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ちっちゃい妖精さんになりました! 暇なので近くにいた少年についていきます  作者: SHIRA
第2章 グルメな妖精と絶景のブルーメ
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55.ネックレスの中から

ジェシーがわたしに近づいて屈んだ瞬間、わたしはジェシーが首から下げているネックレスにパチパチという静電気のような音と共に吸い込まれた。


「ソニアちゃん・・・? 聞こえる?」


ジェシーの声が聞こえる。だけど視界は真っ暗だ。そして体の感覚がない。


 もしかして、わたしネックレスの金属部分に入っちゃった!?


「ねぇ、ソニアちゃん!? 大丈夫なの!?」


 大丈夫だよ!聞こえてるよ!・・・って声が出ない! しかも、どうやってここから出るのか分からないよ!


わたしは「ソニアちゃん」と必死に呼び続けているジェシーの声に意識を集中させて、どうにか出られないか、何かしらアクションを起こせないか、無い体を動かそうとしてみる。


 んんんんん!! 頑張れ! わたし! うおおおおお!!


・・・すると、バッと瞼を開けたように周囲の景色が見えるようになった。ジェシーのネックレスを中心に、周囲の景色の情報が直接頭の中に入ってくる。


・・・ったったったった


ジェシーがネックレスを大事そうに抱えて、階段を駆け足で降りている。

 

見えるし聞こえる。けど体の感覚がないから何もアクションを起こせない。


 ・・・ジェシーはどこに向かってるんだろう? 外側からどうにかして出してくれないかな~。


ジェシーは厨房のドアをバンッと勢いよく開けると、お魚に奇妙な色の液体を垂らしているヨームを通り過ぎて、踏み台に乗って一所懸命にお魚を切っているマリちゃんの方へ早歩きで向かう。


「マリちゃんどうしよう!? ソニアちゃんがネックレスに入っちゃった!」

「・・・へ?」


マリちゃんが包丁を持ったままコテリと首を傾げる。


「私が近づいたらこう・・・パチパチっと・・・」


ジェシーが身振り手振りを使ってマリちゃんに頑張って説明してるけど、パニックになってるのか所々言葉がおかしい。マリちゃんは難しい顔をしてジェシーをジッと見上げている。お魚の目玉をえぐり取って手のひらで転がしていたヨームがチラチラと見ている。そして目玉を置いてこっちに歩いてきた。


「ジェシーさん。何故ヘンテコな動きをしてるんですか?」

「ヨーム、こっちこないでって言ったでしょ?」


マリちゃんが頬を膨らましてヨームを睨んだ。


「気になる話が聞こえたので・・・それと、危ないので包丁は置いてください」


ヨームがマリちゃんの包丁をそっと取り上げて、台に置く。


「それでジェシーさん、ソニアさんがどうしたんですか?」


ジェシーは一度深呼吸したあと、ヨームとマリちゃんにわたしがネックレスに吸い込まれた時のことを話した。


「ソニアちゃん、この中に居るの?」


マリちゃんが不思議そうにネックレスを突きながら言う。


「なるほど・・・、そういうことですか。植物や土の中に入れる妖精がいるらしいので、それと似たような感じでしょうか」


ヨームが顎に手を当ててそう言うと、マリちゃんが「ミドリちゃんもお花の中に入ってたよ」とヨームを見上げる。


「でも、だとしたらどうして出て来ないのかしら?」

「さぁ、ジェシーさんをからかってるんじゃないですか?」


 そんなわけないでしょう!・・・出られないからだよ! 殴るよ!? 殴れないけど!


「ソニアちゃん、私をからかってるの? もう充分に驚いたから出てきてくれない?」


 出れるならとっくに出てるよ! ・・・もしかしてわたし一生このままとかじゃないよね・・・? 子供の頃おもちゃの指輪が指から抜けなくなった時と同じくらいヤバイ状況だよ! タスケテー!


「出て来ないわね・・・」

「うーん・・・」


ヨームが腕を組んで数秒目を閉じたあと、ネックレスを見て「これは推測ですが」と前置きをして話し始める。


「ソニアさんは出てきたくても出てこれないんじゃないでしょうか」


 その通りだよ!


「根拠は無いんですが、それ以外に出て来ない理由が分からないんです。・・・あっ、もしかしてソニアさんはあまり長く生きてないのでは?」

「ううん、ソニアちゃんはもう8歳なんだよ。私と同じで」


 うん、まだ8歳だね。マリちゃんと同じで。・・・人間の頃を合わせたら三十路だけどね。


「マリさんと同じ・・・やはり・・・なるほど・・・ふぅむ・・・そういうことでしたか」


ヨームがブツブツと小さく呟きながら思考の海に沈んでいく・・・のをマリちゃんがヨームの背中をパシっと叩いて引き上げた。


「ああ、すみません。えっと・・・ネックレスから出て来れない理由ですよね。恐らくソニアさん自身も初めてのことで勝手が分からないんだと思います」


 そうなんだよ! 分からないんだよ! さすが研究者! 殴ってあげる! 殴れないけど!


ジェシーが「どうしたらいいのかしら?」と頬に手を当てて、マリちゃんがネックレスに顔を近づけてじーっと見ている。すると、厨房のドアが開いた音がした。


「おーい、誰もいないのか~?」


ディルが入って来た。


「ディルお兄ちゃん」

「お、マリ・・・にジェシーとヨーム、皆厨房にいたのか。ソニアはどこ行ったんだ?」


ディルが辺りをキョロキョロと見渡しながらこちらに歩いてくる。


「山で修行するんじゃなかったの? 休憩?」


ジェシーがネックレスを持ったままディルの方を見る。


「いや、午後に宿の食堂でデンガと待ち合わせしてるんだ」

「ああ、そういえば昨日一緒にお屋敷に行くって話してたわね」

「魔物の素材のことを教えて貰うんだ。それで、ソニアは出掛けたのか?」

「ソニアちゃんならここにいるわよ」

「・・・え?」


ジェシーがネックレスをディルに見せながら、わたしがネックレスに吸い込まれたこと、それから一向に出てくる気配がないことをディルに説明した。


「ハァ・・・、この中にソニアがいるのか・・・。おーいソニアー、聞こえてるか~」


ディルがジェシーの持っているネックレスを軽く突いて問いかけてくる。


 聞こえてるよ~。でもわたしの声はディルに聞こえてないよ~。


「うーん、返事がないな」

「ソニアちゃん、このまま出て来ないんじゃ・・・」


マリちゃんがサーっと顔を真っ青にして、まな板の上にあった包丁を手に持った。


 ちょっとマリちゃん!? その包丁で何を・・・!?


ジェシーが「危ないわよ」とマリちゃんから包丁を取り上げてまな板の上に戻した。わたしがホッと気持ち胸をなでおろしていると、ディルがからかう様な笑顔でとんでもないことを言い出した。


「あっそうだ! ソニアの恥ずかしいことでも言えば慌てて出てくるんじゃないか?」


 やめてよ! 恥ずかしいことって何!? わたし、ディルと一緒にいる時におかしなことしてないよね!?


「ソニアちゃんの恥ずかしいこと?」


マリちゃんが興味深々な顔でディルを見上げる。


「ああ、あいつ意外と周りの視線に鈍いからな、近くに俺が居るのに気付いてないことが多いんだよ。クククッ・・・思い出しただけで・・・ハハハッ」

「えー!なになに!気になる!教えて!」

「フフッ、私も気になるわね」

「僕も聞いてみたいですね」


思い出し笑いするディルを見て、3人が身を乗り出して聞く態勢に入る。


 ・・・ひぃぃぃ! そう言われると思い当たる節が・・・。あの時のこと? それとも・・・。


「村に居た時なんだけど、俺は庭で飛び回って遊んでるソニアを自分の部屋の窓から見てたんだ」


 あ・・・もしかして・・・あの時ディルに見られてたの!?


「そしたら、ソニアがいきなり叫びだして、何かと思ってよく見たら、ちっちゃい虫に追いかけ回されてたんだ。それはもう大泣きしながらな」


 覚えてるよ・・・。庭で鼻歌を歌いながら飛んでたら急に目の前に大きいハエが現れたんだよ。決して小さい虫じゃない。気付いたらいなくなってたけど、あれは軽くトラウマだよ。


「え~! ソニアちゃん可哀そうだよ!」

「ちゃんと助けたぞ。近くに物を投げて追い払った。ソニアは気付いて無かったみたいだけど」


「あの後のポカンとした顔が面白かった」とディルが思い出し笑いをする。


 ありがとう、でもそれはその場で伝えて欲しかったかな。決して今伝えることじゃないと思う。そして笑わないで。


「他には無いのー?」


マリちゃんが期待を込めた目でディルを見上げる。


 ・・・もう勘弁してよ。そんな話されても出て来れないから。というかマリちゃん目的忘れてない?


「そうだな~、そういえば、前にあいつ寝ぼけて俺のことパ・・・」


 ・・・それは駄目だよ! マリちゃんのお姉ちゃんとしての威厳が・・・!もう雀の涙ほどしかない威厳が完全に消え去ってしまう!


わたしは脳内に映る景色の中で得意げに語っているディルに全ての意識を集中させる。ディル以外が見えなくなるくらいに。何故そうしたのか分からない。ただ、わたしの中の何かがそうするべきだと言っていた。お姉ちゃんの威厳を守るために・・・!


 ・・・その口を、閉じろーー!!


バチン!!


「いっ・・・!?」


静電気とは比べ物ならないくらい大きな電気の音と共にディルが頭を抑えた。突然のことにジェシー達が目を丸くする。


 ・・・ディル? よく分かんないけどごめんなさい! そんなつもりじゃなかったの!


「いや、大丈夫だ。そんなに痛くはなかった。ただ驚いただけだ」


 ・・・そうなんだ。でも、ディルが悪いんだからね!


「仕方ないだろ? ソニアが出て来ないんだから・・・え?」


 ・・・え?


「ディルさん、誰と話してるんですか?」


ヨームが不思議そうにネックレスと話してるディルを見る。ジェシーとマリちゃんも心配そうにディルを見ている。


「ディル君、いくらソニアちゃんが大好きだからって幻聴まで・・・」

「ち、違う!違うぞ!色々と違う! 本当にソニアの声が聴こえるんだよ!」


ディルが顔を真っ赤にして否定する。


 ・・・そんなに否定しなくてもいいじゃん! わたしはディルのこと好きだよ?


ディルが頭をブンブンと振ってわたしが入ってるネックレスを睨む。


「何してるのよ・・・。じゃあ本当に聞こえるんだとしたら、ソニアちゃんは今なんて言ってるの?」

「え・・・、えっと、そんなに否定しなくてもいいじゃんって、それから・・・」


 ・・・ソニアちゃん超可愛い!


「ソニアちゃん超可愛い」

「うん!私もそう思う!」

「ディルさん・・・」


ヨームが残念な人を見る目で見て、マリちゃんがいい笑顔で同意した。ジェシーは「ソニアちゃんなら言いそうね」と納得顔だ。


「・・・まともなこと言ってくれよ!ソニア!」


ディルがネックレスをツンと突っついた。その瞬間パチパチと静電気のような音がなって、目を開けるとディルの指の上に跨っていた。ディルが「うわぁ!」と急いで指を引っ込める。


 落ちる!・・・と思ったけど、わたし飛べるんだった。


「あ、戻ってこれたー!!」

読んでくださりありがとうございます。大人になって呼び方を変えても、ふとした時に元の呼び方に戻っちゃうんです。

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