弱そうですね」


水の妖精が筋肉もりもりのディルの2倍くらいの身長の男を見て言った。


 何を見て判断したんだろう? わたしには凄く強そうに見えるんだけど・・・。


「「さあ! 始まりましたね! 武の大会の一回戦!」」


貴族席の方から元気な男性の声が聞こえた。見てみると、声を拡張する魔石を持った大きな体の男性が王子様の隣に座っていた。王子様の反対側の隣に座っているアザレアが凄く嫌そうな顔をしている気がする。


「「実況はこの私、ミリド帝国の騎士団長であるサークリーが! 解説はグリューン王国の第一王子である・・・バシン!!」」

「「解説もミリド帝国騎士団長のサークリーが行う」」


王子様がサークリーと名乗る男性から魔石を奪って、それだけを言うと魔石をサークリーに投げたのが見えた。


 解説・・・やりたくないのかな? 王子様。


「「コホン!! 気を取り直して・・・一回戦は、予選ではその強靭な体で相手を場外まで投げ飛ばした屈強な武闘家、ライドン選手!! そして対するは子供ながらに圧倒的な実力差を見せつけて予選を突破した、武闘家のディル選手!!」」


一回戦は武闘家同士の戦いだ。ディルはヨームの時と違って余裕そうな笑みを浮かべて屈伸運動をしている。


「ディルー! 頑張ってー!」

「ディルお兄ちゃーん!」


わたしが少し浮いて両手を振って、マリちゃんが身を乗り出して片手を振る。


 よーっし! 応援するぞ!!

読んでくださりありがとうございます。いよいよ試合開始です。

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