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ちっちゃい妖精さんになりました! 暇なので近くにいた少年についていきます  作者: SHIRA
第2章 グルメな妖精と絶景のブルーメ
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57.大会に備えて

「ごめん!」


ディルが遺物に嵌められていた黄色い魔石をヨームに押し付けながら勢いよく謝った。食堂で遅めの昼食を食べていたヨームは困惑した顔で口に含んでいた物をごくんと飲み込んだ。


「えっと・・・」

「ディルも悪気があったわけじゃないの! 許してあげてよ!」

「そうなんだ・・・まさかあんなことになるなんて・・・」


困惑するヨームにわたし達は畳みかけるように話す。


「いや・・・」

「ヨームが怒るのも仕方ないと思うよ。でも、わたしから見てもあれは予測できないと思うの!」

「そうではなく・・・」

「ごめんって!」


ディルが腰を綺麗に90度折って勢い良く頭を下げる。


 ・・・もう! ディルがこんなに真剣に謝ってるのにまだ許してくれないの!?


「あの! いい加減説明してくれませんか!? いきなり謝まられてもこっちはサッパリなんですよ!」


帰り道でわたしとディルで考えた勢いで誤魔化す作戦が失敗したので、仕方なく2人で砂浜であったことを説明した。


「つまり、ディルさんが遺物の魔石を発動させてしまい、小船が動き出しそうだったので慌てて止めようとした結果、魔石を外してしまった、と」


ヨームが腕を組んで難しい顔をする。わたし達は「はい」としか言えなかった。


「ハァ、まず言わせてください。あの船の構造では水上以外では魔石を発動したところで動きません」

「マジか・・・」


ディルが目をまん丸にしてヨームを見る。


 ・・・水を噴射して進むんだっけ? 確かにその水が無かったら進まないよね。


「それと、ディルさんが最初にこの魔石に魔気を流した時は発動しなかったじゃないですか。何故今回は発動したんですか?」

「それは俺が聞きたいよ」


ディルと会話していたヨームが「それじゃあ」と言ってわたしに視線を向けた。


「ソニアさんが何かしたんですか?」

「してないよ!」


 言い掛かりはよして!


わたしはディルの頭の上に移動して「ね!」と同意を求める・・・が、ディルは「うーん・・・」と考え込んでしまって同意してもらえない。


「何か思い当たる節が?」

「うん・・・。昨日ソニアがネックレスから出られなくなっただろ?」

「ディルがわたしの恥ずかしい話を暴露しようとしてたアレね」


 思い出したら腹が立ってきたよ。


「悪かったって・・・。その時急に頭痛がしたんだけど、ただの頭痛じゃなくて、なんだろう・・・こう、俺の物じゃない別の何かが入ってくるような・・・上書きされるような・・・ああ! 説明が難しい! とにかく! その頭痛が原因なんじゃないかと思う!」


 それって、ディルが言っちゃいけない事を言おうとしたから、わたしが電気を使って無理矢理止めた時のだよね? わたしはただやり過ぎただけだと思ってたんだけど、ディル視点だとそんなことになってたんだ・・・。


「妖精の祝福・・・ですか」


ヨームがわたしとディルを交互に見る。


「なんだそれ?」

「妖精に気に入られて自分の適性が増えたり強力になったりすることを、僕の国では妖精の祝福と言われています。・・・まぁ、そんな人物は歴史の講義でしか聞いたこと無かったんですけど」


ヨームが興味深そうにわたしとディルを交互に見ながら言った。


 妖精の祝福か、そんな大層なものじゃないんだけど。ただマリちゃんの姉として、わたしの恥ずかしい話を阻止したかっただけなんだけどな。強いて言うなら妖精の憤怒だよ。


「じゃあ、やっぱりあの黄色い魔石とソニアは関係があるのか?」

「うむぅ、そう考えるのが自然ですよね・・・。ただ、この魔石は少なくとも2000年くらいは昔の物です。ソニアさんはまだマリさんと同じくらいしか生きてないんですよね?」

「そだね」


ヨームは「分かりませんねぇ」と腕を組んで思考の海に沈んでいった。


「考えても分からないことは放っておこう! とりあえずディルに黄色の・・・雷の適性が増えたってことで!」


わたしはディルの頭をポンポンと叩いて2階に向かわす。何やらブツブツと言っているヨームをディルの頭の上から見ながら2階に上がって行く。


「ソニアは1人でドアを開けれないんだから、こっちだろ?」

「むふふん! それがね、開けなくても入れるんだよ!」


わたしはドアに付けられている金属のドアノブに入って、反対側のドアノブから抜ける。


「きゃあ!」

「わっぷ!」


ドアノブから抜けた瞬間ジェシーに鷲掴みにされた。ジェシーは驚いて目を見開きながらすぐに手を放してバンザイの姿勢になった。


「ソニアちゃん!ごめんなさい、苦しくなかった?」

「う、うん・・・驚いたけど大丈夫だよ」


そう言いながら、体のあちこちを確認する。


 少し羽が曲がった・・・? いや、無事だ。よかったぁ。


「ドアを開けようとしたら、突然ドアノブからソニアちゃんが出てきたんだもの、私も驚いたわよ」

「ごめんね。ジェシーはどこに行こうとしてたの?」

「マリちゃんのところよ、そろそろ休憩させないと・・・」


そう言ってジェシーはドアを開けて部屋から出て行ってしまった。わたしはベッドの上にぽふっとダイブして目を閉じる。


「ふぁ~~ぁ」


 ・・・夕方の食堂の手伝いまで中途半端に時間が空いちゃったな。ディルも明日に備えて夕方までは休むって言ってたし、わたしも少し寝ようかな。眠いし。



「ソニアちゃん起きて」


目を開けると、マリちゃんの緑色の瞳が目の前にあった。


「マリちゃん・・・もう手伝いの時間?」

「ううん、ご飯の時間だよ」


 え・・・わたし、お手伝いサボっちゃったよ!


「ソニアちゃん気持ち良さそうに寝てたから、マリちゃんが夕飯の時間まで起こさないでって言ったのよ」


ジェシーがマリちゃんの頭を撫でながら説明してくれる。


「そうなんだ。ごめんなさい・・・」

「気にしなくていいわよ、こう言っちゃアレだけど、ソニアちゃんは食器とか運べないから居なくてもそんなに変わらないのよ」

「・・・それはそれで酷いよ」


 これでも一所懸命に働いてるのに・・・。


「フフッ、でもソニアちゃんのことを探してるお客さんが沢山いたから、明日はお願いね」

「はーい」


わたしは食堂に移動して、わたしの定位置であるマリちゃんとジェシーの間のテーブルの上に座って、マリちゃんが小さく切ってくれる夕飯を食べる。


「いよいよ明日だな、ディル。予選で負けるなんてことないよな?」


デンガが挑発的な笑みを浮かべてディルの背中を軽く叩いた。


「負けないぞ、そしてデンガにも負けないぞ」

「それは、明後日の本戦が楽しみだな!」


 ・・・デンガはいつかの武の大会で優勝してるから予選はスルーできるんだったよね。ディルとは違って。


「そういえば、予選ってどんな形式で戦うんだ?」


ディルがむしゃむしゃと咀嚼しながらデンガを見る。


「ランダムで相手が選ばれて、2回勝てば本戦へ、逆に2回負ければ敗退だ。最高で3回、最低でも2回は戦うことになるな」

「2回勝てばいいのか・・・。デンガから見て注目してる人とかいないのか?」

「噂では本戦にグリューン王国の騎士団長のパンクロックが出るらしいが・・・本当かは分からないしなぁ・・・」


 デンガが「他に誰かいたっけなぁ?」と天井を見て考えている。すると、隣に座っていたプラティが持っていたフォークをカタンと置いてデンガの肩に手を置く。


「ん、なんだ?」

「お兄ちゃん、実はね、私の彼氏も出場するんだよ!」

「彼氏!? お前いつの間に・・・!?」


デンガはバッとプラティの方を振り向いて「聞いてないぞ!」と叫ぶ。


「すっごく強いんだから! ディル君負けちゃうかもよ?」

「そんなに強いのか?」

「前回の大会で準優勝したんだから!」

「ってことは予選は出ないのか。当たるとしたら本戦だな」


ディルが気合を入れるように大きなお肉を頬張った。


 そういえばプラティと最初に会った時に彼氏がいるって言ってたよね。どんな人なんだろう? 強いってことはやっぱり筋肉もりもりの男の人なのかな?


「プラティの彼氏か・・・俺が本戦で確かめてやる」

「ちょっとお兄ちゃん怖い顔しないでよ!」


プラティがデンガの頬を引っ張って可笑しな顔を作った。それを見てマリちゃんとジェシーが吹き出す。


「前回の準優勝ってことは、優勝したのは誰だったんだ?」

「どうせパンクロックだろ?」

「うん! 大きな武器を軽々と振り回して凄い強かったよ!」


 パンクロック、グリューン王国の騎士団長。前に見た時には背中に大きなハルバードを背負ってたよね。あんな危ない物振り回して相手の人は大怪我したりしないのだろうか・・・。


不意にわたしはハルバードで切られて苦しそうな顔をするディルを想像してしまう。


「ディル、大会に出て大丈夫なの?」


わたしが心配そうに聞くと、ディルは明らかに不満そうな顔でわたしを見て、口を開いた。


「ソニアは俺が負けると思ってるのか?」

「いや、そういうんじゃなくて、そんな危ない武器が持ってる人が出場するのに・・・怪我とか・・・心配だし・・・その、痛いのは苦しいでしょ?」


わたしがもにょもにょと言うと、ディルは目を瞬かせたあと、ふっと優しい笑みを浮かべた。


「危ない武器って・・・流石に大会で本物の武器は使わないだろ。ちゃんと刃は潰してるんじゃないか? それに俺は男だぞ、ソニアと違って怪我なんか日常茶飯事だし、痛いのも平気だ」

「そうなの? いっぱい血がでたりしない?」

「血は出るかもしれないけど、ソニアが心配するほどではないと思うぞ」


わたしは血が苦手だ。3年前にディルが頭から血を流してるのを見た時は怖くてそれどころじゃなかったけど、人間だった頃は採血しただけで気持ち悪くて倒れたこともある。妖精になってからは何故か少しは平気になったけど、苦手なのは変わらない。この世界は前の世界ほど平和じゃなさそうだから、こんなんでやっていけるのか凄く不安だ。


「その・・・だから明日は応援に来てくれよ」

「もちろん!」


わたしはグッと親指を立てた。


「俺は予選の観戦には行かないけどな」

「デンガ、来ないの? なんで?」

「意外と釣りが面白くてな。今日もやってたんだ」

「私もお魚料理を勉強したいから・・・」


デンガもマリちゃんも明日は来ないらしい。ジェシーも部屋でやりたいことがあるから、と言っていた。カカとプラティも明後日の料理大会に備えたいと厨房に籠るみたいだ。ヨームはずっと考え事をしていて会話に参加していなかったので分からない。


 なんだ、明日はわたしだけで応援か~。・・・そういえばアザレアとか王子様は大会の間なにしてるんだろう。一緒に観戦できないかな。

読んでくださりありがとうございます。ディルを心配する血が苦手なソニアでした。

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