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ちっちゃい妖精さんになりました! 暇なので近くにいた少年についていきます  作者: SHIRA
第2章 グルメな妖精と絶景のブルーメ
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58.武の大会の予選、煽るディル

今日は武の大会の予選が行われる日だ。参加者達は朝早くから会場に行って受付など細々としたことを済ませなきゃいけないらしく、ディルはわたしが起きるころには既に会場に向かっていた。


「ソニアちゃんおはよう。ディル君が応援よろしくって言ってたわよ」


ジェシーが部屋の窓際で縫い物をしながら会場がある方向を見て言った。


「おはようジェシー・・・昨日から思ってたんだけど、ジェシーは何を作ってるの?」

「これ? 秘密よ」


そう言ってジェシーは縫っていた物を後ろに隠してしまった。


「ほら、早くしないと間に合わなくなっちゃうわよ」

「まだ大丈夫だと思うんだけど・・・」


わたしはジェシーに摘ままれて、開けた窓からポイッされた。


「ふふふーん、じゃんだわ~」


わたしは空高くに飛んで、髪を後ろで結びながら会場全体を見下ろす。下で見た時は丸い形だと思ってたけど、完全な丸ではなく、雫のような形をしていて、突起の部分が出入口になっているみたいだ。そこに長ーい行列が出来ている。


 まだ予選なのにこんなに人が・・・あの行列に並ぶのは怠いし、暇だ。屋根が無いんだし、そのまま上から入ったらダメかな。・・・いいよね?


わたしが会場の上から入ると、真ん中で設営の準備をしている人達に指示を出しているアザレアがとてもいい笑顔で「ソニアちゃん」と声を掛けてきた。


「アザレア、まだ大会の準備終わって無かったの?」


 もうすぐ予選なのに間に合うのかなぁ?


「予選用に会場を二つに分けてるのです。開始までには何とか間に合いますよ」


 なるほど、予選は人数が多いから二戦同時に行うのか。


「わたしに何か手伝えることある? 開始時間まで暇なんだよね」

「そうでわすねぇ・・・」


アザレアはわたしのちっちゃい体と重そうな石畳を運んでいる屈強な男の人を見比べて考える。


「でしたら・・・上空から見て、設営した台がちゃんと正方形になっているか確認してくださると助かります」

「お安い御用!」


わたしはもう一度上空に上がって、会場を見渡す。作業員達が粘々した液体を出す水の魔石を使って石畳をくっ付けていて、2つの正方形が出来上がりつつある。


 ・・・うーん、少しずれてるかな。


わたしが上空から精一杯の大きな声で指示を出すと、作業員達は戸惑いながらもわたしの指示に従って動いてくれた。いい感じの正方形になったのを確認して、アザレアがいるところに戻ると、石畳を運んでいた1人の男性が駆け足で近付いてきた。


「ソニアさん・・・ですよね?」

「え? うん。そうだけど」


がたいがいいのにやたらと腰の低い青い髪の髭を生やした男性が、わたしを見て申し訳なさそうな顔をする。


「お弁当を持ってきてくれた妻と娘から聞きました。俺が不在の間に宿を手伝って頂いてるみたいで、ありがとうございます」


 妻と娘・・・?


「あっ、もしかしてデンガとプラティのお父さん!?」


 デンガにそっくり~! 老けたらこうなるんだろうな~。


「はい、トトガと言います。普段は魔物退治をしているんですが、今は大会の準備に駆り出されています。本当なら早く帰って息子の嫁を見てみたいんですが・・・」

「明日はきっとジェシーもデンガの応援でくると思うから、その時にデンガに紹介してもらったらいいよ!」


デンガの父親、トトガが作業に戻ったあと、指示を出したり偶に何かを確認する貴族っぽい人と話しているアザレアの頭の上で、徐々に人が集まってきている観客席をボーっと眺めていた。


「ソニアちゃん、会場の準備などは終わりました。そろそろ予選が始まるのですけれど、良ければわたくしと一緒に見ませんか?」

「ぜひぜひ!」


わたしとアザレアは大勢の人達で賑わっている観客席の下にある貴族用の個室になっている席に移動して、わたしには大きすぎる椅子に座った。


「クラウス様はお料理大会の準備で来れないのですって」


アザレアが心から残念そうに言う。


「そっちの、料理大会の方は間に合いそう?」

「大丈夫ですわよ。クラウス様は無理なことは許可しませんし、やろうとしません。必ず間に合わせてくれますわ」


アザレアと駄弁っていると、1人の女性が会場の中央で声を拡張するエアロの魔石を手に持ったのが見えた。


「「お集まりありがとうございます!これから武の大会予選を開催します!」」


女性は開催の宣言をしたあと、予選のルールを説明する。昨日デンガが言っていた通り、2回勝てば本戦出場、2回負ければ敗退だ。石畳で作られた台から出るか、審判が戦闘不能と判断したら負け。それと、予選は本戦と違って魔石の使用は禁止らしい。


「「最後に、今年は明日の武の大会の表彰式後に可愛い妖精さん主催のお魚料理大会を開催します! 詳細は会場入り口にある掲示板か、会場関係者が後ほど配る木札をご覧ください!」」


女性は最後に料理大会の宣伝をしたあと、笑顔で手を振りながら退場した。すると、入れ替わるようにデンガの父親のトトガと知らない男性がそれぞれ正方形の台に立った。どうやら彼らが審判みたいだ。そして、大会の選手達が2人ずつ入場して来た。ディルの姿は無い。


「ディルはいつ出てくるんだろう?」

「対戦相手や順番などは当日にくじで決められるので、わたくしにも分かりません」

「そうなんだ」


 早く出て来ないかなぁ。


トトガが「始め!」と言った瞬間、選手達が戦い始める。


 ・・・あの剣って本当に刃が潰れてるの? 普通の剣に見えるんだけど、それにディルは武器じゃなくて拳で戦うんだよね。どうしよう、凄く心配になってきた。


「ソニアちゃんはこういう荒事は苦手ですか?」

「え・・・?」

「いえ、とても心配そうな顔で見ていたので・・・」


アザレアが心配そうな顔でわたしを見下ろす。


「苦手・・・とういうか、ディルが怪我しないか心配で・・・」

「フフッ、その気持ちは分かりますよ。わたくしもクラウス様が騎士団長と鍛錬をしているのを見ている時は心配でなりません。ですが、それをクラウス様に伝えたところ、心配ではなく応援して欲しいと言われました。好きな女性に応援されればどんなにきつくても頑張れそうだ、と」


アザレアは頬を赤く染めながら恥ずかしそうに話してくれた。


 ・・・心配してくれてるのかと思ったら、急に惚気だしたよ。


「ですから、ソニアちゃんも応援してあげるといいですよ。好きな殿方を心配するのも仕方ないかもしれませんが、あまり心配しすぎるとかえって失礼ですよ」


 ・・・そういえば、昨日ディルを心配してたら凄く不満そうな顔してたもんね。ディルが戦う時は全力で応援しよう!


ディルはまだかとソワソワしながら何回戦か見ていると、ついにディルが入場して来た。相手は剣を持っている大人の男性だ。2人は台の上で向き合うと何やら会話し始めた。他の観客席より台に近いところにある貴族席にいるわたしにはその会話の内容が聞こえる。


「おいおい大丈夫かお前? 俺はこんな武器も持てないようなガキを相手にしなきゃいけないのかよ。弱い者いじめみたいになるじゃねえか」

「おいおい大丈夫か? 俺はこんな対戦相手のある程度の実力すら分からない素人を相手にしなきゃいけないのか?」

「・・・このっ!てめえ!」


ディルが口の端を上げて対戦相手を見る。


 うわぁ・・・煽り合ってるよ。しかもディルは何故か凄く楽しそうな顔をしてるし。何がそんなに楽しいのか、男の子って分からない。


相手が剣の柄に手を置いた瞬間、トトガの「始め!」という声が会場に響いた。


「ディルー! 頑張ってー!」


わたしが大きな声で応援すると、ディルはこちらに気付いて嬉しそうな顔で手を振ってくれた。


 ディル!? 対戦相手を見て!


「よそ見してんじゃねえぞ!ガキィ!」


対戦相手の男が剣を抜いてディルめがけて走り出した。ディルは躱して反撃するのかと思いきや、そのまま後ろに走って逃げた。


「おい! 逃げんな!」


台の端まで来たディルはくるっと振り返って追いかけてくる男を見て、ニヤリと笑った。


「ガキ! もう逃げ場はねえぞ。後ろはもう台の外だ」

「そうだな、俺に逃げ場はないし、後ろに一歩でも下がればお終いだな。そしてお前は逃げ場はたくさんあるし、後ろには余裕がある。圧倒的に俺が不利な状況だな」

「ハッ! よくわかってんじゃねぇか!」


男が剣をディルに向かって振り上げた瞬間、ディルが素早く男の懐に入った。そして一瞬で男は反対側まで吹っ飛んでいき、台から落ちた。ディルは台から落ちてポカンと口を開けている男に近づいた。


「あんなに俺が不利な状況だったのに・・・弱い者いじめみたいになっちゃったな」

「勝者! ディル!」


審判のトトガがディルの勝利宣言をすると、ディルの試合を見ていた観客から歓声が湧き上がる。


「ディルは凄く強かったんですわね」

「うん! いつもわたしを守ってくれるんだよ!」

「フフッ、微笑ましいです」


アザレアが生暖かい目でわたしを見てくる。見事に試合に勝ったディルはわたしに親指を立てたあと、堂々と退場していった。あと1回勝てば本戦出場だ。この調子なら心配いらなそうだね。でも、慢心しないように後で注意しておこう。

読んでくださりありがとうございます。ディル無双な予感・・・!?

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