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ちっちゃい妖精さんになりました! 暇なので近くにいた少年についていきます  作者: SHIRA
第2章 グルメな妖精と絶景のブルーメ
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39.再会、そして再会

「チッ、気付かれたか」


どこかで聞いたことのあるような男性の声がした。暗くてよく見えないけど、太った男性が、後ろの建物の陰から出てきた。


「お前・・・・!」


ディルが男性を見た途端にわたしを庇うように前に出て、拳を構えた。暗くてもディルには誰だか分かったらしい。


「久し振りだな。まさかこんなところであの時の妖精を見かけるとは思わなかったぞ」

「え?わたし?」


わたしはディルの後ろからひょこっと顔を出す。


「そうだ、貴様だ。貴様らのせいで私は莫大な罰金を取られ、伯爵から男爵まで落ち、果てはこんな辺鄙な島で大会の手伝いなどに駆り出される始末。見事に没落貴族の仲間入りだ」


 伯爵・・・・?


「あー!あの時の!わたしを買おうとしてコンフィーヤ公爵に捕まったおじさん!」

「おじさんではない!ザリースだ!ザリース伯爵だ!今は男爵だが・・・」


 そうそう、ザリース伯爵ね。3年前にアボン商会に攫われた時に、わたしを買おうとしてた変態貴族だ。


「それで、その男爵様が俺達になんの用だよ」

「いやなに、水の店で遊んだ帰りにたまたまそこの妖精を見かけてな。昔話でもしようと思ったまでだ。」


 ザリースが話しながらゆっくりとわたし達との距離を詰めてくる。


 水の店?なんだそれ、綺麗な水でも売ってるのかな?あんな体型だけど、飲み水には何かこだわりがあるのかもしれない。


「何が昔話だ、お前と話すことなんて何もない」

「貴様には聞いてない、私は貴様の後ろにいる妖精に聞いている」


わたしも何か言ってやろうと思ったけど、ディルに目で「黙ってろ」と言われた気がしたので、ここは素直にお口にチャックをしておく。


「それ以上その汚い体でソニアに近づくな!」


ディルがこちらに向かって歩いてくるザリースに叫んだ。


「貴様は邪魔だ!退いていろ!」


ザリースが懐から赤い魔石を出してディルに向けた。魔石から赤い炎がディル目掛けて噴き出す。ディルは噴き出した炎を横に跳躍して避け、建物の壁を蹴って、その勢いでザリースの顎に膝蹴りを入れた。


「ぐっ・・・」

「よっと、この火の魔石は危ないから没収な!」


ザリースが後ろに吹っ飛んで倒れる。手放された魔石が宙に浮いたところを、ディルがパシッとキャッチした。


「おぉ!凄いよディル!まるでアクション映画みたいだったよ!」

「アクションエーガ?が何かは知らないけど、褒め言葉なんだよな?」

「うん!カッコ良かったよって意味だよ」

「へへっ」


ディルが照れ笑いをした。


 少し褒めたらすぐ照れるのは昔から変わらないよね。そこが可愛いんだけど。


わたしは地面に倒れて動く様子の無いザリースに近づいて顔を覗いてみる。気絶してるみたいだ。蹴られた顎が真っ赤になっている。


 あーあ・・・痛そ。


「ソニア!危ない!」

「え?」


突然ザリースの目が見開いて、瞳がギョロっと動いてわたしを追う。背筋がゾッとした。


「捕まえたぞ!妖精!」


ザリースがわたしを掴もうと腕を上げる。


「気持ち悪いー!」


ビリビリビリィ!


「ぐわわわわわわわ!」


わたしは放電した。死なないように一応手加減はしたけど。少しやり過ぎちゃったかもしれない。ザリースの頭がとても先進的で斬新な髪型に変わり、白目を向いて、陸に上げられた魚のようにピクピクと跳ねている。


「うわぁ、気持ち悪い」


 夢に出てきたら嫌だなぁ。


「ソニア!大丈夫・・・なのか?ザリースは」


ディルがわたしを見たあと、無残な姿になったザーリスを見下ろす。


「これ、どうしよう?」

「「・・・・」」


沈黙の時間が流れる。


「宿に戻るかぁ」

「そうだね、わたし達はただ散歩をしていただけ」

「ああ、何も無かった」


わたし達はコクリと頷きあったあと、地面に横たわっているザリースを背に歩き出す。


 ザリースはマヌケにも自分で転んだんだ。そうだ、暗くて足元が見えなくて転んだんだ。可哀想に。


「大丈夫だよな?あれ、放って置いて」

「分かんないけど、だからといって、どうすることもできないよ」

「これ以上関わってこないことを祈るか」


わたし達が宿に戻る頃には、空が少し明るくなってきていた。デイルが宿の玄関扉を開けようとドアノブに手をかけた時、わたし達が浜辺に行った方向の道から人の声が聞こえた。


「ん?あれディルじゃないか?」


 ん? この声は・・・


「あ!デンガ!それにジェシーも!」


何故か傷だらけのデンガが、どこか疲れた様子のジェシーを背負っている。


「おお!妖精もいるな!」

「よかった!無事だったのね」



 こちらに着くのはお昼頃だって、ヨームが言ってた気がするけど。というか、どうしてデンガはあんなにボロボロなんだろうか・・・。


「こんな中途半端な時間に、どうやってブルーメまで来たんだ?それにデンガは傷だらけだし、何があったんだよ」


ディルが気になったことを全部聞いてくれた。


「色々あったんだ。それより、マリはどこにいるんだ?一緒じゃないのか?」

「安心して!マリちゃんなら、ここの宿でスヤスヤだよ!」


安心させるために笑顔を作って、宿を指差す。


「そういえば入ろうとしてたな。丁度良かった」

「え?」

「この宿は、俺の御袋(おふくろ)がやってる宿なんだ。カカっていうガタイの良い女が居ただろ?それが俺の母親だ。」

「あ~、確かに言われてみれば似てるかもしれないな!」


 そんな偶然ってあるんだね~!


デンガが「もう降ろしていいわよ」と言ったジェシーを地面に降ろして、宿に入っていった。


「御袋達はまだ寝てるよな・・・マリは二階の部屋か?」

「そうだよ、あ、あとヨームもいるよ!」

「あー、あの前髪の研究者か」


わたし達がデンガとジェシー達を連れて部屋に戻ると、ヨームがベッドに座って足を揉んでいた。


「おや、ソニアさんにディルさん・・・とマリさんのご両親まで。僕が寝ていた間に何があったんですか?目が覚めたら寝ているマリさんしか居なかったので驚きましたよ」

「俺とソニアはただ散歩をしていただけだぞ、変わったことなんて何もなかった。デンガとジェシーとはさっき宿の前で会ったんだ」


ディルが目を逸らして前半を棒読みで言う。


 うん、何も無かったね。わたしとディルは散歩をしていただけだ。ヨームがチラッとわたしを見たけど、わたしは何も答えない。ボロが出る前に話題を逸らすことにした。


「で、デンガとジェシーはどうやってブルーメまで来たの?」

「御袋達が起きてから話そうかと思ってたんだが、まぁ、長い話でもないし、先にお前らに話すか」


デンガが部屋にある椅子にドガっと勢い良く座って、話そうとした。すると、ジェシーが申し訳なさそうな顔で遠慮がちに手を挙げた。


「あの、図々しいかもしれないんだけど、デンガが話してる間にシャワーを浴びてもいいかしら?もう、髪がベタついて我慢できなくて・・・」


 あー、そういえばわたしの髪もベタついて・・・ない。何故かわたしの髪はふわふわサラサラのままだし、マリちゃんの髪もジェシー程ベタついてはいなかったよね。水の山が噴射した時に水を浴びたからかな?マリちゃんはカカの水球で直ぐに庇われてたけど、少しは浴びてたもんね。


ジェシーが部屋にあるシャワー室に向かったのを見て、デンガが腰に掛けてある剣を手で撫でながらここに来るまでのことを説明してくれた。


デンガの説明を簡単にまとめると、わたし達がボートで飛び出したあと、暫くはあそこでわたし達が戻ってくるのを待っていたらしい。でも、いつまで経っても戻ってこないので流石に心配になり、港町にいる知り合いに手漕ぎ船を借りて捜索に出た。わたし達が猛スピードで横切った危険な海域で、ジェシーを守りながら凶暴な海の魔物と戦い、何度も死にそうになりながらもブルーメまで来た、と。


 とんでもない無茶したんだね・・・そりゃボロボロにもなるわけだよ。


「あの海域を手漕ぎ船で抜けてきたのですか?命知らずにも程がありますよ」

「それだけ、俺もジェシーも心配だったんだ。特にマリのことがな」


 親が子を想う気持ちは何よりも強しだね。例え血がつながっていなくても。


「よくジェシーはデンガを止めなかったね」

「止めるも何も、自分達で捜索に出ようって言いだしたのはジェシーだからな」

「えぇ!もしかして、ジェシーも凄い強かったり?」


わたしはバッタバッタと魔物を殴り飛ばすジェシーを想像する。


 似合わないね。


「いや、そんなことはない。普通の女性並だと思う」


デンガも同じことを想像したのか、苦い顔で言う。


「デンガも、よくジェシーと一緒に行く決断をしたよな」

「俺も最初は反対したさ。マリ達が心配なのも分かるけど、わざわざジェシーも危険な目に合う必要はないって」

「じゃあ、どうして?」

「デンガの傍にいれば危険な目に合うことはないでしょう?だってよ」


デンガがジェシーの声真似をして、「でへへ」とだらしない顔で笑った。


 そんな簡単に好きな人に命を預けられるジェシーは凄いと思うし、それで無事に守り切ったデンガも凄いと思う。でも、今のデンガの顔がわたしの癇に障ったので、静電気を纏った指でデコピンした。


パチン!


「いてっ!・・・この妖精!定期的に俺に攻撃しないと気が済まないのか!?」


デンガが自分の額を擦りながらわたしを睨む。


「別に・・・デンガがだらしない顔してたから直してあげただけだよ?」


 親切だね。わたし。


「ちょ、ちょっと待ってください!ソニアさん今何をしたんですか!?」


今の一連の流れを見ていたヨームが、鼻息荒く興奮気味にわたしに顔を近付ける。


「え?なに?もう一回見たい?」

「はい!見せて下さい!」


わたしはデンガと見つめ合う。デンガが首を横に振る。


 やれってことだね。いいよ。今度はデコピンじゃなくて殴ってやろう。


「よーっし!くらえ!妖精ぱーんち!」


わたしが拳を突き立ててデンガに突進しようとした瞬間、誰かに羽を掴まれた。


「うひゃん!」


後ろを振り返ると、いつの間にかシャワーから上がっていたジェシーがわたしの羽を掴んでいた。


「もうっ、ソニアちゃんったら、あんまりデンガをいじめないでね。それに大きな声を出したらマリちゃんが起きちゃうわよ?」

「あうぅ・・・ごめんなさい。でも、羽はやめて」


素直に謝ると、「あら、ごめんなさい」とそっと手を放してくれた。わたしの声でマリちゃんを起こしちゃってないか、そっと視線をずらして見てみると、マリちゃんが「んぅ・・・」と目を擦りながら布団を退かしていた。どうやら起こしてしまったみたいだ。


「あれぇ?お母さんにお父さん?」

「え?」


寝ぼけまなこでデンガとジェシーを見ながらコテリと首を傾げる。


 あれ? マリちゃんって今まで「ジェシーお母さん」「デンガお父さん」って呼んでなかった?


「なんだか、マリちゃんに認められたみたいで嬉しいわね」

「もしかしたら、一晩とはいえ、離れ離れになって寂しかったのかもな」

「寂しかったら呼び方が変わるの?デンガの自意識過じゃない?」

「なんか俺に対して当たり強くないか!?」


 何でだろうね?嫌いとかではないんだけど、つい、からかいたくなるんだよね。


疲れたように背もたれに寄り掛かったデンガの横で、マリちゃんが「お母さん!」と嬉しそうにジェシーに抱き着いた。

読んでくださりありがとうございます。ソニアは小さいうえに、よく動き回るので濡れてもすぐ乾きます。

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