332.【ディル】2年後、料理大会
「「四年に一度開かれる武の大会。今回の優勝者、並びにTOP3の勝者インタビューを始めまーす!!」」
音声を拡大する魔石・・・ではなく、マイクという機械を持った茶髪の元気なメイドさんが、360度に見える大勢の観客達に向かってそう言い放つ。
・・・腹減ったなぁ。
中央にあるステージに用意された台の上で、俺はそんなことを考えながら観客達を眺める。来賓席では、ソニアがビールを受け取ろうとして、ローラとジニアに没収されてるのが見えた。
何やってんだか。ソニアはこれから出番だろうに。
「「では、今大会第3位だった・・・デンガ選手! 前大会で戦ったディル選手に惜しくも敗れてしまいましたが、見事に3位です! 前大会でプロポーズした奥さんとは仲良くしてますか?」」
「え? 勝者インタビューってそんなプライベートなこと聞いてくるのか? ・・・えっと、ジェシーとは仲良くやってるぞ。今2人目を妊娠していて、息子のユイと娘のマリと男の子か女の子かとよく楽しそうに話してるな」
「「なるほど、未婚の私には辛い話をありがとうございました!」」
じゃあ、何で聞いたんだよ・・・。
マイクを持ったメイドさんは、笑顔のまま隣りへと移動する。
「「では、今大会準優勝だった・・・ディル選手! 前大会に引き続き惜しくも優勝を逃してしまいましたが、最年少とは思えない見事な戦いぶりでした! そんなディル選手は妖精の愛し子として有名ですが、ソニア様とはどこまで行きましたか?」」
「は!? え!? ど、どこまでって・・・それは・・・その・・・」
「なるほど、顔が真っ赤になるくらいのところまではいってしまってるわけですね! 彼氏が居ない私には辛い話をありがとうございました!」」
だから、じゃあ聞くなよって・・・。
「「次は優勝者インタビューです! 今大会が初出場で、予選から見事に勝ち上がり、優勝までしてしまった今大会のダークホース! スズメ選手です!!」」
台の一番高い所に立っているスズメが、観衆向けの笑顔でヒラヒラと手を振る。
そうなんだよな。・・・俺もまさかスズメに負けるとは思わなかった。
約2年前。各地の偉い妖精達が大妖精の力を取り戻し、月に居た闇の大妖精がこの地に戻ってきた影響で、人類は魔石無しでも魔法が使えるようになった。勿論、得手不得手はあるし、使えない属性がある人も多い。けど、それはそれとして、スズメは魔法の天才だった。闇以外の全ての属性を自由自在に操り、魔気・・・いや、今は魔力と呼ばれている体内エネルギーも凄まじい。
正直、スズメに勝つには殺す気でいかないと無理だな。まぁ、そんな機会は一生無いと思うから、俺は一生スズメに勝てないことになるけど。
「「今大会では2人しかいなかった女性選手でしたが、スズメ選手は見事に多彩な魔法で屈強な男共を蹴散らしていき、優勝をつかみ取りました! ところで、スズメ選手は現在独り身で彼氏もいないとのことですが、そこら辺はどのように考えているんですか?」」
「え? 今それ関係あります? ・・・えーっと、度々殿方からそのような申し出を受けますが、そのようなことに興味はありませんわ。今のわたくしにはやりたいことがたくさんありますの」
「「そ、そうですか。結婚したいのに男とは無縁な私には辛い話をありがとうございました」」
ずっと自爆してるなこの人。
「「それでは賞品の授与を行いますので、少々お待ちくださーい・・・」」
賞品の授与はメイドさんが行う訳ではないらしい。特別席の方へ向かって合図を送ってる。
「やっと・・・やっとですわ! アレがやっと手に入りますわ!」
隣に立ってるスズメの鼻息が荒い。
「やっとって・・・賞品の内容が発表されたのって開催の一ヶ月前とかだろ? そこまでじゃないだろ」
「何を言ってますの!? 1ヶ月も待たされたんですわよ!? わたくしはこの日の為に魔法の訓練を死ぬ気で頑張ったんですから!」
「噓つけ。この間ソニアとローラと一緒に海まで行って釣りしてたの知ってるんだぞ」
最近農業を学んでる俺は、冒険者稼業も合わさって忙しくて中々ソニアとの時間をとれずにいた。でも、この間やっと暇が出来たと思って緑の森にソニアを誘いに言ったら、緑の大妖精に「ローラとスズメと一緒に海に釣りに行ったわよ?」と言われた。
「ソニア様に手伝ってと言われて断れる者など居りませんわ。それに、釣りではなく漁ですわ」
漁って・・・いったい何をしてたんだよソニア。・・・いや、漁をしてたのか。
スズメと無駄口を叩いていたら、特別席から賞品を持った人物がステージの上に上がってきた。彼氏が居なく、男とは無縁なメイドさんはその人物にマイクを手渡す。
「「えーっと・・・お父さん、ディルお兄ちゃん、スズメお姉ちゃん、優勝おめでとうございます!」」
「ちょっ、マリちゃん!優勝したのはスズメだけですよっ」
「あ、そうだった」
先日12歳になったばかりのマリが、頭の上にナナを乗せながらデンガ、俺、スズメの順に「おめでと!」と言いながら一枚のカードを渡していく。デンガは娘の晴れ姿にデレデレだし、スズメは貰ったカードに頬擦りしてるし、間に挟まれてる俺はかなり居心地が悪い。
これが賞品ねぇ・・・。
受け取ったカードを見る。裏には虹のマーク。表には、フリフリの衣装を着たソニアがパチッとウィンクしてる絵が描かれていて、カードの表面はキラキラと輝いている。そして、絵の下には『アイドル:光の大妖精ソニア(UR)」と書かれていた。
まぁ・・・悪くはない、かな。帰ったら宝物入れに保管しておこっと。
これはトレーディングフェアリーカードと呼ばれている、世界中で今大流行しているアイテムだ。ナナとマリが社長を務めるレインボーという会社がカードを作っていて、この武の大会のスポンサーでもあるらしい。
ちなみに、この(UR)は世界中でも出回ってるカードの中でも1%にも満たないそうで、武の大会での賞品で、かつこの世界にたった一枚しかないこのソニアのカードはかなり高額になるらしい。ナナ曰く、普通に賞金を出すよりも安上がりで、それでいて賞金よりも高額な賞品になるとか・・・。
「デンガはどんなカードを貰ったんだ?」
「俺か? 俺はこれだよ。家に帰ったら額縁に飾らないとな」
「どれどれ? 雨上がりの散歩:虹の妖精ナナ(SSR)・・・」
デンガが見せてきたカードには、誰かの頭の上で寛ぐナナが描かれていて、その誰かの頭はマリだろう。小麦色の髪の毛が明らかにマリだ。
「自分のカードを作るのは流石に恥ずかしかったんですけど、マリちゃんがどうしてもって言うんですよ」
「だって、ナナちゃんのカードって一枚も無いんだもん」
「恥ずかしいですよぉ」
他の妖精達は容赦なく起用してるのにな。
ちなみに、このカードを作ってるのは緑の森の妖精達で、ジニア含め暇を持て余して人間にちょっかいをかけていた妖精達にナナが声を掛け、そこに半ば強引にマリが加わった感じだ。ちゃんと妖精達にも給料を払ってるらしいけど、妖精達がお金を使ってるところなんて見たことがない。そしてナナの次に給料を貰ってるらしいマリは、そのほとんどをヨームの研究費と、各地の孤児院への寄付に使ってるとか。給料で遊びまくってるのはナナだけみたいだ。ソニア曰く「知識チート」とかいうやつらしい。
「わたくしが頂いたカード。ご覧になりたいですか!?」
スズメがカードをヒラヒラと見せびらかしながら引っ付いてくる。
気にならなくはないけど・・・何か癪だな。断ろっと。
「いや、いいって」
「そうおっしゃらずに・・・」
「いいって・・・というか、汗臭いぞ」
「え!? マジですの!?」
「マジですよ」
噓だけど。
クンクンと自分の体を嗅ぐスズメ。そんなスズメを首を傾げながら見ているマリから、結婚出来ないメイドさんがマイクを受け取る。
「「では、少し休憩を挟んで次は料理大会になります。なお、トレーディングフェアリーカード、通称TFCは各地の情報ギルド並びに情報ギルド支店で販売しております。・・・武の大会、実況はミリド王国王城付きのメイド、スミレでしたー。25歳でーす。特技は料理で、趣味は登山です。スタイルには自信があります! 歳下も歳上もどっちも好きです。よろしくお願いしまーす!」」
最後までマイペースなメイドさんだったな・・・。
・・・。
「おつかれディル、スズメ。なかなか見応えのある試合だったわ」
来賓席に戻って来た俺達を待ってたのは、人間サイズになって椅子で寛ぐジニアだった。ジニアだけだった。
「ソニアとローラはどこ行ったんだ? あと莢蒾の妖精も」
「ソニアちゃんは料理大会の準備に。ローラちゃんはそのソニアちゃんを送りに行ったわよ。それと、莢蒾の妖精はソニアちゃんにお酒を飲まされたせいでそこで倒れてるわよ」
ソニアが座っていた椅子の下でぐでっと倒れてるガマさん。
ソニア・・・ナナが言ってたぞ。そういうのパワハラって言うんだぞ。大妖精ハラスメントだぞ。
「あいつはどこ行ったのよ?」
「デンガのことか? もう帰ったよ。武の大会だって妊娠中のジェシーを気遣って参加しないつもりだったらしいからな」
ジェシーが「いいから行っておいで」と半ば強引に送り出したから参加しただけだ。
「あ、そろそろ始まるみたいですわよ」
さっきまで俺が立っていたステージは、魔法使い達によって念入りに清掃が行われたあと、料理大会の為の様々な備品が運び込まれていき、今、1人の執事がマイクを持って立っている。
「「さぁ、やってまいりました! 第二回お魚料理大会! ・・・でしたが、この国の立地上お魚は厳しいので、お魚料理とか大会になっております! あくまでお魚料理がメインですが、他の料理でも大丈夫です!」」
ステージに続々と参加者が入場してくる。全員で6人。これが参加者全員・・・ではなく、本当はもっと信じられないほどいた。それこそ全世界の料理自慢が名乗りを上げるレベルで、数千人規模で居たらしい。
それと言うのも、原因は優勝賞品が破格なのと、ソニアが宣伝を頑張りすぎたせいだ。
「それにしても、よくこの人数に絞れましたわね」
「各地方で代表を決めたんだっけか?」
緑の地方、水の地方、土の地方、火の地方、空の地方・・・で1人ずつ代表を選抜したらしい。参加人数と数が合わないのは・・・まぁ、察して欲しい。
「ちなみに、カイス妖精信仰国ではどうやって絞ったんだ?」
「推薦ですわ」
「推薦? よくそれで他の皆が納得したな」
あの妖精狂いが多い国のことだ。もっと荒れると思うんだけど。
「普通なら納得しなかったですわ。でも、推薦したのがソニア様でしたから」
「ソニアが?」
「ええ。一緒にセパタクローをしていた際に『誰かいませんか?』と聞いたところ、『そのお店の彼女がいい』とおっしゃっていました」
「へ~、ソニアにそんな知り合いが居たのか。・・・セパタクローって何だ?」
「とても刺激的なスポーツですわ。それよりも、選手の紹介が始まるみたいですわよ」
参加者6人全員がステージ上に揃ったみたいだ。
「「各地で選び抜かれた猛者達を紹介致します! まずは緑の地方から、我がミリド王国のメイド長・・・スミレ!!」」
さっきの彼氏募集中のメイドさんだ。
・・・だから司会者が変わったんだな。ていうか、メイド長だったのか。
「この料理の腕で賞品と男を見事ゲットしてみせますよー!!」
ワハハッっと盛り上がる観客席。皆は笑ってるけど、きっと彼女は本気なんだろう。目が笑ってない。
「「次は水の地方から、ブルーメのとある宿で働く逞しきシングルマザー、そして前大会2位の・・・アンナ!」」
ブルーメで出会ったアンナさんだ。今もまだデンガの母であるカカの宿で働いてるみたいだ。アンナさんは前大会の倍くらいはいる観客にガチガチに緊張しながらも、ぎこちない笑顔で手を振った。
アンナさん、久しぶりに見たな。あの頃抱いてた赤ん坊は今頃4歳くらいか。感慨深いな。
「「土の地方から、なんと土の大妖精アケビ様のお墨付き! カレーうどんが絶品な宿の恋する看板娘・・・カレン!」」
「あの・・・恋するとか余計な言葉付けるのやめてくれます?」
ソニアと一緒にカレーうどんを作ってた人だな。オードム王国ではあの宿にお世話になったよな。
「「火の地方から、あのパン屋ライラックの未来の共同経営者でありドレッド共和国一の優男!・・・ナナカ!」」
「優男ってなんですか・・・というか、ライラックの件はどこから漏れたんですか・・・」
漏れたのは十中八九ナナかマリのどっちかだろう。・・・ナナカを見たら、またあのカニ玉炒飯が食べたくなってきた。
「「空の地方から、ななな、なんと! 光の大妖精ソニア様の推薦! カイス妖精信仰国で飲食店を営み、ナナカ選手の姉でもある・・・イチカ!」」
ナナカと同じ赤髪の、落ち着きのある大人の女性だ。俺と面識は無いし、そもそも知らない。
「姉さん。いつの間にソニアさんと知り合いになってたの?」
「ナナカ・・・。知り合いっていう程でもないわよ。・・・大妖精様には黒猫のご飯のお礼って言われたけど・・・荷が重すぎるわ」
事情は分かんないけど、ソニアが振り回してるに違いない。
「「そしてそして! 各地の代表の他にもう1人!! この方が参戦です!」」
執事の言葉とともに、彼女は一歩前に出る。
「「謎の美少女! ・・・え? 何ですか? 美女? はい。分かりました。・・・謎の美女! ソニ―――いたぁ!?」」
謎の美女に突然ビンタを食らう司会者。
「「あ、申し訳ございません。正体は隠すのでしたね。では改めてっと・・・謎の美女! ヒカリ様!!」」
髪を黒色にし、耳を丸くし、羽を不可視化し、ワンピースの上にエプロンを重ねた人間に化けたソニアが観客席に向かって笑顔で手を振ってる。
「相変わらず見事な変装よね」
「どこがだよ。バレバレだろ。もしかしてジニアは視力が悪いのか?」
「私の視力は人間の10倍はあるわよ」
じゃあ、おかしいのは頭の方か。ソニア・・・というか、大妖精や一部の妖精の姿は世界中に知られてるからな。特にソニアは人気が高いし、人間に化けたところで、よっぽどの馬鹿じゃない限りソニアだと分かる。そして、それは観客達の反応を見れば明らかだろう。
「キャー! ソニアちゃ~ん!」「こっち向いてー!」「ソニアちゃん可愛い~!!」「食べちゃいたーい!!」「ウィンクしてー!」
ソニアの耳には都合が悪いものは入らないのか、人間のフリをしながらサンダルでペタペタ歩きながらステージ上に用意されたキッチンの方へ移動する。
「「ルールは前大会同様、参加者が今から作る料理を審査員が食べ、その評価で順位を決めます。各自が用意していた材料などは台下の収納スペースに入っていますのでご確認ください・・・では、始め!!」」
各々が収納スペースの材料を台の上に出し始める。そして、ソニアが材料を台の上に出した瞬間、観客席がざわめき始める。
「何だあれ・・・もしかしてタコってやつか? 食べられるのか?」
「・・・私はあんまり食べたくないわね」
「わたくしはソニア様がお作りになったものなら、例え泥だんごでもいただきますわ」
悔しいけど、俺もスズメと同意見だ。
「お姉ちゃんが作ったものなら、例え吐瀉物でも私は食べるけどね」
「うおっ、ローラか。何時の間に・・・」
ソニアを送りに行ってたローラが、いつの間にかジニアの頭の上に鎮座していた。
「というか、スズメはもう食べたでしょ。前に海にタコを獲りに行った時に」
「ええ。とっても美味でしたわ。さすがソニア様!」
「ね。さすがお姉ちゃん!」
・・・。
そして突如乱入してきたハチに、ソニアが襲われて泣きわめくというハプニングがあったものの、ハチはジニアによって瞬時に細胞をバラバラにされて無事解決し、皆の料理は完成した。
「「では、審査の開始です」」
6人が作った料理が、3人の審査員の前にズラーっと並べられる。
「「・・・っと、その前に審査員の紹介です。まずは左から、前大会優勝者のマリさん。ミリド王国公爵夫人アザレア様。そして、作家のバネラさんです。評価は1人最大10点で、最大30点になります」」
バネラかぁ・・・前に会ったのはいつだったか。夢だった作家になれたみたいで良かった。いや、夢はお嫁さんとか言ってたっけ? まぁ、何でもいいけど、前に一冊買って読んだバネラの小説は残念ながら俺にはBL?とかいうのは理解出来なかった。
「「まずは緑の地方代表のスミレさんから、説明をどうぞ」」
「はーい。私が作ったのは、シンプルな卵焼きです。家庭的な女性は卵焼きで男の胃袋を掴むんです」
少なくとも俺の胃袋は卵焼きじゃ掴めないけど、遠目でも綺麗で美味しそうなホカホカの卵焼きだ。
審査員達は美味しそうに卵焼きをパクッと食べていく。
「お母さんの味に似てる!10点だよ!」
「美味しいけど、少し物足りないねぇ。7点」
「普通に美味しいです。9点」
「「スミレさんは合計26点ですね! 今のところ一位です! おめでとうございます!」
「やったー! ・・・って、当たり前でしょ!」
何を見せられてんだ。俺達は。
「「次は水の地方代表のアンナさんです!」」
「は、はい。えっと・・・私が作ったのは、魚料理で・・・あっ、私もシンプルなんですが、焼きホッケです」
ホッケ・・・聞いたことない魚だな。
4人の審査員達は順番に食べて行く。・・・ん? 4人?
「とってもホクホクで、モチモチで、美味しい! 10点だよ!」
「シンプルながらも絶妙な焼き加減・・・それに食べ応えもあるね。9点」
「美味しいですけど、骨を抜く手間がちょっと・・・ですね。7点」
「わや! しゃっこい大根おろしとかあったら最高だよね! まさに地元の味って感じ! 10点☆」
「「おお! これは凄いです! アンナさんは合計36点です! 最大得点を上回るという奇跡です!」」
そりゃそうだろ。可愛い審査員が1人増えてんだから・・・。ソニア、やりたい放題だな。皆も「妖精様だからしょうがないよね」みたいな微笑まし気な顔で許してるんだから、優しい世界だよ。俺があとでビシッと言ってやらないと。
「「次は土の地方代表カレンさんです!」」
「はいはい。私が作ったのはカレーうどん・・・ではなく、こちらです。私のアレンジ料理、その名も・・・ほうとうです!」
宝刀だって!? なんてカッコイイ名前だ! ・・・見た目はカレーうどんそっくりだけど・・・。
「カレーだと思ったら違った。何か分かんないけど美味しいから10点だよ」
「これは・・・カレーと色見は似てるけどまったくの別物だね。味噌ベースの汁と一緒にカボチャなどの野菜を一緒に煮込んだんだね。それに、うどんを細く平らにしたような麺も、カボチャが溶けた汁がよく絡んでとても食べ応えがある。・・・文句なしの10点!」
「美味しいけど、苦手な野菜があるので・・・なので、7点」
「もぐもぐ・・・」
「「カレンさんの合計は27点です! 先ほどのホッケという魚に続き、新しい料理ですね! これぞ料理大会の醍醐味です!」」
俺が何か言うまでもなく、ソニアはマリに「めっ」と怒られてた。マリの横でちっちゃい妖精になって、マリに食べさせて貰ってる。
ソニア。正体を隠す気ゼロじゃん。
「「続いては、火の地方代表のナナカさんです!」」
「はい。俺が作ったのは、魚料理・・・って言っていいのか分からないですけど、ピリ辛カニ玉炒飯です。辛いのが苦手な方はちょっと注意が必要かもしれないですけど、絶品だと思います」
ナナカのカニ玉炒飯はたくさん食べたけど、ピリ辛なんて食べたことないな。今度作ってもらおうかな。
「ケホッ、ケホッ・・・か、辛いよぉ。あ、ソニアちゃんお水ありがと。・・・んくんくっ、ぷはぁ、美味しい。10点だよ」
「もともとのカニ玉炒飯も美味しかったけど、これはすごく私好みだねぇ。10点」
「美味しいけど、辛くない方が私は好きです。あと、今度カーマと一緒に小説のモデルを頼みたいのでお願いします。6点」
「もぐもぐ・・・マ、マリちゃっ・・・自分が辛くて食べられないからってわたしに押し付け・・・ゴホッゴホッ・・・み、水・・・きゃあ! ・・・最悪。コップひっくり返してずぶ濡れなんだけど」
「「え、えーっと。ナナカさんは合計26点ですね。・・・誰かソニア様をお拭きしてあげてください」」
もう、大人しくしてられないのかよ。観客達が面白そうに見てるから良かったけど。
「次は空の地方代表のイチカさんです!」
「私が作ったのは、鶏肉の照り焼きよ。私が一番得意な料理で、娘の大好物なの」
普通に旨そう。食べたい。ご飯と一緒に食べたい。
「美味しい! その娘さんの気持ちがとっても分かる! 10点!」
「学園の食堂で出したい程だね。それに、お酒にも合いそうだよ。9点」
「付け合わせのキャベツが良い感じに口の中を整えてくれます。9点」
「もぐもぐ・・・お腹いっぱいになってきたかも」
「「イチカさんは合計28点です! 」」
ナナカにドヤ顔をかますイチカさん。仲が良さそうな姉弟だ。
「「そして、次は光の大妖精・・・じゃなくて、謎の美女のヒカリさんです!」」
マリの隣りでちっちゃくなってたソニアは、慌てて人間サイズに戻って濡れた前髪を整えながら笑って誤魔化す。会場中に小さな笑いが起きた。
「えっと、私が作ったのは、お魚料理で、みんな大好き! たこ焼きです!!」
たこ焼きって言うけど、たこは見当たらない。まぁ、作る過程を見てたから中にタコが入ってるのは知ってるけど。
「あれをお魚料理と言い張るお姉ちゃんは流石だよ」・・・と、ジニアの頭の上で達観したような顔で呟くローラ。
「タコはいらないけど、ソースとマヨネーズが美味しい! でも、タコは嫌い! 7点!」
「タコ・・・不思議な食感ですね。でも、そのタコが良いアクセントになってると私は思いますよ。10点です」
「食べやすいです。10点」
「「ヒカリさんは合計27点ですね! ・・・さすがはレインボーの社長マリさん。忖度なしですね・・・」」
「ちょっとマリちゃん!?」と、ちっちゃくなったソニアがマリの顔に張り付くけど、マリは「だってタコは気持ち悪いんだもん」とソニアを引き剝がして慰めるように撫でまわす。ソニアは撫でられて満更でもないような顔をしてる。会場中が和んだ瞬間だ。
「「それでは優勝者の発表です! 優勝は・・・合計28点! 鶏肉の照り焼きを作ったイチカさんです!! イチカさん! どうぞ前の台の上へ!!」
さすがにアンナさんの時のソニアの点数はカウントしなかったか。出来る執事だ。妖精の扱いが中々に上手い。
「「ではアンナさん! 優勝した感想を一言どうぞ!」」
「え、そ、そうですね。光栄です」
「「はい、ありがとうございまーす! では、優勝賞品の授与を行います!」」
司会者はそう言いながら、どこからともなく、カメラという瞬時にその場の光景を紙に映し出す機械を取り出した。
「あ、じゃ、私行くね。よかった。優勝したのが男じゃなくて」
ジニアの頭の上にいたローラがふわっと浮いて、ステージの方へ飛んでいく。
「「優勝賞品はあの大妖精アイドル、ソニア&ローラとの写真撮影です!!」」
ソニアとローラは、今アイドルというものを一緒にやっている。意外にもローラから誘ったらしい。『お姉ちゃん、また一緒にアイドルやってみない? その・・・嫌じゃなければだけど』と、ローラらしからぬ歯切れの悪い感じでモジモジしながら誘ってた。そして、何故かそれを一番喜んでたのはナナだった。
「そういえば、スズメは料理大会に出場しなくても良かったのか?」
「わたくし、料理はあんまりですので・・・それに! わたくしにはコレがあるので大丈夫ですわ!」
スズメは武の大会の優勝賞品であるカードを俺に見せびらかす。
カードには、『伝説のアイドル:ソニア&ローラ(LR)』の文字の上に、アイドル衣装姿のソニアとローラが描かれていて、不思議な加工が施されてるのか、見る角度によってソニアとローラの髪色が黒に変わる。
俺もそれ、欲しかったかも。
ステージの上では、イチカさんが何やらソニアに言って、ソニアはニコッと笑って「いいよ!」と言っている。程なくして、観客席からイチカさんの娘さんと思われる子がやって来て、ちっちゃくなって髪色とかを戻したソニアとローラと一緒に写真を撮ってた。イチカさんの娘さんは2人の大ファンだったらしい。ぴょんぴょん跳ねて嬉しそうに笑ってる。
「「これにて料理大会は終了になります。司会進行はミリド王国のお城付きの執事、タツがお送り致しました。19歳で、現在彼女募集中。卵焼きが美味しく作れる歳上の女性が好みです」」
優勝出来なくて隅っこの方でしょんぼりしてた、彼氏募集中のスミレさんがバッと顔を上げた。見つめ合う2人。
なんだこの空気は・・・。
マイクを持ってスミレさんを見つめるタツさんから、マリがピョンと跳んでマイクを奪い取る。
「「えっと、次は皆お待ちかねのソニアちゃんとローラちゃんのライブだよ!!」」
「きゃーー!!」「うおーー!!」と今日一番盛り上がる観客席。特別席の方ではナナが黄色と青に光る棒を振り回しながら「うほぉぉぉぉ!!」とその見た目からは想像出来ない雄叫びを出していた。
楽しみだな。ソニアとローラのライブもそうだけど・・・。このあとソニアと約束してる久しぶりのデートも。
読んでくださりありがとうございます。次話で正真正銘完結になります。
 




