56.遺物の魔石
「ソニアちゃんだ!」
マリちゃんがわたしを掴んで頭の上に掲げて嬉しそうにクルクルと回す。
ううぇえええ・・・目が回るよ~。
「よかった。私のせいでソニアちゃんずっとネックレスの中で過ごすことになるかと思ったわ」
ジェシーがマリちゃんにテーブルに置かれて目を回しているわたしに言った。
「うぅ・・・ジェシーのせいじゃないよ。 むしろジェシーのネックレスで良かったよ。もし、他の物に入って誰にも気付いて貰えなかったら・・・」
想像しただけでも泣いちゃいそうだよ。
「俺が気付くよ」
「え?」
「俺が絶対気付くよ・・・たぶん」
・・・どっちさ!
ディルが恥ずかしいことを言ってしまったという顔をしてそっぽを向いてしまった。
「それよりも、ディルさんはネックレスの中にいたソニアさんの声が聞こえていたんですか?」
「うん、聞こえてたし、ちゃんと会話してたぞ」
そういえば、ディルにはわたしの声が聞こえてたね。今はどうなんだろう?
わたしはネックレスの中にいた時みたいにディルに意識を集中して、頭の中で語りかける。
・・・ディルのバカバカバカバカ!!
ヨームと会話していたディルがバッと驚いた顔でわたしを見た。
「今俺のことバカって言ったよな?」
わたしは次に、同じようにヨームに語りかけてみた。
・・・ヨーム!うしろ!うしろ!
ヨームは不思議そうにわたしとディルを交互に見ているだけで後ろを気にする様子はない。
・・・ジェシー!うえ!うえ!
「マリちゃん、そのお魚はどうやって料理するの?」
「ひみつ!」
ジェシーはマリちゃんが捌いているお魚を見ていて、上を気にする様子はなかった。
これは・・・、ディル以外には聞こえないのかな?
わたしは少し落胆しながらも、一応マリちゃんにも語りかけてみた。
・・・マリちゃん!した!した!
お魚のワタを取っていたマリちゃんがバッと振り向いてわたしを見て、少し首を傾げた。
・・・もしかして、聞こえてるの!? マリちゃん!手を挙げて!
マリちゃんは頭の上に疑問符を浮かべたあと、お魚に向き合って作業を再開した。
やっぱりディルだけみたい・・・
ディルがしつこく質問攻めをしていたヨームを「魚が腐るぞ」とあしらって厨房を出ていく。ジェシーもマリちゃんに「頑張ってね」と言ってディルについて行った。ディルにあしらわれたヨームがギラっとした目付きでわたしを見たのが分かったので、逃げるようにわたしも厨房から出ていく。
「・・・お?遅いと思ったら厨房にいたのか。早くしないと日が暮れるぞ」
食堂の椅子に座っていたデンガが、ディルに向かって軽く手をあげた。ディルが「じゃあ行ってくるな」とわたしに手を振って、デンガに厨房であったことを話しながら宿から出ていった。
「それじゃあ、私は部屋に戻って作業を再開するわね。ソニアちゃんはどうする?」
「わたしも一緒に戻るよ。色々と試したいこともあるし」
わたしは部屋に戻って、もう一度ジェシーのネックレスに入ってみた。ジェシーが「ソニアちゃん!?」と驚いてたけど、もう出る方法は分かっているから大丈夫だ。
さっき厨房でディルに触れられた時の感覚は覚えている。あの時と同じようにすれば今度は1人でも出られるハズ。
夕方まで色々と試した結果、金属など電気が通りやすい物の中には入れるけど、木材やガラスは入れないことは無いけど、木が炭みたいに焦げたり、ガラスが一部分溶けたりしてしまった。夕飯の席でカカとプラティにひたすらに謝った。ディルが自腹を切って弁償を申し出たけど、「ソニアちゃんのおかげで島が救われるかもしれないんだから、そんな小さなこと気にしなくていい」と断られていた。
・・・とりあえず、ドアノブが金属でできていれば部屋の出入りは出来そうだ。
「それにしても不思議だなぁ、ディル以外には聞こえないのか?」
デンガが大きなお肉を頬張りながらわたしとディルを交互に見る。
「うん、皆にも試したけどディルにしか聞こえなかったの」
「マリさんにも聞こえなかったんですか?」
「なんかソワソワってしたよ。でも何も聞こえなかった・・・」
マリちゃんがシュンとしょげてしまった。
「そういえば、ディルはデンガと一緒に魔物の素材を見に行ってたんだよね? どうだった? 欲しい素材はあった?」
「うん、2つだけ貰って来たぞ!」
指を二本立てて、満足そうに笑う。わたしが「どんなの?」と聞くと、上を見て思い出しながら楽しそうに教えてくれる。
「毛と牙だ! なんだったけか、確か・・・モサモサ・・・」
「モッサモサウルスだな、俺が勧めたんだ。あれの毛皮はフサフサなのに頑丈で、そこらの剣なら簡単に弾くし、魔気の通しが良くてかなり良い防具が作れるだろう」
おお・・・よく分かんないけど凄そう。
「牙は?」
「牙は俺が選んだ!そこにあった中で一番硬くてカッコイイやつを持って来た!」
「あ、そうなんだ」
「反応薄くないか!?」
わたしから聞いといてあれだけど、武器とか防具とかそんなに興味ないし、分かんないもん。
「ブルーメからずっと南に海を渡って行ったところに鍛冶が盛んな国があるんだ。そこでなら素材を最大限生かした良い防具を作って貰えるハズだ。この先もし他に行く当てがないなら、そこに行ってみたらどうだ? 今なら大会の影響で普段は無いそこまで行く船があるかもしれないぞ」
「そうだな、それに一応短剣の1つでも持っておきたいと思ってたんだ。船があれば考えてみるよ」
そして翌日、わたしはディルの修行に付き合うことになった。一緒に必殺技を考えて欲しいと言われた。殺したら駄目だと思うんだけど、言葉の使い方を間違えてるだけだろうか。
「いよいよ明日は武の大会の予選だ!」
・・・そうだね~。
「カッコイイ必殺技を考えるぞ」
・・・今日は山じゃなくて砂浜に行くんだね。
「ヨームから、ついでに遺物を回収して来て欲しいって頼まれたんだ。・・・というか、その頭の中に直接話すのやめてくれよ。まるで俺が1人で喋ってるみたいだろ」
・・・ならディルもわたしと同じように話せばいいじゃん。
ディルがじーっとわたしを正面から見つめる。なんだか恥ずかしい。
「聞こえたか?」
「なーんにも」
どうやら、このテレパシーみたいなのはわたしからの一方通行みたいだ。
なんか片想いみたいで嫌だな。
ディルは砂浜の人気が無いところに行くと、お弁当とかが入ったリュックを岩の上に置いて腕を組んだ。
「ソニアは何かいいアイディアないか?」
「・・・へ?」
わたしが首を傾げると、ディルは不満たっぷりな顔でわたしを見てくる。
「もう・・・必殺技だよ!一緒に考えてくれるんだろ?」
「ああ、そうだったね。・・・えーっとそしたら・・・」
それからは、わたしが言ったことをディルがひたすら実践してみるという繰り返しだった。適当に言ったことをディルが出鱈目な身体能力で次々とこなしていくので、見ていて中々面白かった。
「ふぅ・・・、ソニアのおかげで色々と面白い技が出来たな!」
満面の笑みで汗を拭いながら言う。
「わたしもゲームのキャラクターを操ってるみたいで面白かったよ!」
「ゲームノキャラクター?」
「ううん、なんでもない! それより、ボート・・・遺物を回収するんでしょ?」
「そうだな」
わたしとディルは岩陰に置いてあるボートの元に移動した。ボートには変わらずヨームが貼った貼り紙がくっ付いている。
「そういえばこの魔石は結局何の魔石だったんだろうな」
ディルがボートの上に乗ってハンドルの真ん中に嵌められている黄色い魔石を撫でた。その瞬間ボートからブウウウウウン!!と大きな音が鳴った。ボートの手摺に座っていたわたしは驚いて転げ落ちる。
「ひゃあ!」
「うお!? なんだ? 魔石が発動したぞ!?」
ディルが両手を上げて驚いた顔で魔石を見る。
「何してるのディル!?」
「いや、俺にこの魔石の適正は無かったと思うんだけど・・・なんとなく魔気を流したら何故か発動した・・・」
「と、とにかく止めないと!」
わたしはディルの肩に乗って、魔石を指差して「早く!」と叫ぶ。
「おりゃああ!」
ディルがそう叫びながら思いっきり魔石を掴んで引っ張ると、魔石がハンドルからスポンッと外れてボートから鳴っていた大きな音は止まった。
「ディル、それ・・・」
あれって・・・電気?
ディルが持っている黄色い魔石からバチバチと電気が放出されている。
「うわっ、ソニアやめてくれよ!」
ディルが手に持っている放電する魔石とわたしを交互に見て言う。
「わたしじゃないよ! その魔石の魔法じゃないの!?」
ディルがブンブンと魔石を振っていると、魔石の発動が止まった。
「これがこの魔石の魔法なのか?」
ディルが不思議そうな顔で魔石を色んな方向から観察する。
「なんか、ソニアの雷に似てるな・・・」
「わたしは何も関係ないよ」
「だよな、ソニアは俺より歳下だもんな」
ディルが手に持っていた魔石を元の位置に嵌めようとするけど、無理矢理外したせいで周囲が歪んで嵌らない。ディルは黄色の魔石をポケットにしまって、ボートに貼ってある貼り紙を見る。
『この遺物はカイス妖精信仰国の所有物です。許可なく触れた者には厳罰が下されます』
「俺、まずいことしたかな?」
「とりあえず、ヨームに謝ろう」
読んでくださりありがとうございます。素材を防具にするのが今から楽しみなディルでした。




