34.古代の遺物
「はしゃぐ気持ちは分かるけど、少しは置いて行かれる大人の気持ちも考えてくれないかしら?」
「まったくだ、屋根の上を走るなんて常識外れにも程があるぞ」
ジェシーとデンガが腰に手を当てて、厳しいけど優しい目でわたし達を怒る。
「ごめん」
「ごめんなさーい」
「考えてますぅー!考えた結果の行動ですぅー!」
ディルとマリちゃんは素直に謝ったけど、わたしは口を「3」の形にしてジェシーに反抗する。
「もう・・・ソニアちゃんが1番子供ね。というか、妖精に常識なんて通用しないわよね。それで、そこの彼は誰なのかしら?」
ジェシーがわたしからヨームへと流れる様に視線を移す。
「初めまして、綺麗なお姉さん。僕は遺物の研究をしているヨームと言います。この度は、そこで偶然出会った妖精のソニアさんに見て頂きたい遺物があり、こうしてご同行して頂いているわけなのです!よろしければ、お姉さんと、そちらの逞しい男性も一緒にどうですか?」
「あら、いいわね。面白そうだし。デンガはどう?」
「いいんじゃないか?まだ船の出航までは時間がありそうだしな」
この少年・・・やるな・・・!
こうして、わたし達は全員でヨームの言う、遺物が置いてある小さな船着場まで行くことになった。
「ここが、遺物が置いてある船着場です。階段を降りた先に遺物があります。急な階段なので気を付けてください」
階段を降りると、船着場の柱に紐で括り付けられた小さなジェットボートが海の上に浮いていた。
「これがソニアさんに見て頂きたかった古代の遺物です!」
ヨームはジェットボートビシッと指差して宣言した。
「えっと・・・これが?ただのジェットボートじゃない?」
「なんと!ソニアさんはこの道具をご存知なんですか!?」
「え?皆は知らないの?」、
わたしはディル達の方に視線を向ける。
「俺は知らないな」
「私も知らないよ」
「知らないわねぇ」
「俺も、小さな船なのは分かるが、こんな変わった形の船は見たことがないし、ジェットボートってのも聞いたことがないな」
皆知らないらしい。
「それで、このジェットボートの何が分からないんだっけ?普通にエンジンを起動すれば動くんじゃない?」
「エンジン?とは何ですか?もしかして古代の人々は魔石のことをエンジンと言っていたのですか!?」
この世界にエンジンってないの?・・・まぁ、魔石っていう便利なものがあれば、要らないのかもしれないね。そうすると、このジェットボートはどういう原理で動かすんだろう?やっぱり魔石だよね?そういえばヨームが最初にそんなようなこと言ってた気がする。
「ねぇ、確か魔石が発動出来れば動かせる状態って言ってたよね?」
「はい、そうなんです。仕組みとしては、船底にある穴から海水を吸い上げて、後ろにある噴射口からその海水を噴射し、その反動で船を推進させるのではないかと考えているのですが、その海水を吸い上げるためのプロペラを動かすのに魔石を発動させなくてはならないようなのです」
「ふむぅ・・・、その魔石ってどこに付いてるの?」
「それはですね・・・」
ヨームがボートの上に乗って運転席付近を指差した。わたしがヨームの元に飛んで行くと、マリちゃんがわたしの後を追って「えいっ」と勢いよくボートに飛び乗った。それを見ていたディルも恐る恐るといった感じでボートに乗る。ジェシーが心配そうにマリちゃん達を見ている。
「これがその魔石です」
運転席には丸・・・ではなく、四角いハンドルが付いていて、その中央に黄色の魔石が取り付けられていた。
「黄色だな」
「黄色だね」
「黄色です」
ディルとマリちゃんとヨームがわたしの髪を凝視する。
「え、なになに?」
「いや、似た色だなって思って」
「わたし、別にこの魔石と関係ないよ?」
「そもそも、妖精は魔石を使えませんしね」
そうなんだ!?・・・8年妖精をやってるけど知らなかった!
「まぁ、だよな。それに、これ古代の遺物なんだもんな」
そう言ってディルが魔石に手を当てた。
「駄目か・・・発動しないな」
「そうですよね、僕も試してみましたが、発動しませんでした。ちなみに皆さんは何の属性に適正があるんですか?」
ヨームが皆を見渡した。
「俺は闇の属性だな。他は分かんないけど、緑の魔石は使えなかった」
「私は火と空ね」
「俺は水と土だ」
ほとんどの人は2つの属性に適正があるんだよね。ディルは闇の他には何が使えるんだろう?
「そういうヨームは何の属性に適正があるんだ?」
「僕は空と水ですよ」
いい感じに皆バラバラだね。ゲームとかでパーティを組んだらバランスが良さそうだ。
「そういえば、マリちゃんは魔石を使ったことがないんだっけ?」
「うん、だから属性とか分かんないの」
マリちゃんがフルフルと首を振って魔石を見る。
「マリちゃんって、この国から出たことがないのよね?」
「多分・・・」
「グリューン王国の出身ってことよね。だったら、緑の適正はあるんじゃないかしら?」
「おや?皆さんは家族では無かったのですか?」
マリちゃんがそっと視線を落としてしまった。
やっぱり気にしてるのかな?血がつながっていないことを。わたしは関係無いと思うんだけどね。
ジェシーがマリちゃんに微笑みかけて、ヨームをまっすぐ見て口を開いた。
「いいえ、私はマリちゃんの母親で・・・」
「俺はマリのち、父親だ」
デンガが少し照れてるのが締まらないけど、いい両親だね。家族ってそういうものだよね。
自分の両親の言葉を聞いたマリちゃんは嬉しそうに笑って、何故かわたしとディルの方を見た。
「わたしも、マリちゃんのことは大切な妹だと思ってるよ」
「俺もだ、マリとは兄妹だと思ってるぞ」
「うん・・・うん!みんな家族!えへへっ。・・・でもソニアちゃんが妹だからね!」
そこは譲らないんだね・・・。もう、マリちゃんが元気ならどっちでもいいや。
「そういうことだよ。ヨーム」
「そうですね。これは僕の配慮が足りていませんでした。申し訳ありません」
ヨームがマリちゃんに頭を下げて謝った。
「別に・・・いいけど」
マリちゃんがプイっとそっぽを向いてしまった。
「あーあ、嫌われちゃったね」
「はい・・・子供は難しいですね」
「いや、単純にヨームの考えが足りなかっただけだよ」
「そう・・・かもしれません・・・」
さっきまで意気揚々だったヨームがすっかり落ちこんでしまった。
そんなに落ち込むことかなぁ?メンタル弱すぎじゃない?
「マリも、試しに魔石に触れてみたらどうだ?」
ディルがそっとマリちゃんの背を押す。
「でも私、魔気の流し方とか分かんないよ」
「触れてみれば自然と分かるさ」
「うん、じゃあ・・・」
マリちゃんがペタッと魔石に触れた。
ブウウウウウン!!
ジェットボードから明らかなエンジン音が鳴り始めた。
「え?なにこの音・・・なんだか嫌な予感が・・・」
「おおお!もしやこれは!」
「マリ、もしかして・・・」
「え?なーに?」
マリちゃんが不思議そうに首を傾げる。
「おい!全員その船から降りろ!」
デンガが叫ぶと同時にジェットボードが動き始めた。
「ディル君!マリちゃん!ソニアちゃん!」
ドッパァーーン!!
ジェットボードが、繋がれた紐を引きちぎって勢いよく発進した。
「マジか!」
「きゃああああああ!」
「素晴らしいいいい!」
「あ、ちょっと待っ・・・・!」
わたしは置いて行かれないように、マリちゃんの髪に必死にしがみつく。
うわあああああ!手を放したら吹き飛ばされるぅ!
「マリ!魔石から手を・・・」
「離してるよ?」
「・・・え?」
そう、マリちゃんはとっくに魔石から手を離している。今は船の端に必死に掴まっている。なのに止まらない。
「じゃあどうして止まらないんだよ!」
「ふむ・・・どうやら、一度発動すれば一定時間持続する魔石のようですね。もしくは一度の発動だけで動き続ける仕組みになっているのか・・・・。それにしても、この魔石は一体どういった効果で、どうやってプロペラを動かしているのでしょう?」
ヨームは長い前髪を激しくなびかせながら、冷静に考える。
「こいつ・・・普通この状況で自分の思考に没頭できるかよ・・・」
「ふわぁーー!風が気持ちいいねー!」
「マリも・・・意外と図太いよな」
この状態で慌てているのはディルだけみたいだ。ヨームは未知の魔石のことで頭がいっぱいだし、マリちゃんは今の状況を楽しんでしまってる。わたしはというと・・・
「っていうか、ソニアは大丈夫か?」
「・・・い、今は・・・話しかけない・・・でっ!」
なびくマリちゃんの髪の毛に掴まって、飛ばされない様に必死だ。
少しでも力を抜いたら手を放しちゃいそうだよ!
「あ、ソニアちゃん!ごめんね。気が付かなかったよ」
マリちゃんがそっとわたしを手にとって、風から匿ってくれた。
「ふぅ・・・マリちゃんありがとう」
「ううん、気づかなくてごめんね」
めっちゃ楽しそうにしてたもんね。
「それより、この船どうやって止めるんだよ」
「あれ?なんか見えるよー?」
マリちゃんが指差した方角に、大きな火山が目立つ島が見えた。
もしかして?
「あれは・・・ブルーメですね」
「ヨーム、行ったことあるの?」
「はい、子供の頃、両親に連れてこられたことがあります」
「へぇ~、ヨームの両親って・・・」
「いやいや!吞気に話してる場合じゃないぞ!このままじゃあ・・・」
「ブルーメにぶつかっちゃうねー」
「ねー!」
わたしとマリちゃんはお互いの顔を見て微笑み合う。
「・・・まともな奴はいないのかよ!」
こういう時こそ楽しまなきゃ!
読んでくださりありがとうございます。デンガとジェシー、置いて行かれてばかりですね。
 




