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ちっちゃい妖精さんになりました! 暇なので近くにいた少年についていきます  作者: SHIRA
第2章 グルメな妖精と絶景のブルーメ
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47.ブルーメの事情とお魚料理

「まさか厨房を借りる理由が魚を料理するためだったなんてね」

「これって、水の山にいる魔物だよね?本当に食べれるのかなぁ」


カカとプラティが台に横たわっている大きな魚を見下ろしてそう言った。


「それで、どうやって切るんだ?」


ディルが厨房にある一番大きな牛刀を手に持って、野球選手のような構えをした。わたしは人間だった頃にお父さんに連れられて見た魚の解体ショーをちっちゃな頭を振り絞って思い出す。


「えーっと・・・まずは頭を切り落として・・・」


ズドン!


「え・・・?」

「なんだ?」


ディルがお魚の頭を胴体を一刀両断して、「何かおかしいか?」と首を傾げる。


「いや、まぁいいや」

「?」


 まさかそんな一刀両断するとは思って無かったけど、食べられればいいよね・・・?


「次にお腹の所を切って・・・」


ザシュッ!


「内臓を取り出して・・・」


ダバババ!ゴトッ


「ここを切って・・・骨を取って・・・あ、そこの筋みたいなのも取って・・・皮をはがして・・・最後に一口サイズに切り分けて・・・」


だいぶ大雑把だったけど、何とかお刺身が出来上がった。切ったお刺身をカカとプラティが丁寧にお皿に盛りつけていく。ディルは内臓を取り出す時に出てきた魔石を洗ってポケットに仕舞っている。


「それじゃあ、皆に出す前にわたし達で味見をしよう!」


わたしは言いながらディルがわたし用に切ってくれた小さなお刺身をパクっと食べた。それに続いてディルが一気に二切れを口に入れ、カカとプラティが恐る恐るといった感じで一切れを口に入れた。


「うーん!うまうま~!」


 思わず笑みが零れちゃう!


頬を手で押さえて、もきゅもきゅとよく味わうように咀嚼する。


「水の山で食べた魚より柔らかいな!」

「・・・っ! これは美味しいねぇ。酒の肴にピッタリだ」

「本当だ!魚がこんな美味しいなんて知らなかったよ!」


ディルとカカとプラティも美味しそうに咀嚼する。


「でしょう!?でも、他にも美味しいお魚料理はいっぱいあるんだから!」


わたしは皆の前で飛び上がり、腰に手を当ててふんぞり返って言う。


「それは・・・この島が救われるかもしれないねぇ」


カカが思案顔で呟いた。


「え?」

「いや、こっちの話さ。それより、さっさとこのお皿を運んでしまおうか」


そう言って、カカは大きなお皿を両手に持って食堂に向かった。プラティが慌てて残りのお皿を持ってカカに続く。わたしとディルも一緒についていく。


「ん?なんだ?新しいメニューか?」

「変わった肉だな。何の肉だ?」


食堂にいるお客さん達がカカとプラティが運んできたお皿に注目する。マリちゃんを寝かしてきたジェシーとデンガがお刺身を見て「まさか・・・」というような顔をしている。


「そうさね。新しいメニュー候補って感じかね。皆で食べて感想を聞かせておくれ」


カカが言った言葉を聞いて、皆が興味深々にお皿に集まって食べ始める。


「ソニアちゃん、これってもしかして・・・」


ジェシーが不安そうな顔でお刺身とわたしを交互に見る。


「まあまあ!まずは何も聞かずに食べてみてよ!」


デンガとジェシーがまるで芋虫を食べるかのような顔をしながら、そーっとお刺身を口に入れた。


「・・・おお!案外イケるな!」

「本当ね!これって日持ちするのかしら?マリちゃんにも食べさせてあげたいわね」


2人とも驚いて目お見開いて、お皿に残ったお刺身を見る。


 この顔が見られたのなら・・・まぁ、満足かな。


「明日水の山に行って俺が捕ってこよう。ジェシーも一緒に行くか? メバチ程度なら守りながらでも戦えるからな」

「そうね、特にすることもないし一緒に行こうかしら。マリちゃんにも明日聞いてみるわね」


お刺身はデンガとジェシー、それに他の皆にも好評だった。最後にわたしが「実はこれ、お魚のお肉なんだよ!」と大きな声でネタバラシをしたら、みんなが驚愕の表情をして空になったお皿を見ていた。


 うんうん! 満足満足!


そのあとは、皆で後片付けをしてこの場はお開きとなった。ちなみに、カカがヨームにお刺身を持って行っていたらしく。部屋に戻ると、「また食べさせてください」といい笑顔で言われた。


 皆、お魚の虜だね。


翌朝、デンガとジェシーとマリちゃんは水の山にメバチを捕りに行き、ヨームは「やっと自由に動けます」と言って足早にどこかへ去っていった。わたしとディルは、昨日グリューン王国の王子様が言っていた、島の東側にあるというお屋敷に向かう。


「ん?あのでっかい建物はなんだ?あれがお屋敷か?」


お屋敷に行くために水の山の裏側に回ると、屋根のないとても大きな建造物が視界に入ってきた。


「あれは違うんじゃない?たぶん武の大会を開催する場所じゃないかな?」


 人間だった頃も似たような構造の競技場とかあったし。


「なんで屋根が無いんだ?」

「作るのを忘れたんじゃない?」

「なんか、人がいっぱい居るな。なにしてるんだ?」

「さぁ~、遊んでるんじゃない?」

「・・・適当に返事してないか?」


ディルがジトーっとわたしを見る。


「ううん、そんなことないよ?」


わたしがディルの質問に適当に答えていると、王子様が言っていたお屋敷に着いた。わたしはお屋敷の前に立っている門番らしき人に元気に挨拶する。


「おはようございます!」

「は・・・え?」


門番さんはわたしを見て口と目を大きく開けた。


「えっと、王子様に来てほしいって言われてきたんだけど!」


わたしは門番さんの後ろにあるお屋敷を指差して言う。


「あ、ああ、はい。聞いております。念の為お名前を伺ってもよろしいですか?」

「ディルだ」

「ソニアだよ!」


わたし達の名前を聞いた門番が「少々お待ちください」と言って駆け足でお屋敷の中に入って行き、執事服を着た男性と一緒に戻って来た。


「ソニア様とディル様ですね。主よりお話は伺っております。どうぞこちらへ」


執事が「ついて来て下さい」と言って屋敷の中にある一室に案内された。そこには書類と睨めっこしている豪華な服を着た薄茶色の髪の美男子が奥にある立派な椅子に腰かけていて、手前にある向かい合ったソファーにはふわふわの赤いドレスを身につけた焦茶色の髪の可愛い少女と、紺色の髪の立派な髭を携えた中年男性が座っている。


「よく来てくれた、ディル。そして、そこにいるのはグリューン王国を救って下さった妖精のソニア様で間違いないですか?」

「間違いないよ!雷の妖精のソニアだよ!よろしくね☆」


わたしはパチッとウィンクしながら自己紹介をした。赤いドレスの少女が「まぁ!」と弾ける様な大きな声を上げて身を乗り出した。


「父上から聞いていた通りみたいだな・・・。私はグリューン王国の第一王子のクラウス・グリューン・アイル。こちらが私の婚約者であるアザレア・エーテルワイス、コンフィーヤ公爵令嬢です。そして・・・」


 うん。名前が長い。アザレアだけ覚えとこう。


王子がアザレアの向かいのソファーに座っている中年男性に視線を向けると、男性は立ち上がり、わたし達を見てニコリと笑った。


「初めまして、私はブルーメの島主のゲダイと言います。この度はお二方に聞きたいことがあり、急遽同席させてもらいました」


ゲダイが丁寧にお辞儀する。


「聞きたいことって何だ?」

「それは後にしてくれ、まずはこちらの話からだ」


王子様がそう言いながら手を振ると、ゲダイが椅子に腰掛けた。


「クラウス様、まずはお二人に席を勧めた方がよろしいのではなくて?」

「ああ、そうだな。そこのソファーに腰掛けてくれ。ソニア様は・・・自由にしていて構わないです」


ディルが一番手前にある、王子と向き合っているソファーに座って、わたしはディルの横にちょこんと座った。


 テーブルが邪魔で王子様の顔が見えないや。


わたしはディルの頭の上に移動した。


「この度は私の管理下にある貴族が迷惑を掛けたようですまなかった。あの貴族は言動に問題があるとして国に送り返した。それと、お詫びにこちらを受け取って欲しい」


王子がアザレアに視線を向けると、アザレアがこくりと頷いて、横に置いてあった小さな木箱をディルに渡した。ディルが木箱を開けると、丸く磨かれた綺麗な闇の魔石が入っていた。


「其方には闇の適正があると聞いてな。数年前にある旅人がブルーメに置いていったものなのだが、アザレアが言うにはかなり頑丈で寿命が長い魔石らしい」

「おお!実はそろそろ魔石の寿命が近づいてるんじゃないかと心配してたんだ!ありがとう!助かる!」


ディルが闇の魔石を手にとって、まじまじと見ながら言う。


「すみませんが、ソニア様には現状私達が用意できる物で何がいいのか分かりませんでした。何か欲しい物やして欲しいことがあれば仰ってください。可能な限り応えます」

「考えておくね!」


 うーん、何か欲しい物かして欲しいことかぁ・・・。何もない訳じゃないんだけど、王子様が応えられるとは思えないんだよね。美味しい魚を教えて欲しい!なんて言っても分からないよね。食べたこと無いんだもの。


「それでは、私からよろしいでしょうか?」


ゲダイが姿勢を正してわたし達を見る。


「わたし達に聞きたいことがあるんだよね。なあに?」

「昨日の夜。ある宿で妖精が魚を料理した物を出したと町で噂になっているのですが、それは本当ですか?」


話を聞いていた王子とアザレアが「本当か!?」「お魚を!?」と驚いている。


「本当だよ!すっごく美味しかったよ!」


わたしがそう言うと、ディルも「確かに美味かった」と同意してくれる。


「ほほう!それは希望が持てますね・・・」


 そういえば、カカも似たようなこと言ってたよね。


「この島では今物価が向上して移住者が続出していることはご存知ですか?」


ゲダイが話してくれたのは、ブルーメの物価が上昇し続ける理由だった。


ブルーメはどこの国にも属していないし、船でしか来れないので食料などは基本的にグリューン王国から輸入していたらしい。

それで、元々他の国より物価は少し高かったのだが、それでも今までは観光客が沢山来ていて、それなりに景気が良かった。

でも、最近になってグリューン王国が観光地として頭角を現し始めたため、ブルーメの観光客は以前と比べて随分と減ってしまった。

それによってブルーメは徐々に不景気になり、物価が上がり、住民は近くのグリューン王国に移住して、今の状況が出来上がったらしい。


「もし、本当に魚が食べられるのでしたら、輸入する食料の量を減らせますし、観光資源にできるかもしれません。幸い今年は武の大会をブルーメで開催することになっています。この機を逃さずに宣伝しなくては・・・」


ゲダイが早口になっている。何を言ってるのかよく聞き取れない。


「うーん、難しいことは良く分からないけど、要はお魚が食べられることを広めたいんだよね?」

「え、ええ。その通りです」

「そっかー・・・」


わたしは顎に手を当てて考える。


 ・・・ピコーン!わたしはとっても良いことを思い付いた!出来たら面白いかも!


「ねぇ、王子様。何かして欲しいことがあれば仰ってくださいって言ってたよね?」

「え?はい。言いましたが・・・」


王子様がわたしに笑顔を見て身構える。


わたしはソファーから浮き上がり、ディルの頭の上に仁王立ちになって宣言する。


「料理大会を開催したい!いや・・・するよ!」

読んでくださりありがとうございます。分からないことは適当に誤魔化すソニアでした。

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