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ちっちゃい妖精さんになりました! 暇なので近くにいた少年についていきます  作者: SHIRA
第2章 グルメな妖精と絶景のブルーメ
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53.ヨームの話とジェシーとの約束

「戻りました~、いや~メバチの魔石をリュックに入れっぱなしで、またずぶ濡れになってしまいました」


びしょびしょのヨームがポタポタと雫を床に垂らして、大きなリュックを床に置きながら言った。


「おかえり、ヨーム。港町まで荷物を取りに行ってたの?」


わたしはわたし用にカカが準備した小さい雑巾でせっせと天井の細かいところを掃除しながら、ヨームに声をかける。


「はい、デンガさんから荷物を取りに来るまで延長料金が発生していると聞いたので早めに行きたかったんです」

「にしても、行く前に何か言ってよ!心配はして無かったけど、どこに行ったのか分からないじゃん!」

「すみません、言う必要性を感じなかったので」


 必要性とか言い出したよ!


わたしは天井から下に移動して、全く申し訳なさそうにしていないヨームを呆れ顔で見ていると、テーブルを拭いていたカカが急に手をパンッと叩いた。


「ほれ! そんな状態でいたらまた風邪をひいちまうよ。さっさと部屋に行ってシャワーでも浴びて休みな!」

「ありがとうございます。そうさせてもらいます」


そう言ってヨームが大きなリュックを持って速足で二階に上がって行った。すると、ヨームと入れ替わるようにマリちゃんが階段を降りて来た。


「今、ヨームがいた」


マリちゃんはまるで感情の無いどうでもよさそうな顔で言う。


「さっき帰って来たんだよ。グリューン王国の港町まで荷物を取りに行ってたんだって」

「へぇ~」


 興味なし・・・っと。


「マリちゃんは今日も厨房のお手伝い?」

「うん、楽しいよ」

「そっか、マリちゃんが楽しそうでなによりだよ」


マリちゃんはご機嫌な足取りでトテトテと厨房の入り口にいるプラティの前に行って、「今日もよろしくお願いします」と丁寧にペコリとお辞儀した。


 ・・・マリちゃんは見てて飽きないね~。


マリちゃんとプラティが厨房に入って暫くすると、デンガとディルが一緒に戻って来た。早々に釣りに飽きたデンガが山で修業しているディルのところに行って一緒に修業していたみたいだ。「今回の大会でデンガに勝ちたい」とディルが息巻いていた。まだ一度もデンガに勝ったことが無いらしい。


「残念だったな、今回優勝するのは俺だ。負けられない理由があるからな」


食堂の椅子に座ったデンガが二階の方を見ながら言った。すると、掃除をしているカカが「手伝わないなら退けてくれ」と箒でバシバシとデンガを叩いた。デンガが渋々といった顔で箒を持って床を掃き始める。


「俺にも負けられない理由があるんだ」


ディルが不貞腐れて掃除する情けないデンガの背中を見ながら言う。


 ・・・賞金の為だよね。まったく、世知辛い。


今日の食堂はいつもよりお客さんが少なかった。カカとプラティ曰く、皆家でお魚料理を研究してるんじゃないか、と。カカとプラティが日中に行っていた主婦達の集まりで、魚をどんな風に調理するかで盛り上がったらしい。


食堂のお手伝いが早めに終わったので、今日は早めの夕飯をヨームも一緒に皆で食べる。


「料理大会ですか、それも魚に限定した」

「うん!面白そうでしょ? マリちゃんも参加するんだよ!」

「マリさんもですか。・・・ふぅむ」


ヨームが唇にフォークを当てたまま、何やら思考し始めた。


「あ、そうだ! ディル!」

「ん? あんあ?」

「アザレアが昨日の大きな魔物の素材で欲しいのがあればくれるって! ディルは何か欲しいものある?」


ディルの膨らんだ頬を突きながら言う。


「・・・ごくんっ。そう言われても魔物の素材なんて何が何やら分からないからな~」


ディルが全く嚙んでないんじゃないかというくらいのスピードで次々と食べ物を飲み込みながら悩み始める。すると、そんなディルにデンガが得意げな顔で声を掛けた。


「なら俺が教えてやるよ。ディルに予定がないなら明日お屋敷に行って見に行くか?」

「俺は大丈夫だけど・・・デンガはいいのか?」


ディルがジェシーの首元にあるネックレスをチラッと見て言った。


 そうだよ。デンガはジェシーにプロポーズしないの? ジェシーはデンガを待ってるみたいだよ?


「いいぜ、その代わり俺にも少し分けてくれ」

「いいけど・・・」


ディルが心配そうにジェシーの様子を窺うけど、そのジェシーは今、わたしの汚れた口元をハンカチで拭いてくれている。


 いや、違うんだよ。相対的に食べる物が大きいと、どうしても汚れちゃうんだもん。わたしの食べ方が汚いわけじゃない。


「マリさん、ちょっといいですか?」


何やら考え込んでいたヨームが、ジェシーが拭いてくれたのに再び汚れたわたしの口元を拭いているマリちゃんに声をかける。


「なに?」

「以前マリさんに遺物の研究を手伝って欲しいとお願いしたことがありましたよね?」


 ヨーム、マリちゃんにそんなことお願いしてたんだ。ただでさえマリちゃんに嫌われてるのに了承してもらえると思ったのかな?


「今回の料理大会で僕がマリさんに勝ったら手伝っていただけませんか?」

「やだ」

「むぐっ・・・!?」


 ちょっとマリちゃん! わたしの口にハンカチを押し付けないで!


「あ、ソニアちゃんごめんなさい!」

「ぷはっ」


マリちゃんが慌てて手を放した。


「手伝うと言っても魔石を発動してもらうだけですし、僕が負けた場合はマリさんのお願いを1つ聞きましょう」


「その方がフェアですよね」と挑発的な笑みを浮かべる。マリちゃんはちっとも気にした素振りを見せない。


「お願いって?」

「そうですね・・・。マリさんの知らない妖精のお話を1つお話する・・・とかどうですか?」

「むぅ・・・」


マリちゃんがわたしのことを見ながら腕を組む。そして許可を求めるようにジェシーを見た。


「マリちゃんのしたいようにすればいいわよ。いざとなればほっぽりだしちゃえばいいんだから」


ジェシーが悪戯っ子のようなお茶目な笑顔でマリちゃんに言った。それを聞いたマリちゃんがヨームに向き直る。


「1つじゃなくて、いっぱい」

「はい?」

「妖精さんのお話。勝っても負けてもいっぱい話してくれるならいいよ」


さっきヨームが言った「その方がフェアですよね」という言葉を鼻で笑うように、マリちゃんは条件を付け足す。


「分かりました。マリさんが勝った場合のお願いは別で伺いましょう」

「じゃあ、とりあえず1つ今話して」

「え、今ですか?」


マリちゃんが期待の籠った目でヨームを見る。それまで微笑ましそうにマリちゃんを見ていたジェシーが「食べ終わるまでよ」と注意する。


「分かりました。では、得られる魔石適正の条件と大妖精の関係について・・・」

「やだ、もっと面白いお話がいい」

「・・・それでは、マリさんの出身国のグリューン王国で実際にあった妖精に関わるお話を・・・」


ヨームが話してくれたのは、ある妖精と王女様の昔話だった。


・・・その王女様は周りと比べて成長が遅く、いつも他の令嬢達から陰口を叩かれていた。それで傷心した王女様は自室に引き籠ってしまう。そんな王女様の前に、ある日悪戯好きの小さな妖精が突然現れた。王女様を気に入った妖精は王女様の陰口を言っていた令嬢達を次々と直物の蔦を使って首を絞めて城の天辺に吊るしていく。それを見た王女様は「こんなこと望んでいない」と罪悪感に押しつぶされ、城から逃げ出そうとする。それを見た妖精は王女様を無理矢理に拘束して緑の森に連れ帰った。それ以降、王女様の姿を見た者はいなかった。


・・・という内容のお話をヨームが食事中に話した。それを聞いたマリちゃんの感想は「こわい」だった。


ヨームが面白くないお話をしたせいで、皆のテンションが少し低い。食器を片付け終えたデンガがそんな重い空気を壊すように口を開いた。


「なぁディル。俺達も武の大会で何か賭けないか?」

「いいな、それ」


ディルがニヤリと挑発的な笑みを浮かべてデンガを見る。


「じゃあデンガが負けたら全財産をわたし達にちょうだい!」


せっかくなのでわたしも便乗してみた。


「重いわ! いや、負けるつもりはないんだけど・・・」

「じゃあそれで決定ね!」

「なら、お前らも同じ条件な」

「いいよ! ディルは負けないんだから!」


わたしはディルの頭の上に立って得意げな顔を作ってふんぞり返ってデンガを見下ろす。


「いや、ソニア。凄く嬉しいんだけど別のにしよう」

「じゃあ、負けた人はわたしの言うことを何でも聞くこと!」


わたしはビシッとデンガを指差した。デンガは何故か呆れ顔になり、ディルはわたしをそっと掴んだ。


「お? なになに?」


ディルはわたしをマリちゃんに渡して「ソニアを連れて部屋に行ってくれ」と言った。


 え・・・なんで?


「少し早いけど、私達は寝る準備をしましょうか」


ジェシーがそう言ったので、わたしとマリちゃんとジェシーは二階の女性部屋に戻って寝る準備を進める。


「ソニアちゃん達は大会が終わったらすぐにブルーメを発つの?」


ジェシーが隣で寝ているマリちゃんが寝息を立て始めたのを確認してから言った。わたしはジェシーとマリちゃんの間に置いてある枕に寝転がりながら答える。


「たぶんね。それでお金の問題が解決するし、ディルの両親についても、水の妖精が何か思い出さない限りこれ以上は得られるものが無さそうだからね」

「行き先は決まってるの?」

「ううん。なーんにも」

「そうなの・・・」


ジェシーはそれだけ言って目を閉じた。


「急にどうしたの?」

「寂しくなるな、と思ったのよ。マリちゃん、きっと泣くでしょうね・・・」

「泣かせないよ、笑ってまたねって言ってもらうんだから」

「ふふっ、言ったわね? 約束よ」


ジェシーは一度閉じた目を再び開けてわたしに小指を差し出した。


 指切りかな? こっちの世界にもあるんだね。


わたしはジェシーの小指を両手で掴んで約束をした。

読んでくださりありがとうございます。マリちゃんを心配するジェシーでした。

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