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ちっちゃい妖精さんになりました! 暇なので近くにいた少年についていきます  作者: SHIRA
第2章 グルメな妖精と絶景のブルーメ
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33.研究者=変人

「ソニアちゃんマリちゃん!着いたわよ!起きて!」


ぷにぷにと何かに頬を突かれる。


「ぬぇ?」「ふぇ?」


重たい瞼を上げると、わたしを見下ろすディルの顔が目の前にあった。ビックリ。


 ジェシーの声で起きたのに、目の前にいるのはディル・・・どういうこと?


いまいち状況がつかめず、わたしはまだ覚醒しきって無い頭を左右に振って周囲を見渡す。

向かいを見ると、ジェシーの膝枕で寝ていたらしいマリちゃんが眠そうに体を起こしていた。わたしはディルの膝の上だった。


「ふぁ~~ぁ・・・わたしいつの間に寝てたの?」

「馬車が走り出してすぐ寝たぞ。マリと一緒にな」


 そうなんだ・・・眠そうなマリちゃんを見てたらわたしまで眠くなった記憶が微かにある。


「いきなり俺の膝の上に落ちてきて驚いたぞ」


ディルがわたしの頬を突いて満足そうな顔をしながら言う。


「本当な、蚊遣火に引っ掛かった蚊みたいだったぜ」

「うるさい!殴るよ!?」


デンガがニヤニヤと腹立つ顔で言ってくる。わたしは手に電気を纏わせてデンガを睨みつけた。


 こんなおっきい蚊がいるもんか!


「今日は朝早かったもの。寝ちゃうのも仕方ないわよ」


ジェシーがまだ眠そうに目を擦るマリちゃんを撫でながら言う。


「おはよう、ソニアちゃん」

「おはよう、マリちゃん」


わたしとマリちゃんはニッコリと挨拶する。この場がほっこりした。


「起きたならさっさと降りるぞ」

「「はーい」」


眠そうなマリちゃんと一緒に馬車から降りると、吾先にと馬車を降りていったディルが、両手を挙げて叫んでいた。


「くぅーー!着いたー!」

「着いたー!」

「ついたぁー・・・」


わたしがディルの真似をすると、隣でウトウトしてるマリちゃんも真似をして両手を挙げた。3人で横一列になって両手を挙げている。御者にお金を払っているデンガに「恥ずかしいからやめてくれ」と横目で言われた。


 やだね、こういう大人って、恥ずかしいから、周りと違うからって、どんどん自分を殺していくんだから。ディルには、自分を生かせる大人になって欲しいものだ。


「なんだか不思議な匂いがするわね」


ジェシーがクンクンと鼻を立てる。わたしとマリちゃんも一緒にクンクンする。


 ああ、この匂いは・・・。


「それは、潮の香りだな」


デンガが少し得意気な顔で言う。


「シオの香り?なんだそれ?」

「まあ・・・あれだ。海の匂いだ」

「海!海かー!みんな!早く行こうぜ!」


ディルが見当違いな方向を指差して走り出そうとする。


「ちょい!ディル!そっちちがう!」

「うおっとっと!・・・海はどっちだ?」


「悪い悪い」と気恥ずかしそうな顔でディルが戻って来た。


「久しぶりにディルのはしゃいでるとこを見た気がする」

「そうね~、最近のディル君は大人っぽくあろうとして、子供っぽい姿を見せないようにしてたもの。無意識かもしれないけど、難しい年頃よね」

「ふーん、それは良くないね」


 自分に正直に。大人も子供もそう在るべき!


「よし!ディル!マリちゃん!2人とも競走だよ!」


わたしは海がある方向をビシッと指差して、勢いよく、でも皆がついて来れるくらいの速度で飛んで行く。マリちゃんが「おーぉ!」と駆け足でついてくる。


「ほら!ディル!何をぼさっとしてるの!置いていくよ!」

「あ・・・ははっ!待て!一番は譲らない!」


わたし達は仕方なさそうにため息をついた大人2人を置いて、海に向かって道を進もうとした。・・・けど、そもそも初めて訪れた町の道なんて分かるはずもないので、わたしは上に飛んだ、建物よりも高い位置に。すると、今までは見えていなかった海が見えた。大きな帆船が一隻ある。


 残念・・・浜辺はないみたいだ。海水浴とかしたかったな。


「うわっ!ずるいぞソニア!」


屋根の上まで飛び上がったわたしを、ディルが叫びながら見上げる。


「ふふん!一番はわたしだよ!」

「なら俺だって!マリ、行くぞ!」

「え?・・・っわわ!」


ディルがマリちゃんを抱きかかえて、建物の上までぴょんぴょんとジャンプして登ってきた。


 さては魔石を使ったなー?


「うわっ!なんだあれ!?すっげー・・・」

「すごーい!水がいっぱいだー!」


二人とも初めて見る海に感動しているみたいだ。瞳が輝いて見える。


「これが海なんだよ!凄いでしょ!!全部塩水なんだよ!?」

「何でソニアが得意げになってるんだよ。ソニアも海を見るのは初めてだろ?」


 え・・・あっ、そうか!妖精になってからは初めてだよ!


「え・・・?えーっと、ほら!城の展望台から見えたから!」

「そうだったか?」

「そうだったよ!ディルはあの時村の方ばっかり気にしてたから見てなかったんだよ!それに、3年前のことだし!」


 誤魔化せたかな?


「ねぇ、ディルお兄ちゃん、早く行こうよ」


わたしがディルの様子をじーっと見ていると、マリちゃんがディルの服をくいっと引っ張った。ディルが「おう!そうだな!」と言って屋根の上を走りだす。


 ふぅ、危ない危ない・・・いや、別に人間だったことを隠してる訳じゃないんだけど。なんとなく説明が面倒というか、言うタイミングを逃したというか、おばさんだと思われたくないというか・・・。だって、全部合わせたらもう40代に近い年齢だもん。


「よっと!」


マリちゃんを抱えたディルが、屋根から飛び降りる。


「うわ!なんですか!?あなた達!」


たまたま通りがかった少年が上から降って来たディルを見てギョッと驚いた。


「あっ、悪い。驚かせたな」

「ごめんなさいお兄さん」


マリちゃんを下ろしながらディルが謝罪して、下ろされたマリちゃんもペコッと謝った。


「いえ、妹さんまで謝る必要は・・・っんん!?」


わたしがディルとマリちゃんの後を追って下に降りると、少年が灰色の長い前髪を上げてわたしを凝視する。


「こんにちは!ごめんね?わたしの連れが驚かせたみたいで」


 いや、サイズ的にはわたしがディルの連れなのかな? まぁ、どっちでもいっか。


わたしがニコッと微笑むと、少年がずずいっと顔を近付けてきた。鼻息が荒い。


「それよりも!あなたは妖精ですよね!?」

「そ、そうだよ。名前はソニア」

「名前のある妖精ですか・・・珍しいですねぇ」

「うん!この子・・・ディルに付けて貰ったの!」


わたしはディルの頭の上に乗って、ポンポンと頭を叩く。


「ああ、そういう・・・いえいえ、そんなことよりも!突然ですみませんが、僕についてきて貰えませんか?是非ともソニアさんに見て頂きたい物があるのです!・・・あぁ、僕はなんて運がいいんでしょう!こんなところで、まさか妖精に会えるとは!ありがとうございます!」


少年は天を仰ぎ、両手を広げて大きな声で感謝を告げた。わたし達は隅で輪になって、ひそひそと相談タイムに入る。


「なんだこいつ・・・どうするんだ?俺はやめておいた方がいいと思うけど」

「うーん・・・確かに、知らない町で初対面の人に、それも変な人についていくのは危険だよね」

「でも、悪い人には見えないよ?」

「マリ、悪い人じゃなくても変な人なんだ。ついていって何か面倒ごとに巻き込まれるかもしれないんだぞ。そうなってジェシーお母さん達に心配かけたくないだろ?」

「うん、心配かけたくない」

「よし!だったら決まりだな!」

「そだね!」


わたしは未だに天を仰いでいる少年に向かって大声で呼ぶ。


「そこの少年くん!」

「あぁ!新たな発見が僕を待っているのです!・・・あ、何ですか?ソニアさん」

「わたしに見て欲しい物があるんだよね?」

「はい!そうなのです!是非ともソニアさんには・・・」

「分かった!行くよ!」

「おお!ありがとうございます!」

「ちょおい!」


ディルが盛大にズッコケた。マリちゃんが「やっぱり行くのー?」とタタタっと駆け寄って来る。


 だって面白そうだし!何があるのか気になるじゃん!それに、危険なことがあっても、ディルは強いし、わたしも自衛できるし、大丈夫でしょ!


「一応聞くけど、何で行くことにしたんだ?」


ディルが「しょうがないなぁ」という顔で見てくる。


「だって、その方が楽しそうじゃない?」

「だよなぁ、ソニアにしては珍しく慎重だなと思ったんだよ!」

「私も楽しい方が好きだよ」


ディルが頭を抱え、マリちゃんが楽しそうに笑顔を輝かせる。


「ハァ・・・それで、その見て欲しい物ってどこにあるんだよ」


わたしとマリちゃんが「ねー!」と微笑み合っている横で、ディルが真面目な顔で少年に話しかけた。


「ここから歩いて直ぐの、今は使われていない小さな船着場ですよ。付いてきてください、案内します」


「こちらです」歩き始める少年を、わたしは慌てて止める。


「あっ、ちょっと待って! 君の名前は?まだ聞いてないよね?」

「ああ、僕としたことが自己紹介を忘れていましたね。僕の名前はヨーム。普段は古代の遺物を研究しています」

「古代の?」

「「イブツ??」」


ディルとマリちゃんの声が見事に重なった。首を傾げる角度まで同じだ。


「おや?ご存知ないですか?では歩きながら説明しましょう」


そう言って、ヨームは海沿いの道を進んでいった。はぐれないようにディルがマリちゃんと手をつないでヨームの後をついていく。わたしはマリちゃんの頭の上に座った。


「稀に、深い地層や古い遺跡から、遠い昔の物品が発見されることはご存じですか?」

「うん、既存の属性以外の魔石が発見されるとか。そんなようなことを前に誰かに聞いた気がするよ」


 コンフィーヤ公爵が話してたんだっけ?・・・いや、ヨモギちゃんだったかも。


「発見されるのは魔石だけではなく、その魔石が取り付けられた不思議な道具も発見されることがあるのです。それを古代の遺物と呼んでいます」

「なるほどねー」


 そういうのって、男の子が好きそうな感じだよね。わたしも好きだけど。


「んで、見せたい物ってのは、その古代の遺物なのか?」

「そうなんです!この近くの海域から古代の遺物が引き上げられたと聞いて、この港町まで遠路はるばる来た訳なんですが!なんと!発見された遺物は海底に沈んでいたにしては状態が良く、使用用途が分かりやすい物だったので、僕がある程度修繕し、あとは魔石を発動させられれば動くと状態なのですが、前例がないことからも察せられる通り、未知の属性の魔石を発動させられず、動かせられないでいるのです。そこで!長命な妖精であるソニアさんに見てもらい、知恵を貸していただけないか、と!」


 説明が長いし、早口で分かりずらいよ!ディルは辛うじて理解しているみたいだけど、マリちゃんなんて周囲の景色を見ていて、全く話を聞いてないし、キョロキョロと頭を動かすから、上で座っているわたしの視界も定まらない。


 あれ?・・・あそこに居るのって・・・


「あ!ジェシーお母さんにデンガお父さん!」


マリちゃんがこちらに歩いてくるジェシーとデンガを嬉しそうに指差した。


「君達、僕の話を聞いていましたか?」

「要約すると、使えない魔石が付いた道具を見て貰って、出来ればアドバイスが欲しいってことでしょ?」

「まぁ・・・そうですね。それでいいでしょう」




読んでくださりありがとうございます。海は眺める専門ですが、たまに泳ぐのもいいですよね。

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