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ちっちゃい妖精さんになりました! 暇なので近くにいた少年についていきます  作者: SHIRA
第2章 グルメな妖精と絶景のブルーメ
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32.新しい服

ガタゴトと揺れる王都に向かう馬車の中、わたしはマリちゃんの膝の上で寛いでいる。


「ねぇ、一応確認だけど、ディルのお父さんって確か・・・」

「名前はルイヴ、俺と同じ黒髪黒目の格闘家で、滅茶苦茶強いんだ」


ディルが視線を上にやって、昔を思い出しながら言う。


「そうそう、それで、デンガはどこでディルのお父さんを見たの?」

「んあ? ああ、前々回の武の大会の時だな」


 武の大会、数年に一度周辺国の間で開催される大会だっけ?その大会でデンガが優勝したって言ってたね。


「それってブルーメでやってたの?」

「いや、グリューン王国だったな」

「え?じゃあどうしてブルーメに・・・?もしかしてただ故郷に帰りたかっただけじゃ?」


わたしがジトーっとデンガを見ると、「話を最後まで聞け」と怒られた。


「そのグリューン王国の予選でとんでもなく強い黒髪黒目の格闘家を見たんだ。そいつが本戦に出場していれば、優勝したのは俺じゃなかったかもしれないな」

「でも、デンガが優勝したってことは予選で負けたの?」

「いーや、予選は勝ち抜いていた、ただ本戦に出て来なかったんだ。で、あとから大会関係者に聞いたんだが、その黒髪黒目の男は急ぎの用があったみたいで、連れの女に引きずられるようにして港に向かう馬車に乗って行ったらしい」

「お父さん、なんだかんだ言ってお母さんには弱かったからなぁ」


ディルが懐かしそうに笑った。


 引きずられてって・・・ディルのお父さんの人物像が定まらない。とても強いのに奥さんに引きずられる。尻に敷かれるタイプなのかな?いや、まだディルのお父さんだと決まった訳じゃないけど。


「それで、その港から行く先と言えば、ブルーメってわけね?」


ジェシーが窓の外を見つめながら言う。


「あそこからは、ブルーメにしか行けないからな。ジェシーはブルーメに行くのは初めてか?」

「ええ、私は北の隣国のそのまたずーっと北にある国から来たから」


 ずーっと北ってことは雪国だったりするのかな? ここら辺も冬になれば雪が降るけど積もる程じゃないんだよね。少し雪が恋しい。


「私もブルーメは初めてだよ!」

「俺もだな」

「わたしも!」


マリちゃんが手を挙げて宣言した。ディルとわたしも続いて手を挙げる。デンガ以外の皆がブルーメに行くのは初めてだ。


「そうか!ならきっと驚くぞ?」


デンガが得意そうな顔で言った。


 なんかその顔腹立つなぁ。なんでだろう?特に理由はないけど殴りたくなる。殴ろう。


「おりゃ!」


バチッ


「うおっ!いってぇ!」


わたしはデンガを勢いよく殴った。拳に静電気を纏わせて。



そして、3日間の馬車の旅を終えて、王都に無事到着した。途中でルテンのパンを巡ってデンガとディルが喧嘩していたけど、無事に到着した。

わたし達は馬車を降りて城に向かう。コンフィーヤ夫妻とメイド2人と、出来れば王様に挨拶をするためだ。一応色々とお世話になったからね。


「なぁ、ソニア。城って、いきなり行って入れるもんなのか?」

「さあ?入れるんじゃない?分かんないけど」


 最悪、お城には行かなくてもいいしね。


「いや、普通は無理だろ。・・・ま、妖精なら話は別かもしれんけどな。今も滅茶苦茶見られてるし」


 うん。道行く人にすんごい見られてる。


「何か久しぶりだなぁ、こういうの」


ディルがこちらを見てくる人達を横目で見ながら言う。


「村では、すっかり馴染んでたもんな」

「皆優しい人だったから!」


城門に着くと、門番がわたしを見て口をあんぐりさせたまま動かなくなってしまった。


「ねぇ、入っていーい?」

「え、あ、はい!・・・え?」


 よかった。お城っていきなり行っても入れるもんなんだね!


「入っていいって!行こ!みんな!」

「大丈夫かよ・・・」

「本当にいいのかしら?」


 デンガとジェシーが不安そうにしてるけど、許可はちゃんと今貰ったもん。大丈夫に決まってる。


わたし達は堂々と城に入る。デンガとジェシーが心配そうにキョロキョロしているが、あの2人は気にしすぎなだけだ。ディルとマリちゃんは普通にわたしの後ろを付いて来ているからね。あの2人がおかしい。


 あれ?あそこに居るのって・・・


「え?ソニアちゃん!?・・・にディル君達も!」

「どうしたんですか!?村に遊びに行った時に、王都には来れないって言ってませんでした?」


見覚えのあるメイド2人が、長いエプロンを揺らしながら駆け寄ってくる。


「ツクシちゃんにヨモギちゃん!これからディルの両親を探しに行くから、その前に王都の皆に会っておこうと思って!」

「ディル君の!そうなんですね!今コンフィーヤ様とカラスーリ様を呼んで来ますね!」


 回れ右してお城に戻ろうとする2人をわたしは止める。


「ううん!忙しいところ来てもらうのも悪いし、こっちから行くよ!だから、コンフィーヤ公爵達のところまで案内して?」

「分かりました!」


 本当はこっちから行って、驚くコンフィーヤ公爵の顔が見たいから・・・とは言わないけど。


「ソニアちゃんは自由でいいわねぇ・・・」

「本当な、マリはあの妖精を手本にしたら駄目だからな?」


デンガとジェシーがマリちゃんの頭をポンポンと撫でながら言う。


「しないよー!ソニアちゃんは妹みたいな感じだから!私がお手本になるの!」


 マジか・・・


「だってよ、ソニア。良かったな。お姉さんに憧れてたもんな。可愛いお姉さんが出来たぞ」

「うるさいよ、ディル」


わたしは、キッとディルを睨んだ・・・けど、ディルはわたしの睨みに慣れたせいでまったく効果がない。



コンコンコン


「コンフィーヤ様、カラスーリ様。お客様がお見えになっています」

「む?そんな予定あったか?」

「いえ?なかったはずですわ」


ツクシちゃんが扉をノックすると、扉の向こうから困惑しているコンフィーヤ公爵とカラスーリの声が聞こえた。わたしがディルに目配せをすると、仕方なさそうに扉を開けてくれる。わたしは開いた扉から勢いよく入室する。


「こんにちは!おじゃまします!」

「は・・・?ソニア様?」

「まぁ!」


カラスーリが口に手を当てて驚き、コンフィーヤ公爵が目を見開いて一瞬固まった。


 うーん・・・50点。コンフィーヤ公爵にリアクションを期待したわたしが間違っていたよ。


「どうしてソニア様がここに?」

「ハァ、それは・・・・」


ため息交じりに入ってきたディルが2人に事情を説明した。


「ブルーメですか。そういえば、もう直ぐ始まる武の大会もブルーメでしたわね」


 大会! いいタイミングじゃん!


「面白そうだしディルも出てみれば?」

「いや、やめておく。目的はお母さんとお父さんを探すことだからな」

「そっかー。デンガは出ないの?」

「俺もやめておく」

「えー、面白そうなのに、ガッカリだよ!」


「腑抜けだね」とデンガを睨む。


「勝手に言って勝手にガッカリするなよ・・・」

「そうね、でも、私もデンガの戦ってるとこ、見たかったわ」

「私もー!」

「そ、そうか?じゃあ、出てもいいかもな?」


 ちょろい・・・。娘と妻に甘すぎるよ・・・あ、まだ妻じゃないんだっけ。


「今から港に行く予定ならやめておいた方がいいですよ」


コンフィーヤ公爵が「大会と言えば」と話を続ける。


「港行きの馬車が、武の大会を見学する為にブルーメ行く人達で溢れていますから。そうですね、今日は王都で一泊して、早朝の馬車に乗ってはどうでしょうか?その時間ならそんなに人はいないでしょうから。」

「どうする?ディル」

「コンフィーヤ公爵が言うなら、そうするか」


 うん、3年も待ったんだ。今更急ぐような旅でもないしね。


「でしたら、また城の客室を・・・」

「いや、ありがたいですけど、普通の宿に泊まります。そっちの方が俺は落ち着くんで」


 ディルがそう言うならわたしも。


「では、孤児院跡に新しく出来た宿に泊まるといいですわよ。東門からは遠いですが、信頼出来る宿ですから」

「じゃあ、そこにします。それと、コンフィーヤ公爵、カラスーリさん、村のこと、今までありがとうございました。俺達は暫くいなくなるけど、これからも村をよろしくお願いします。俺達の帰る場所なんで」


ディルが綺麗に腰を曲げて頭を下げる。


 本当、成長したよね。いつの間にか丁寧な口調も使えるようになっちゃって。何だか寂しいような、嬉しいような。・・・ってわたしはお母さんか!


「ツクシちゃんとヨモギちゃんも元気でね!後輩を大切にするんだよ!」

「はい!ソニアちゃんとディル君も、お体に気をつけて!」

「立派なメイドになりますね!」


2人は上品さを損なわない程度に破顔した。


「コンフィーヤ公爵とカラスーリも元気でね!あと、忙しい王様にもよろしく伝えておいてね!」

「分かりました」


お城を出てコンフィーヤ公爵の言っていた宿に着いたわたし達は、男女に分かれて、それぞれ明日の朝まで自由に寛ぐことにした。


「それにしても、ディル君もソニアちゃんもよく平気でお貴族様と会話出来るわよね」

「ジェシーもコンフィーヤ公爵も皆同じ人間だからね。わたしからしたら、ジェシーとデンガが萎縮しすぎだよ」

「やっぱり妖精ね。ソニアちゃんは大物なのね」

「え?ソニアちゃんは小さいよ?」


マリちゃんがわたしの頭を撫でながらコテっと首を傾げた。


「ふふっ、そうね、小さい大物ね」


 そのお貴族様が様付けで呼んでるわたしとこんな風に普通にお喋り出来てるんだから、よく分からないよね。


わたしとマリちゃんとジェシーは宿の夕食を食べて、部屋に備え付けられているお風呂に入った。


「あ、そうだ!ソニアちゃん、これ、着てみてくれない?」


お風呂上りにいつもの白いワンピースを着ようとしていたら、ジェシーに違うワンピースを渡された。


「なにこれ、どうしたの?」


渡されたワンピースを体に当ててみる。


「わぁ!可愛いね!ソニアちゃんに似合いそう!」

「移動中暇になるだろうと思って、裁縫道具とか持ってきてたのよ。サイズが小さいからあっという間に出来たわ」


 移動中の馬車で作ってたのか・・・あれ? サイズって・・・?


「かなり完成度高いけど・・・というかいつの間にわたしのサイズを測ってたの!?」

「寝ている間にコッソリと・・・ね?」

「酷い!」


わたしは自分の体を抱いてジェシーを睨む。


「ソニアちゃん、早く着てみてよ!」


マリちゃんが期待の籠ったキラキラの目でわたしを見つめてくる。特に断る理由も見つからなかったので、素直に着ることにした。


ジェシーから渡された服は、白と薄い青のノースリーブワンピースで、胸元にわたしの瞳と同じ色の青いリボンが付いている。ちなみに、スカートの中は短パンだ。上へ下へと飛び回るので、中身が見えても安心だね。


「どう・・・かな?」


羽があるせいで少し苦戦しながら着替えて、くるっと回ってみる。


「うん!バッチリね!」

「可愛いよ!ソニアちゃん!」

「マリちゃんにも、あげるわね。サイズは違うけど、ソニアちゃんとお揃いよ?」


ジェシーがわたし同じ青いリボンの大きさ違いをマリちゃんに渡した。


「わぁ・・・ありがとう!ソニアちゃんとお揃い!」


 マリちゃんとお揃いか。大切にしないと!



そして、夜が明けて翌朝、宿の前でディル達と合流して、港に行く馬車があるという東門まで向かう。


「おはよう・・・お?ソニア、服変えたのか?」


朝の挨拶と共に、わたしの服装にいち早く気付いたディル。


「おはようディル。どうかな? 似合ってる?」


なんだか照れくさいな、と思いながらスカートの裾を摘まんでディルを見る。


「ああ!凄く似合ってる。可愛いぞ」


ディルはグッと親指を立て満面の笑みを見せた。


「ジェシーが作ったのか?お店で売っててもおかしくないぐらいだな」


デンガがわたしのワンピースをマジマジと見ながら褒める。・・・ジェシーを。


「ふふっ、お裁縫は孤児院に居た頃に恩人に教わってね。昔から得意だったのよ。今度マリちゃんの服も作ってあげるわね」

「ありがとう!ジェシーお母さん!」


東門には、コンフィーヤ公爵が言っていた通り、ほとんど人が居らず、大きな馬車が一台停まっているだけだった。わたし達は大きな馬車に乗り込み、発車するのを待つ。


「ねえ、デンガ。王都に来る時よりも大分荷物が減ってるけど、大丈夫なの?」


ジェシーが、村を出発した時よりもだいぶ小さくなったリュックを見ながら言う。


「あの荷物は殆どが食料だったからな。港までは半日くらいで着くし、大丈夫だろ」

「そっか、そんな直ぐに着くのね」

「ここからは、俺も行ったことない場所なんだよな。目的を忘れた訳じゃないけど、少しワクワクしてきた!」


ディルが「な!」とわたしに同意を求める。


「わたしも・・・わたしも凄くワクワクしてるよ」


 まだブルーメに行く途中だけど、やっぱりこういう旅って・・・いいよね!

読んでくださりありがとうございます。今まではドロワーズでした。

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